アナザーワールド

白くま

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異世界召喚編

第一話 〘異世界召喚〙

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 バシャーン!
 豪快に水しぶきを上げて、私の体は湖に吸い込まれるように落ちた。

「ケホッ!ケホッ!」
 
 落ちた衝撃で、水を大量に飲んでしまいむせ返った。

「召喚早々最悪ね・・・。」

 湖から上がった私は、自分の体を確かめる。目立ってケガをしているわけでもなく、何か変わった様子もない。ただ、頭の先から、足の先まで、下着までもがビショビショだ。
 私は服の裾を絞りながら、あたりを見渡した。

「あれは・・・。」

 木々の間から、微かに町のようなものが見える。

「とりあえず、最初の目的地はあそこね。」

 そう決めた私は服を乾かした後、林を抜けて町へ向かって歩き出した。
 

 遠目でははっきりとは分からなかったが、近くに来てみると随分大きな町だった。
 町の入口には、『ようこそ!ブリンゲルへ!』と書かれた看板が立っている。
 あぁ、なんか某国民的RPGゲームにもこんな看板よく出てきてたなぁと、思いながら私は町の中へと足を踏み入れた。
 木製の建物に、レンガを敷き詰めた地面。道行く軍人の服も、黒い洋風の軍服だった。

「軍人!?」

 私は思わず二度見してしまった。町の中を、軍人が歩き回っていたのだ。
 なんだか、ここの世界はどんな世界なのかと少し不安になってくる。
 しばらく歩いていると、いろいろな店が並ぶ大通りに出た。八百屋や肉屋、雑貨屋、武器屋まである。
 私が、色々な店を見て回っていると・・・、

「泥棒!!!誰かその人捕まえて!」

 急に、後方からそんな声がした。
 振り返ってみると、声の主である中年くらいの女性を尻目に、鞄を小脇に抱えた男がこっちに向かって走ってくる。
 私はとっさにその場で身構え、男を迎え撃とうとする。

「どけえぇぇー!」

 男は鞄を振り回して、こっちに突っ込んできた。
 私は男が持つ鞄にしがみつき、なんとか取り返しにかかる。しかし、細身の男でも女の私よりは当然力は強く、簡単にふり払われてしまった。
 
「・・・このっ!」

 私は振りほどいて逃げようとする男を、今度は後ろから羽交い絞めにする。そのまま体重をかけて押し倒してしまおうと考えていると、急に男の様子が変わった。

「離せよ・・・。」

 男はそう小さく呟いた。

「嫌よ。ここまでしといて、そう簡単に逃がすわけないでしょ。」

 私は男を羽交い絞めにしたままそう言い返した。すると突然、体の周りに不自然な風の流れを感じた。

「な、何これ。」

 急な出来事に戸惑う私。そんな私を、さらなる衝撃が襲う。

「離せって言ってんだよ!このクソ女ァ!!!」
「きゃっ!」

 突然、男を中心に渦巻くようにほとばしった不思議な力に、私の体は軽々と吹き飛ばされてしまった。

「あがっ!」

 男に吹き飛ばされた私の体は十数メートル後方に吹き飛び、街角に積み上げてあった木箱をなぎ倒して止まった。
 背中を強く打ったせいか、うまく呼吸すら出来ない。いっその事、このまま気を失った方が楽だったんじゃないかと思うくらいだ。
 だがしかし、私の精神がそれを許さないのだろう。全く意識が飛ぶような気配がない。
 私はその場に立ち上がると、背中が痛むのを我慢しながら男を睨みつけた。

「なんだぁ?その目は。俺にまだ何か用か?」

 逃げてきた時とは全然違う、狂気じみたような顔で私を見る男。
 咄嗟に体が動いてしまったとはいえ、今は後悔しまくっている。私の体を軽々と吹き飛ばしたのだ。そんな相手に戦う術も何も持っていない、ただの女子高生が適うわけがない。

「おやおや。足が震えてるじゃないか。怖いのか?大丈夫だ。今に何もわからなくなる。」

 そう言って、男は足首に隠し持っていたナイフを取り出して私に向けた。
 その尖った切っ先を見て、私の体はさらに震え上がってしまう。

「死ねぇ!」

 男はナイフを構え、一直線に私に向かって突っ込んできた。体が強張って一歩も動けない私は、ただ迫りくるナイフを、狂気に満ちた男の顔を見ていることしか出来なかった。
 あぁ、召喚早々死ぬのか。私の異世界生活悪いことしかなかったし、何よりも終わるのが早すぎだ。そんなことを思っていると、急に町角から一つの影が飛び出し、私の前に躍り出た。

「な、なんだてめぇ・・・。」
「何とは何よ。それはこっちのセリフなんだけど。」

 私の前に躍り出た影は、なんと私と同い年くらいの女の子だった。
 少女は男の突きつけるナイフを軽々しく片手で受け止め、涼しい顔で男に言い返していた。

「あれ?」

 そこで私はあることに気づく。目の前に居る少女は、さっき町に入った時に見た軍人と殆ど同じ黒い軍服を着ているのだ。
 私が驚いている間に、少女は素早く男を取り押さえ、後から駆け付けた同じ軍服を着た人たちに身柄を預けた。

「つ、強い。」

 私の口からは、ただその一言しか出てこなかった。

「あなた、名前は?」

 男の身柄を預けた少女が振り返って楓に聞く。

秋月 楓あきづき かえでです。」
「私は、内宮 彩夜うちみや あや。よろしく。」

 そう言って彩夜さんは、私の顔をまじまじと見つめ始めた。

「あ、あの・・・。何か?」

 私が聞き返すと、彩夜さんは急にニコッと笑った。

「うん!気に入った。よかったら、これからも仲良くしましょ?」

 彩夜さんはそう言うと、さらに満足そうな笑みを浮かべる。

「は、はい。よろしくお願いします。」

 なんだか、さっきから彩夜さんのペースに乗せられまくっている気がする私。しかし、彩夜さんはそんなことを微塵も感じていないようで、そのままのペースで話を続けた。

「あ!そうだ!今夜時間があるんだったら、一緒にご飯でもどう?」
「ご飯ですか?」

 正直、この町のことを全く知らない状態では、どの店がどんな店なのか全くわからない。そんな状況でこの誘いはとてもありがたかった。しかし、ここで一つ問題が生まれる。

「あの・・・。私、一円もお金を持ってないんです。」

 そう、私はこの世界のお金を全く持っていないのだ。これでは、晩ご飯はおろか、今晩寝る場所にも困ってしまう。

「その一円っていうのが何かは分からないけど、お金なら心配しなくてもいいわ。私が出してあげるから。」

 そう言って、彩夜さんはまたニコッと笑った。

「この道を真っ直ぐ行った左手に、私の行きつけのお店があるの。アヴェンタドールっていうんだけど、夕方そこで待ち合わせでいい?私、まだ仕事があるからさ・・・。」

 私が頷くと、彩夜さんは「よかった!楽しみにしてるね。」と言い残して、仕事に戻っていった。
 広場の時計は、もうすぐ三時になろうとしている。

「彩夜さんとの待ち合わせは六時だから、あと三時間か。」

 私は残りの三時間で町中を散策した後、彩夜さんと待ち合わせをしているアヴェンタドールへ向かったのだった。 
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