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1 ルーンカレッジ編
011 ラプラスを目指して
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それから約一ヶ月後。その日はよく晴れていた。ルーンカレッジの男子宿舎前の木々は、豊かな緑の葉をつけていた。宿舎前には女神の石像の噴水があり、勢い良く水を吹き上げている。この噴水は、カレッジの学生たちが待ち合わせの場所としてよく使っている場所である。いまここには旅支度をしたジルとガストンがいた。
「まさかサイファーも俺たちと同じだったとわな。こいつはラッキーだぜ」
「サイファーとはここで待ち合わせているのか?」
「そうだ。約束の時間まであと10分あるから、もうすぐ来るだろう」
「結局サイファー以外のメンバーは分からなかったのか?」
「ああ、残念ながらな!このガストンさまの情報網にも引っかからなかったぜ」
ガストンは気のいい性格から友人が多く、いろいろな人間から情報が入ってくる。ことカレッジ内ではガストン以上の情報通は居ないかもしれない。
「おっ、来たようだぜ……。うひょー、レミアさんも一緒じゃねーか。こいつはついてるぜぇ!」
ガストンの言い方に苦笑しながら、ジルもサイファーとレミアが来るのを見つめる。
サイファーとレミアは魔法戦士コースだけあって、ジルやガストンより歳上である。
サイファーはシュバルツバルトの地方の出身である。身長190cmと高く、分厚い筋肉質の身体をしている。顔は美形と言っても良いが、精悍な顔立ちから見る者はどちらかと言えば野性的な美を感じるだろう。長大なバスタードソードを背に括りつけ、シルバーの部分鎧を幾つか身に着けている。
サイファーは入学前に戦士訓練所で1年の訓練を積んだ後、帝国との前線で2年勤務している。大剣を振るう剣技と、冷静沈着な判断力が指揮官から高く評価され、ルーンカレッジへの入学を推薦されたのである。現在魔法戦士コースの2年である。
一方レミアは、サイファーと同じく魔法戦士コースの2年である。帝国の将軍を父に持ち、戦士としては非力ながら、高い技術と魔法能力を持っている。魔法の力だけならサイファーを凌ぐと言われる。恐らくは魔術師になった方が良かったのであろうが、戦士になったのは軍人である父のたっての希望だったようだ。レミアはややくすんだ茶色の長い髪をたらし、黒のスーツ鎧を着こなしている。男装ではあるが女性らしさも感じさせ、男の多い戦場では人目を引く容姿である。
サイファーとレミアは、ともに魔法戦士コースで将来を嘱望されるホープである。ジルはサイファーとは互いを認め合う間柄であり、レミアとはまだ挨拶を交わすだけの関係であった。
「ジルとガストン、先に来ていたか。待たせたのならすまんな」
「いや、俺もジルもいま来たところさ」
「レミアのことは二人も知っているな? 一応紹介しておこう。彼女もシュバルツバルトの軍事演習に参加することになった。私と同じ魔法戦士コース2年のレミアだ」
「レミアだ、よろしく頼む。サイファーと同じように、君たちもとくに私に気を使わないでくれるとうれしい」
女性として扱うな、と言いたのだろう。
「分かりました、レミアさん。我々もサイファーさん、レミアさんと一緒ということで心強いですよ」
「ジル。私に“さん”づけは必要ないと言っただろう。もともと上品な出ではないし、お前の実力も認めているんだ。戦場ではそんな持って回った言い方をしている余裕などないしな。これから暫く同じ任務につくのだから、そんな調子ではこちらが疲れる」
サイファーが真顔でそう要求した。
「分かりました。サイファー、それとレミアさんには極力気を使わないこと、よく覚えておきます」
「そうしてくれ。我々の演習地は、バルダニアとの国境のラプラスだったな」
「そうです。シュバルツバルトの東部国境に位置する砦ですね。ここから南に街道を行って3日というところですか」
「バルダニアとの戦場になるところなのか?」
ガストンが訊ねる。
「いや、バルダニアとよく戦いになるのは、主にギールやミラといったもう少し北の地域だ。ラプラスの辺りは山岳の険しい地形だから守りが固く、互いに敢えて攻めようはしない場所だ」
「サイファーは確かラプラスに行ったことがあるのではなかったか?」
と聞いたのはレミアだ。サイファーとは入学してからともに居ることが多く、気心が知れている。
「ああ。とは言っても、砦の指揮官に伝令として書状を届けに行っただけだが」
「まあそれでも行ったことがあるなら、道に迷うこともないな。近くまで行ったらサイファーに任せるぜ!」
ガストンが調子の良いことを言う。
