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結局は俗物( ◠‿◠ )

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モンシロカラス 1-3

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 目が開く。寝ていた。長い夢だ。夢ではない。冴えてきた脳が矛盾した意見を出す。
「起きたか」
 ベッドに座って顔をを見下ろされる。
「その感じは起きてるな」
 借りているアパートよりも天井が高い。ここは知っているベッドの中ではない。
「血、吸い過ぎた。悪かったな」
「初音くん」
 起き上がろうとすると手で制される。
「まだ寝とけ」
 記憶を辿るが空白が目立つ。顔を覗き込んでくる男の名前は分かる。何か…―――しようとして都心にまで出た、とするとここは地獄か。天国か。美青年の添い寝つき。後者か。
「昨日は色々あったから疲れたんだろ」
 初音の声に、はっとして制されるのも気にせず起き上がる。ここで美青年と寝ている場合ではないはずだ。
「私、死んだ?」
 あまりにも間の抜けた質問だ。初音が呆れている。ベッドしかない部屋。ドアはない。窓だけがある。室内は少し明るい。外の光りを借りている。
「死ねたように思うわけ?」
「じゃあ生きてるんだ」
「あのなぁ…俺は寿命半分しか預かってないんだけど」
 初音がまた一から説明を始めようとするのを流しながら内容は入ってこない。
「なんだってそんな死にたがる」
「生きられるなら生きたいけど」
「難病か何かなわけ?」
 初音は考えるのをやめたようだ。意味が分からない、と言いたそうに思えた。
「誰かに渡せるなら、別にそれでいいよ。生きたくても生きられない人だっているんだから、って言われたら、それまでだし」
 昨日よりも気分は落ち着いている。一晩経って初音の存在に慣れてきたのかもしれない。
「でもこの痛みとか寂しさとか、それだけじゃなくて、幸せも懐かしさも、私のだからさ。他の誰のでもない。他の誰にも渡せない」
「…って言ってられたのも昨日のうちまでだな」
 初音の蒼白い顔が目の前に迫る。額と額がぶつかった。
「明るく生きようって思ってた。でももうダメそう。もうムリだな、って。何度も繰り返すの。今なら死んでも後悔ないな、って。死ぬ直前に後悔しないな、って思う時が、来るの」
 そう笑えば額に指がぴんっと跳んでくる。
「死ぬ時後悔しないかどうかなんて分からないだろうが」
「ホント。まさかこんなことになるなんて。寿命が半分になったって、まだ実感ないし。信じてないけど。でも正直少しショックだと思うところもあって」
 初音の目を見ていられなかった。眉根が震えて、喉が潰れそうに痛い。
「まだ生きたいって思えるのに。それで死のうとして。命半分なんて」
「…これが人の業か。何度か見たぜ、そういうの」 
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