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ネイキッドと翼(74話~) ケモ耳天真爛漫長男夫/モラハラ気味クール美青年次男義弟/
ネイキッドと翼 90
しおりを挟む指先が潤けるには、水気が足らない。干枯らびるには蒸れている。萎むことも咲ききることもできない彼女の手はアゲハチョウに貪り食われている。
茉世は何度も接合を試みて蠢く掌を握った。心臓を宿したのか脈動してい互いの指先は、低温どころか人肌の微温で火傷しているのかもしれない。しかし両者は骨を確かめ合い、肌理の凹凸を埋める気でいる。
「ん……っ、ふ、」
喉を嗄らして鳴き喚いていた猫がとうとう諦め、永世の背に乗った。接触が深まる。茉世は彼と共に噎せた。2人を結ぶ糸が千切れる。
照れ隠しの微苦笑が降るものだと思っていた。けれども茉世は目交いにあるのは煮え滾った焦げ茶色である。照れ隠しの余裕などない。彼女はクーベルチュールチョコレートになってしまった。後は溶かされるほかない。
「んなぁん」
黒い猫が、茉世の上に覆いかぶさる男の背を踏む。彼の表情が浅く歪む。
「黒ちゃ……」
目を逸らすと、噛みつかれる。牙はなかった。
「ぁ……、んっ、」
指の股から掌を握り潰されそうだった。痛みはない。窮屈が心地良い。握り直すたびに、新たな熱を探す。
手指の攻防は、接吻の攻防でもあった。茉世から絡めても、上手く逃げられ、攻められ、呑まれてしまう。優位に立てない。しかし劣勢にいればいるほど、体内組織すべてがクリーム状と化すような陶酔に襲われるのだった。それは悪くないことだが、茉世にも闘争心というものがあれば、報復心というものもある。
茉世の身動きを彼は察したようだった。彼女の動きをむしろ手伝って、自ら下敷きになった。男体の肉感を胴体で味わう。豊かな乳房がそう分厚くはない胸板に乗って撓む。
「永世さん……」
唇を離した。銀糸の切れない距離で囁く。口付け甘さに酔ってしまった。気持ちの良い酸欠のなかで、口触りも耳障りもいい名を呼んでしまう。
瞬きも重苦しいほど、身体が溶けているが、下に敷いた男の顔が見たかった。焦げ茶色の瞳も冷静ではないようだった。
休んでいる間はないとばかりに永世は首を擡げる。茉世も攻めにかかった。唇を吸う。舌を突き入れる。永世の口の中は冷えていた。ほんのわずかな離別で流入した空気によって、互いに冷えていた。
「んん………んっ、永世さん……」
片手だけ、強い抱擁から逃げた。まだ与えられた体温が残っている。茉世は永世の耳を塞いだ。親指で耳朶を繰る。齧りたい欲求をごまかす。否、永世の舌を捕まえて、甘く齧った。
「ぁ、ふ……っ、酷いです、茉世さ、ァっ……」
離れた唇を吸う。彼は油断している。舌先から絡め、全体に巻きついていく。陶然としていた。舌を動かすこと以外、意識がない。身体が疼く。微細な動きも、下に敷いた男体には伝わっているのだろう。乳房が胸板を這う。心地良い気怠さは、目蓋を持ち上げていることも労働であった。
「は………ぁ、永世さん、甘い………」
味覚で知る直接的な甘さではなかった。脳で感じている。さらに甘さを求め、茉世は後先を考えず永世の口腔を貪る。
陰阜に異物が当たる。永世との肉体の間に、何か挟まっている。丸みがあるようだった。転がして退かしたい。茉世は男体との密着を阻む丸みある異物に下腹部を擦り寄せる。
「ま、つよさ……ッ」
潰して転がしているうちに、その異物は大きくなる。息をしている。生き物かも知れぬ。
猫を潰してしまった!
