18禁ヘテロ恋愛短編集「色逢い色華」

結局は俗物( ◠‿◠ )

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雨と無知と蜜と罰と 弟双子/気紛れ弟/クール弟

雨と無知と蜜と罰と 3

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 雫恋かれんに羽交い締めにされたまま、加霞かすみは自由を奪われた上半身をびくびく跳ねさせた。膝下にはジーンズが絡む。ぴちゃり、と湿った音がするのはここが多目的トイレだからだろうか。それとも、エプロンの中に彼女の弟が潜り込み、濡れた場所を濡れた器官で愛撫しているからだろうか。
「ぁっあっ……、」
 霙恋えれんの舌先が肉珠を転がし、鋭利な刺激が下腹部を燻らせる。
「こんな場所でそんなところ舐められてみっともないね、姉貴」
 耳殻に唇が落ちる。彼が喋ったタイミングで霙恋は姉の淫らな肉房を捲った。唾液をまぶされたそこは冷えたように感じられる。
「ゃあっ!」
「でも安心しなよ。俺たちはそんなことで幻滅したりしないから」
 次弟は姉の耳を吸った。裏側を何度も舐められ、耳朶が揺れるのを楽しんでいる様子だった。
「だめ……、もう…………舐めるの、やめ………って、」
 霙恋の視界には卑猥な光景が広がっていることだろう。加霞は顔を火照らせて、目には涙を浮かべていた。口腔に溜まった唾液を嚥下することも忘れていた。秘められた箇所を至近距離で見られ、舐められているのだ。強過ぎる羞恥に頭が活火山と化しそうだった。それでいておかしな感受性が働き、霙恋の舌捌きに肉体は甘い痺れを起こす。引いた腰を戻され、淫粒の奥まで焦らされる。息がかかり、舌の表裏の質感だけでは足りない効果を与える。混乱のあまり、恥ずかさが悦楽に変換されている。
「そろそろだな、姉さん。イってくれ」
 今までのはすべて加減されていたものとばかりの絶妙な口淫に切り替わる。女を一直線に駆け巡らせる危険な技巧に加霞の腰が揺らめいた。膝が耐えられない。腹の奥が一気に燃える。
「あっあっあぁ!」
「イくの?姉貴」
「だめ………あっあっあっ!あぁん!」
 交尾中のオス猫みたいに加霞は腰を振ってしまう。姉自ら弟に濡花を押し付けている。
「姉貴、腰振って、気持ち良かった?」
「も…………放し、て………」
「そればっか」
 仕置きとばかりに耳に歯が立てられた。下から霙恋がやって来る。その薄く整った唇はぬらぬら光り輝いている。
「雫恋とはしたんだろう?」
「し、て………な、ぁっ!」
 果てたばかりの媚実を捏ねられる。視界が瞬きのタイミングとずれて刹那的に白くなる。
「嘘吐くなよ、姉貴」
「したんだな」
「ち、ちがう、ちが………っ、だめ、」
 雫恋は容赦なく加霞を両手膝から担ぎ上げてしまう。長弟の眼前で大股を開かされ、彼女は顔を覆った。霙恋はその片足からジーンズとショーツを抜く。サンダルがタイルにばたんと落ちて転がる。
「いや!」
 秘裂が無防備に晒されているのである。それは瑞々しい果実を左右に割ったような有様だった。霙恋の怜悧な目に不穏な気焔が走った。
「綺麗だ、姉さん」
 長弟はまた屈んだ。飽きもせずそこに顔を埋める。
「そんなところ………」
 花弁の奥を彼は舐め尽くした。核肉に施したような甘噛みはなく、優しく丹念に舌が這う。
「もう、いや………っ、」
「姉貴」
 舌先が中に入る。彼女は身を強張らせた。すると雫恋の舌も加霞の耳珠を転がす。長弟の舌を締め付けてしまう。唾液なのか彼女の蜜なのかも分からない水分が潰れて鳴った。
「ぁんっ……」
「物足りなくなってきた?」
「そんな、わけ………、」
 雫恋に嗤われ、意識してしまう。それが肉体反射に作用したのか、意図せず霙恋の舌を奥へと引き込む。彼は睨み上げながら顔を離した。舌を出したままで、淫液が糸を引いている。
「姉貴、いっぱい出したんだ」
「やめてっ、言わないで………」
「どうして?感じやすいの、可愛いよ」
 次弟の囁きに首を竦める。霙恋が彼女の膝の間で立ち上がった。次弟の色違いは自分の長い指を舐める。
「霙恋ちゃん………」
