アナザーワールド

白くま

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国外遠征編

第十四話 〘レオン・スカーレット〙

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 「やめてください!これは大事な形見なんです!」

 女はネックレスを片手に必死に抵抗した。突然街に現れた3人の男達に襲われ、金品を奪われかけているのだ。

「うるせぇ!早く離しやがれ!」

 長い髪を後ろで束ねた男が女の手をわしずかみにして、無理やりネックレスを奪い取った。

「おい。早くずらかるぞ。」 

 女から金目の物を奪い尽くした男達は、急いでその場から離れようとする。

「何をしている!」

 突然、男達の背後から声がした。その声に慌てて振り返ると、レイピアと呼ばれる細身の刀を腰に刺した兵士が1人立っていた。

「ま、まさか、警務隊…。」
「そのまさかだ。お前達の事は全て見ていた。言い逃れはできんぞ!」

 兵士が男達に言い放つと、男達は何やらボソボソと話した後手に持った金品と武器を地面に捨てた。

「それでいい。さぁ、そのまま大人しく…ぐはっ!」

 武器を捨てた男達に兵士は一瞬油断してしまった。その隙に、がっしりとした体型の男が兵士の体に体当たりを食らわせたのだ。

「へっ!ちょろいな。やはり、ここの警務隊は大したことのない連中ばかりみたいだ。」

 蹲る(うずくまる)兵士を見下しながら、体当たりをした男が笑った。

「ま、待て…。」

 兵士は痛む腹を抑え立ち上がるが、誰が見ても力の差は歴然としていた。この兵士1人では3人組の1人相手でも勝ち目はないのだ。

「無能な兵士様は黙ってろよ!」

 再び、男が兵士の腹部を蹴りあげる。しかし、男の足は兵士の体の前で何者かによって受け止められていた。

「誰だ!お前は!」
「私も警務隊なんだけど?」

 そう、男の足を受け止めたのは楓だった。楓は、兵士の男に勝ち目がないと判断すると、建物の屋上から現場に向かって飛び降りたのだ。

「ウチの大事な兵士に随分なことしてくれたね。まぁ、その前に問題なのはそこの女の人を襲ったことなんだけど。」

 楓が女の人の方を見ると同時に二人の目が合う。

「女のくせに出しゃばりやがって。怪我しねぇうちに帰りな。」
「心配してくれるの?ありがとう。でも、私はあなた達の方がよっぽど心配なんだけど…。」

 眉をひそめ、挑発するように言う楓に、男達は更に逆上した。

「上等だ!やってやる!」
「後で泣いて詫びたって許さねぇからな!」

 次々に叫び声を上げ、男達は楓に襲いかかる。

「すぅ…はぁー。」

 楓は少しだけ大きく呼吸をして、次々に襲い来る男達の攻撃を手すら使わずに避けていく。

「くそっ!かすりもしねぇ…!」

 男達の猛攻はしばらく続いたが、結局楓に傷一つつけることは出来なかった。

「どうする?これ以上やっても無意味だと思うけど…?」

 息を荒らげる男達に、楓は優しく呟いた。楓はここまで力の差を見せつけられると、大人しく引き下がるだろうと考えていたが、男達はそれでも立ち向かってくる。
 右から、左からと次々に襲いかかってくる男達の攻撃はやはり楓には遅く、片っ端からいなしていく。

「あなた達じゃどう頑張っても勝てないんだから、いい加減諦め…きゃっ!」

 呆れた楓が男達を説得しようと口を開いた途端、突然空から真っ赤な炎の塊が楓めがけて飛んできた。まともに炎を食らった楓は受け身をとり、なんとか体勢を立て直す。

「何?こんな魔法…。」

 楓の頭の中をいろんな情報が駆け巡る。簡単な衝撃波くらいなら使える人は多い。しかし、自分のマナに属性を持たせ、その上防御加護を受けている警務隊の服を焼く程の威力を持った魔法となると柚枝に匹敵するくらいの高度な魔法スキルを持った人間…もしくは。

「…吸血鬼。」

 楓は小さく呟いた。吸血鬼はそれぞれ火、氷、風、光、闇の5つの属性が使えるといわれている。しかし、それも高貴な吸血鬼にしか付与されず、下級の吸血鬼はやはり衝撃波など無属性の魔法攻撃しか持たない。

「…とすると。色々とまずいかな…?」

 ここが街の中だということ、相手は取るに足らない雑魚が3人と手強い吸血鬼の可能性が高い者が最低1人。対して楓側は、楓が1人と、戦力に数えられない警務隊員が1人、一般市民が1人。荷物が多いだけ楓の方が不利だった。キョロキョロと辺りを見渡し敵の位置を探る楓に男達が再び襲いかかる。

