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ピンヒールの女 -cluster amaryllis-
cluster amaryllis 3
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街の外れのとある廃墟で待ち合わせている人物を始末してほしいという旨の依頼だ。どうしてそんなところで待ち合わせているのか。アレイドは疑問に思ったが、考えることもせずただ言われたとおりの人物を殺せばいいのだ。自分の命は無限にあるのだ。失敗は許されないが、許される。医者であり研究者である白兎の研究所にアレイドの部屋はある。コンクリートジャングルの街の外れの地下から上がり、地上へ出てくると、顔の知れたタクシー運転手の車両を拾って目的地へ向かう。そこも街のはずれだが白兎の研究所とは反対側だ。車窓から高層ビルを見つめる。視界いっぱい広がる青い空などここしばらく見ていない気がする。街中を同業者だろうか、怪しそうな輩が行き来している。タクシー運転手が物騒ですね、とぶっきらぼうに言うのに適当に返し、アレイドはずっと高層ビルを見つめていた。人から恨みを買うものじゃないですね。タクシー運転手の言葉が頭に入ってくる。そうですね。また適当に返す。同意しておけば丸くおさまるのだ。2年で何人始末したのだろう。1度の依頼で複数人始末したこともあったが人数は覚えていない。治安が悪いんですよこの街は。タクシー運転手の言葉にまた、そうですよね、と返した。自分の正体を知っているのか。アレイドはタクシー運転手の後ろ姿を一瞥してまた車窓に目を戻す。
少し意識を失って、目的地にはすぐに着いた。もしかしたら何度か起こされたのだろうか。アレイドは白兎から預かっているクレジットカードで料金を払って、タクシーから降りた。目の前にぼろぼろになった元はホテルと思しき建物がある。
お化け屋敷のような扉を開いて廃墟に入る。経営難なのか何なのか知らないが潰したのならさっさと解体すればいいのに。蝶番から外れそうな扉だった。入ってすぐに受付が見え、左に階段がある。周りを見回していると、大きな銃声がする。左足の真横の床に穴が空き、アレイドは口から心臓を吐く思いだった。誰か銃を持った人が他にいる。階段の上にいることを察してアレイドは階段を上った。完全に隙を見せていたが、アレイド自身を撃たなかったのは、どういうことだ。挑発しているのか、まだ迷いがあるのか。軽快な足音を追った。相手はハイヒールを履いているのかもしれない。こんな足音を出せる靴をアレイドは履いたことがない。誘いこまれているのなら乗ってやる。階段を上ってすぐの扉を開き、廊下の突き当たりまで走ると、壁に背を這わせ、様子を窺う。軽快な足音はまだ続く。アレイドはまたすぐに追った。また階段を上り、突き当りで足音を頼りに曲がる。行き止まりと1つの扉。左肩で突進するように扉を開けすぐに銃を構えた。人の気配、いや、香りがする。廃墟に似つかわしくない、桃のような匂い。気付いた頃には後頭部に銃口を突き付けられている。アレイドは銃を放し、両手を挙げた。
「潔いな」
低めの女の声だ。
「足音はわざとだったのですね」
「まさか乗ってくるとは思わなかったがな」
女が鼻で笑ったのが聞こえる。低い声が心地良い。あまり女性とは関わらないが、あの犬の鳴き声のような高い音がアレイドは苦手だった。
「どこぞの暴漢に襲われたのかと思って、心配でついてきたんです」
「ふん。暴漢に襲われそうなナリなのはお前だろうが」
どういう女性なのだろう。アレイドは惹かれたが、振り向けば後頭部に当てられた銃で頭に風穴が空く。それもそれでアレイド自身に問題はなかったが、帰った後に嫌味を言われるれるだろう。まずまともに帰れるか分からない。
「貴女がどんな方なのか分かりませんが、セクハラですよそれ」
銃口が強く後頭部に当てられる。
「どうでもいいことだな」
銃口が放され、臀部を蹴られる。固く細いものが刺さるような痛みに、相手のピンヒールを強く感じる。前によろめきながら振り向いた。
漆黒の長い髪を高い位置で束ねた背の高い女が立っている。赤いハイヒールが、アレイドが落とした銃を蹴ってアレイドに近付けた。