 彼は微苦笑する。それから加霞の中に指が挿れられた。
「は、ぁう……!」
「きついな。本当に雫恋としたのか?」
 節くれだった関節に狭肉を拓かれる。加霞は自身でも触ったところの箇所に質感があることを知らされた。
「したよな?姉貴。きゅうきゅう締め付けて、俺でイッてくれたもんな」
「何回イった?」
 長弟の凶暴な眼差しに加霞は首を振る。耳元で小さな笑い声がする。
「2回だよね?軽いの含めたら3回くらい?」
 彼女は首を振り続ける。歯軋りが目交いで聞こえた。
「4回イかせる。お前も付き合え、雫恋」
「姉貴は感じやすいから、すぐ終わるよな?」
 身震いした。顔を覆う手を取られ、大きく成長した掌に合わせられ、ごつごつとした指が絡んだ。熱く大きな熱が粘膜に当てられる。同じ顔に挟まれ、悲鳴が呑まれた。



 腰が抜け、膝に力が入らなかった。両側から弟たちに引っ張られ、2階に上がる。
「また来る。姉さん………すごく良かった」
 霙恋は一人で立てず、自分にしがみつくしかない姉を抱き締めた。
「来な………いで、」
「部屋まで行けるのか」
 彼女は力強く頷いた。手摺り伝いに歩けばよい。
「じゃあね、姉貴。アンタの弟にもよろしく」
 嵐恋あれんを気にする素振りが薄ら寒い。睨んだ。目が合うと雫恋は陰湿な微笑を浮かべる。
「来ないで………もう。お願いだから………」
「早く帰ってやれよ。アンタの弟が恋しがってるんじゃない」
 加霞は雫恋の胸元を一発叩いた。霙恋の腕を押し除けて部屋に戻る。腰が痺れ、膝から下が透けてしまったように感覚がない。玄関扉を開けるのがやっとだった。サンダルを脱ぎ、倒れるように座った。
「おかえり、姉ちゃん!」
 リビングから弟の声がする。加霞は腰を摩った。鈍い痛みとおかしな痺れが残っている。
「ただいま。ごめんね、ちょっと話し込んじゃって」
 平静を装いリビングに入る。出た時と同じく、嵐恋は舞夏まなつと数学の課題をやっている。
「今ご飯作るから。生姜焼きでいいかな。舞夏まなちゃんどうする?食べていく?」
「マナツ兄ちゃん」
 嵐恋は兄代わりに撓垂しなだれかかった。それは要求である。舞夏も嬉笑している。
「ははは、じゃあご馳走になります」
 3人で夕食を摂るのが日課になっている。嵐恋は「やった!」とはしゃいでいる。舞夏には嵐恋が世話になり、嵐恋もこの上なく楽しそうである。1人分増えたところで苦はない。
「今日は生姜焼きね」
 痛みよりも骨に響く痺れで上手く立てないのを誤魔化し、彼女はキッチンに立つ。
 課題を終えた嵐恋がリビングを去る。舞夏はへらへらした笑みをすっ……と消す。軽やかに腰を上げて彼は加霞の元に来た。
「大丈夫?」
「何が?」
「膝か?腰かな。痛めてない?歩き方変だった」
 加霞は吊り気味ながら大きな舞夏の目を真っ直ぐに捉えてしまった。言葉よりも確かな肯定になっている。
「オレ飯作るし。いつもご馳走になってるしさ。今日は座ってたら?」
「大丈夫だよ……?」
「嵐恋くんが気にするから?あんまり無理しないで。キッチン触られるのヤダ?それならそこで座って監督してくれたらいいし」
 舞夏はすでに袖を捲っている。シンクのへりに広げた腕に筋肉の凹凸が現れた。
「大丈夫……」
「女の子、色々あんだろ」
 いくらか気拙そうに彼は言った。月経前の腰痛と思っているらしかった。舞夏は実際関わってみると真摯で周りをよく見ているが、外見や印象のみだと軽率で軟派な感じがあった。異性からもよく好かれる。一度の告白をしりぞけられ、新たな出逢いがあったのかも知れない。気にしていたのは自分だけであったのだ。加霞は己が恥ずかしくなった。恋愛感情を打ち明けられた事実に基づいたまでで、自惚れたつもりはなかったけれど、過去のことだ。人の恋愛感情など簡単に移り変わり、終わりが確定すれば立ち去るものだ。とすると、舞夏がまだこの久城くじょう家に入り浸るのは、彼からも嵐恋を憎からず思っているのだろう。感謝の念が強まった。そして安堵もある。縛り付けてはいないのだ。
「本当に大丈夫だから。でもありがとう、舞夏ちゃん」
「そうか?オレにやれることなら代わるから、言ってくれな」
「うん。じゃあその時は、よろしくね」
