Lifriend

結局は俗物( ◠‿◠ )

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クラウディクラウド 4-2

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「何ですか」
 命を半分ずつ共有しているとは言えずにいた。信じてもらえるわけはない。仮に信じたところで半分だ。もともとの寿命など知る由もないが半分なのだ。初音との契約が正しかったのか、それは分からない。だから片岡に問いたい。片岡の言葉、片岡の判断、片岡の現状でしか基準が分からない。
「そんなカオしないで」
 片岡が目元に触れる。今生きていて幸せか。口にしようとした疑問が虚空に舞う。吸い込まれていく。
「貴方の気持ちと共有してるみたいだ」
 頼りない片岡の目元が何故だか潤んでいる。けれど明るい表情。片岡が触れた目元を拭うようにもう一度自身でなぞる。もし片岡が不幸な目に遭ったとしたらそれは誰が責任を取るべきなのだろうか。本来は絶たれていた不幸に。終わっていたはずの人生に。私には関係ない。そう吐き捨てたのは記憶に新しい。
「片岡くん、ありがとう」
「まだ初音さん受かってるか分からないですから、気が早いですって。それに、オレ。お姉さんにまた会えて嬉しいです。お姉さんの役に立てて」
 片岡の瀕死の状態が脳裏を過る。あれこそが現実で、今は偽り。幻想に取り残されている気さえしてくる。
「モデル、体型維持とか、他にも色々大変でしたけど、やっていてよかったなって思いました。惰性でやっていたところあるので」
「そうなの?華々しいだけじゃないよね、やっぱ」
「もともと子役からだったんです。親が勝手に応募して…。でもやっぱりそんなに知名度なくて。モデルになってからは少しずつ、って感じですけど。でも街、フツーに歩いていても誰もオレには気付かない。ファンレターとかいっぱいもらってたのに、狭い世界で驕ってたんだな…って思ったら」
 元・芸能人。片岡の幼い顔立ちの裏に隠された人生経験。片岡と年齢はあまり変わらないはずだ。
「景気も悪いですし、先輩に学歴のこと突っつかれて、これだけがオレの人生じゃないのかもって。スポットライトとか舞台とか、人前に立つことだけがオレの人生じゃないなって」
 でも君は。言葉と固唾を飲んだ。巻き込んでしまったのか、巻き込まれてしまったのか分からないけれど。これからどう転ぶかも分からなかった片岡の人生、終わるはずだった人生をいじってしまった。
「お姉さん?」
「ごめ、ちょっとトイレ」
 身体が寒い。冷たい。片岡の話を聞く度に相反した2つの怒涛に抗いきれなくなる。小奇麗なトイレの洗面台に駆け込んで鏡を見る。蒼白い。生きていてほしい反面、すでに死んでいるはずだったという思考に囚われたまま。両頬を叩いてすぐにトイレを出ると初音が廊下を歩いていた。
「何してんだ?」
「ちょっと、うん。あまり女性にトイレのことは…」
「さっきなんか変だった。人間は何の脈絡もなく急に死ぬからな。注意しろよ」
 初音がうずくまる身体を支えるように屈んだ。
「面談は」
「合格だって。人間に一歩近付いたか」
「不合格でも人間に近付けるよ」
 喜ぶ余裕もなく、初音に身体を支えられながら片岡がいるであろう待合室に向かう。
「お姉さん、大丈夫ですか!?」
 待合室に入ると片岡が慌てた表情から心配そうな表情から泣きそうな表情からころころと百面相のようだ。
「貧血とかいうヤツだろ。知らんけど」
 初音には何も体調不良の詳細は言っていないが、適当なことを告げてソファに座らせる。
「あと合格した」
 初音が喜ぶ様子はなかったが、片岡は安堵も束の間笑顔が戻る。
「おめでとうございます」
「ああ」
「片岡くん、本当にありがとう」  
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