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1 ルーンカレッジ編
016 戦いの後
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王女誘拐事件の後、ジルとガストンはシュバルツバルトの王立病院に収容された。
ジルは疲労の局地にあったものの、軽症であったため1日入院するだけですんだ。しかしガストンは腹部に大きな傷を受け約1週間の入院が必要であった。ともかくもガストンの命が無事であったのは、アルネラ姫がすぐにヒーリングをかけたおかげである。
隣のベッドで寝ているガストンの顔を見つつ、ジルは昨日の戦いのことを考えていた。
(レミアさんを救えなかった……)
ジルの心に重いものがのしかかる。
「…………」
物思いに沈むジルに、訪ねてくる者があった。
「ご苦労であったな、ジル」
ロクサーヌであった。いつもは皮肉めいた笑みを浮かべているロクサーヌであったが、今日は神妙な表情を浮かべていた。
「来てくれたんですね」
「まあ教員としての役目でだけどな。君たちはシュバルツバルトの姫を救った英雄になったんだ。カレッジとしても放ってはおけないのさ。……レミアのことは残念だった。あれは良い魔術師になる才のある子だった……」
「ええ……」
「誰でも挫折を繰り返して成長していくものだ。多くの場合、それは死にいたることなく成長の糧となるが、不運な者は亡くなることもある。人の命数は分からぬものだ」
ジルは何も言わない。まだ気持ちの整理が充分にできておらず、思いを言葉にすることが出来ない。
「それはそうと、シュバルツバルト王家から使いが来てな、君たちの傷が言えたら王宮に来るようにとのことだ。助けられた姫と王が礼を言いたいそうだ。ま、ガストンの傷が癒えるには暫くかかるだろう。君はしばらくゆっくりするがいい。今度私が来る時までには、心の方も回復させておけよ」
「サイファーは……サイファーはどうしていますか?」
「……サイファーはしばらくカレッジに来ていない。相当に落ち込んで居るようだな」
「そうですか……」
「君は知らなかったかもしれないが、亡くなったレミアとサイファーは好き合っていたらしいな」
ジルは頭をガツンと殴られたような気がした。色恋などに自分が疎いことは自覚しているが、あの2人が付き合っていたとは……。余計にレミアを亡くした喪失感が増した気がした。
「だから余計に今回のことがこたえたらしい」
「……」
「今度サイファーに会うことがあれば、レミアのことを一緒にしのんでやるがいい」
ロクサーヌが出て行った後、ジルは彼女との会話の内容を反復していた。
(サイファーはレミアと付き合っていたのか。だとすれば俺以上に今回のことはショックだろう……)
ジルは今回の事件のことを考え始めた。
王女は一体なぜ誘拐されたのか?彼女を誘拐することに、一体何のメリットがあるだろうか。王国内の政治的な問題か、それとも外国による策謀か。あるいは盗賊団などが金銭目的でやったことだろうか。ジルはなぜか姫のことが気になっている。姫のことが好きになったということではない。姫は人目をひく美貌の持ち主だが、ジルがそれに心動かされたということはない。ただなぜか、彼女の顔が頭に思い浮かんでくる。
(…………)
それにあの頬に傷のある男、あれは何者だろうか……。戦ってみて相当な腕を持つ戦士であったことは分かる。剣の腕だけなら近衛騎士団のゼノビアより上なのではないか。名のある戦士であったとしても何の不思議もない。であれば、この先情報を集めれば奴を特定できるだろうか。
レミアが死んでしまった。カレッジの仲間が目の前で死んだのだ。レミアとはよく知り合うようになってまだ日は浅かったが、その衝撃は大きい。もはや死んだことは取り返せないが、レミアがなぜ死ぬことになったのか、ジルはそれが知りたかった。そうでなければ、レミアが浮かばれない。レミアの死に何らかの意味を持たせることで、自分にその死を納得させようという心理的な動きがはたらいているのかもしれない。
ガストンが目を覚ましたのは、3日後のことであった。そして動けるようになったのはそれから一週間たってのことである。
目を覚ましたその日、ガストンはジルから戦いの顛末を聞いた。ガストンもレミアのことが相当にショックだったようだ。
ただガストンは天性の明るい性格なため、すぐに自分を取り戻していった。ジルもガストンと話すことで傷が癒やされる気がした。ガストンが退院する日までに、2人はほぼ元の状態に回復していた。
ガストンが退院するその日、ロクサーヌが再び病室を訪ねてきた。今度は彼女もいつもと変わらぬ様子である。
「今日退院することになったそうだな。一応おめでとうと言っておこう」
「あっ、ありがとうございます」
珍しくガストンが緊張している。ロクサーヌを前にすれば、ほぼ皆が同じような反応になる。対等に話しているジルが特別なのだ。
「ジルにはもう言ったが、ガストン、君もご苦労だった。レミアの件は残念だったが、シュバルツバルト王家も君たちに大変感謝している」
「ありがとうございます。俺は敵にやられてしまいましたが……」
「それはジルも同じらしいがな」
ロクサーヌの言葉にジルもうなづく。
「とはいえ、結果としてアルネラ姫を救うことになったのだから大したものだ。そうそう、軍事演習の件だが、今回の活躍で演習は免除になったぞ。姫を救うために演習がふいになったわけだからな。シュバルツバルト王家からの強い要請があって、カレッジとしても無碍にはできず特例ということになった」
「そのことは少々気になっていましたので安心しました」
「だろう? それで王宮での謁見だが、3日後で良いか? 相手はなにしろ王家だ。あまり待たせるのは良くない」
「分かりました、それで結構です。サイファーはどうなっていますか?」
「サイファーには私の方から伝えておいた。当日カレッジの正門前で待ち合わせることになるだろう。奴も少しは元気になったようだ」