茉世は跳び上がった。しかし仰向けの永世の近くに黒猫は座っている。金色の眼は呆れた様子で人間の愚行を眺めている。
「んなぁん」
終わったかとばかりに猫は立つ。
永世は上体を起こすと、黒猫を迎える茉世を捕まえた。背に腕を回し、接吻する。啄んで、畳に寝かせた。もう一度キスに溺れる前に、茉世は薄い胸板に縋りつく。シャツは微かな湿気を帯びて、白い花の香りを蒸らしている。頬を寄せ、柔らかな匂いを嗅ぐ。
「どうしますか、茉世さん」
吐息混じりの声が、彼女の官能を炙る。
「もっと………」
永世に首を伸ばすと、唇が降ってきた。脳髄が沸騰している。全身に甘い痺れが駆け抜ける。
舌の質感が摩耗するほど縺れる。忌まわしい下着の突起が茉世の蜜肉を突いた。
「ふ、あ、あ………っ」
頭の中が茹だった。腹の奥の直接的な刺激が引金となって、彼女は身を震わせる。舌を結び合わせていては、気が狂いそうだった。
「変になる………っ、変になる、っああっ、!」
目蓋の裏は一面と銀世界に変わる。肉体は骨も血も肉も失う。霧になった心地がした。
唇から水糸を垂らして、彼女は息を荒げる。腰が揺れ、硬い下着の角に、自ら隘路を漁らせた。
「茉世さん」
永世は懲りずに口付けを図る。茉世は拒んだ。おかしくなる。彼のキスなしに、生きていけなくなる気配がした。
茉世は降りてくる唇を躱した。しかし嫌になったわけではないのだ。拒みたかったわけではないのだ。喉奥に残ったどちらのものとも分からない口水を嚥下し、永世の首筋を抱く。
微かに汗の匂いがする。それからオスの匂いが燻し出されている。彼を設計した者は調香師なのではあるまいか。白い花の香りに酩酊する。昨晩のボディーソープではない。彼の肌から匂い立っている。
首筋から滑り、胸板に手を添える。永世の手が上から重なった。筋肉が隆々とつく体質、骨格ではないのだろう。しかし十分に逞しいのが布の上からでも分かった。
頭を寄せる。吸着するかのように調和する。上手いこと沿う。
心臓が高鳴っている。息苦しさが快い。
永世は胸板に添わる茉世の手を剥がした。飽きもせず、指の狭間に指を入れた。その熱、その力加減、肌理に、勘違いしそうになる。好きだと言われている気分になる。同性を想っている男に。都合の良い解釈だ。分かっている。彼は仕方なく付き合い、仕方なく肉体を反応させている。哀れな男なのだ。そして感じやすい男なのだ。
火照った手をすり抜ける。恍惚を隠しもせず、茉世は猫だと勘違いした繭を触った。脈動している。同じ人間だというのに、まだまだまったく理解のできない機構をしている。
「いけませんよ……」
茉世は首を振った。身を滑らせ、布に包まれた膨らみに鼻を近付ける。
「いけない……」
遠ざけられる前に、彼女は捕まえた。
「永世さんの、舐めたいです」
蕩けた眼が焦げ茶色を見上げる。彼は目を見開く。ガナッシュを思わせるの瞳がキャラメル色に透けて見えた。
「永世さんでいっぱいになりたいから……」
深い呼吸が耳を掠める。
「茉世さん……そんなふうに言われたら……」
嗄れても、彼の声は淑やかに茉世の耳に染み入る。
茉世は慄えた。身体が番いだと勘違いしている牡の匂いは芳しく、肌は媚びて受け入れる。触れているだけで、自ら性感帯を撫で摩っているようだった。
布の下に、さらなる快楽があることを知っていた。口が寂しい。喉奥が擽ったい。
布殻を退かしながら、茉世は首を伸ばす。覗きに来ていた永世の唇には容易に届く。弾力で遊んでいると視界がぼやける。思考は霞む。脱がす作業が疎かになる。その隙に永世は、穿いているものを引っ張る。
「舐められるの、嫌……?」
