早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。

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お前なんか

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夏希の騒動と彩世から告白を受けた日から土日を挟んで翌日。学校で昼休みの時間になり、那月は1年生の教室すぐ横のベランダへ向かった。

何となく気恥しさと少しの気まずさがあり、中庭には行かなかった。だが彩世の言う通り、落ち着いて改めて考えた2日。那月の答えは決まっていて、明日それを返事しようと思っている。

そう、いよいよ明日は夏夜行祭。彩世と一緒に過ごそうと約束しているので、その時に自分から話すつもりだ。自分の気持ちを。

「あ!篠井だ」
「ほんとだー、おつかれ」
「…!い、市早くん!浜野くん!」

そんな今から既に緊張している那月に、声をかけてきたのは市早と浜野だ。座り込んでいる那月を見つけて歩み寄ってきた。

「ベランダで食べるの?昼」
「あっ、う、うん!」
「俺らもベランダで食べようと思ってたんた~!よかったら一緒に食べよーよ!」
「えっ!う、うん…!ありがとう」
「なにありがとうって(笑)篠井、弁当だけなんだ。俺は足りないからパンも買ってきたわ」
「市早って見かけによらずめちゃ食うよな~!」
「お前もだろ」

2人は那月の目の前に座り込み、弁当を広げ始める。幼少期を除いては、初めて同級生の友達とこうして自然と昼を過ごす気がした。それを実感して、那月はじんじんとその嬉しさを噛み締める。

「…っなんか、嬉しいな。こうやって昼休みを友達と過ごすの」
「あー!篠井のピュアピュアが出た!!」
「ピュッ、ピュアピュア!?」
「まあ、確かに俺らには無い純粋さだよな…。浄化される気がする」
「じょ、浄化って…!」
「そんなに嬉しがってくれるならさ!これから、どんどん俺らと色んなことしよーぜ!」
「う、うん…!!」
「浜野調子乗りすぎー。まあそれには賛成だけど。とりあえず、次は一緒にワープロやってみないか?篠井」
「おいおい!部活勧誘すんな!」

談笑しながら各々昼食を食べ進めていると、浜野がベランダの下を見て「ん?」と不思議そうに首を傾げた。

「なに?どうしたの浜野」
「なんかあそこ、門のとこに誰かいない?高校生っぽい人…」
「どこ?」
「あそこ!制服は違うっぽい…金髪の!他校の奴かな?」
「え…、あ!!!」
「篠井、見えた?いるよな?なんかこっちめっちゃ見てない?」

柵の隙間から下を見ると、浜野の言う通り。金髪の男子高校生が門の影に隠れながらこちらを凝視していた。その人物は目を凝らした後、那月に向かって顎をくいっと「こっちに来い」と言っているかのように動かす。

那月はそれを見て、慌てて立ち上がった。

「篠井?どしたの」
「あっ!ちょ、ちょっと…あの僕下行ってくる!すぐ戻ってくるね!」
「えー?急にどうした!?」
「知り合いだったんじゃないか?」

ベランダを出た那月は階段を駆け下り、急いで門の方へ向かった。

一一一あそこにいたの夏希さんだ!!しかも、先輩じゃなくて僕を探してたみたいだった…!

息を切らしながら校舎の外へ出ると、門から少し離れた所に夏希が制服姿で柵にもたれて立っていた。

「…っな、夏希さん」
「あー…。どーも。篠井那月」
「な、なんで…ここに…」

夏希はもたれたまま、気まずそうに視線を逸らす。そしてポケットに入れていた両手を出し、ひらひらと振って見せた。

「安心して。今日は何もポケットに入れてないから」
「あ…、は、はい」
「……まあ、とりあえず。この前のことは、悪かった」
「!!えっ」

あまりに予想外な謝罪の言葉が飛び出し、那月は思わず大きな声を出した。夏希はそれを見て鼻で笑う。

「驚きすぎだろ」
「い、いやだって…。まさかそんなことを言われるとは…」
「まあ、そりゃそうか。でも勘違いすんな。この前のことを謝っただけで、俺は変わらずお前のことは気に入らないし嫌いだ」
「……っ」
「あの時さ、いろを渡したくなくてお前を傷付けようとして、逆にいろを傷付けてしまって…。一気に血の気が引いたし、横断歩道に飛び込んだ時までのことあんまり覚えてない」
「それは…」
「でも、気付いたらお前に助けられてて…自分を襲ってきた奴を必死に助けるとか頭おかしいと思ったし、意味分かんなかった。しかも友達になるとか言い出すし理解不能」

やっとこちらを向いた夏希の顔をよく見ると、目が前より腫れぼったくなっていてクマもある。その顔を見ただけで、数日たくさん泣いたんだろうと分かった。

「…僕は!今でも、本気でそう思ってます!だから…」
「だからー、そういうとこがウザいって。お前となんか友達になんないから」
「えっ…あ、」
「俺からいろを奪ったくせに。失恋した後に、好きな人の好きな人と友達になるって?無理に決まってんだろバーカ」
「うっ…!そ、それは…!ていうか、なんでそれを…」
「いろのことずっと見てたから分かるんだよ。俺のことは幼なじみとしか思ってないことも、お前と出会ってから変わったことも、ずっとお前を特別に思ってることも…分かってた。でも俺にはいろしかいないと思ってたから必死で…だからやり方を間違えた」

苦しそうに呟き背中を向けた夏希に、那月は声を上げる。

「夏希さん!!あの!僕…、彩世先輩のこと、本当に好きです!気の迷いなんかじゃなくて…本気で!!」
「……アァ?」
「ひっ!!だ、だから!落ち着いて日を置いて考えても、そう思ったから…!夏希さんには、ちゃんと伝えたくて…!」

怯みながらも、力強くそう言った那月を見て、一瞬ふっと呆れたように笑った夏希。

「…似た境遇でも、お前の周りに人がいるのはそういうとこだろうな」
「え!?今なんて…」
「うるさい!いいか?俺のいろを大事にしなかったら、マジでぶっ殺すから」
「…っ!!は、はい!」
「はー、用件済んだしめんどいけど学校戻る。じゃ」

悲しそうに、だけど清々しいような声でそう言うと、夏希は今度こそ駅の方へと歩き出した。

「…っあのぉ!!!僕、こ、怖がりだし、経験もないけど…でも!夏希さんが、ただひたすら大事にしたかった先輩のこと…、絶対大切にしますから!」
「…っな、」

夏希はその言葉を聞いて、ハッと目を開き立ち止まった。「ただ大事にしたかっただけなのに」そう思いながら、やり方を間違えてしまった自分に後悔していた夏希。気付いた時には遅かったと。

那月の言葉は、そんな自分の気持ちを理解してくれたかのように思えて。不本意ながらも目頭に涙が溜まり、困ったように微笑んだ。

「…はぁ。ほんと嫌いだよ、那月なんか」

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