ぽちゃ姫と執着魔法使い

刈一

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11.5(カロル視点)

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「僕の何がいけないのかなぁ…」

嫌われた。しかもかなりしみじみと。
そのショックのあまり素直にフォワレの言うことを聞いてしまったのだ。

「顔が悪いのかな?そんなに悪い作りじゃないと思うんだけど…」

深いため息を吐いたカロルは、あまりにも報われない自分の思いが哀れでならなかった。
ただただ、これまで自分が惜しみなく与えてきた愛情の一片でも返ってこないことが悲しくてたまらない。
懐いてくれたのだと思えば痩せ我慢だと知らしめられて、切ない気持ちでいっぱいだ。
どうすればささやかなりとも好意を返してくれるだろうかと考えている。

母親の様な真似をして、父親の様な真似をしてみて、友達として遊んでみて、そのどれもが的外れだった場合に、自分にできることはどれだけ残っているだろう。眉を顰め考え続ける。

家族を持ったことのないカロルには、どうすれば慈しみ合える“家族“になるのか、どう考えても理解が及ばない。
しょぼくれながら呟いた。

「やっぱり時間が必要?」

彼女が毎日優しく微笑みかけてくれること、それが当座の目標だった。
それから童話のように、仲良くずっと一緒にいられたらいいなぁとのほほんと考えていた。
何をせずとも寝込みを襲われる経験を何度もしてきたカロルにとって、誰かから好かれることはとても簡単なことだと思っていたからだ。

それが今、尽くして絆されてくれるにはあまりにも関係が遠い。

まさかあれほど泣かせてしまうとは思ってもおらず、もはや引き離される苦悩以外にフォワレとの親交を深める術がないのなら、カロルはその道を進んでもいいとさえ思っていた。
でも、そうであったとしても、それは決して今ではない。
少なくともそれはあと百年ほど経ってからの考えで…。

「…ん?」

カロルは妙な胸騒ぎを覚えた。
拒絶されたことに肩を落とすあまり、しばらくの間地下へ続く扉の前で座り込んでいたものの、せめて気配だけでも感じていたいと思ったのが発端だ。あれから一時間ほどは経っているだろう。
気配を探ってすぐ、中の雰囲気が突然変わってしまっていたことに気がついた。
巧妙に偽装されてはいるが、意思のない生き物とでも呼べる空虚さを感じる。

中の気配が偽物であることは、熟練した魔法使いであるカロルには手に取るように理解できた。

すぐに戸を開け放ち、転がるように駆ける。

自分の寂しさから誤った判断をしたならそれでいい。誠心誠意謝ればフォワレは許してくれるはず。
カロルは祈るような気持ちで彼女がいるはずの部屋へ入った。

「そんな…」

果たしてその瞬間に気配は霧散し、フォワレの不在は明らかとなった。代わりに漂うのはカロルの大嫌いな精霊の濃い気配。
カロルにはすぐにそれがエスポーサの放った手先であるとわかる。

少しの間強い衝撃に狼狽えたあと、カロルは逆に笑みを湛えた。そうでもしなければ心が折れてしまいそうになったからだ。

しかし、こんなことで挫けるわけにいかない。
万が一攫われてしまった時のためにフォワレの体内に施しておいた術がある。
マーキングの位置を特定するべく術を放つ。ふらりと前方に手をさしのばすと、手の先から小鳥のような形をした光が浮かぶ。
これはフォワレの心臓の具現だ。外に出たいという度これを握りしめてお仕置きをするためのものでもある。

カロルは愛しげに小鳥の形を眺めたあと、解き放つ。何にも遮られず光は尾を伸ばして飛び去っていく。
この光は自動的にフォワレの元へ戻ろうとするから、これを追うことに集中するだけだった。

光の痕跡を追って意識を集中させるが、しかし、おかしなことに核心に近づいたと思う度に気配は歪み、光の痕跡がひどく朧げになっていく。カロルはあまりにも掴めない気配に、フォワレを連れ出したものの力量を感じた。
強気だった笑みは必然削がれていき、苦々しく歯を食いしばったのち、痕跡の追跡を打ち切る。
万が一に備えていたものの、それはあくまで術を解く副作用としての追跡でしかなく、正確な位置を知ることができないなら打つ手はないに等しい。
カロルは自分の慢心を強く悔いた。

それでも置いたままにできるはずがない。
すぐに自分より身軽な使い魔に後を追わせることにした。

懐から小袋を取り出すと、赤く煌めく粒様の結晶を手のひら一杯に掴み上げ、空中にばら撒く。
粒のひとつひとつから溶け出すように現れたのは二対の羽を持った奇怪なカラスだ。

何を言わずとも彼らは先ほどの光を追って飛び出していった。

どうせ万が一の事と簡易な術にしなければよかった。そう悔しげにつぶやいたのち、ひとまず策を講じる。

かの精霊がエスポーサの手のものであることは明確なのだから、当然エスポーサの待つ家へ連れ帰ろうとするだろうと見当をつける。ならば通るであろう町や村に監視を置くしかない。カロルはその先にも考えを巡らせていた。
万が一の当てを外したからこそ、もう猶予はないことまでも正確に理解しているのだ。

カロルはすぐに次の手を打った。
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