奇怪な街にアリアX

結局は俗物( ◠‿◠ )

文字の大きさ
13 / 34
流浪 -complex-

complex 1

しおりを挟む
 引き連れた腕が振り払われる。怪我人は息を吐いて壁に背を預けた。
「くたばるのか」
 白のタンクトップに脇腹を赤く染めた少年に彼岸は声をかけた。野垂れ死にかけていたところを婚約者が拾ってきた。別居中の弟にその姿を重ねてしまったらしい。
「少し休ませてよ。腹刺されたことあるわけ?」
「ねぇな。休むと後がダルくなんぞ」
 ハイヒールを響かせ少年を置いていく。無駄足だったが心配性な婚約者の辛気臭い面と暮らすのも気が滅入る。少年・紫鴉しあは壁伝いに彼岸を追った。
「死んじまいそうなくらい痛い」
「急所じゃねぇよ」
 こつこつとした足音の間隔が広がる。
「死んじまったら責任取ってくれるのかよ」
「墓参りくらいならしてやる」
 相手にせず彼岸は見失わない程度に距離を保って荒れ果てた廊下を歩いた。
「なんで来たんだよ」
「晩飯の買い出しに付き合わそうと思ったんだがな」
 時間がかかったかま城の外に停まっている屋根のない四輪駆動車の運転席でメオがパンを食っている。彼岸の後ろの怪我人にパンを置き、駆け足でやってきた。
「待たせて悪ぃな」
「…いや…子供が怪我しているのか…」
 口の周りにパンのかすを付け、メオは意識の低そうな眼差しを紫鴉に向ける。
「命にかかわる傷じゃねぇよ。戻ったら病院に連れて行くさ」
「…そうか」
 彼岸はメオの肩を叩いて、車内を整える。その間彼は牛の歩みほどの少年を待っていた。数分後に工具箱を踏み台に後部座席へ怪我人が乗り込み、意外にも世話好きな知人が運転席に戻ってきた。砂漠のような土地を走り、都心部へ帰る。乾燥が鼻の粘膜を痛め付ける。文句の聞こえなくなった後ろを咄嗟に振り返る。
「おいクソガキ」
「ん…んあ?病院着いた?」
 ふごっと鼾を途中でキャンセルしたような声を上げ、目を開けた。
「…行くか…?」
 繁華街に入る前の海岸沿いに病院がある。メオが半端に首を助手席へ傾けた。
「悪ぃが頼む。婚約者やつに連絡する」
 怪我人は小さな鼾混じりの寝息を立て、メオは片手でパンを食いながら病院に行く道へ曲がった。咳払いをして喉を整えるのはまずは夜間の外出を謝り、それから晩飯の用意をしていないことを告げるかそれとも先に預かっている子供を病院に連れて行くことを告げるか迷った。こと15、6歳の少年の前では心配性を発揮する婚約者はそれを告げたなら帰宅にも支障を出しかねない。
「…大丈夫か。台本を…書くか…」
 メモ帳とペンがあることをメオは教える。
「前見てろ」
 電話をかけ、声を作り必要なことを告げる。案の定温和な婚約者は居候の心配をして夕食は済ませる旨を告げる。そして2人に持ち帰る提案をしたが彼岸はメオを一瞥して断った。高めに作った声音は喉を痛めさせ、伴う笑みも引き攣るような疲れを起こす。
「車まで出させちまって随分待たせたからな。奢ってやるよ。クソガキも飯くらい食えるだろ」
 センターコンソールやコンソールボックスに留まらずグローブボックスにもぎゅうぎゅうに詰められたパンの袋へ伸びたメオの手は何も掴まずハンドルに戻る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...