 舞夏はすぐにリビングには戻らない。数秒ほど、加霞が気にする程度には長く突っ立って彼女を見ていた。そのうちに嵐恋が戻ってくる。マナツ兄ちゃん、マナツ兄ちゃんと弟は兄貴分に甘えた。腰の違和感は消えないが彼が安心して心を開く相手がいるのなら加霞もまた満たされる。


 加霞にも好きなアイドルがいた。中学生時代、仲の良い友人たち7人で当時人気の男性アイドルグループを推していた。そのアイドルグループも7人いた。気が強く内弁慶ながら周りを巻き込みがちだった友人グループのリーダー格に布教されたが如く加霞たちも付き合わなければならなかった。7人のアイドルの中から1人ひとり誰を推すのかもそのリーダー格の友人に決められてしまう。加霞が割り当てられたのは一番人気のない足利あしかが尊由起たかゆきである。アイドルと言われ真っ先に浮かぶ美男子でもなければ華があるわけでもなかった。何故アイドルなのかグループメンバーから揶揄される立ち位置であり、また身近にいそうで身近にいたとすれば小綺麗かつ器用な様から現実的な疑似恋愛をシミュレーションできる"リア"枠として親しまれているような人物だった。リーダー格の友人を除き他の5人はいくらか同情的だったのを覚えている。そのアイドルの名前は「dear my question」といって、ディアマイだのディアクエだの呼ばれていた。
 次弟のことがあり、加霞はあまりアイドルに良いイメージがなかった。彼がラジオや雑誌で姉との仲の良い話を捏造するたびに苦々しく思い、アイドルのインタビューなどは殆どが信じられなくなっている。眉唾物である。しかし彼女は、足利尊由起を推す振りをしているうちに、段々とメンバーや事務所の後輩に対する優しさや気遣い、やはり美しさや華はなかったけれど気取らない笑顔や趣味に対する探究心などに惹かれていった。それはアイドルに対する、やはり偶像崇拝的なもので、それがキャラクターであるのだとしたら加霞は足利尊由起を何も知らないが、ただただアイドル足利尊由起を応援した。ライブにも行ったことがある。しかし彼女は呆気なく、アイドル足利尊由起の応援を辞めた。グループの結成・消滅、メンバーの加入・脱退で忙しい事務所であった。期間限定ユニットなどというのもあるからややこしい。彼はdear my questionを抜け、新しく7人編成のcrown Berrysというアイドルグループに加入した。そこに他メンバーの脱退も重なったためこれが転機となりdear my questionは自然消滅した。事務所の方針である。crown Berrysには加霞の次弟がいた。それがアイドル足利尊由起を推さなくなった理由である。あまりにも呆気ない。後に次弟はcrown Berrysを脱退し、3人編成のLove la Dollに加入する。これも事務所の方針であった。足利尊由起に対する熱が再び上がることはなかった。
 大学時代に或る人物が加霞を訪ねてきた。高校時代に次弟経由で知り合った元dear my questionのメンバー、宝生ほうしょう美夢みゅうである。彼とは歪な関係だった。一人暮らしする前に会っていた場所も、接点である次弟と暮らした家ではなく加霞の祖父母の家であるのだからかなり個人的な付き合いになっていた。

 その宝生が現れる。疎遠になっていた。舞夏はローテーブルで頬杖をついて、宝生と加霞の面談を退屈げに眺めている。宝生は一口に言うと美少年を思わせたが、22か23歳のはずだから少年といっていいのか疑問を残す。しかし外観からいうと美少年と形容するほかない。眩しげに眇めているような目元が温和な印象を与える。そして鼻が高く、前髪をセンター分けにして形の良い額を広く晒していた。口元も決して緩んではいないが常に微笑を湛えているようである。その正体は成人男性でありながら嫋やかな美少年だった。
「ラジオでお姉ちゃんのこと聞いて、ふと懐かしくなったんです」 
 喋ると見た目の割りに声が低い。
「ラジオで?」
「エブリーナイトジャポン聞いていませんか?この前、雫恋さんがゲストだったんですよ」
 宝生は加霞とその弟の不仲を知らない。宝生と雫恋は、宝生が年上の後輩に当たる。