準備の出来た4人は、ルーンカレッジに別れを告げ、フリギアの街へと出る。このフリギアはルーンカレッジがあるだけでなく、交易都市としてもかなりのものだ。フリギアに匹敵するほど商業の発達した都市は、シュバルツバルトの首都ロゴス、バルダニアの交易都市コンスタンツァ、帝国の首都ドルドニア、そして北のカラン同盟に属する商業都市国家群の幾つかぐらいのものだろう。
ジル達は南の街道へ出るため、南門に向かって歩いている。途中、街の賑わいが4人の目を楽しませていた。
「こういうのも悪くないね。カレッジにいたら節制するだけの毎日だからな」
「まるで毎日真面目に魔法の鍛錬をしているようじゃないか、ガストン」
ジルが微笑みながら茶化す。そのように言いながら、ジルも街の様子を楽しんでいた。サイファーとレミアの二人は軍人らしく、淡々と後ろを歩いている。
大陸のちょうど中央に位置するフリギアは、世界の各地から物が集まってくる。東のモングー、北のカラン同盟まで、珍しい物にはこと欠かない。街の東西南北の各門からは、各地から来た交易商人の馬車がひっきりなしにやって来るのだ。街の東西、南北をはしる大道の両側には、様々なものを売る商人が店を構えている。通りを歩く者も、エキゾチックな顔立ちをしたものが少なくない。
これから旅に出る身であるから、興味深く露天などを見つつも、何も買うこともなく歩き続けた。暫くするとフリギアの巨大な城壁が目の前に見えてきた。
ジルたちが南門から外へ出ると、街道は大きく東、西、南の3つに分かれている。西に行けばシュバルツバルトのロゴス、東へ行けばバルダニアへ行く道であるが、今回使う用はない。南の街道はシュバルツバルトの副都ウルムへと続く道である。ジルたちが行くのはこの南の街道である。途中で東へ向かえばラプラスにたどり着くだろう。
過ごしやすい季節でもあり、街道を行く旅の負担はそれほど大きくない。フリギアにまだ近い道では、旅人も多く商人の馬車も数台すれ違っている。一日目は危険な地域に入ることもなく、気楽なものだ。常に心が張り詰めていては万が一の時に対処できない、というのはサイファーの言だ。
やがて夜が訪れ、4人は街道沿いで野営の準備をする。こうした作業も軍事演習の一環である。ただ夜をやり過ごすだけでなく、適度な食事と睡眠をとり戦力を維持することが軍人には求められる。すでに軍務の経験があるサイファーとレミアは、手慣れた様子で焚き火や食事、寝床の用意をする。一方でガストンはともかく、ジルはこの手のことがやや苦手であった。協力する気はあるものの、それほど役に立っているようには見えない。
「まさかサイファーも俺たちと同じだったとわな。こいつはラッキーだぜ」
「サイファーとはここで待ち合わせているのか?」
「そうだ。約束の時間まであと10分あるから、もうすぐ来るだろう」
「結局サイファー以外のメンバーは分からなかったのか?」
「ああ、残念ながらな!このガストンさまの情報網にも引っかからなかったぜ」
ガストンは気のいい性格から友人が多く、いろいろな人間から情報が入ってくる。ことカレッジ内ではガストン以上の情報通は居ないかもしれない。
「おっ、来たようだぜ……。うひょー、レミアさんも一緒じゃねーか。こいつはついてるぜぇ!」
ガストンの言い方に苦笑しながら、ジルもサイファーとレミアが来るのを見つめる。
サイファーとレミアは魔法戦士コースだけあって、ジルやガストンより歳上である。
サイファーはシュバルツバルトの地方の出身である。身長190cmと高く、分厚い筋肉質の身体をしている。顔は美形と言っても良いが、精悍な顔立ちから見る者はどちらかと言えば野性的な美を感じるだろう。長大なバスタードソードを背に括りつけ、シルバーの部分鎧を幾つか身に着けている。
サイファーは入学前に戦士訓練所で1年の訓練を積んだ後、帝国との前線で2年勤務している。大剣を振るう剣技と、冷静沈着な判断力が指揮官から高く評価され、ルーンカレッジへの入学を推薦されたのである。現在魔法戦士コースの2年である。
一方レミアは、サイファーと同じく魔法戦士コースの2年である。帝国の将軍を父に持ち、戦士としては非力ながら、高い技術と魔法能力を持っている。魔法の力だけならサイファーを凌ぐと言われる。恐らくは魔術師になった方が良かったのであろうが、戦士になったのは軍人である父のたっての希望だったようだ。レミアはややくすんだ茶色の長い髪をたらし、黒のスーツ鎧を着こなしている。男装ではあるが女性らしさも感じさせ、男の多い戦場では人目を引く容姿である。
サイファーとレミアは、ともに魔法戦士コースで将来を嘱望されるホープである。ジルはサイファーとは互いを認め合う間柄であり、レミアとはまだ挨拶を交わすだけの関係であった。
