零下3℃のコイ

ぱんなこった。

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本気だよ

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日下部から、今日話してくると書いてあったLINEに「分かったよ」とだけ返信をした。

だけど、そのまま朝のHRになっても日下部はクラスに来なかった。

朝話したいって言ってたらしいし、長引いてるのかな…大丈夫かな、揉めてないかな…。

ああ、気になってしょうがない。

「はーい、じゃあ授業始めるぞー」

ソワソワしてるうちに数学の先生が来て、1限目が始まってしまった…。こんな状態じゃ、授業に集中できないよ…。

そう思っていたら、先生が急に教壇で「あー!」と声を上げた。

「しまった!!やっちゃったよ、今日配る解説のプリント忘れてきちゃったな…」

「えー!先生~俺解説のがないとできませーん」

「分かってるよー、どうするかな…。でも先生いなくなったらお前ら騒ぐだろー?誰かに取ってきてもらおうかな…お!!」

え!!びっくりした…先生と目が合った。
絶対、今僕を見て「お!」って言ったよね?

「春野~!悪いけど、取ってきてくれないか?」

「え!!ぼ、僕ですか?」

「そうそう!お前よく、補習課題先生ん所に出しに来てただろ?あの北校舎の、教材室に置いてあるんだわ。お前よく来てたから場所も分かると思うし、お願いしていいか?」

あー、あの教室か。
ていうか、わざわざ僕に頼むってことは…他の人はあんまり場所分かってないってこと?

げ、僕ってそんな補習の常連だったのか…。


「あ、はい。大丈夫です、行ってきます」

「助かる~!ありがとな!机の上の分厚い青いファイルに入れてあるからそれ持ってきてくれ」

「分かりました」

「じゃあ、あとの奴らは前回の復習からいくぞ~」

他の生徒の羨ましそうな視線を感じながら、教室を出た。でも少しよかったかも。

なんか落ち着かなかったから。

「…どこで話してるんだろう。日下部たち」

キュッキュッと、僕の上履きが擦れる音と他クラスの中から漏れる先生の声だけが廊下に響く。

北校舎ってちょっと距離あるし古い方の校舎だからな…あんまり用がない限りは生徒は行かないか。

「失礼しまーす…」

教材室に着いて声をかけたけど、中には誰もいなかった。机に置いてある青いファイルを手に取ってすぐ廊下に出る。

「…あ、そういえば。ここの階段だったな。入学式の日に日下部と雪菜さんを見かけたの」

ふと、教材室を出てすぐそこにある階段が目に付いた。あの日のことを思い出す…ここで2人を見かけたから、そこから日下部との関係が始まったんだよな…。

既に懐かしさもある…と思い、そっと階段を登ってみて踊り場を覗くけど、そこには誰もいない。

さすがにもうここでは話してないか…。

「戻らなきゃ……ん?」

ふっと肩を落として階段を降りようとした時…微かに話し声がどこからか聞こえてきた。

なんだこのデジャヴ…。

でも、周りに人いないしどこから…?

よく耳を澄ましてみると、その話し声は上の屋上の方から聞こえてきてるようだった。屋上は鍵ないと入れないのに…誰かわざわざ鍵を借りて入ったのか?

あ!!もしかして…いや、まさかここでは…

恐る恐る階段を少し昇って、屋上へ続く重い鉄の扉の隙間を覗いてしまった。

「…っ!あ」

その、まさかだ。

そこには、広い屋上で髪を風になびかせながら、ぽつりと佇む日下部と雪菜さんの姿があった。

やっぱり…ここで話してたんだ…。

僕の目線の先には、雪菜さんの背中があって、それ越しに日下部の顔が見える。

「…だから、ごめん。雪菜」

雪菜さんの表情は見えないけど…日下部は、真剣な目をして雪菜さんを真っ直ぐ見つめている。

「……っ」

だめだ、気になるけどこれ以上見ていたら…覗き見はだめだ。早く行かないと。

背を向けて、音を立てないようにその場を離れようとした瞬間、雪菜さんの震えたか細い声が聞こえてきた。

「……なんで風音くんなの?」

自分の名前が聞こえて、ドクン…ッと、心臓が激しく動き出す。

そうか…日下部、全部話すつもりなんだ。

「私、いやだ…」

「雪菜…!」

「嫌だ、別れるなんて嫌だ!!お兄ちゃんのことがなくなったら、もう私はどうやっても零と付き合えないのに……!
なんでよりによって男の子の風音くんなの…!?私は何年も一緒に居たのに…でも好きになってもらえなかった…っなんで最近知り合った風音くんなの…?」

「雪菜、落ち着いて。分かってもらえるまで話す」

「……零のそんな目、今まで見た事ない。本気なの?」

「本気だよ。もうあの頃みたいに流されたり、揺れたりしない」


分かってた…覚悟はしてたけど、目の当たりにすると、余計に胸がえぐられそうになる。

「……っ」

でも信じるって決めたし、僕も飛び込んだんだから、向き合う強さと意志をしっかり持たないと…。

「~~?え?~~だよな?」

「!!えっ、」

ぎゅっとファイルを握りしめて立ち去ろうとしたら、だんだん遠くから男子達の笑いに混じった話し声が近付いてくるのを感じて、急いで階段を降りた。

なんで授業中に…サボりに来た生徒達か…?

こっちに来たらどうしようかと思って、少し隠れて見てたけど、近付いてきた4人の男子達は階段には来ずに、反対側へと歩いて行った…よかった。

僕も早く教室に戻ろう。

今は2人で向き合ってるのを邪魔しちゃいけない…日下部を信じて待たないと…。


「お?なぁなぁ、あそこってさ……」
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