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異世界召喚編
第二話 〘可憐な女性〙
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日が傾き、時計の針が午後六時を指そうとしているころ、私は待ち合わせ場所である、ステーキ屋『 アヴェンタドール』の前まで来ていた。まだ夕方だというのに、既に店内は複数の客で賑わっている。外まで漂ってくる少し刺激的なガーリックの匂いは、私の腹をギュルルと鳴かせた。
「お待たせ!」
声のする方を見ると、昼間の黒い軍服とは違うTシャツにホットパンツといったラフな格好をした彩夜さんが立っていた。
「ううん。私も今来たところです。」
私は返事をしながら彩夜さんの後ろを見た。
「そちらの方は?」
「あぁ、この子は一条柚枝。私と同じ部隊の医療担当よ。」
紹介を受けると、柚枝さんは軽く頭を下げた。
「よろしく。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
見た目は私と同い年位だが、立ち振る舞いなどを見ると妙に大人びた雰囲気だった。
「ねぇ?立ち話も何だし、続きは中に入ってからにしない?もぅ、お腹空いちゃって...。」
お腹を押さえて彩夜さんが言う。それと同時に、私のお腹も再びギュルリと鳴いた。
「そうだね。先に入ろう。」
柚枝さんはクスリと笑って、先陣をきるように店の中に入っていった。
第一印象でクールビューティといった感じが強かった柚枝さんが急に笑うと、女である私でも少しドキッとするほど魅力的だった。
(この人すごくモテるんだろうなぁ。)
そんな事を思いながら、二人の後を追うように私は店の中に入った。
店内は外から見たよりもすごく広く感じた。区切りのない広い空間のいたる所に腰ぐらいの高さの丸テーブルが設置してあり、テーブルの真ん中には鉄板が埋め込まれている。恐らく、あの鉄板を使って、焼き加減を自分で決めて食べれるのだろう。テーブルの周りには備え付けの椅子が何脚かある。
楓達は、一番端にある誰も居ないテーブルについた。
メニューを見てみると、脂ののった様々な種類のステーキの写真が貼り付けてある。
「どれも美味しそう。」
どの品も魅力的でどれにするか結局決められず、他の二人と同じ『お手頃ガーリックステーキセット』を注文した。
「ここの店は、早い、安い、美味いがモットーなの。」
と、彩夜さんが教えてくれる。どこかの牛丼屋かと突っ込みたくなるようなモットーを掲げているだけあって、厚肉のステーキがものの数分で私達の前に並んだ。
私は切ったステーキをソースに潜らせて、口の中に運ぶ。その食感は、しっかりとした肉の食感を残しつつ、肉の表面からマシュマロの様に溶けていく。まるで、A5ランクの超高級ステーキを食べているかのようだった。
「美味しい!こんなお肉が本当に安いんですか?」
私は再度確認する。あまりの美味しさに、本気で値段が気になったのだ。
「えぇ。ここは、どの品も銀貨二枚。普通のステーキ屋なら銀貨五、六枚はするわ。それに比べたら破格の値段ね。」
彩夜さんはそう言って、満足げに肉を頬張った。
「マスター直々に狩りに出て良さそうな獲物を見分けて仕入れてくるから、肉の質も良いし、そんなにお金もかかってないから安く売りに出せる。そんな事、他の店じゃまず有り得ないわ。」
小さく切ったステーキを口に運びながら、柚枝さんもそう言う。
話も程々に夢中になって食べていると、鉄板の上にはいつの間にか肉が無くなっていた。
ステーキを食べ終わり一息ついた所で、彩夜さんがこんなことを聞いてくる。
「ねぇ?楓ちゃんはどこから来たの?」
私はギクリとする。幸福感に気を取られて、そういった質問に対する答えを何も用意してなかったのだ。頭をフルに回転させて、私は一つの答えを出した。
「実は、記憶を一部失くしていて...。自分が誰なのかは分かるんですけど...。」
あっちの世界で読んでいた異世界物の小説と同じセリフを言ってみる。
その言葉を聞いて心配そうな目をする彩夜さん。しかし、対する柚枝さんはというと...。
