Lifriend

結局は俗物( ◠‿◠ )

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ワインメアリー 3-2

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「バカだな」
 床で寝ていた記憶はあるが布団を掛けた記憶はない。ベッドの上で初音が頭を抱えている。
「俺にもアンタにも腹が立つ」
「おはよう」
 朝から辛気臭い面で見つめられたが特に返す言葉もなく朝の挨拶をする。
「人間はバカでもないと風邪ひくらしいな?」
 初音の手が額に伸びる。触れた瞬間身を引いた。
「大丈夫。この部屋すごく温度、丁度いいし」
 ムッとした表情をしていた初音の表情が戻ったところで自宅のアパートに戻される。夢から覚めたような一瞬の切り替わりに頭がついていかず、少しの間ぼぅっとしていた。目の前にすぐに初音が現れる。
「守るってのは難しい」
 すまなそうに目配せをされ、どう反応していいのか分からなかった。
「難しいよ。一歩間違えたら、失うかもしれないし、傷付けるかも知れないもんね」
 唇を噛んでいる。
「アンタは何か守ったコト、あるのか」
「嫌な質問」
「ないのか」
「全部失敗。いつもダメ。結局自己満足で終わっちゃう」
 記憶を辿る。守れた、という達成感はいつもない。
「まぁ、モノによるだろうけど、守りたい、守ろうっていうのがいいんじゃないの。結果どう転ぶか分からないし」
 昔寒い日が続いたからマフラーを買った。寒さから守りたい相手がいた。だからマフラーを贈りたかった。けれど彼はすでにマフラーを持っていた。母子家庭というのもあってか彼は母を大切にしていて。母の手編みのマフラーだった。好きな方を使えばいいそれを、彼は態々相談して、それから贈ったマフラーを巻けない日のことを謝った。そして彼は交互に巻いて、大切に使ってくれた。その話を初音は黙って聞いていた。
「両方巻けばいいだろ」
「マフラー、2本も巻くの大変だよ」
「ソイツ、変なヤツだな」
「そうだよね。変だよね。不器用っていうか」
「もしかして他人事みたいに言ってたケド、アンタ?」
「まさか。彼って言ったでしょ、男だよ」
 あぁそうか、と納得している。
「人間は難しいことをしようとしすぎるな」
 初音は笑うと一気に美青年ではなくなる。
「なんでだろうな。早く死んじゃうのに、俺、人間になりたい気がする」
 外見だけなら人間だ。言うことは幼いが、人間だ。
「今、人間じゃないんだっけ」
「一応、人間に近いけど、まだだ」
「初音くんのいう人間てどういうものなの」
 手があり、足があり、頭があるのが人間。だとしたら猫は。犬は。猿は。手足が欠けた者は。意識があり、言語を操るのが人間。だとしたらその機能を失っている者は。人工知能は。
「もう少し、アンタと居てみて確かめたい」
「う、うん…?」
「だから働きたい」
「うーん」
 順接に首を傾げる。社会に出しても大丈夫なのだろうか。
「残酷なことだけど、身分証明とか、その、人間には色々必要なの。手続きとか。だから…その…」
 唇を噛んだまま、雲っていく表情。
「貯金、あるんだ。何か困ったことあれば崩すし、だから…」
「人間の男はみんな、ほとんど…働いてた」
 イコール人間にはなれない。そう続くのか。
「俺、男なんだろ。人間なら男なんだろ…?」
「今は別に、男だから働くっていうのは少し違くて」
 人間への不要な固定観念が捨てきれないようだ。
「もう少し、もっと、人間を見よう?出掛けようか。何か食べよう」
「俺は…」
「食べられないワケじゃないんでしょ?」
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