早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。

文字の大きさ
80 / 94
6

錯乱

しおりを挟む
那月に覆い被さったその人は力いっぱい那月を抱き寄せ、振り下ろされた刃物に背中を向ける。布が切れる音が聞こえた時、一瞬で切った相手が誰なのか理解した夏希。思わず手に持っていたハサミを地面に落とした。

「…っ、い、ろ、?」
「彩世先輩!!?」

庇って切られたのは彩世だった。

思い切り走ってきたようで、呼吸を荒げながら険しい顔つきをしている。状況を飲み込んできた那月は、足の力が一気に抜けて地面にへたりこんだ。

「せ、先輩!!なんで…う、腕が…!」
「大丈夫、かすっただけだし。シャツがちょっと切れただけだよ」

青ざめながらしがみついてくる那月の頭を撫で、安心させるように笑った彩世。右腕のシャツが斜めに切れていて、ハサミがかすった肌には1本の傷ができている。幸い、そこまで深くはなさそうだが痛々しく切られた直後で血が滲んでいる。

「ご、ごめ…なさ…、僕を、かばって…」
「大丈夫だから落ち着いて」
「那月くん!!大丈夫!?」
「あ、君。ごめん、ナツくんのことお願い」
「…っは、はい」

彩世は駆け寄ってきた相野に那月を支えるように体を引き渡し、ゆっくり立ち上がる。

那月を隠すように前に出て、呆然としている夏希に近寄った。夏希は正に放心状態で、目の焦点が合っていないようだ。

「…夏希、もうやめよう」
「…あ、あ、」
「周りの人を傷つけて、それで本当に救われる?こんなことしても、俺は変わらないよ」
「……お、れ、あ、あ…」
「怒るなら俺に怒って、殴るなら俺を殴って。ここまでお前が酷くなったのは、今までハッキリしなかった俺のせいだから。でもこんな刃物を使うのは違う。それに、関係ない人を巻き込むのも違うよ」

落ち着いたトーンの声だが、夏希は彩世がとても怒っていると話す前から気付いた。そして少しだけ腕から血が垂れていても、それを気にすることなく夏希を鋭く見つめている。

「……っう、」

好きな人を傷付けてしまったことと、那月を庇ったこと、そして彩世が今までで1番怒っていること。夏希は目の前で起こっている事実に混乱し、ショックを受けているようで汗を垂らしながら目を泳がせている。

その様子を後ろから見ていた那月は、先程の恐怖に震えながらも何とか立ち上がろうと足に力を入れていた。

「なつ…」
「こっ、来ないで!!!お願い来ないで!!もう…、なんで、なんで!!!」
「あっ、おい!!」

また彩世が1歩近付いた時。夏希は叫びながら駅の方へと勢いよく走り出してしまった。

「夏希!!」

その後を追い込かけて走り出した彩世。残された2人はその場にしゃがみこんでいたが、那月は地面に手をつき腰を無理やり上げた。

「那月くん…?何を」
「ぼ、僕行かないと!!」
「え?何言って…危ないよ!」

一一一立たなきゃ、立ち上がるんだ。だって、夏希さんは僕に似てる。苦しんでた過去も、おかしくなりそうなほど辛い日々も、きっと同じように感じてきたんだ。

「夏希さんを、あ、あのまま放っておけない…!」
「ちょ、ちょっと!」

一一一でもすごく怖かった。先輩が来てくれなかったら、重傷を負ってたかもしれない。それに先輩は僕を庇って怪我をしてしまった。全部の状況が怖いのに…怖くて仕方ないのに、足が動く。このままじゃダメだって思うから。守られてばかりじゃダメなんだ…。

「那月くん!待って!」

2人が走って行った方向に飛び出して行った那月と、その背中を追って相野も走り出した。

一一一きっと駅の方へ走っていったはず。さっきの夏希さんの精神状態だったらきっと…。何があってもおかしくない…!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...