「ジルとガストン、先に来ていたか。待たせたのならすまんな」
「いや、俺もジルもいま来たところさ」
「レミアのことは二人も知っているな? 一応紹介しておこう。彼女もシュバルツバルトの軍事演習に参加することになった。私と同じ魔法戦士コース2年のレミアだ」
「レミアだ、よろしく頼む。サイファーと同じように、君たちもとくに私に気を使わないでくれるとうれしい」
女性として扱うな、と言いたのだろう。
「分かりました、レミアさん。我々もサイファーさん、レミアさんと一緒ということで心強いですよ」
「ジル。私に“さん”づけは必要ないと言っただろう。もともと上品な出ではないし、お前の実力も認めているんだ。戦場ではそんな持って回った言い方をしている余裕などないしな。これから暫く同じ任務につくのだから、そんな調子ではこちらが疲れる」
サイファーが真顔でそう要求した。
「分かりました。サイファー、それとレミアさんには極力気を使わないこと、よく覚えておきます」
「そうしてくれ。我々の演習地は、バルダニアとの国境のラプラスだったな」
「そうです。シュバルツバルトの東部国境に位置する砦ですね。ここから南に街道を行って3日というところですか」
「バルダニアとの戦場になるところなのか?」
ガストンが訊ねる。
「いや、バルダニアとよく戦いになるのは、主にギールやミラといったもう少し北の地域だ。ラプラスの辺りは山岳の険しい地形だから守りが固く、互いに敢えて攻めようはしない場所だ」
「サイファーは確かラプラスに行ったことがあるのではなかったか?」
と聞いたのはレミアだ。サイファーとは入学してからともに居ることが多く、気心が知れている。
「ああ。とは言っても、砦の指揮官に伝令として書状を届けに行っただけだが」
「まあそれでも行ったことがあるなら、道に迷うこともないな。近くまで行ったらサイファーに任せるぜ!」
ガストンが調子の良いことを言う。
準備の出来た4人は、ルーンカレッジに別れを告げ、フリギアの街へと出る。このフリギアはルーンカレッジがあるだけでなく、交易都市としてもかなりのものだ。フリギアに匹敵するほど商業の発達した都市は、シュバルツバルトの首都ロゴス、バルダニアの交易都市コンスタンツァ、帝国の首都ドルドニア、そして北のカラン同盟に属する商業都市国家群の幾つかぐらいのものだろう。
ジル達は南の街道へ出るため、南門に向かって歩いている。途中、街の賑わいが4人の目を楽しませていた。
「こういうのも悪くないね。カレッジにいたら節制するだけの毎日だからな」
「まるで毎日真面目に魔法の鍛錬をしているようじゃないか、ガストン」
ジルが微笑みながら茶化す。そのように言いながら、ジルも街の様子を楽しんでいた。サイファーとレミアの二人は軍人らしく、淡々と後ろを歩いている。
大陸のちょうど中央に位置するフリギアは、世界の各地から物が集まってくる。東のモングー、北のカラン同盟まで、珍しい物にはこと欠かない。街の東西南北の各門からは、各地から来た交易商人の馬車がひっきりなしにやって来るのだ。街の東西、南北をはしる大道の両側には、様々なものを売る商人が店を構えている。通りを歩く者も、エキゾチックな顔立ちをしたものが少なくない。
これから旅に出る身であるから、興味深く露天などを見つつも、何も買うこともなく歩き続けた。暫くするとフリギアの巨大な城壁が目の前に見えてきた。
ジルたちが南門から外へ出ると、街道は大きく東、西、南の3つに分かれている。西に行けばシュバルツバルトのロゴス、東へ行けばバルダニアへ行く道であるが、今回使う用はない。南の街道はシュバルツバルトの副都ウルムへと続く道である。ジルたちが行くのはこの南の街道である。途中で東へ向かえばラプラスにたどり着くだろう。
過ごしやすい季節でもあり、街道を行く旅の負担はそれほど大きくない。フリギアにまだ近い道では、旅人も多く商人の馬車も数台すれ違っている。一日目は危険な地域に入ることもなく、気楽なものだ。常に心が張り詰めていては万が一の時に対処できない、というのはサイファーの言だ。
やがて夜が訪れ、4人は街道沿いで野営の準備をする。こうした作業も軍事演習の一環である。ただ夜をやり過ごすだけでなく、適度な食事と睡眠をとり戦力を維持することが軍人には求められる。すでに軍務の経験があるサイファーとレミアは、手慣れた様子で焚き火や食事、寝床の用意をする。一方でガストンはともかく、ジルはこの手のことがやや苦手であった。協力する気はあるものの、それほど役に立っているようには見えない。
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