「お前みてぇなどんくさい奴じゃなかった」
真っ赤なハイヒールに、真っ赤で丈の長いドレスワンピース。左腕は二の腕まで包帯が巻いてある。平気でアレイドに背を見せ、この場を去ろうとする。
「余裕ですね」
すぐに女の首に手を回し、頭に拾い上げた銃を突きつける。女は銃を捨てた。背丈が近く、しかも女がピンヒールのせいで、脹脛が張る。
「ここで待ち合わせの人間を殺せって依頼なら、私が依頼者だが」
躊躇うこともなく女は身を素早く屈め、アレイドの手から逃れた。
「何のために?」
アレイドはまた女に銃を向ける。
「それは言えんな。そういう仕事してるのなら分かるだろ。バカか」
両手を挙げて女は嗤う。立場を分かっていない。
「言え」
「お前の力量を試したのさ。甘いな。不合格」
女の言葉が終わるか、終わらないかというところで、後頭部に衝撃が走る。殴られたと理解したのは、視界が大きく揺らぎ、身体が床に張り付いてから。背中に重量感が残ったままだ。
「まぁ、4対1じゃ、しゃーねーか」
全く気配がなかった。視界に女以外の脚が入る。2人分。
「どうするんです彼岸さん?」
気取ったような声が耳に届く。
「放せ。関係のない男だった」
「そっすか?そっすね!優男っすもんね、こいつ」
能天気な声が降ってきた。アレイドの身体の上に乗っているのはおそらくこの能天気な声の主だろう。
「銃は俺が回収した」
低い落ち着いた声もする。少なくともこの場にアレイド以外に4人はいる。そして全て味方ではない。
「はやくどけヌカ」
「ほーい」
アレイドの上から重さと温かさがなくなる。アレイドは服を払いながら立ち上がった。後頭部に手を当てる。痛みが走る。
「オレっちヌカってんだ。よろしく!」
力強く殴った男に向かって満面の笑みを浮かべる、能天気な声の主。茶髪に毛先が跳ねている。黒目が大きいせいか幼く見える。背丈もアレイドと同じくらいだ。
「慣れ合ってんじゃねぇぞ」
女がそう言い、また何事もなかったかのように部屋から出ていく。ヌカと呼ばれるいい歳をしていそうで幼い印象の男を待つように、気取ったような声の男と、低く落ち着いた声の男は視線を向けてきた。片方は金髪で真っ白い帽子を被っている。色も白く美形だ。もう片方は黒い髪で前髪が長くおそらく一番背が高い。涼しげな目元に、落ち着いた声の主だというのがすぐに分かった。
「ちょっと待っ…」
アレイドはぼーっと外見の特徴を覚えていたが、ヌカが最後にドアを閉めようとして、思い出したように追いかける。
「ちょっとっ…!」
ドアが閉まりかけて、姿が視界から閉ざされて一瞬。彼女らはすでにいなかった。
後頭部に手を当て、アレイドは溜息を吐く。依頼はこれで終わったのか。依頼にもなっていなかった。軋む階段を下りて、アレイドは帰路につく。外に出た途端、銃声がしてアレイドは崩れ落ちた。
少し意識を失って、目的地にはすぐに着いた。もしかしたら何度か起こされたのだろうか。アレイドは白兎から預かっているクレジットカードで料金を払って、タクシーから降りた。目の前にぼろぼろになった元はホテルと思しき建物がある。
お化け屋敷のような扉を開いて廃墟に入る。経営難なのか何なのか知らないが潰したのならさっさと解体すればいいのに。蝶番から外れそうな扉だった。入ってすぐに受付が見え、左に階段がある。周りを見回していると、大きな銃声がする。左足の真横の床に穴が空き、アレイドは口から心臓を吐く思いだった。誰か銃を持った人が他にいる。階段の上にいることを察してアレイドは階段を上った。完全に隙を見せていたが、アレイド自身を撃たなかったのは、どういうことだ。挑発しているのか、まだ迷いがあるのか。軽快な足音を追った。相手はハイヒールを履いているのかもしれない。こんな足音を出せる靴をアレイドは履いたことがない。誘いこまれているのなら乗ってやる。階段を上ってすぐの扉を開き、廊下の突き当たりまで走ると、壁に背を這わせ、様子を窺う。軽快な足音はまだ続く。アレイドはまたすぐに追った。また階段を上り、突き当りで足音を頼りに曲がる。行き止まりと1つの扉。左肩で突進するように扉を開けすぐに銃を構えた。人の気配、いや、香りがする。廃墟に似つかわしくない、桃のような匂い。気付いた頃には後頭部に銃口を突き付けられている。アレイドは銃を放し、両手を挙げた。
