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突然変異
しおりを挟む「先生!あの木にいるゴブリン目掛けて魔法矢を放つんだ!」
先生は俺の言った通りに魔法矢を放つ。
しかし惜しくも先生が放った魔法矢はゴブリンを仕留め切れずに耳を掠めただけだった。
「ごっ、ごめんなさい!」
「まぁ掠めてるだけでも上等ですよ!」
先生の矢を当てられたゴブリンは木から落下し強く腰を打ったようだ。
「はぁぁっ!」
祐希が隙を見せたゴブリンの首を跳ねる。
「よし!綺麗に倒せたようだ」
「ちょっと可哀想だったね」
「おいおい、可哀想とか言って襲われたらどうするんだよ?こういうのは同情するべきじゃないぜ」
祐希が完璧な助言をしてくれた。
祐希の言う通りでゲームでも命乞いなどして仕方なく許したプレイヤーに襲いかかる等をすると聞いたことがあるからな。
「わかった…」
「確かに仕方ないよね…」
現時点で近くに魔物の気配はない。
ゴブリンの数がまだ少し足りないので更に奥に向かって進んでいくことにした。
更に草は高く、木は高く太くまるでジャングルかの様な場所だ。
もう少し進んだところに洞窟らしきものがあることに気付いた。
ゴブリンは外を徘徊していることも多々あるが、何より洞窟の中に籠っていることの方が多いのだ。
即ちこの洞窟にゴブリンがいる可能性が限りなく高いということをコイツらは気付けるのか?
「あっ、ここら辺は木とか生えてないみたいね」
「ほら…洞窟もあるみたい」
それはゴブリン達が見通しが良くなるように洞窟付近の草木を刈ってるからだろうな。
これによりもう100%いるとわかった。
「待って!洞窟にそして洞窟付近に草木が刈られているようになっているのはゴブリンの習性じゃなかった!?」
先生が慌てて皆に確認する。
気付くのは良い事なんだが慌てて、しかも声が大きい。
これでは警備しているゴブリンや洞窟内のゴブリンに宣戦布告しているようなものだ。
「先生、ここは落ち着いて静かに」
「はっ、ごめんなさい…また一人で焦っちゃって」
「今から洞窟に入ります、気を引き締めて下さいね」
◇
洞窟のなかにはいると天井までの高さは2メートルくらい、所々に小石や布が落ちている。
恐らく外から取ってきた物を奥に集めているに違いない。
「待って…奥の広場に何かいる!」
「お、良くわかったな美紅」
「何となくだけど気配っていうのかな、そういうのを感じた!」
認識距離は短いが十分に使えるだろう。
「ふんっ!」
祐希がアイテムポーチから取り出した松明を奥の広場へと投げ込む。
松明が転がって洞窟内に音が木霊する。
「あれはっ!アサルトゴブリンってやつか!?」
「その様ですね…あの特徴的な装飾品といい、武器の種類といい…情報通りよ!」
アサルトゴブリンの腰には3本のダガーが装備されており、骨で作られたと思われるネックレスをかけて投げ込まれた松明を確認している。
「今だぁぁぁっ!」
翔が剣を抜き、アサルトゴブリンに飛び斬りかかる。
しかし、流石は戦闘役を担っているだけはあるらしく、受け止められて翔は壁際へと叩きつけられた。
「かはっ…!」
事前に保護障壁を纏わせていたお蔭で傷等はなく、壁に打ち付けられた衝撃で軽く意識が飛んでいるだけなのだが…。
「グォォォァ!」
アサルトゴブリンが翔に追い討ちをかけようとする。
だが祐希が黙ってさせる筈もなく絶妙なタイミングで剣で受け止める事が出来た。
「ーーっち!危ねぇなっ!」
祐希がアサルトゴブリンを足止めしている時、後ろでは未来と蘭と美紅が雑魚のゴブリンを始末していく。
先生は遠距離から魔法を打って援護しているつもりだろうが威力が低すぎて余り効果はない様だ。
その点蘭は素早い動きで敵を翻弄してじわじわと体力を削っていってる。
残りはアサルトゴブリンただ一匹のみ…。
「ぐぅ……っ!」
「か…かはっ!」
翔に意識が戻り体勢を立て直そうとするがダメージが大きくとてもじゃないが戦えそうにない。
アサルトゴブリンは依然こちらの様子を伺って起死回生のタイミングを見計らっているらしい。
「よし!こっちは終わったから加勢する!」