「知らなかった……」
「お姉ちゃんのこと思い出して、今どうしてるのかなって。もうご実家のほうに戻ったのかと思いました。とりあえず来てみて良かったです」
 ポストの表札は戻してしまった。知られたくない相手にもう知れてしまっているのだから郵便配達員を惑わす必要はない。
 宝生は加霞にふわりと微笑むと、離れて座る舞夏を一瞥した。
「お久し振りです、舞夏さん」
「お、覚えてくれてた?宝生ちゃん」
「もちろんです。"7スか9スか8っスか?"でしたっけ?」
 宝生が温和に笑っている。
「6スか7スか8っスか?の蜂須賀はちすかな」
 舞夏は芸名を使っていないらしかった。彼の態度はおどけながらも宝生を苦手がっているのが加霞にはわかってしまったが、当の宝生は軽く手叩きをしてそのことには気付いていないようだった。
「どういう関係?加霞サン、足利ピのファンだった繋がり?」
 舞夏は2人を見比べる。途端に宝生の表情が険しくなった。加霞も説明に窮する。
「お姉ちゃん、また栃木くんの追っかけやってるんですか?」
 栃木は足利尊由起の本名である。下は宗光むねみつといった。いきなりこの嫋やかな美少年然とした青年の声音が刺々しくなる。加霞はその理由を知っていた。舞夏は訝しげに眉を寄せた。
「もうやってないよ」
「あのあと栃木くんね、車の免許取ったんですよ。この前一緒に焼肉行きました」
 加霞は「よかったね」と小さく呟いた。
「これまだ、インタビューとかでは言ってないらしいので内緒にしておいてくださいね。舞夏さんも」
 微笑が優しげな、よく手入れされた顔がぐりんと舞夏も捉える。
「お、おう」
「栃木くん、運転すごく上手でした。そのあとアウトレット行ったんです。お揃いでサングラス買いました」
 舞夏は加霞に目配せする。彼女はそれに気付きながらまた「そうなんだ」と返した。
 大学時代、宝生から相談を受けていた。性と恋について彼は悩んでいるらしかった。悩むというよりも迷いに近い。セックスワーカーの女性を家に呼んだ時に挑めなかったそうなのである。足利尊由起とテレビ電話を繋がなければ肉体が反応しなかったという。そして足利尊由起の家にセックスワーカーの女性を呼び、彼の寝る横でないと行為に至れないという個人的過ぎる内容を加霞は聞かされた。それでいて同性愛者であるという認識はなく、足利尊由起に恋愛感情を抱いているわけでもないらしい。このことを宝生は自身の性処理の仕方に問題があると踏んだらしく、彼は加霞に頼み込んで、自慰する姿を見せた。そして懇願し、加霞が宝生の自慰に手を貸すこともあった。それが2ヶ月ほど続き、現在宝生のいるアイドルグループのツアーコンサートが始まってからぱったりとそのおかしな関係は終わりを告げた。次弟とのことだけでなく、この宝生との間柄が性に対してどこか不誠実を働いた気になった。舞夏の告白を斥けた理由のひとつには、この美少年然とした嫋やかな青年の影もある。
「……ところで、あの、もしかしてお二人は、デキてるんですか」
 舞夏は妙な顔をした。
「質問を質問で返してごめんな、だけど、そっちの2人の関係のほうが気になる」
 宝生はあざとく、ひょいと首を傾げた。加霞に対して上目遣いの姿勢をとる。
「お姉ちゃんは、どういう関係だと思いますか?ボク等……」
 丸投げされ、可愛こぶった眼差しだけでなく舞夏の視線が力強く加わる。
「足利くんのファン……?」
 宝生はキッと剣呑な雰囲気を纏う。彼は会うたび会うたび、マウントをとらねば気が済まないところがあった。
「違うでしょう?友達以上セフレ未満……ですか?」
「えっ、いや……」
 加霞は宝生からそれを言い出すと思わず、膝で立ってしまった。
「どゆこと」
 今度は舞夏が剣呑な空気を帯びる。加霞は俯いてしまった。
「北条くん……」
 宝生 美夢みゅうの本名は北条 未来みゅえるである。
「説明しづらい複雑な関係ですよ。でも……それは舞夏さんとお姉ちゃんの仲を邪魔するものじゃないです」
 アイドル宝生美夢である時、彼はぬぼっとして不思議な世界観を作るキャラクターを演じていた。しかし実際、生身の北条未来として接した時、彼はこすく聡い。
「わたしたち、別にそういうのじゃ……」