「潔いな」
低めの女の声だ。
「足音はわざとだったのですね」
「まさか乗ってくるとは思わなかったがな」
女が鼻で笑ったのが聞こえる。低い声が心地良い。あまり女性とは関わらないが、あの犬の鳴き声のような高い音がアレイドは苦手だった。
「どこぞの暴漢に襲われたのかと思って、心配でついてきたんです」
「ふん。暴漢に襲われそうなナリなのはお前だろうが」
どういう女性なのだろう。アレイドは惹かれたが、振り向けば後頭部に当てられた銃で頭に風穴が空く。それもそれでアレイド自身に問題はなかったが、帰った後に嫌味を言われるれるだろう。まずまともに帰れるか分からない。
「貴女がどんな方なのか分かりませんが、セクハラですよそれ」
銃口が強く後頭部に当てられる。
「どうでもいいことだな」
銃口が放され、臀部を蹴られる。固く細いものが刺さるような痛みに、相手のピンヒールを強く感じる。前によろめきながら振り向いた。
漆黒の長い髪を高い位置で束ねた背の高い女が立っている。赤いハイヒールが、アレイドが落とした銃を蹴ってアレイドに近付けた。
「お前みてぇなどんくさい奴じゃなかった」
真っ赤なハイヒールに、真っ赤で丈の長いドレスワンピース。左腕は二の腕まで包帯が巻いてある。平気でアレイドに背を見せ、この場を去ろうとする。
「余裕ですね」
すぐに女の首に手を回し、頭に拾い上げた銃を突きつける。女は銃を捨てた。背丈が近く、しかも女がピンヒールのせいで、脹脛が張る。
「ここで待ち合わせの人間を殺せって依頼なら、私が依頼者だが」
躊躇うこともなく女は身を素早く屈め、アレイドの手から逃れた。
「何のために?」
アレイドはまた女に銃を向ける。
「それは言えんな。そういう仕事してるのなら分かるだろ。バカか」
両手を挙げて女は嗤う。立場を分かっていない。
「言え」
「お前の力量を試したのさ。甘いな。不合格」
女の言葉が終わるか、終わらないかというところで、後頭部に衝撃が走る。殴られたと理解したのは、視界が大きく揺らぎ、身体が床に張り付いてから。背中に重量感が残ったままだ。
「まぁ、4対1じゃ、しゃーねーか」
全く気配がなかった。視界に女以外の脚が入る。2人分。
「どうするんです彼岸さん?」
気取ったような声が耳に届く。
「放せ。関係のない男だった」
「そっすか?そっすね!優男っすもんね、こいつ」
能天気な声が降ってきた。アレイドの身体の上に乗っているのはおそらくこの能天気な声の主だろう。
「銃は俺が回収した」
低い落ち着いた声もする。少なくともこの場にアレイド以外に4人はいる。そして全て味方ではない。
「はやくどけヌカ」
「ほーい」
アレイドの上から重さと温かさがなくなる。アレイドは服を払いながら立ち上がった。後頭部に手を当てる。痛みが走る。
「オレっちヌカってんだ。よろしく!」
力強く殴った男に向かって満面の笑みを浮かべる、能天気な声の主。茶髪に毛先が跳ねている。黒目が大きいせいか幼く見える。背丈もアレイドと同じくらいだ。
「慣れ合ってんじゃねぇぞ」
女がそう言い、また何事もなかったかのように部屋から出ていく。ヌカと呼ばれるいい歳をしていそうで幼い印象の男を待つように、気取ったような声の男と、低く落ち着いた声の男は視線を向けてきた。片方は金髪で真っ白い帽子を被っている。色も白く美形だ。もう片方は黒い髪で前髪が長くおそらく一番背が高い。涼しげな目元に、落ち着いた声の主だというのがすぐに分かった。
「ちょっと待っ…」
アレイドはぼーっと外見の特徴を覚えていたが、ヌカが最後にドアを閉めようとして、思い出したように追いかける。
「ちょっとっ…!」
ドアが閉まりかけて、姿が視界から閉ざされて一瞬。彼女らはすでにいなかった。
後頭部に手を当て、アレイドは溜息を吐く。依頼はこれで終わったのか。依頼にもなっていなかった。軋む階段を下りて、アレイドは帰路につく。外に出た途端、銃声がしてアレイドは崩れ落ちた。
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