「...。」
鋭い眼差しで、私の目を見ていた。
「あ、あの...。何か?」
「嘘ね。」
一撃だった。ほんの三文字で、私の立てたシールドを突き破ってきた柚枝さん。私は思わず、口をパクパクさせてしまった。
「嘘はもっと考えてつくものよ?」
「え!?嘘だったの?」
ニヤッと笑う柚枝さんの隣で、目を見開いて驚く彩夜さん。 どうしたものかと考えていると、そっと私の隣に来た柚枝さんが、私の首筋に何か冷たい物をピタッと当てた。
何かは見えなかったが、私はすぐにその物の正体を直感した。
ーーーーステーキナイフだと。
柚枝さんは私の強ばった肩に手を回し、耳元でそっと囁いた。
「食後にあまりグロテスクなのは見たくないの。本当の事、教えてくれるかな?」
ナイフの刃が、首の肉にめり込む。後は刃を滑らせるだけで、この店内赤い花が一輪咲くことになるだろう。
私は生唾を飲み、決心する。
ーーーーこの人達には、本当の事を言おう。
私はそっと口を開き、今までの事を全て話した。すると、今度は彩夜さんが疑いの目を向けてくる。
そりゃそうだ。急に「異世界から来ました。」なんて言われて、誰もがはいそうですか。と信じられるはずがない。
だが、柚枝さんは違った。私の首筋からナイフを離し、私の目をもう一度じっと見つめたあと、ニコッと笑った。
「うん。その答えの方が飾り気がなくて、すごく自然に聞こえる。手荒な事してごめんね?記憶が無いなんて嘘をついてまで、何を隠しているのか気になって。」
そう言って、柚枝さんはテーブルの上にナイフを置いた。
「ちょっと!今の話信じるの!?」
「えぇ。まだ、この子自体の事を信じきれてる訳じゃないけど、今の話は信じてもいいんじゃないかなって思ってるわ。」
柚枝さんはそう言うと、また私の目を見る。
「いい目ね。本当は嘘をつけない正直者っていう目をしてる。」
そう言って、氷の入った水をグイッと飲み干す柚枝さん。
カランッ!と音をたてて、グラスの中の氷が踊った。
「すげー!これで、十連勝だぜ?」
すると、突然背後から聞こえてきたそんな声を引き金に、店内が一気に盛り上がる。後ろを向いてみると、あるテーブルを大勢の客が取り囲んでいた。
「私たちも行ってみる?」
柚枝さんの一言で、私達は客で賑わっているテーブルの近くに移動した。
「お待たせ!」
声のする方を見ると、昼間の黒い軍服とは違うTシャツにホットパンツといったラフな格好をした彩夜さんが立っていた。
「ううん。私も今来たところです。」
私は返事をしながら彩夜さんの後ろを見た。
「そちらの方は?」
「あぁ、この子は一条柚枝。私と同じ部隊の医療担当よ。」
紹介を受けると、柚枝さんは軽く頭を下げた。
「よろしく。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
見た目は私と同い年位だが、立ち振る舞いなどを見ると妙に大人びた雰囲気だった。
「ねぇ?立ち話も何だし、続きは中に入ってからにしない?もぅ、お腹空いちゃって...。」
お腹を押さえて彩夜さんが言う。それと同時に、私のお腹も再びギュルリと鳴いた。
「そうだね。先に入ろう。」
柚枝さんはクスリと笑って、先陣をきるように店の中に入っていった。
第一印象でクールビューティといった感じが強かった柚枝さんが急に笑うと、女である私でも少しドキッとするほど魅力的だった。
(この人すごくモテるんだろうなぁ。)
そんな事を思いながら、二人の後を追うように私は店の中に入った。
店内は外から見たよりもすごく広く感じた。区切りのない広い空間のいたる所に腰ぐらいの高さの丸テーブルが設置してあり、テーブルの真ん中には鉄板が埋め込まれている。恐らく、あの鉄板を使って、焼き加減を自分で決めて食べれるのだろう。テーブルの周りには備え付けの椅子が何脚かある。
楓達は、一番端にある誰も居ないテーブルについた。
メニューを見てみると、脂ののった様々な種類のステーキの写真が貼り付けてある。
「どれも美味しそう。」
どの品も魅力的でどれにするか結局決められず、他の二人と同じ『お手頃ガーリックステーキセット』を注文した。