「嫌ではないです。でも、申し訳なくて……」
拒む手を片方ずつ外す。あとは従順であった。肌着ごと下ろす。茉世の眼前で大きな反動が起こる。揺れる様を眺めていた。情緒を掻き乱す白い花の香りが蒸れて、鼻腔を横切っていく。
「ふ……ぅ、」
永世は口元に手を添えた。茉世は彼の面構えを見上げた。目交いに聳えるものに興味があるのではなかった。無いわけではないが、しかし見逃してはならないのは、清楚な男の淫猥な顔色である。
「永世さんのこと、食べます」
上目遣いで見ると、視界を縦真っ二つに割る影が跳ねる。戻ってくる地点に唇を据えた。括れた部分に下唇が当たる。
「ぁあ………茉世さん……」
鈴に上唇を被せた。すぐにでも、喉の奥に挿れたかった。口の中が虚しい。しかしすぐに終わらせたくはない。最盛の瞬間に早く移り変わりたいのではなかった。最初からひとつひとつの快楽を与え、清楚な男を悶えさせてみたかった。
絡め合って小突き合っていた舌は疲れていてもおかしくなかった。だが活力が漲っていた。
茉世は肉鈴を舐め転がしながら、真新しい剃り跡を撫でた。日焼けしていない、本来の白い肌が剃刀負けして赤らんでいる。
「は………っ、」
嬌声には至らない声の混じった吐息は茉世にとって恵みの雨に等しかった。
「気持ちいい、ですか……?」
屹立だけでは信用ならなかった。だが滲み出る彼の味は信じてみたくなった。
「かなり………っ、」
「昨日、出したって………聞きました」
手淫に耽る姿を想像した。可憐だ。健気だ。
「今朝ですよ……元気で、ごめんなさい……」
朱色に染めた顔を背ける姿に血潮が沸き立つ。濡れた質感の首筋が目を殴るかのようであった。心臓を擽られている! 汗が噴き出た。彼の首玉に噛みつきたい衝動に駆られる。しかし口はひとつ。代わりに口腔へ迎える。牡の味が濃くなる。彼の匂いによって体内を蜜煮にされている。
誰を思い描いているにせよ、茉世は自身を前にして、永世が牡芯を充血させていることに気を好くした。体温も硬さも違かろう。だが、良い! 一方的で構わない。彼が快楽を得て、それで満足できること以上に何を望むのか。
「永世さんが元気で、嬉しいです」
下唇で肉塔をなぞりあげる。血管の凹凸と鼓動を感じる。冠の下に引っ掛かり、張り出た先端を舌で掬う。
「おれ、そんなこと、教えてない………っ、ぁ、」
「だって、美味しいんですもの」
味覚で感じる美味さではなかった。それは妙な味がするのだった。彼ははチョコレートやミルクティーでできているのではない。しかし味わうのをやめられない。口は寂しく、頬張ってしまう。
「茉世さん……っ、!」
永世は背筋を丸める。茉世は構わず舐め続ける。口腔で扱き、濡れたものの根元を手でも擦る。しかし口を完全に離すことはできなかった。
「出……ます、………出ます、こんなの………恥ずかしいです………!」
「出して」
先端の鈴口を舌の裏側で舐め摩する。
「だめ、です、……!」
茉世は喉奥まで咥えた。息苦しさに趣きを感じはじめている。そして口腔の肉棒に沿って頭を動かすことにも甘やかな目眩を覚える。
「ふ………うぅ、……――あっ」
喉を締めると、口の中に入れたものが一定のリズムを持って震えはじめた。
「んっ、んっ……んっ……」
喉の後壁に飛沫が当たる。茉世は目を細めた。涙が溢れ、華やいだ輝きが揺蕩う。噛まないよう、しかし一滴も落ち漏らすことのないよう、彼女は努めた。咳を殺し、少しずつ飲んでいく。砂糖菓子も果物でもない生々しい味が通り抜けていく。しかしこれが誰の体液であるか、これが誰のどういう過程で吐き出される粘液なのかが、彼女の胸を躍らせた。
