シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

文字の大きさ
14 / 107
1 ルーンカレッジ編

014 苦き戦い1

しおりを挟む
 現れたのは若い女性だった。そしてその女性が発した次の言葉に、彼らは更に驚くことになる。

「ご、ご助勢願います。私はシュバルツバルト第一王女のアルネラ。 危急ききゅうのことゆえ、ぜひ助勢を!」

 ジルたちは状況がよく呑み込めていない。夜の森から当然やってきたこの女性は何を言っているのか。

 さすがに実践なれしたサイファーは、いち早く我を取り戻し、状況の把握に努めている。夜の野営地でまず必要なのは周囲への警戒である。特に視界の外の敵は容易にはとらえきれないため、奇襲されることも十分にあり得る。

 サイファーは敵の気配を探りつつ、その数を数える。

「3、4…………5人かっ! 俺がとらえた気配は5人だ! その女を囲んで円陣を作れ!」

 ジル、ガストン、レミアは、アルネラと名乗った女性を中央に、サイファーと並んで防御陣を形成した。いつどこから敵が襲ってくるか分からない、ジリジリとした焦燥感が胸を焼く。

(これが実戦というものか)

 いかにカレッジで天才と言われようと、ジルも学園の外に出ればまだ戦い慣れしていない新米魔術師に過ぎない。事態の変化に必ずしも適切な対応をとれるわけでもない。自分の至らなさを、この野営地での戦いの中で改めて思い知らされた。

「貴女は自分をシュバルツバルトの王女と言った。それは本当か?」

 サイファーが緊迫した様子で聞く。彼とて実戦は緊張するのだ。

「本当です。私は第一王女アルネラです。何者かに襲われ、今まで捕らわれていたのです」

「!?」

 4人は驚愕する。これは大事どころではない、国家の一大事だ。

 ジルが一同を代表して、姫に訊ねる。

「我々は昼間、馬車を追う騎士団に会いました。近衛騎士団のゼノビア副団長です。彼らが追っていた馬車には貴女が乗っていたのですか?」

「恐らくそうです。ゼノビアは追いついて私のために戦ってくれました、彼女の部下も……。いま、敵の手から抜け出すことが出来たのは彼女たちのおかげなのです。私が逃げる間、時間をかせいでくれました。無事で居てくれると良いのですが……」

「敵の戦力は? ここには何人向かっているのです!?」

「はっきりとは分かりませんが、10人近くは来ていると思います。あとは騎士団がどれだけ倒したかによって変わるでしょう」

サイファーが眉をしかめ、厳しい表情となる。

「我々の手にはあまるな……」

「だがやるしか無いでしょう。どのみちこのような大事に巻き込まれたのですから、我々も無事では済まないはずです」

「姫は我々の後ろに居てください。我々がなんとか防ぎます」

 サイファーが緊迫した口調でいう。防ぐといっても何の保証もあるわけでもない。

「分かりました。しかし私も出来るだけのことをいたします。私も魔術師としての訓練を受けておりますゆえ」

「了解しました。さあ、細かいことは後だ、とりあえずここを乗り切るぞ!」

 士気を鼓舞するようにサイファーが唸り声をあげる。

「おう!」

 緊迫感に押しつぶされそうになりながら、ジルやガストンも心の準備を整える。

 サイファーが呪文の詠唱に入る。自分の戦闘力を強化するための魔法であろう。それにレミア、ジル、ガストンも続く。サイファーはプロテクション・アーマー(鎧強化)を自身にかけたようだ。ジルやガストンもさしあたり自分で戦わないといけない状況であるため、プロテクション・アーマーやヘイスト(敏捷性強化)をかける。

 後ろでは姫が魔法を詠唱している。ジルのまだ聞いたことのない魔法だ。

(これは何の魔法だ? 神聖魔法か?)

「ガル・バジリータ・グリフォード・ウフォス エイジン・ジャクイン・ロメトス・ラーダ いと尊き意思に従い、力よ、強きに向かう勇気となれ!」

 姫の呪文の詠唱が終わると、4人をまばゆい光が包み込み、ふつふつと気分が高揚し、不安が消え去っていく。

 第二位階の神聖魔法「ブレス」である。この呪文は戦士の士気を高揚させ、最良の状態で戦いに望めるようにする魔法である。

 神聖魔法は魔法の適正とはまた別に適正があり、通常の魔法よりも更に適正を持つものは少ない。ジルは第一位階の神聖魔法をなんとか使えるだけだが、それでも適正がある方である。ルーンカレッジにも神聖魔法を習得できる学生は非常に少ない。どうやらアルネラ姫は高位の神聖魔法が使えるようである。

「なるほど、これがブレスの効果か。これはいい」

 サイファーの言葉に、レミアやジルもうなづく。戦いを前にして、不要な物が全て削ぎ落とされたような感覚である。

「きたぞ!!」

 サイファーが鋭い声で警告する。

 ザザっ

 森の木々を揺らして、鎧に身を包んだ冒険者風の男たちが複数現れる。サイファーとレミアが先頭にたって防ぎにまわる。ジルとガストンは直接戦闘では不利と見てのことだろう。

 しかしこの場合、彼我ひがの人数が違いすぎるため、ジルやガストンも直接戦わざるを得ない。2人はなんとかそれぞれ一人を相手にしているが、複数の敵を相手にするサイファーとレミアはいかにも分が悪い。

 それでもサイファーは見事な剣技を示し、2人を斬っておとし、3人目を相手にしている。レミアも敵の鎧のつなぎ目に短剣を突き刺し倒している。

「ガストン! 少しの間で良い、敵を引きつけてくれ!!」

「そんな無茶な!」

 ガストンがジルに抗議する。とはいえ、戦闘中に話ができるということはまだ幾分か余裕があるということだろう。

 ジルはガストンに2人の敵をまかせ、瞬時に魔法の詠唱に入る。

「メルキオール・ダルダイダ・バルトリート・ヘリクス ジス・オルムード・ウルス・ラクサ 火の精霊よ集まりきたれ 我ここに汝が枷を解き放ち 破壊の力となさん」

 詠唱とともに、ジルを中心に紅い光点が集まり収束する。

「ファイアーボール!!」

 ジルはファイアーボールを襲いかかる男たちのやや後方に着弾させる。ファイアーボールは文字通り炎の爆発を巻き起こし、森の木々を焼く。ジルはまだ現れていない敵が後方に存在すると読んだのである。

 サイファー、レミア、ガストンを相手にしていた敵の戦士は、後方で突然起こった爆発に巻き込まれ背中を焼かれる。

「ぐおぉぉぉおお」

 そして彼らの後ろでも二人の戦士が直撃を受けて黒焦げになっている。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派
ファンタジー
 勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"  その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。  そんなところに現れた一人の中年男性。  記憶もなく、魔力もゼロ。  自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。  記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。  その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。 ◆◆◆  元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。  小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。 ※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。 表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。

処理中です...