「ここの店は、早い、安い、美味いがモットーなの。」
と、彩夜さんが教えてくれる。どこかの牛丼屋かと突っ込みたくなるようなモットーを掲げているだけあって、厚肉のステーキがものの数分で私達の前に並んだ。
私は切ったステーキをソースに潜らせて、口の中に運ぶ。その食感は、しっかりとした肉の食感を残しつつ、肉の表面からマシュマロの様に溶けていく。まるで、A5ランクの超高級ステーキを食べているかのようだった。
「美味しい!こんなお肉が本当に安いんですか?」
私は再度確認する。あまりの美味しさに、本気で値段が気になったのだ。
「えぇ。ここは、どの品も銀貨二枚。普通のステーキ屋なら銀貨五、六枚はするわ。それに比べたら破格の値段ね。」
彩夜さんはそう言って、満足げに肉を頬張った。
「マスター直々に狩りに出て良さそうな獲物を見分けて仕入れてくるから、肉の質も良いし、そんなにお金もかかってないから安く売りに出せる。そんな事、他の店じゃまず有り得ないわ。」
小さく切ったステーキを口に運びながら、柚枝さんもそう言う。
話も程々に夢中になって食べていると、鉄板の上にはいつの間にか肉が無くなっていた。
ステーキを食べ終わり一息ついた所で、彩夜さんがこんなことを聞いてくる。
「ねぇ?楓ちゃんはどこから来たの?」
私はギクリとする。幸福感に気を取られて、そういった質問に対する答えを何も用意してなかったのだ。頭をフルに回転させて、私は一つの答えを出した。
「実は、記憶を一部失くしていて...。自分が誰なのかは分かるんですけど...。」
あっちの世界で読んでいた異世界物の小説と同じセリフを言ってみる。
その言葉を聞いて心配そうな目をする彩夜さん。しかし、対する柚枝さんはというと...。
「...。」
鋭い眼差しで、私の目を見ていた。
「あ、あの...。何か?」
「嘘ね。」
一撃だった。ほんの三文字で、私の立てたシールドを突き破ってきた柚枝さん。私は思わず、口をパクパクさせてしまった。
「嘘はもっと考えてつくものよ?」
「え!?嘘だったの?」
ニヤッと笑う柚枝さんの隣で、目を見開いて驚く彩夜さん。 どうしたものかと考えていると、そっと私の隣に来た柚枝さんが、私の首筋に何か冷たい物をピタッと当てた。
何かは見えなかったが、私はすぐにその物の正体を直感した。
ーーーーステーキナイフだと。
柚枝さんは私の強ばった肩に手を回し、耳元でそっと囁いた。
「食後にあまりグロテスクなのは見たくないの。本当の事、教えてくれるかな?」
ナイフの刃が、首の肉にめり込む。後は刃を滑らせるだけで、この店内赤い花が一輪咲くことになるだろう。
私は生唾を飲み、決心する。
ーーーーこの人達には、本当の事を言おう。
私はそっと口を開き、今までの事を全て話した。すると、今度は彩夜さんが疑いの目を向けてくる。
そりゃそうだ。急に「異世界から来ました。」なんて言われて、誰もがはいそうですか。と信じられるはずがない。
だが、柚枝さんは違った。私の首筋からナイフを離し、私の目をもう一度じっと見つめたあと、ニコッと笑った。
「うん。その答えの方が飾り気がなくて、すごく自然に聞こえる。手荒な事してごめんね?記憶が無いなんて嘘をついてまで、何を隠しているのか気になって。」
そう言って、柚枝さんはテーブルの上にナイフを置いた。
「ちょっと!今の話信じるの!?」
「えぇ。まだ、この子自体の事を信じきれてる訳じゃないけど、今の話は信じてもいいんじゃないかなって思ってるわ。」
柚枝さんはそう言うと、また私の目を見る。
「いい目ね。本当は嘘をつけない正直者っていう目をしてる。」
そう言って、氷の入った水をグイッと飲み干す柚枝さん。
カランッ!と音をたてて、グラスの中の氷が踊った。
「すげー!これで、十連勝だぜ?」
すると、突然背後から聞こえてきたそんな声を引き金に、店内が一気に盛り上がる。後ろを向いてみると、あるテーブルを大勢の客が取り囲んでいた。
「私たちも行ってみる?」
柚枝さんの一言で、私達は客で賑わっているテーブルの近くに移動した。
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