アナザーワールド

白くま

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国外遠征編

第十五話 〘全員参加〙

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ブリンゲル西の外れ。道端に跪いたままの楓は、既に指一本動かせないほど体が麻痺していた。

「楓ちゃん!大丈夫!?」

 ピクリとも動かない楓の前に、彩夜がしゃがみこむ。

「彩夜さん。来てくれたんですか。」
「うん。巡回班の人から報告があったの。ここで黒い刀を持った遠征局員と敵が戦ってるって。」

 楓がかすかに動く目を彩夜の方に向けると、彩夜は楓の口にそっと何かを流し込んだ。

「飲んで。解毒剤だから。」

 彩夜に言われ、次々に口の中に入ってくる解毒剤を必死に飲み込む楓。

「少ししたら、だんだん体が動くようになってくるはずだから。」
「ありがとう。」

 楓の礼を聞くと、彩夜はにっこり笑って足元に置いていた大鎌を手に取った。

「いやