いきなり最終話(クライマックス)

アルファ・D・H・デルタ

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残された時間の中で、その6~最後の希望~

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全ての話を聞き終えたカナは戸惑っていた。




カナは今の今まで、カナタは自分の後にこの世界に来たと思っていたのだ。




確かに少し大人になっているとは思った。




しかしそれもあの戦いの中では些細な事だと質問を後回しにしていた。




まさか十年以上も前から自分を救う為にこの世界で行動していたなど夢にも思わなかった。

しかもそれはあくまで客観的な時間の話で、カナタの主観的な時間としては、既に百年以上の時を過ごしているなど想像をはるかに超えていた。




カナが考えを巡らせているとホレスが独り言のように疑問を口にした。




「なあ?そんな俺達の想像を超えた旅をしてきたあいつが、そこまでして伝えようとしている事って一体何なんだろうな?」







「さあね、未来の地球の話に関する重要な情報なのか…それともこの世界に関する機密か…どちらにしろ私は例え、本来であれば誰かに話す事は禁忌とされている事だとしても、カナタを止める気もなければ、責める気にもならないわ。いえ、その資格すらない。と言った方が良いわね…」




アルファは自嘲気味に答えた。







「主観時間で百年を超える時間を過ごしてまで、彼女に伝えようとしている言葉ですからね。私は何人たりとも邪魔しないで欲しいと思います」




レーナも祈るように願った。







「最初から、命を捨てる覚悟で伝えに来た教官の言葉です。きっと、とても重要な人類存亡に関わる事ですよ!」




アリシアは大きな声を張り上げた。







「みんな馬鹿、そんなの決まってる」




ベータはいつもに増して不機嫌そうに呟いた。







「あら、もしかして見えたの?」




アルファが聞いた。




「見えてない。でも分かる。簡単な予想」




ベータはこれ以上話す気はないようだった。







「どちらにしても、佳奈さん。お願いだから、彼の言葉を黙って最後まで聞いてあげて。本当に命を懸けた最後の言葉だから…」







カナはハッとした顔でアルファを見た。




そうだこれがカナタと交わす最後の言葉になるのだ。




そう考えると胸が締め付けられるような気持になった。







「それと、貴女はどうやら我々の元に送られる事になるわ。その時は我々が全力で貴女を守るわ。それが彼の最後の願いだから…」




アルファが申し訳なさそうに言った。

しかし




「みんな忘れてる」




ベータが突然口を開いた。




「今、我々の前にある結界は彼が以前の力で掛けた結界」




ベータの言葉に全員がハッとする。




「今、俺達も世界と同調して力を増している…」




「そして、覚醒した勇者が合流するわ」




「いくら教官が全力で掛けた結界でも…今の私達全員の力を合わせれば…」




「…おそらく、破壊は可能ね。そうなんでしょ?ベータ」




アルファが期待を込めて聞いた。




「希望はある。昔から、最後の希望は勇者だと決まっている」




ベータが頷きながら答えた。







「はっ!ごめんなさい。もう時間がない!お願い、佳奈さん彼の言葉を…」







カナはアルファの声を最後まで聞き取れなかった。

だが、何を言いたかったのかは理解していた。




カナは見えなくなったアルファ達に向かって頷いていた。




そして、意識が徐々に元の場所へ戻ろうとする不思議な感覚に身を委ねた。







カナタ、貴方のそばに今戻る。




そして、きっとあたし達は、またすぐに離れる事になる。







でも、次はこんな思いをしない。




絶対に。




必ず、必ず。




今度はあたしが、…貴方を助ける!










そう強く決意したカナの意識は、やがて、ゆっくりと現世へと戻った…。
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