鎮まりゆく脈動が惜しかった。口から出したくない。
「は…………ァぁ………茉世さん……」
乱れた髪を永世の指が除けていく。
「美味しかったです」
去っていく牡芯の先を、舌で丸くなぞった。蜜糸が紡がれ、やがて切れる。
「美味しかったって……そんな………」
「苦かったですけど、永世さんのは、美味しいんです」
茉世の目の前で衰えかけていたものが身動ぐ。まだ乾かずにいる彼女の口水で不気味に照っている。横たわろうとしていたはずだが、徐々に直立を取り戻している。
「元気ですね」
清楚な雰囲気に似合わない雄々しさに目が離せない。
「恥ずかしい限りです」
彼は顔を隠してしまった。
「もう1回、口に出しますか?」
「ぼくばっかりダメです」
永世は彼女の愛玩具をしまってしまった。顔が近付く。栗の花の匂いを彼女は厭うた。
「永世さんの、舐めたばかりですから……」
「でも俺がキスするのは茉世さんです」
一瞬の濡れた接触があった。
「俺も茉世さんのこと、舐めたいです」
茉世は首を振った。悍ましい下着を見られたくない。
「おっぱい、いじめてほしいです……」
そしてこれは代替案ではなかった。雄臭く生臭いものを咥え、扱いている間、彼の芯同様、硬く痼り、布を押し上げていた。
正座して膝を握る永世の手を取り、胸に導く。動揺が伝わった。そして思い出すのだ。彼の想い人にはない部位である。筋肉によって多少膨らんでいたのは茉世も知っているが、性質が多いに異なる。
「永世さん、胸大きいの、好きじゃないかもしれませんけど……」
凛とした手を自身の乳房に埋め込むと、視界に虹色の霧が散るようだった。
「まさか。大好きですよ。ですが……何分、実際触るのは、初めてなものですから……」
眼前にその身体的特徴を持った者がいれば、この優しい男は悪気のない残酷な嘘も平気な顔で吐けるのだ。そして茉世もその嘘を望んでいたのだと、吐かれてから知るのだ。
「………っ、触ってください、好きなように……永世さんが触るなら、どこも気持ちよくて……」
それは社交辞令ではないのだ。茉世は永世の手の上から自らの乳房を揉んだ。重なった指が気持ち良いのか、彼の指の触れている脂肪が気持ち良いのか、彼女にも分からなかった。
「ふ……ぅ、」
「茉世さん……」
彼は胸ではなく、顔ばかり見ている。恥ずかしくなる。
「触ってください……お願いします、触って………」
生唾を呑む音が聞こえた。浮沈する首玉は茉世には美味そうな飴ころに見えた。口腔が潤う。
「んなぅ」
対峙して座る2人の間を黒い猫が横切る。
「黒ちゃん……」
永世の手が、彼女に寒さを教えるのだった。虚しい胸元を温かなものでいっぱいにしたくなる。彼女は猫を拾い上げた。
「"黒ちゃん"は、ダメです」
しかし奪い取られてしまう。黒い毛尨は永世の脇に置かれる。そして温かな小動物を放した手は、茉世の胸に戻ってきた。
「永世さん………永世さん………」
茉世は乳房を押し付ける。
「とても、柔らかいです……」
「永世さんに触ってもらえて、嬉しい……」
視界が影を帯び、目の前から永世が消える。真後ろに心地良い体温が迫り、膝立ちにされた茉世は身悶えた。後ろから伸びた手は腹の辺りで組まれ、宛ら仲睦まじいカップルのような体勢である。
「どうやっていじめたらいいですか」
「あ………あぁっ、耳元、で………っ」
寒くはない。むしろ蒸し暑いくらいだというのに彼女は慄えた。
「耳元?」
耳殻を食まれている。そうではなかった。耳元で囁かれ、彼の息吹に感じてしまったことを彼女は言及したかった。だが伝えきれなかった。伝えるどころか、彼女は親猫に襟首を噛まれた子猫のように動けなくなってしまった。
