アナザーワールド

白くま

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異世界召喚編

第三話 〘イカサマゲーム〙

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 人混みを分けてテーブルを見ると、一組の男女がテーブルを挟んで対峙していた。テーブルの上には数枚のカード。何かのゲームをしているように見える。

「あの兄ちゃん、強いんだよ。これ勝ったら十連勝だ。」

 テーブルの周りでゲームを見ていた男性がそう言った。すると、それと同時に勝敗がついたのか、女の方が力なくうなだれる。

「まいど!」
「なんでなの?こんなの、ただの記憶力ゲームなのに。」

 女は悔しそうに、ポケットから何かを取り出し男の前に置いた。

「あ、あれって...お金?」

 女が置いたのは銀貨一枚。この世界のお金の価値はまだ分からないが、あの銀貨二枚で、さっきのステーキが食べられる計算だ。

「ちょっといい?」

 私が色々と考えていると、隣で見ていた彩夜さんが男に話しかけていた。

「なんや?」

 散らばったカードを集め終えた男は、彩夜さんの顔を見てそう言った。

「私も勝負させて欲しくて。」
「そうかそうか!ほな、早速やろうや。」

 彩夜さんの言葉にニコッと笑った男は、テーブルの上に裏向きにカードを並べ始めた。

「これって...。」
「知ってるの?」
 
 私の言葉に柚枝さんが反応する。

「私が居た世界にもあったゲームです。」

 ゲームの方に視線を向けたまま答える。そう、目の前で行われていたのは、元居た世界では国民的なトランプゲーム、『神経衰弱』にそっくりだったのだ。

「掛け金はお互いに銀貨一枚でええな?」
「うん。」

 男の言葉に彩夜さんは短く頷いた。

「よっしゃ!ほな、ルール説明や。」

 男はそう言って、カードを使ってルールの説明を始めた。

「ルールは簡単。お互い交互にカードを二枚づつめくって、同じ数字やったら、自分のカードとして手元に持ち、もう一組めくる。もし、数字が違ったら捲ったカードを裏向きに戻して相手の番や。これを順番に繰り返して、テーブルの上にカードがなくなった時に、手に持ってるカードが多かった方の勝ちや。」

 男のルール説明を聞いて確信する。このゲームは、完全に神経衰弱と同じルールだと。
 そうこうしている間に彩夜さんのルール確認が終わったのか、ゲームがスタートした。二人はコイントスで順番を決める。
 先行は彩夜さんだ。捲ったのは、ダイヤの5と、スペードの7。このゲームにおいて、先行が狙ってカードを揃えるのはまず不可能。何一つカードの情報がない状態では、どこに何のカードがあるかなんて分からない。
しかし、男が捲ったカードは...。

「ハ、ハートの7!?」

 いきなりだった。男は初ターンでカードのペアを作ってしまったのだ。自分の手元にカードを置いた男が、再び伏せられたカードに手を伸ばす。

「う、嘘でしょ!?」

 男が次に手にしたカードはスペードの5。つまり男は、この大量のカードの中から、彩夜さんが捲ったカードのペアを立て続けに捲り当てたのだ。

「おかしい...。」

 この世界の人達には、ただ単にすごい芸当に見えているかもしれない。しかし、このゲームを知っている私には、違和感しかなかった。
 確かに、初ターンでたまたま相手が捲ったカードと同じ番号のカードを捲ってペアが出来るなんて事は有り得る。しかし、それを二回連続となると、もう狙っているとしか思えない。
 だが、そんな事が狙って出来るものなのだろうか...。
 いや、絶対に有り得ない。
 だとしたらこれは...。

「イカサマ...。」
「...イカサマ?」

 私の声に隣で見ていた柚枝さんが反応する。

「多分ですけど...。」

 そう。イカサマかもしれないが、確信もなければ証拠もない。さっきのプレイも、運が良かったと言われてしまえばそれまでだ。
 私は男の事を徹底的にマークし、証拠を探した。

「.........。」

 それから数分たったある時、彩夜さんが俯いて黙り込んでしまった。何事かと男の方からテーブルに視線を戻す私。

「そ、そんな...。これって...。」

 二人勝負は、既に彩夜さんの敗北で勝負が決まっていた。

「いくらなんでも早すぎない?」

 隣からの柚枝さんの声。しかし、私が驚いたのはそれだけじゃない。もちろん、決着の早さにも驚いた。だが、私の前にあるテーブルは、少なくとも私の知っている神経衰弱では有り得ない状態になっていた。

「か、完全試合なんて...、聞いたいことがない。」

 そう。二人の勝負の結果は52対0で、彩夜さんの完全敗北だった。それを見て、私の男に対する疑いの目はさらに濃くなる。これは絶対にイカサマで間違いない。なのに、どうやっているのかが全く分からないのだ。
 銀貨を一枚テーブルに置き、悔しそうに席を立つ彩夜さん。振り向きざまに体がテーブルに当たり、カードが数枚地面に落ちた。

「彩夜さん。気をつけないと危ないですよ?」

 私はそう言って、地面に落ちたカードを一枚拾い上げる。

 「...?」

 裏向きに落ちていたカードは、元居た世界同様に無数に絡まったツルを葉が覆っているような柄だった。しかし、私が気になったのは、カードの四隅よすみに描かれた一組の葉とツル。よく目を凝らして見ると、それはスペードのマークとAという文字に見える。

(...まさか!)

