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メランコリックリリック 9-1
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まどかをよろしくお願いします。昨日と同じ挨拶と、それから初音との別れを惜しむまどか。初音は帰りも迎えに来てやる、などと調子のいいことを言って、まどかは高級マンションの一室へと入っていく。
「私、支度とかあるから夕方は来られないよ?」
「おう、片岡クンと俺で行くわ。片岡クン、いい?明日のことも話したいし」
片岡には命日を告げられない。だから片岡は身辺整理など出来ないまま死んでしまうのだ。
「いいですよ。分かりました」
片岡の充血した目を初音は何も問わなかった。むしろ気付いているからこそまどかの意識を逸らしていたようにも思う。
片岡の勤務先の近くに至るまでは他愛ない話が続く。事務所長がどうだとか。
「初音さんは、また後で。お姉さん、また明日!」
会釈して片岡は勤務先に駆けていく。薄いブルーの上下揃った服が人混みに紛れて消えるまで見つめていた。
「アンタのせいじゃねぇって」
その横に並んで初音が一度背を叩いた。
「何の話かな」
「別に。弟みたいだから男として見られない、でいいだろうが」
「私なりに考えたんだけどな。それも言ったけど、諦めないって」
初音は溜息をついて肩を竦める。
「好感の抱ける子だよ。あと少しの寿命でないなら…もっと言いたいことあったけど」
「片岡クン、やっぱカワイイわ。どうせ小難しい型作って、そこから抜け出せないカンジなんだろ」
「だって片岡くんが言い寄るのは命半分渡したからでしょ。必然で、本能で錯覚じゃない?引き合わされて、そうなるように仕向けられたみたい」
初音は暫く黙っていた。これで分かっただろうか。
「あのさぁ」
話が完結した、となったところで初音が口を開く。
「偶然で理性的で経験に則って理屈っぽいマジものならいいのか?」
初音が訝しんだ目で見た。
「必然で本能で錯覚ってダメなのか?」
顎を掴まれて唇に親指で触れられた。
「からかわないで」
初音の腕を掴み返して振り解く。
「まぁ、それを抜きにしてもアンタがムリって言うならムリなんだろうけど」
両手を上げておどけて見せられる。
「私は恋したいワケじゃないから。新しい人デキるよとか、あの人の母さんにも縛られなくていいって言われたけど、別にカレシが欲しいワケじゃないから」
「…そうかよ。残酷だな。人間の真理だの摂理だのは」
スケールの大きな話を空を仰ぎながら突然始めだす。
「錯覚だらけなんだろ。この前テレビでやってたぜ。7秒だか10秒、息切らしながら見つめ合うだけでいいらしいな」
「何が?」
「恋なんて錯覚だ。片岡クンもカワイソウにな」
「…悪かったって思ってるよ」
「アンタのせいじゃねぇって」
愉快そうに笑う。幻覚だと思っていた初音は確かに存在している。
「責められてる気に、なる」
「疑わしいんだよ。錯覚ってもんが。マジものだって信じたい気持ちでいっぱいなのかもな。ならソレってマジものじゃねって」
甲高い声の情けない笑顔の、よく見知った男へ抱いているものは錯覚なのだろうか。それとも真実なのか。そもそも真実とは何なのか、どれなのか。
「どういう…コト…」
「マジものにすりゃいいんじゃね、って話」
「え?」
「アンタはそれでいい。こっちの話」
初音の中では決着がついたらしい。
「1人で帰れるの?」
「…あのさ、今までずっと1人だったでしょ。あなたこそ大丈夫?まどかちゃん小さいんだから気を付けなさいよ」
遠方に住む家族や友人に迷惑は掛けられない。暫く1人にほしいと突き放して4年。荷物の整理や片付け、掃除はしておきたい。
「そういうイミじゃなくて…まぁいいや。分かったって。安心しろよ」
片岡の仕事が終わるまで散歩するらしい。初音が手を振って、互いに離れていく。
「片岡クンもまぁ…頑張るねぇ…」
「片岡クン」
「お待たせしてすみません」
深々と頭を下げて片岡がやって来た。
「あのさぁ」
片岡は私服だった。薄いブルーの上下の服から解き放たれた姿はどこか幼く見える。
「はい?」
「もう諦めてやってくんねぇかな?アイツのこと」
「…知ってたんですか。それとも聞きました?分かりますかね…やっぱ」
初音の方が背が高いため片岡が項垂れると項がよく見える。
「う~ん、アイツも面倒臭い事情があるみたいなんだわ」
ゆっくりだが歩は進める。片岡は立ち止まってしまう。
「それは初音さん絡みではなく?」
「俺は関係ねぇよ。話せ話せって言っても関係ないコトだ、つまらない話だってカンジ」
