シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

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1 ルーンカレッジ編

025 帝国への使者4

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 一行はシュライヒャー邸を出て、再びベルン砦へ戻る。王国の使者が、帝国で予定にない行動をとることはできない。必要最小限の場所にしか行くことは許されないのである。砦につくとキルクスが御役御免ということで、一行に別れを告げた。

 ジルたちは無事に砦の関所を通過し、王国側のランスへと帰ってきた。帝国側にいた時は、不測の事態に備え緊張を強いられてきたので、王国側に入るとやはりホッとする。ゼノビアも使者の役目を果たせたことで、責任から開放された様子である。

 ゼノビアの後ろで馬を歩かせていたサイファーは、隣を行くジルに問いかけた。

「ジル、エルンスト殿の反応どう思った?」

「傷の男のことを聞いてから態度が変わったことか?」

「そうだ、やはり気づいていたか。単に悲しんでいただけにも見えるが、あれは普通じゃない反応だった」

「エルンスト殿が男のことを何か知っていると?」

「ああ」

「ただそれにしては反応が弱い気もするな。思い当たる男はいるが事件に関わっているのが信じがたい、あるいははっきりしたことは全く分からない、そんなところだろうか?」

「そんなところかもな。いずれにせよ、エルンスト殿に心当たりがあるということは、エルンスト殿と敵対する人間か、或いはいま現在の味方か……帝国の人間だろうか」

 ジルはしばし考えこむ。

「まだそうとは限らないだろうな。ただレミアさんが事件に巻き込まれたのは偶然のはずだ。エルンスト殿の事情が事件と関係があるとは思えないな」

「それもそうか。しかしいままで全く敵の情報がなかったんだ。エルンスト殿の線で何か分かれば一歩前進ではないか?」

「サイファー、それは楽観的だろう。エルンスト殿がそれを我々に教えてくれるだろうか。たとえ彼にその意思があったとしても、王国と帝国には物理的な距離以上の隔たりがあるのだから」

 サイファーはジルの言葉にうなづきながら、話題をかえる。

「それとキルクスのことも気になる。奴はエルンスト殿の表情をしきりに気にしていた。会談を終わらせたのも露骨だったしな」

「ひょっとして帝国は、何らかの理由でエルンスト殿を監視しているのかもしれない。帝国では軍の重鎮のはずだが、あの方の置かれている状況について知る必要があるな」

 レミアのため、誘拐事件の真相を調べる。そう誓ったジルであったが、今回の件でそのきっかけがつかめたかもしれない。

 一行は長途ロゴスへと到着した。帰りは途中で泊まることなく、王都へと帰ってきたのである。ジル、サイファー、ガストンには、王室が王宮の中に部屋を用意してくれていた。3人には侍女が一人づつついて、用をうかがうようになっていた。

「明日はみなさまを歓迎する晩餐会が催されます。それまではどうぞ旅の疲れを癒やされますよう」

 若い侍女がジルにそう案内する。晩餐会は明日の夜6時から開かれるらしい。アルネラを救ったジルたちに対する感謝と、弔問団の労をねぎらう意味があるとのことだ。

 晩餐会には身分の高い貴族も大勢やってくる事だろう。貴族とはそのような晩餐会を開き、参加することが仕事のようなものだ。彼らはそうして宮中の情報を交換し、人脈を作り、時にはその場で政治の実質的な決定をなす。宮廷とは伏魔殿のようなところだ。

 ジルにとっては正直気が重いことであったが、地位を上りつめるためには、このような事も無難にこなさなくてはならない。高位の貴族とは関係を持っておいて損はないのだ。

(とにかく、今日はさすがに疲れた……。考えることは多いとしても、今日ぐらいはもう何も起こるまい)

 ジルはベッドに横たわると、すぐに意識が眠りへと沈んでいった。
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