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しおりを挟む翌朝、下駄箱の所で俺のすぐ隣の場所、「楢原 咲良」の名前のシールが張ってあるのを見つけると胸が締め付けられるような痛みに襲われた。
楢原家から嫌われていても、世間から見れば「楢原 咲夜」でしかない。そんな事を考えながら「楢原 咲良」の名前のシールを凝視していた。
咲良。良く咲く桜をイメージした名前らしい。花ならなんでもいいのだろうけど、ラフレシアとか食虫植物とかだったら面白いよな。
咲夜。夜に咲く。暗闇で咲く。ひっそりと咲き、誰にも気付かれず朽ちていく意味で名付けたらしい。自分で言って泣きたくなってくる話だ。それなのにジュンタは、「夜桜は昼間に見るより綺麗だけどな」なんて言うから、この名前に何の恨みもなくなった。
咲良の下駄箱には既に靴がある。学校に居るのだろう。
ジュンタも俺も登校は大抵早め。
「サック~?行くぞ?」
ずっと弟の名前を見つめる俺を不思議に思っただろうジュンタは俺を我に返らせた。
「あんなに見つめても、名前は変わらないぞぉ」
「分かってるって、ジュンタ。もう名前については悩んでないって」
玄関で下履きから上履きに代えて、廊下を挟んですぐ階段。階段を上り、二階の廊下に出る。少し歩くと教室。
教室に入れば、僅かな女子と、一人窓際の席で読書をする咲良。そして彼は本から目を逸らし、俺を一瞥した。顔に傷がある。口元が赤くなり、右の頬骨が隆起している部分は痣が目立ったいる。帰るのが遅くなって、親に怒られて殴られたのだろうか。殴るような親ではないけれど。
不安になって、隣のジュンタに寄り添う。
「ん?どうしたんだよ?」
咲良は眉間に皺を寄せ、席を立つと、つかつかと俺の方へ来た。
「大城、咲夜借りる」
ジュンタが反応するよりも早く、咲良は俺の腕を強引に掴み、教室から出された。
咲良が俺の腕を掴む力は強く、放してもらうよう頼んだが、無視。連れて来られたのは体育館トイレ。朝は人がいない。トイレに入るなり掴んだ腕を放され中に放りこまれ、水色のタイルの壁にぶつけられる。脇に並ぶトイレの個室がギャラリーのように俺を見下している心地がした。
「痛ぇ・・・・・」
「大城とはあまり一緒にいないほうがいい」
冷たく低い声で吐かれる言葉。
「・・・は?」
「そのままの意味。大城と一緒にいるのは咲夜が後々傷付くことになる」
「そんな意味の分からないこと言われたって分かんねぇって。お前の思ってるコト全部俺が分かると思うなよ」
「言った筈だよ?僕は咲夜が好きなんだ。咲夜が後々傷付くならあの邪魔な駄犬を排除したっていいんだ。でもそんなコトをしたら、咲夜も生きていけなくなるだろう?」
俺はコイツを分からないけれど、少なくともコイツは俺を分かっている。
「だから、僕は大城に何も出来ないでいる」
「どうして、アンタはそこまでジュンタを嫌うの?」
「彼が極悪非道なチーマーだからさ」
咲良は手を、自身の痣のある右頬に添えた。
「ジュンタはそんなヤツじゃない!」
俺は立ち上がり咲良に怒鳴り、右腕を振り上げた。咲良はそれを掴んだ。そして俺の頬に衝撃が走った。勢いで俺はトイレの床に這いつくばった体勢になる。
「大城が大事?自分が痛い目遭っても?そうまでしても大城を庇いたいの?」
咲良に殴られたのだと悟った。俺はずきずきと熱く疼く頬に手を当てた。無表情のまま咲良は俺を見下ろしている。
「いつ、あいつの仲間に売り飛ばされるかも分からない。いつ裏切られるのか・・・・・。あいつが消えてしまえば僕も安心できるんだがな」
咲良は歪んだ笑みを浮かべてそう言った。
どうしてそんなことを平気で言うのだろう。ジュンタが俺を裏切るなんて。捨てるなんて。消えるなんて。
「ッ嫌いだ・・・!!。大っ嫌いだ!!お前なんか!!顔も見たくないんだよ!アンタさえ居なくなれば、俺は昔を忘れられるんだ!!何も重く考え無いで生きていけるんだ!!!俺はお前が大嫌いなんだよ!!」
咲良の綺麗な眉が歪んだ。
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