「【鎌鼬】【闇玉】」
美紅は鎌鼬でアサルトゴブリンを切り刻もうとするがまだ威力が足りずに薄皮を切ったくらいだ。
サキュバス……ではなく吸血鬼の未来も闇玉で応戦するがその効果である〈腐敗〉も殆ど意味を成さなかった。
「ダメね…まるで意味がないわ!」
俺はまだ見守っているだけだが手を出さなくとも問題は解決しそうだな。
美紅と未来が魔法を打っている事を気にしていたアサルトゴブリンは目の前にいる2人から僅か数秒、目を離した。
その僅か数秒を祐希が見逃す訳もなく、祐希の持つ剣はしっかりとアサルトゴブリンの腹を貫いた。
「はっ!敵を前に余所見しすぎだな」
「グゴゴゴォ…」
剣を抜かれたアサルトゴブリンは出血が酷く、一向に止まらない。
傷口を押さえているものの時既に遅し。
アサルトゴブリンは出血多量で死んだ。
「うぉぉぉ!!」
「た、倒したんだな…!」
「流石祐希だな、私が手を出すまでもなかったみたいだし」
「あったり前だ!蒼の私って言うのは慣れねぇがその姿なら違和感ないな」
「これが元の姿が言ってると思うと……」
「ぶわっはっはっ!」
翔の笑いのツボにハマったのかそれから3分程腹を抱えて笑い転げていた。
さっきまでボコられてたくせによ。
何が面白いんだ…。
「さてと、コイツ含むゴブリンは私のアイテムボックスに入れたからと」
「寄り道しても遅くなっちゃうし」
「帰ろっか!」
帰り道に薬草があったので摘んで帰る。
俺だって調合の心得くらいあるからな。
「ほんとなんでもできるよな」
「そんなことないと思うけどなぁ」
◇
無事にゴブリンを倒した俺達は町に帰って直ぐに冒険者ギルドへと向かった。
「あっ、クエストが終わったんですが」
「こちらで~す!」
クエストの報告をするのは受理する場所とは別の所で行うみたいだ。
「えーっと、ゴブリン退治でしたね。それでは確認していくので右手の方にあるこの台に指定されている部位を置いてください」
えーっと…指定されてる部位。
そんな仕様があるとは俺は知らないことだな。
調べてた筈だが指定部位とやらの存在が抜け落ちてたみたいだ。
ゴブリン共を適当にアイテムボックスに突っ込んでおいて良かったな。
「あー…今ここで取っても良いですか」
「良いですよー」
あっさりと許可をくれた。
ゴブリンの血肉は酷い悪臭がするが事前に魔法で臭いを完璧に消臭済みだ。
「あっ!ちょ待ってくださーーー」
「え?ーーードンッ」
手遅れだ…と言わんばかりの顔をして俺の顔を見つめる会計の人。
何秒経ってもその視線は外れない。
次第にその目線はゴブリンの方へと向き、顔は「???」とした表情だ。
「ぶはっ!くく…」
翔が何故か吹き出す。
会計の人の顔がそんなに可笑しかったのか?
「何故あの独特な悪臭がしないんですか?」
やはりその点を気にしていたのだろう。
「血抜きをしてから消臭の魔法を掛けたんです」
「でも魔法ですら臭いが弱まるくらいなのに…って一匹アサルトゴブリン混ざってません!?」
「そうなんですよ、結構キツかったですけどみんなのお蔭で勝てました」
横から祐希がちょっとドヤりながら話す。
「紫なのにアサルトゴブリンを!?アサルトゴブリンは最低でも銀程の実力が必要ですよ!」
「おっ、案外チート的な事してるのかな?」
嬉しそうな顔をして翔が聞いてくる。
「確かにな、皆結構強いと思う」
先生はまだわからないけど。
「無茶だけは止してくださいね…」
受け皿にジャラジャラと貨幣が置かれていく。
「「銀貨5枚…」」
「「「5万円分ってこと!?」」」
「そうですね、アサルトゴブリンは気性が荒く厄介なんですよ。軍隊みたいなのを作りますしね。そして珍しい」
アサルトゴブリンはレアだったようだ。
「ゴブリン数体で銅貨5枚、アサルトゴブリンで銀貨4枚と銅貨5枚ってところですね」
「最後にすみません、この銀貨5枚を銅貨に両替してください」
そして銅貨50枚を俺以外の皆で分けてもらった。
だって俺は今回殆ど見てただけだしな。
今日でわかった事がある。
アサルトゴブリンは金になる。
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