いきなり最終話(クライマックス)

アルファ・D・H・デルタ

文字の大きさ
8 / 110

回顧録~アリシア・フィリス~

しおりを挟む
アリシアは二度目の爆発を見て青ざめていた。

あんなのモノに二度も巻き込まれて無事な訳がない。あの人の死んでる姿を見るなんて私には耐えられない!

そう考えたアリシアは思わず視線を外していた。だがしかし。



「嘘でしょう?あんな馬鹿げた攻撃をまともに受けて、なぜ立ち上がれるの?」



そう震える声で呟くレーナの声で、再び視線を彼に戻した。



生きている、体中血だらけでボロボロではあるが、彼は生きて立ち上がろうとしている。

よろよろと剣を杖代わりに両手で支えながら、彼は「ヒール」と唱えた。



「馬鹿なあの状態で回復魔法を唱えるなんて自殺行為だ」



ホレスが叫んだ。



よく勘違いをされるのだが、回復魔法とはそんなに都合の良い魔法ではない。

街中で使用する時などは麻酔魔法をかけてから使用される魔法だ。

そうしないとあまりの激痛で死ぬ人間すら出るだろう。

回復魔法とは傷付いた場所の自然治癒力を劇的に上げて無理矢理回復させる魔法だ。

無から有を生み出す魔法ではない。

傷付いた場所のダメージが深ければ深いほど痛みも増し、さらに傷を補う為に体の他の部分から生命力を奪う。

そのため結果的には応急処置のように出血が止まり傷口も塞がるが身体全体の状態としては治っている訳ではないのだ。

本来であればベッドなどで回復を待つ時に回復力を高める為に使う魔法である。



それでも冒険者であれば、一度や二度は緊急処置として回復魔法を使用した事は誰しもあるだろう。

だが少なくとも、戦闘中に行う行為ではない。

それは薄い膜のように傷口を塞いでいるだけの状態である。

傷は完全に塞がれるものではないのだ、動けば再び傷口は開く、現に回復魔法を唱えてすぐに動き出した彼の傷は再び出血し始めていた。

そしておそらく常人であれば耐え難い苦痛を感じているはずである。

それでも彼は不敵な笑みを絶やす事無く戦闘を継続している。



「なぜ?どうしてそんな事が可能のですか?教官!」



アリシアは彼と初めて会った時の事を思い出していた。

当時の彼は冒険者アカデミーの教官であり、アリシアはその生徒であった。

教壇に立つ彼は初めての講義で全員に対して問いかけた。



「本当に凄い冒険者とはどんな奴だと思う?」



生徒達は思い思いの凄い冒険者を挙げた。

一通り生徒の意見を聞いた彼は最後にこう言った。



「俺は本当に凄い冒険者とは、最後まで諦めない奴だと思っている、どんな絶望的な状況でも、何度倒れても、必ず立ち上がる。立ち上がった時に不敵に笑える、そんな奴だけが不可能を可能にする事が出来る。とまあ思っている訳だが、みんなには是非ともそういう、諦めの悪い冒険者になってもらいたい」



「それが教官の理想の冒険者ですか?」



アリシアは彼に聞いた。



「ソウイフモノニワタシハナリタイ」



彼は笑ってそう言った



「何ですか?その妙な言葉は?」



アリシアは笑って聞いた



「あぁ、俺の国の…そうだな、吟遊詩人?の言葉さ」



「なぜ疑問形なんですか、そのお話し聞かせて下さい」



彼はそこから自分の国の吟遊詩人の歌や、話をいくつか聞かせてくれた。ちくりと痛むアリシアの淡い思いと共に、彼の笑った顔を思い出す。



なってますよ教官そういう者に、あなたはなっています…



結局、全部あなたの事じゃないですか教官、ずるいですよ。

あなたはいつもずるい、なぜ立ち上がれるのですか?なぜそんな不敵な笑みを浮かべられるのですか?

なぜ…そんなにも…強いのですか?

やっと、やっと追いついたと思っていたのに、あなたと肩を並べられるようになってきたと思っていたのに…まだまだ教えてもらうべき事がたくさんあるのに…



アリシアは映像がぼやけている事に気が付いた。



あぁ、そうか、私は泣いていたのか。

どうりでさっきから映像が見にくいと思った、泣いている場合じゃない、見届けなければこの人の戦いを。その生き様を。一瞬たりとも見逃してはいけない。

きっとこれはあの人の最後の講義だ。

ならば最後まで見届けよう。

この最高の冒険者の戦いを。



アリシアは涙を拭いた。そして彼の戦いを最後まで見届ける覚悟を決めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...