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1 ルーンカレッジ編
009 セードルフとの因縁
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「私はミアセラ=ルースコートと言います。ジルさんとは良き友人なの。カレッジの外での話はここではなしにして、私たちもお友達になりましょう」
「こちらこそ、よろしくお願いしますっ! あの、ミアセラさんはジル先輩よりかなり歳上だと思いますが、先輩はどのように出会われたのですか?」
これはある意味当然の疑問だろう。ジルとミアセラが以前より知り合いであったとすれば、ジルが初級クラスの頃(と言っても去年のことだが)に知り合っていたはずだ。新入生の13歳の少年と、おそらくは17歳か18歳の上級クラスの美女との接点などそうは無いはずだ。レニにそう聞かれて、ジルとミアセラは顔を見合わせる。
「前にジルさんと決闘していたセードルフという上級生は覚えているかしら? 彼はルーンカレッジの学生代表に選ばれるほど優秀な学生で、先生や学生からも信頼されているの」
学生代表とはルーンカレッジの全学生を代表する地位であり、余程のことが無いかぎり上級クラスの学生から選ばれる。カレッジの教員による投票で決まるため、教員からの覚えが良くなければなれない。人格的評価はもちろん必要であるが、教員は何より魔術師としての才能を重んじる者が多いため、学生代表に選ばれるということは一人の魔術師としても高く評価されているということである。
「ジルさんに最初に会ったのは、私ではなくてそのセードルフなのよ。セードルフは去年入学したジルさんの指導生になったの。ちょうど今のあなたたちと同じ関係ね」
ミアセラはいたずらっぽく笑った。
「ジルさんは入学した時から天才として評判だったわ。カレッジに入る前から魔法が使えるというのはそれほど驚くことではないけど、ジルさんは入学して早々に第二位階の魔法を使ったのよ。先生方も含めてカレッジ中が大騒ぎになったんだから」
レニはその騒ぎというのが分かる気がした。それはレニがいつも味わっていることだからである。
「それはそうでしょう? 第二位階までの魔法しか習得できずに、ここを卒業する魔術師も多いのだから。去年のカレッジでの騒ぎを貴女にも見せてあげたかったわ」
一年たって騒ぎは静まってきているが、ジルが注目の的であることに現在も変わりはない。そんな周囲の思惑にジルがいたって無関心なのがミアセラは面白い。
「セードルフはね、カレッジでは人格者のように思われているけど、実はそうじゃないの。私がそれを知ったのもその時だったけど、意外に嫉妬深くて姑息だったのよ。一部の先生方は気づいてるみたいだけど、先生は変わった方ばかりだから、あまり関心はないみたいね」
顔に似合わずミアセラの口調はなかなか手厳しい。自分も騙されていた、という感情が強いのかもしれない。
「最初は良かったのよ、ジルさんの才能も良くわかっていなかったから。当時私とセードルフはそこそこ親しい友人だったから、ジルさんのこと聞かされていたわ。”今度入った新入生はなかなか見込みがある奴だ。僕が指導して良い魔術師にしてみせるぞ”ってね」
ミアセラはやや皮肉を込めた笑みを浮かべている。
「でも段々とジルさんの才能が明らかになってきて、セードルフの心が荒れてきたわ。わたしはあの時近くに居たからよく分かるのよ。毎日険しい顔をしていたわ」
「……」
「セードルフは間違いなく優秀な学生なのよ。でも天才ではありえない。それが自分で認められなかったのよ。……今でもでしょうけど」
「それであの時決闘になったんですね」
レニは絶対的にジルの味方ではあるが、セードルフという上級生に同情に近いものを感じていた。自分より優秀な下級生を「指導する」というのはどんな気分だったのだろうか。むろんそんな風に同情していることを知れば、余計にセードルフを傷付けるだろう。
「ミアセラさんは、僕とセードルフさんが言い争いになった時に、よく間に入ってとりなしてくれたんだ。初めて会ったのは……僕が上級クラスに行った時でしたか?」
ジルはミアセラの方を見た。
「そうね、まだジルさんとセードルフの仲が悪くない時だから、入学して間もない時だったかしら。教室の扉を開けて、上級生の間を物怖じせずに入ってきたのよ」
ミアセラはクスリと笑った。いまでもあの時のことはよく覚えているが、人形のように凛々しい少年が上級生の間を歩いてセードルフの元までやって来たのだ。
「セードルフさんに魔法のことを質問しに行ったのだけど、その時にミアセラさんを紹介してくれたんだ。あれからかな、カレッジの中で会うとミアセラさんが話しかけてくれるようになったのは」
このカレッジで濃密な時間を過ごしていると、わずか1年前のことが遠い昔のことに思えてくる。それだけ、ジルにとってミアセラは親しい間柄ということでもある。
「へー、そういうの何か良い関係ですね。私もそんな歳上の友達が欲しいなぁ」
それまで大人しく指導生の話を聞いていたメリッサが、そうつぶやいた。
「まあ、僕で良ければ遠慮なく話しかけてくれ。他ならぬミアセラさんの教え子だからね」
「ありがとうございます! ジル先輩のような有名な人と知り合いになれて嬉しいです」
横で聞いていたレニもメリッサの様子に微笑んでいた。自分のルームメートが尊敬する先輩と仲良くするというのは、微笑ましいことだろう。