「くっ…。あー!もう、邪魔!」

 楓は体のマナを自身の周りで炸裂させ、男達を遥か後方へと吹き飛ばした。

「そこ!腰抜かしてないでその人安全な所まで連れて行って!」

 楓は腰を抜かしている警務隊員に指示すると、腰に差した刀【做夜】を抜いた。

「あれを喰らってほとんどダメージ無し?ショックなんだけど。」

 突然、どこからか陽気な女の声が聞こえてきた。

「誰?どこにいるの!」

 楓は辺りを見渡して叫ぶ。通りにも、家の影にも人は居ない。だとすると…。

「くっ…!」

 キンっ!という甲高い金属音を立てて、楓は真上からの攻撃を刀で受け止めた。

「さっすが~!アンタの強さは本物ね。ボク楽しくなってきちゃった。」

 赤い髪を翻し、少女は楓の前で一回転するとそのまま地に足をつけることなく、楓の体を蹴り飛ばした。

「うぐっ…!」

 攻撃が当たる直前にマナでガードした楓だが、あまりの威力に後方へと飛ばされ建物の壁に激突した。

「生きてる?まさかこれくらいで死なないよねぇ~?」
 
 少女は倒れている楓を見て、挑発するように言った。

「こんな攻撃で死んだら、みんなに笑われちゃうわ。」

 立ち上がった楓は、少女の姿を再度確認した。肩下までの赤い髪と赤い目。手にはタガーナイフ。へそ出しスタイルに短パンといったボーイッシュな出で立ちだった。

「あなた、一体何者?」
「ボク?ボクはレオン・スカーレット…、吸血鬼だよ。」

 吸血鬼という言葉に楓は目を見開いた。街中に吸血鬼が現れるというのは予想していた中で最悪の展開なのだ。

「全く…。どうしようかな。」

 時間稼ぎに色々質問してみるか、それとも素直にこのまま戦うか…。楓は脳をフル回転させて考える。

「どうしたの?ボクが吸血鬼だって知ってビビってる?」

 レオンはそう言ってクスクスと笑いだした。

「そうね。正直、ビビってるわ。街に被害を出さずにあなたを倒す自信はないからね。」
「なにそれ?街じゃなかったらボクに勝てるみたいな言い方じゃん。」
「そう言ってるんだけど?」

 楓の言葉が次第にレオンの機嫌を悪くしていく。

「あっそ!じゃあいいよ!場所を変えてアンタが本気を出せるようにしてあげる!」

 かかった!楓はそう思った。これは楓の作戦だったのだ。これで相手も了承した上で場所を移せる。1つ問題がクリアした事で、楓は心の中でそっと胸をなで下ろした。しかし…。

「…とでも言うと思った?あははっ!自分が不利になる事なんてする訳ないじゃん!確かにアンタとは1対1で平等にやりたいけど、今回はボクの好きには出来ないから…ねっ!」

 言い終わるが早いか、レオンは地を蹴り楓との間合いを詰め、手に持ったタガーナイフで素早く何度も切りかかる。

「速い…。」

 威力は低いものの、レオンの動きは楓よりも速かった。楓も負けじと刀で全て防いでいくが、次第に攻撃を受けきれなくなり、楓の体に1つ、2つと傷が増えていく。

「これで…終わりっ!」
「くっ…!」

 キンっ!
 全力で振りぬかれたレオンのナイフを楓はギリギリの所で弾き返した。

「あらら。弾かれちゃった…。でも、いいや。もう決着ついてるし。」
「残念ね。私はまだ…。」

 と、言いかけたところで体の異変に気づく。

「な、何これ…。」

 激しい目眩めまい倦怠感けんたいかんに襲われ、楓は崩れ落ちるようにその場にひざまづいた。

「ま、まさか…。そのナイフに毒を?」
「大正解!でも、普通の毒じゃないんだ。相手の自由を奪うだけ。痛覚はそのまま残るから拷問するのにピッタリって訳。」

 レオンはナイフをクルクルと回しながら笑った。

「見た目によらず意地の悪いことをするのね。」
「あれ?ボクの事いい人だと思ってた?」
「私が思ってたより最悪よ。それに、人じゃないでしょ?この殺人鬼。」

 楓は力が抜けていく体で、レオンを睨みつけた。

「殺人鬼は酷いなぁ。まだ誰も殺してないのに…。まぁ、すぐにボクも殺人鬼に仲間入りしそうだけどね。」

 レオンはナイフを振り上げ、楓を見下ろした。楓は静かに目を閉じ覚悟を決めた。体はもう1ミリも動かない。刀を持つことも攻撃をかわす事も出来ない。

「バイバイ…。」

 レオンのナイフが振り下ろされ、楓の胸を貫く瞬間。

「はあぁぁぁ!」
「くっ…!」

 レオンの体は何者かが放った衝撃波によって後方へと吹き飛んだ。
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