アナザーワールド

白くま

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異世界召喚編

第十二話 〘命の重み〙

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 私はついに分身に勝った。しかし、それと引き換えに大切な人を失ってしまった。分身の姿が消失した後、私は動かなくなってしまった柚枝の体をぎゅっと抱きしめた。

「柚枝…。ごめん。私がもっと早くマナを引き出せてたら…。」

 泣いて詫びても柚枝の目が開くことはない。私はもう一度柚枝の体を強く抱きしめた。すると、私の腕の中で、柚枝の体が無数の光の粒になり跡形も無く消滅した。

「そんな…。」

 私は俯き、さっきまで柚枝を抱きしめていた手をぎゅっと握りしめた。爪が刀傷を抉り、地面にポタポタと赤い血が滴り落ちる。

「そんな顔をするでない。大丈夫じゃ。さっきの女子おなごは生きておる。」

 いつの間にか背後に来ていた做夜がそんなことを言い出した。

「え…?」
「さっきまでそこに居ったのは、お主の記憶から作った偽物じゃよ。」

 做夜はそう言うと、そっと微笑んだ。

「じゃあ、さっきの柚枝はあの分身と同じ…?」
「そうじゃ。じゃから、現実世界での柚枝はまだ生きておる。わしは現実世界をどうこうする程の力は持ち合わせておらんのでな。」

 做夜はクスクスと笑うと、体の前で手を2回叩いた。すると、2人がいる空間が歪みだし、元の和室へと姿を戻した。

「さてと…改めて、よく分身に打ち勝ったな。まぁ、わしが手を貸したのが大きかったとは思うが、最終的にはお主の力じゃ。合格でよかろう。」

 ニッコリと笑った做夜は、お茶の入った湯呑みを私の前に置いた。

「これからよろしくな。」
「こちらこそ…。でも、もうさっきみたいな事はしないでよ?」
「分かっておる。…さっきはすまなかった。」

 ニコニコとしていた做夜は一瞬、真剣な顔で私に頭を下げた。

「偽物とはいえ、お主の大切な友人をそうと分かって酷い目に合わせてしまった。」
「いいのよ。反省してくれていれば。」

 私は座布団から立ち上がり、部屋の襖に手をかけた。

「ここから出られるのよね?」
「あぁ。何じゃ?もう行くのか?」
「力を手に入れたら、早く戻らないといけないの。じゃないと本当に柚枝が死んじゃう。」

 私は襖を開け、部屋の外へと足を踏み出した。

「わしの能力は既にお主の中にある。向こうに戻る時には能力の基本くらいは把握出来ておるじゃろう。」

 背後からの做夜の言葉に軽く頷いて、私は闇の中へと姿を消した。



「楓!危ない!」

 我に返った私の耳に聞こえてきたのは、紛れもなく柚枝の声だった。咄嗟にその声で私は、現実に戻ったのだと素早く判断し、手に持っている真っ黒な日本刀【做夜】を鞘から抜き、襲い来る男の刀を受け止めた。

「今度は私が相手になるわ!」
「グルル…。」

 相変わらず人間とは思えない様なうめき声をあげる男と何度も何度も刀をぶつけ合う。

「はあぁぁ!」

 私はマナを刀と腕に注ぎ込み、男の刀を思いっきり斬り上げた。

「…グッ!」

 その反動で男は後ろへとバランスを大きく崩す。その隙に、男の胸へと素早く刀を突き立てた。

「グルアァァァ!」

 男は断末魔の叫びと共に、大量の血を撒き散らした。当然、ゼロ距離に居る私の体は返り血で真っ赤に染まっていく。 

「……。」

 私はその血を見て、内なる世界での柚枝を思い出した。私の手が柚枝の血で真っ赤に染まり、やがて柚枝の体は光の粒となって消えた。しかし、目の前の男はそうはならない。それは、ここが現実だということを意味し、私に命の重さを突きつけるものでもあった。

「…あ、あり…がとう。」
「!?」

 地面に倒れている男が、突然喋り出した。

「意識、戻ったんですか!?」

 私は慌てて男に問いかける。すると、男は微かに開けた目をこっちに向け、そっと微笑んだ。

「俺は幸せ者だよな…。勝手に暴走して、挙句の果てにこんな可愛い子の手で死ねるんだからよ…。」
「すみません…。私、必死になってて…胸に…。」
「いいんだ。そうでもしないと俺は正気には戻らなかったさ。それに、これは死ぬまでの猶予だよ。まだ、精霊の力が残ってるんだ。俺の心臓はとっくに止まってるよ。」

 男はそう言うとフッと笑い、大きく息を吐いた。

「ありがとな。俺の暴走を止めてくれて。」
「いえ…。私こそすみませんでした。こんな止め方しか出来なくて…。」

 私の目からは涙が溢れ、頬を伝っていく。

「最後に君の名前を教えて貰ってもいいか?」
「秋月楓です。」
「楓ちゃんか…いい名前だ。」

 私の名前を聞くと、男は満足そうに笑った。

「あの…。私も名前を教えてもらってもいいですか…?」
「………。」

 涙を拭い、私も男に問いかける。しかし、そっと目を閉じた男は、もう二度と口を開くことは無かった。


 全てが終わり街に戻った私は、宿舎に用意された新しい私の部屋で夜を明かした。次の日は、いきなりだが特別に休暇をもらい、昨日の男の葬儀に出席した。殺した本人が葬儀に行くと、何かと問題があるかとは思ったが、やはり最後に顔を見て謝りたかったのだ。

隈界 冬四郎くまがい とうしろう…。」

 私は隈界さんの棺の前で誓った。これから私の命が尽きるまで、隈界さんの魂も一緒に背負って生きていくことを。
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