「それじゃ、レニさんの訓練を邪魔しては悪いですから、メリッサ、そろそろ私たちも始めましょう。それではジルさん、また近いうちに会いましょうね」
ミアセラはそう言い残し、メリッサを連れて公園の奥の方へと去っていった。
「こちらこそ、よろしくお願いしますっ! あの、ミアセラさんはジル先輩よりかなり歳上だと思いますが、先輩はどのように出会われたのですか?」
これはある意味当然の疑問だろう。ジルとミアセラが以前より知り合いであったとすれば、ジルが初級クラスの頃(と言っても去年のことだが)に知り合っていたはずだ。新入生の13歳の少年と、おそらくは17歳か18歳の上級クラスの美女との接点などそうは無いはずだ。レニにそう聞かれて、ジルとミアセラは顔を見合わせる。
「前にジルさんと決闘していたセードルフという上級生は覚えているかしら? 彼はルーンカレッジの学生代表に選ばれるほど優秀な学生で、先生や学生からも信頼されているの」
学生代表とはルーンカレッジの全学生を代表する地位であり、余程のことが無いかぎり上級クラスの学生から選ばれる。カレッジの教員による投票で決まるため、教員からの覚えが良くなければなれない。人格的評価はもちろん必要であるが、教員は何より魔術師としての才能を重んじる者が多いため、学生代表に選ばれるということは一人の魔術師としても高く評価されているということである。
「ジルさんに最初に会ったのは、私ではなくてそのセードルフなのよ。セードルフは去年入学したジルさんの指導生になったの。ちょうど今のあなたたちと同じ関係ね」
ミアセラはいたずらっぽく笑った。
「ジルさんは入学した時から天才として評判だったわ。カレッジに入る前から魔法が使えるというのはそれほど驚くことではないけど、ジルさんは入学して早々に第二位階の魔法を使ったのよ。先生方も含めてカレッジ中が大騒ぎになったんだから」
レニはその騒ぎというのが分かる気がした。それはレニがいつも味わっていることだからである。
「それはそうでしょう? 第二位階までの魔法しか習得できずに、ここを卒業する魔術師も多いのだから。去年のカレッジでの騒ぎを貴女にも見せてあげたかったわ」
一年たって騒ぎは静まってきているが、ジルが注目の的であることに現在も変わりはない。そんな周囲の思惑にジルがいたって無関心なのがミアセラは面白い。
「セードルフはね、カレッジでは人格者のように思われているけど、実はそうじゃないの。私がそれを知ったのもその時だったけど、意外に嫉妬深くて姑息だったのよ。一部の先生方は気づいてるみたいだけど、先生は変わった方ばかりだから、あまり関心はないみたいね」
顔に似合わずミアセラの口調はなかなか手厳しい。自分も騙されていた、という感情が強いのかもしれない。
「最初は良かったのよ、ジルさんの才能も良くわかっていなかったから。当時私とセードルフはそこそこ親しい友人だったから、ジルさんのこと聞かされていたわ。”今度入った新入生はなかなか見込みがある奴だ。僕が指導して良い魔術師にしてみせるぞ”ってね」
ミアセラはやや皮肉を込めた笑みを浮かべている。
「でも段々とジルさんの才能が明らかになってきて、セードルフの心が荒れてきたわ。わたしはあの時近くに居たからよく分かるのよ。毎日険しい顔をしていたわ」
「……」
「セードルフは間違いなく優秀な学生なのよ。でも天才ではありえない。それが自分で認められなかったのよ。……今でもでしょうけど」
「それであの時決闘になったんですね」
レニは絶対的にジルの味方ではあるが、セードルフという上級生に同情に近いものを感じていた。自分より優秀な下級生を「指導する」というのはどんな気分だったのだろうか。むろんそんな風に同情していることを知れば、余計にセードルフを傷付けるだろう。
「ミアセラさんは、僕とセードルフさんが言い争いになった時に、よく間に入ってとりなしてくれたんだ。初めて会ったのは……僕が上級クラスに行った時でしたか?」
ジルはミアセラの方を見た。
「そうね、まだジルさんとセードルフの仲が悪くない時だから、入学して間もない時だったかしら。教室の扉を開けて、上級生の間を物怖じせずに入ってきたのよ」
ミアセラはクスリと笑った。いまでもあの時のことはよく覚えているが、人形のように凛々しい少年が上級生の間を歩いてセードルフの元までやって来たのだ。
「セードルフさんに魔法のことを質問しに行ったのだけど、その時にミアセラさんを紹介してくれたんだ。あれからかな、カレッジの中で会うとミアセラさんが話しかけてくれるようになったのは」
このカレッジで濃密な時間を過ごしていると、わずか1年前のことが遠い昔のことに思えてくる。それだけ、ジルにとってミアセラは親しい間柄ということでもある。
「へー、そういうの何か良い関係ですね。私もそんな歳上の友達が欲しいなぁ」
それまで大人しく指導生の話を聞いていたメリッサが、そうつぶやいた。
「まあ、僕で良ければ遠慮なく話しかけてくれ。他ならぬミアセラさんの教え子だからね」
「ありがとうございます! ジル先輩のような有名な人と知り合いになれて嬉しいです」
横で聞いていたレニもメリッサの様子に微笑んでいた。自分のルームメートが尊敬する先輩と仲良くするというのは、微笑ましいことだろう。
「それじゃ、レニさんの訓練を邪魔しては悪いですから、メリッサ、そろそろ私たちも始めましょう。それではジルさん、また近いうちに会いましょうね」
ミアセラはそう言い残し、メリッサを連れて公園の奥の方へと去っていった。
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