片岡が立ち止まってしまったため初音も足を止めた。立体横断施設のど真ん中のため他の通行人の邪魔になる。
「ナイショな。俺が話したコトは」
「え?はい」
「私、支度とかあるから夕方は来られないよ?」
「おう、片岡クンと俺で行くわ。片岡クン、いい?明日のことも話したいし」
片岡には命日を告げられない。だから片岡は身辺整理など出来ないまま死んでしまうのだ。
「いいですよ。分かりました」
片岡の充血した目を初音は何も問わなかった。むしろ気付いているからこそまどかの意識を逸らしていたようにも思う。
片岡の勤務先の近くに至るまでは他愛ない話が続く。事務所長がどうだとか。
「初音さんは、また後で。お姉さん、また明日!」
会釈して片岡は勤務先に駆けていく。薄いブルーの上下揃った服が人混みに紛れて消えるまで見つめていた。
「アンタのせいじゃねぇって」
その横に並んで初音が一度背を叩いた。
「何の話かな」
「別に。弟みたいだから男として見られない、でいいだろうが」
「私なりに考えたんだけどな。それも言ったけど、諦めないって」
初音は溜息をついて肩を竦める。
「好感の抱ける子だよ。あと少しの寿命でないなら…もっと言いたいことあったけど」
「片岡クン、やっぱカワイイわ。どうせ小難しい型作って、そこから抜け出せないカンジなんだろ」
「だって片岡くんが言い寄るのは命半分渡したからでしょ。必然で、本能で錯覚じゃない?引き合わされて、そうなるように仕向けられたみたい」
初音は暫く黙っていた。これで分かっただろうか。
「あのさぁ」
話が完結した、となったところで初音が口を開く。
「偶然で理性的で経験に則って理屈っぽいマジものならいいのか?」
初音が訝しんだ目で見た。
「必然で本能で錯覚ってダメなのか?」
顎を掴まれて唇に親指で触れられた。
「からかわないで」
初音の腕を掴み返して振り解く。
「まぁ、それを抜きにしてもアンタがムリって言うならムリなんだろうけど」
両手を上げておどけて見せられる。
「私は恋したいワケじゃないから。新しい人デキるよとか、あの人の母さんにも縛られなくていいって言われたけど、別にカレシが欲しいワケじゃないから」
「…そうかよ。残酷だな。人間の真理だの摂理だのは」
スケールの大きな話を空を仰ぎながら突然始めだす。
「錯覚だらけなんだろ。この前テレビでやってたぜ。7秒だか10秒、息切らしながら見つめ合うだけでいいらしいな」
「何が?」
「恋なんて錯覚だ。片岡クンもカワイソウにな」
「…悪かったって思ってるよ」
「アンタのせいじゃねぇって」
愉快そうに笑う。幻覚だと思っていた初音は確かに存在している。
「責められてる気に、なる」
「疑わしいんだよ。錯覚ってもんが。マジものだって信じたい気持ちでいっぱいなのかもな。ならソレってマジものじゃねって」
甲高い声の情けない笑顔の、よく見知った男へ抱いているものは錯覚なのだろうか。それとも真実なのか。そもそも真実とは何なのか、どれなのか。
「どういう…コト…」
「マジものにすりゃいいんじゃね、って話」
「え?」
「アンタはそれでいい。こっちの話」
初音の中では決着がついたらしい。
「1人で帰れるの?」
「…あのさ、今までずっと1人だったでしょ。あなたこそ大丈夫?まどかちゃん小さいんだから気を付けなさいよ」
遠方に住む家族や友人に迷惑は掛けられない。暫く1人にほしいと突き放して4年。荷物の整理や片付け、掃除はしておきたい。
「そういうイミじゃなくて…まぁいいや。分かったって。安心しろよ」
片岡の仕事が終わるまで散歩するらしい。初音が手を振って、互いに離れていく。
「片岡クンもまぁ…頑張るねぇ…」
「片岡クン」
「お待たせしてすみません」
深々と頭を下げて片岡がやって来た。
「あのさぁ」
片岡は私服だった。薄いブルーの上下の服から解き放たれた姿はどこか幼く見える。
「はい?」
「もう諦めてやってくんねぇかな?アイツのこと」
「…知ってたんですか。それとも聞きました?分かりますかね…やっぱ」
初音の方が背が高いため片岡が項垂れると項がよく見える。
「う~ん、アイツも面倒臭い事情があるみたいなんだわ」
ゆっくりだが歩は進める。片岡は立ち止まってしまう。
「それは初音さん絡みではなく?」
「俺は関係ねぇよ。話せ話せって言っても関係ないコトだ、つまらない話だってカンジ」
片岡が立ち止まってしまったため初音も足を止めた。立体横断施設のど真ん中のため他の通行人の邪魔になる。
「ナイショな。俺が話したコトは」
「え?はい」
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