「そうですか、サイファーが」
「それでは、私はもう行くぞ。謁見の日取りは私から王に知らせておく。王宮では無礼をするなよ」
ジルは疲労の局地にあったものの、軽症であったため1日入院するだけですんだ。しかしガストンは腹部に大きな傷を受け約1週間の入院が必要であった。ともかくもガストンの命が無事であったのは、アルネラ姫がすぐにヒーリングをかけたおかげである。
隣のベッドで寝ているガストンの顔を見つつ、ジルは昨日の戦いのことを考えていた。
(レミアさんを救えなかった……)
ジルの心に重いものがのしかかる。
「…………」
物思いに沈むジルに、訪ねてくる者があった。
「ご苦労であったな、ジル」
ロクサーヌであった。いつもは皮肉めいた笑みを浮かべているロクサーヌであったが、今日は神妙な表情を浮かべていた。
「来てくれたんですね」
「まあ教員としての役目でだけどな。君たちはシュバルツバルトの姫を救った英雄になったんだ。カレッジとしても放ってはおけないのさ。……レミアのことは残念だった。あれは良い魔術師になる才のある子だった……」
「ええ……」
「誰でも挫折を繰り返して成長していくものだ。多くの場合、それは死にいたることなく成長の糧となるが、不運な者は亡くなることもある。人の命数は分からぬものだ」
ジルは何も言わない。まだ気持ちの整理が充分にできておらず、思いを言葉にすることが出来ない。
「それはそうと、シュバルツバルト王家から使いが来てな、君たちの傷が言えたら王宮に来るようにとのことだ。助けられた姫と王が礼を言いたいそうだ。ま、ガストンの傷が癒えるには暫くかかるだろう。君はしばらくゆっくりするがいい。今度私が来る時までには、心の方も回復させておけよ」
「サイファーは……サイファーはどうしていますか?」
「……サイファーはしばらくカレッジに来ていない。相当に落ち込んで居るようだな」
「そうですか……」
「君は知らなかったかもしれないが、亡くなったレミアとサイファーは好き合っていたらしいな」
ジルは頭をガツンと殴られたような気がした。色恋などに自分が疎いことは自覚しているが、あの2人が付き合っていたとは……。余計にレミアを亡くした喪失感が増した気がした。
「だから余計に今回のことがこたえたらしい」
「……」
「今度サイファーに会うことがあれば、レミアのことを一緒にしのんでやるがいい」
ロクサーヌが出て行った後、ジルは彼女との会話の内容を反復していた。
(サイファーはレミアと付き合っていたのか。だとすれば俺以上に今回のことはショックだろう……)
ジルは今回の事件のことを考え始めた。
王女は一体なぜ誘拐されたのか?彼女を誘拐することに、一体何のメリットがあるだろうか。王国内の政治的な問題か、それとも外国による策謀か。あるいは盗賊団などが金銭目的でやったことだろうか。ジルはなぜか姫のことが気になっている。姫のことが好きになったということではない。姫は人目をひく美貌の持ち主だが、ジルがそれに心動かされたということはない。ただなぜか、彼女の顔が頭に思い浮かんでくる。
(…………)
それにあの頬に傷のある男、あれは何者だろうか……。戦ってみて相当な腕を持つ戦士であったことは分かる。剣の腕だけなら近衛騎士団のゼノビアより上なのではないか。名のある戦士であったとしても何の不思議もない。であれば、この先情報を集めれば奴を特定できるだろうか。
レミアが死んでしまった。カレッジの仲間が目の前で死んだのだ。レミアとはよく知り合うようになってまだ日は浅かったが、その衝撃は大きい。もはや死んだことは取り返せないが、レミアがなぜ死ぬことになったのか、ジルはそれが知りたかった。そうでなければ、レミアが浮かばれない。レミアの死に何らかの意味を持たせることで、自分にその死を納得させようという心理的な動きがはたらいているのかもしれない。
ガストンが目を覚ましたのは、3日後のことであった。そして動けるようになったのはそれから一週間たってのことである。
目を覚ましたその日、ガストンはジルから戦いの顛末を聞いた。ガストンもレミアのことが相当にショックだったようだ。
ただガストンは天性の明るい性格なため、すぐに自分を取り戻していった。ジルもガストンと話すことで傷が癒やされる気がした。ガストンが退院する日までに、2人はほぼ元の状態に回復していた。
ガストンが退院するその日、ロクサーヌが再び病室を訪ねてきた。今度は彼女もいつもと変わらぬ様子である。
「今日退院することになったそうだな。一応おめでとうと言っておこう」
「あっ、ありがとうございます」
珍しくガストンが緊張している。ロクサーヌを前にすれば、ほぼ皆が同じような反応になる。対等に話しているジルが特別なのだ。
「ジルにはもう言ったが、ガストン、君もご苦労だった。レミアの件は残念だったが、シュバルツバルト王家も君たちに大変感謝している」
「ありがとうございます。俺は敵にやられてしまいましたが……」
「それはジルも同じらしいがな」
ロクサーヌの言葉にジルもうなづく。
「とはいえ、結果としてアルネラ姫を救うことになったのだから大したものだ。そうそう、軍事演習の件だが、今回の活躍で演習は免除になったぞ。姫を救うために演習がふいになったわけだからな。シュバルツバルト王家からの強い要請があって、カレッジとしても無碍にはできず特例ということになった」
「そのことは少々気になっていましたので安心しました」
「だろう? それで王宮での謁見だが、3日後で良いか? 相手はなにしろ王家だ。あまり待たせるのは良くない」
「分かりました、それで結構です。サイファーはどうなっていますか?」
「サイファーには私の方から伝えておいた。当日カレッジの正門前で待ち合わせることになるだろう。奴も少しは元気になったようだ」
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