 私はカードを男に渡す時に表を向けるようにして渡した。すると、やはりそのカードの内側にはスペードのAと書いてあったのだ。

「おおきに。」

 私に微笑んでカードを束に戻す男を見ながら確信する。さっきの仕掛けを使えば、自分でもこの男に一泡吹かせられると。

「すみません。」

 そして、私はテーブルを挟むように男に対峙した。

「なんや?お嬢ちゃんも俺と勝負したいんか?」
「えぇ。」

 男の問いに、短く簡単に答える。

「ちょっと楓ちゃん!さっきのゲーム見たでしょ!?この人強すぎるよ!」

 さっきまで落ち込んでいた彩夜さんが、私に詰め寄ってくる。

「さっき私、完全試合で負けてるのよ?」

 私にやめるように説得しようとする彩夜さん。しかし、後ろから伸びてきた柚枝さんの手によって、客の中に引き戻されていった。振り返りざまに一瞬、柚枝さんと目が合う。すると柚枝さんは何かを察しているかのような優しい顔で「がんばって」と口を動かした。
 私はコクリと一回頷き、男の方を向き直す。

「ええか?」
「大丈夫よ。」

 男はニヤリと笑って続ける。

「賭け金はどうする?なんや随分自信あるみたいやし、特別にお嬢ちゃんが決めてええで?」
 
 そう言って余裕を見せる男。私がイカサマを見破っているなんて、夢にも思ってないのだろう。

「じゃあ...。」

 私はそっと右手でテーブルに積み上げられた銀貨を指さす。

「そこにある銀貨を全て賭けて。」

 私の一言に、周りの客が一斉にざわつく。

「ここにあるって...、銀貨十一枚やぞ!?」

 男も驚いた表情で聞き返してくる。

「お前が負けたらその時は同じように銀貨十一枚払ってもらうで?」
「その事なんだけど...。私、お金持ってないの。」

 さらなる私の一言で、その場に居る全員が唖然とする。

「ちょっと待てや。金持ってないのに、賭けで俺と勝負せぇ言っとんのか?」

 男が声を荒らげる。

「賭けをなんやと思ってんねん!」
「別に、賭けるものが何も無いわけじゃないわ。」

 私は決して大きくはない、むしろ小さいであろう自分の胸を全力で張り出して言い放つ。

「私は、私自身の体を賭けるわ。」
「はぁ!?」

 男は素っ頓狂すっとんきょうな声を上げて目を見開いている。

「私が負けたら、今夜一晩私を好きにしていいわ。誰かに売って金儲けするなり、あなた自身が使うなり...、自由にして?」
「お前...正気か?」

 これまで、賭け事を沢山してきたであろうこの男も、体を賭けると言われたことは無かったらしい。

「楓ちゃん!何考え...むぐぅ!」
 
 客の中から慌てて飛び出してきた彩夜さんを、柚枝さんが再び引き戻していった。

「正直、あの子の言う通りや。そんなにこの金が欲しいんか?」
「言ったでしょ?お金持ってないって。彩夜さんがご馳走してくれたから晩ご飯は食べれたけど、今夜泊まる所すら確保出来てないの...。それとも、私みたいな貧相な体じゃあ、銀貨十一枚には足りない?」

 私が挑発するかのようにそう言うと、男はじっと私の顔を見た後、そっと周りを見渡して再び口を開いた。

「ホンマにええんやな?これだけの客が聞いてんねん。吐いた言葉は無かったことには出来けへんで?」
「大丈夫よ。」

 男は、クククッと笑ってカードを並べ始めた。

「今晩が楽しみになってくるわ。寝れると思うなよ?」
「あはは...、怖いなぁ。」

 男の言葉に、私は冗談半分に笑ってみせた。もちろん、負けるつもりは毛頭ない。勝ちが決まっているからこそ、体を賭けるなんてことが出来るのだ。

「ルールは...分かるな?」
「えぇ。」
「じゃあ、コイントスからや。」

 男はテーブルの上のコインを手に取り、弾く準備をする。

「表が俺で、裏がお前や。」

 そう言って男がコインを弾くと、回転しながら宙を舞ったコインはテーブルの上に表向きで落ちた。

「俺からやな。」

 男の余裕綽々よゆうしゃくしゃくな笑と共に、私のイカサマ破りは幕を開けた。
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