「永世さん………あ、あぁ………おかしくなりそうです……っ」
痛みも気持ち悪さもなく、頭が割れてしまいそうだった。そしてそれは堪らなく快美なことであるような気がした。
「おかしくなっちゃえ」
「永世さん………恥ずかしいの、赦して………」
彼ならば赦してくれると確信していた。そして彼の前に、他の人には赦せない恥ずかしい姿を曝してみたくなった。
茉世は自身の腹の辺りで組まれた永世の手を使って、乳房を支えさせた。その上に自身の手を重ね、指を伸ばす。硬く張り詰めた小さな勃起を小突く。
「あ、あ………っ、!」
待ち焦がれた甘い刺激に腰が揺れ、背後の身体にぶつかる。
「かわいい」
「永世さん………永世さん………っ、ぁあ、あ……」
掌で彼の体温を押さえ、指は先端の実を捕まえる。自身の仕業であり、自身の力加減だというのに、真後ろの男にやられているような錯覚に陥る。
「きもちいい………ゆるして………」
嚥下を忘れた唾液が滴り落ちていく。
「赦します」
耳朶を吸われ、茉世は仰け反る。蕾を捏ね、自ら追い打ちをかける。淫らな痺れが脳天へ駆け登る。耳に入る至近距離の粘着質な音も、彼女の理性を絡め取っていく。
「あ、ああ……っ、きもちいい………」
後ろへ突き出し尻が小刻みに跳ねた。抱擁が強まり、密着しても止めることができない。硬く重い男体を押し退けんばかりに、茉世の肉体は痙攣する。
「ふ、ぁ………っ、永世さん………おっぱい、好き……、おっぱい好き………」
茉世は夢中で乳頭を扱く。内腿を閉じ、腰ごと震わせる。
「茉世さんはおっぱいが好きなんですね」
「好き………あ、あ……っ、」
茉世は身を捩り、後ろを向いた。永世の唇を吸う。
「んっ……茉世さんっ、!」
温まったチョコレートを舐めたときのようななめらかさを味わう。抱擁がさらに強まる。彼の肘が脇腹に食い込む。息苦しさは増したはずだが解放されたくなかった。
「変になるの、赦して……」
「いいですよ」
茉世は爪の先を使い、紅色に熟れた小果実を数度となく転がした。
「ダメなの………っ、変になる………っ、」
彼女の呂律はもう回っていなかった。耳を舐める濡れた人肌が追い打ちをかける。耳珠を小突き、狭い窪みに舌先を捩じ込んで遊んでいる。淫らな悪寒に背筋が撓る。
「永世さん、おねがい………おねがい………」
茉世は乳頭自慰をやめることができなかった。片方ずつ永世の腕を掴んで手淫の現場へ連行する。しかし彼女も計画があるわけではなかった。ただ手を繋ぎたいだけだったのかもしれない。大きな指の狭間に合わせて手を開くのは骨が痛んだ。
「なんですか、お願いって」
耳珠で蹴鞠をしていたような舌が離れる。
「永世さん………永世さん、こわい、……」
永世の勃起した牝粒を押し当てた。他者の体温と、他者の皮膚感。しかし融和する。境界を意識したくせ、その一線は消えてしまった。
「つまんで、………っ、」
「こうですか」
硬い指と指によって淫蒂が挟まれる。
「んああっ、きもちぃの、だめ……っ、」
茉世は男の大きな手を操って乳房を揉ませ、甘い痺れを撹拌する。
「おっぱい、うれしいから………っ、永世さん……っ、」
閉じられない唇を滑らかなもので塞ぎたかった。しかし体勢的に厳しいことも分かっていた。温かな愛玩具で撓わな梨瓜を揉みくちゃにする。力の大きさ、方向によって大きく歪む。痛覚は働いていなかった。腹も太腿も、これほどまでに変形させられたなら痛みが湧くはずだというのに、茉世は甲高い声を漏らす。
「ふああ、あ、……っんぁ、イく、」
身体が暴れた。抱擁から逃れたくなかった。まだ白花香のなかで蒸されていたかった。