 宝生はあっけらかんとして舞夏の反応を窺った。加霞の弟の兄貴分は、ふざけた様子で唇を尖らせ、拗ねた演技をしている。
「セフレって言葉が強過ぎるましたか。ごめんなさい、お姉ちゃん。ボクから弁解します」
 余計に話が複雑になりそうではあるが、加霞はもう彼に任せてしまった。
「友達以上と表現したのは、ボクが他者ひとに知られたくない相談を加霞さんに打ち明けたからです。セフレ未満と言ったのは……デモンストレーションをしたからで、別に言葉そのままの意味ではありません。知られたくないことを知った人ですから、ただの友人では済みませんし、実際ナニカあったわけではないので、セフレ未満です」
 舞夏はちらと加霞を瞥見する。その猫目は真偽を問うている。頷いた。
「おっけ。分かった。信じるよ。信じるっていうか……別に疑ってもなくて、2人がどういう仲でも、オレがやることは、そうなんだ……って受け入れるだけっつーか」
「加霞さんの前でちょっと言葉が過激かも知れませんけど、舞夏さん。シコシコしてるの見せただけですから。電話でシてるの聞いてもらったりとか。ね?お姉ちゃん。ボクが加霞さんのそういうの聞いたわけじゃないし、ボクが一方的に聞かせてただけで。男所帯でしょう?お姉ちゃんに話聞いてもらいたくて」
 宝生の雰囲気も風貌で言うと可愛らしい甘えになる。
「ああ……そう」
「ヤキモチ焼いてるんですか?」
「別に」
 困った貌を作って美少年風の青年は加霞に首を戻す。
「ボクが女の子みたいに可愛いからいけないんです。ボク、可愛いでしょう?だからお姉ちゃん、ボクがチコチコしてるの、そこまでイヤじゃなかったんですよね?ファンの子たちもボクのこと可愛いって言ってくれるし、栃木くんもボクは顔がイイからって言ってくれるし。ボクが可愛過ぎてその……男の人としては見られてなかったみたいですけど。だからプラマイゼロですよ」
「どの辺りがプラスでどの辺りがマイナスなのか小一時間問い詰めたいけれども」
 彼はにこにことアイドルだった。
「そろそろ嵐恋坊っちゃんが帰ってくる頃でしょ。オレが外まで迎えに行くから、それまでに帰らないと、おかしな空気になるよな」
 舞夏は髪をくしゃりと掻いて立ち上がった。
「元気ですか、嵐恋くん」
「元気だよ」
 姉が答えるより先に兄貴分が答え、彼は出て行った。
「それは良かった。どうぞよろしくお伝えください……舞夏さん、逃げましたね」
「え?」
「逃げたというか、遠慮したんでしょうか。お姉ちゃん」
「北条くんが思うような関係じゃないよ。嵐恋くんと仲が良いだけ。もう恋人とか、いると思う」
 涙袋のふっくらした目が優しげだが、その眸子は呆れているようでもある。アイドル然として口元はやはり微笑を絶やさない。顔立ちだけでもかなり甘いが、さらに甘い表情を加えているため真意がなかなか読み取れなかった。事務所の社長だの役員だのにあまり気に入られていないのか、将又はたまたそういう戦略なのか、芸能界にいた歴は長いはずだというのに彼がプッシュされている感じはなかった。思春期前から真っ只中に売れ、第二次性徴期によって肉体が男性に近付く前の時期に価値を決めてしまった節がある。
「そうですかね?だとしたら舞夏さん、浮気性だな。まぁ、元アイドルですからね。当時のファンもいれば、そんなこと知らなくても舞夏さん、カッコいいし。選り取り見取りでしょう。いいですね、カッコいいと。ボクは可愛過ぎちゃってイケない。可愛いのは、実際あんまりモテないですから」
 この嫋やかな美少年風青年の自嘲は自嘲のていを成していない。自信に満ちている。自己に対する肯定が揺らがない。それが可愛らしさから来るものであってもただ可愛らしいだけではない魅力を固めている。
「お姉ちゃんはあくまでお姉ちゃんですから、ボクは舞夏さんの邪魔をしようって思ったわけじゃないんですけどね。でも……そういう関係じゃなかったのなら、お姉ちゃん。またボクのヘルスケア、お願いしていいですか」
 彼はアイドルとして譲れない白い歯を輝かせた。並びも良い。
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