永世も彼女を放すつもりはなかったようだ。彼は引き攣る余地も与えず、呉茱萸の実を摘んだ。そして躙る。
眼交いから波が押し寄せる。
「イく、ああんっ!」
彼女は苦悶するヘビよろしくのたうった。強い快感を放散しなければならなかった。おそらくは男の腕力を凌駕していま。けれども永世は放さなかった。項に鼻先を突き付けられては、彼女の反射の湖に深く沈んだ意識が呼び覚まされる。
「永世さんだめ…………だめ…………頭溶けちゃう………」
譫言は涎と共に垂れ流されていく。
「溶けちゃいましょうよ」
茉世は首を振ったつもりでいたが、彼女の首は据わっていなかった。永世に後ろへ引かれ、男体座椅子に腰かけている。蒸し暑い背凭れに身を委ね、泥沼に埋まりながら息をしているようだった。
「永世さんに触られるの、気持ちいい………」
彼女はまだ汚泥のような快楽のなかにいた。筋張った手を探り、果たばかりの膨らみを揉ませる。
「そうなんですか?」
「おっぱい触られるの、好き……」
「んなぁん」
「ぼくもおっぱい触るの好きですよ」
茉世は身を捩った。そして堅い胸板に擦り寄った。汗塗れの花の香りに安堵した。通気性に優れたシャツに絡む体臭を吸い込む。徐々に我に返りつつあった。彼女は他人の匂いをすべて奪うつもりで鼻を鳴らした。欲を張った。過剰に息を吸う。
捏ね回した胸の実粒が疼いた。気触れたのではないようだ。内側から、甘く痺れている。溺れるほどの官能に浸った後だというのに、彼女の欲望はふたたび淫らな濁流に身投げしようというのだった。彼女の劣情は男体を求めた。ところが皮膚と粘膜はすでに満足しているのだった。
「永世さんの、まだ元気ですね……?」
尻に、芯のある瘤が当たっている。
「元気ですよ。自分でも驚いています」
睫毛を伏せ、掠れた声で肯定する永世を見ると、茉世の下半身は大きく嚥下した。突起物が内蕊を押す。
茉世は蒸れた人肌から身体を引き剥がした。そして柱に手をかけ、尻を突き出す。
「茉世さん……」
「恥ずかしいの、見ないで……」
下着を曝している。ラバー製のベルトが透けているかもしれない。
彼女は腿を閉じた。しかし十分な圧迫を与えることができないようだった。脚を前後に組み、内腿同士を密着させる。
「ここで、します……」
永世は握った拳を震わせていた。その手に痣ができるほど鷲掴まれ、振り回されてみたくなる。しかし彼は動かない。はしたない女に、冷めてしまったのではあるまいか。
「今日のこと、永世さんで塗り替えたいんです……」
恥ずかしさと、夜への、彼への不安で身体がさらに熱くなる。眼球の裏が沁みる。視界が滲んだ。
「据え膳は食べちゃうタイプですよ、ぼくは。いいんですね?」
「気持ちいいか、自信ないですけど――」
永世は一気に距離を詰めた。
「それはぼくの問題で、茉世さんの問題ではありませんよ」
湿った掌が腿を撫でた。耳元に彼の息遣いがある。茉世は身悶えた。背筋が痺れ、力が入らない。柱伝いに、上体が落ちていく。身長の差を縮めるために掲げた踵が戦慄く。
呼吸が耳を擽る。近付いてきている。唇が産毛に触れる。
「あ、ひ…………んっ」
膝から力が抜けた。柱に縋りつくが、自身の体重に耐えきれなかった。
「茉世さん」
腿を撫でていた手が腰を支える。
「大丈夫………」
彼女は項垂れだ。顔面が焼け落ちてしまいそうだった。頭が重い。目蓋を閉じた。腹の奥が、煌びやかに沸き立っている。
内腿の狭間に割り入る熱塊を待った。待っている時間が、何分の単位にも感じられた。
柱に引っ掛けた指に、永世の手が重なった。息が詰まるのと同時に、腿と腿の間に芯が通った。
「あ………つい…………」
尻が引き攣り、腰が跳ねた。下着のなかの丸い角を食む。腿の密着が緩みそうであった。締める。茉世には知らない器官の質感が強まる。徐々に引き抜かれ、押し寄せる。程良い質量が衝突する。
「あ、あ、あ………っ」
確かな性感帯には触れられていない。だが彼女は悦びを感じていた。
「つらいですか……?」
首を振る。胸がいっぱいだった。息苦しいが、甘美でもあった。
「気持ちいい……」
呟いていた。両手が重なる。しかし片手は、永世に掴まれたまま、彼女の胸元で握られた。抱接が深まる。
真後ろからかかる気息が浅くなった。腰の当たる間隔が速まった。
衝突が忌々しいラバー製の帯にまで響く。丸い角が奥を突く。永世は外にいる。しかし脳髄はそう認識していなかった。番いをもてなせと、蜜を滲ませる。自身の温度を勘違いし、蜿りに乗じて悦楽の胡桃を差し出した。そして誘われたままの人工物を食い締める。
「永世さん………永世さん…………!」
柱に爪を立てる。木の繊維は硬かった。爪の先が反り返る。
「茉世さんっ、」
接触部が焼け焦げる。舌先で局所的に感じた凹凸を内腿一面で感じる。
覆われた花裂が火照る。人工物を人体の一部と誤認した隘路は螺旋を描く。
「イく………っ、」
茉世は達した。蠢く内腿が熱串を扱く。
彼女の上体は柱に押し潰された。容赦のない体重が彼女の躯体を軋ませる。呻き声を聞いたとき、殺されると思った。圧死する。けれども恐怖はなかった。むしろ幸福感に満たされていた。そのような死に方が他にあるのだろうか。今後巡り合えるのだろうか。
閉じた脂肪のなかで永世は爆ぜた。
茉世は脚を開きたくなかった。体外だが、体内に注がれた牡液を留めておきたかった。
「茉世さん……」
2人で畳に落ちた。腕が胴体に絡む。首を押さえられ、肩に頭が乗る。まるでドラマや映画、漫画で見る交際相手のような触れ方だった。
「すごく、気持ちよかったです」
白い花の香りと汗の匂いに、牡の生臭さが混ざる。茉世は媚薬の香りを知らなかったが、おそらく媚薬とはそういう匂いがするのではあるまいか。
真後ろの男に対する肉欲に、身体がついていかない。しかし離れたくなかった。絡む腕に上から押さえる。
「んなぁあああん」
床の間の座布団にいる黒い猫が抗議のごとく喚いた。
「黒ちゃん……」
人懐こい小動物を構ってやらなければならない気持ちはあった。しかし真冬のこたつに入ってしまったようなものだ。茉世はこの温もりから抜け出すことができなかった。
「もう少しだけ………もう少しだけ、付き合ってください」
永世も同じ気持ちでいたのかもしれない。黒い猫に顔を向けた途端、彼は巻き付いた。
「んなぁん………んなぁ、んなぁ………」
黒い猫はそうとう苛立っていたらしい。ティッシュの箱で遊びはじめた。取り出し口に手が引っ掛かり、振り回し、箱を放り投げ、室内を駆け、壁を走る。
「んなぁ、んにゃああん。んにゃんんん」
転がったティッシュ箱で爪を研ぎ、厚紙を穴だらけにする。
「黒さんがご立腹ですね」
抱擁の時間が終わる。永世は身体を伸ばし、拉げた箱からティッシュを毟り取った。
「失礼します」
腿の間に手が入り、ティッシュが粘液に伸びる。
「自分で拭きます……」
「やらせてください。これも男の嗜みですから」
薄い繊維越しに、体温と指の質感がある。淫らな妄想が膨らむ。緊張と快楽の区別もつかなくなっていた茉世はまたもや果てた。
「ぁあんっ……」
ティッシュを持つ手が止まる。
「ごめんなさい。もう1回だけ、いいですか……?」
彼女は頷いていた。
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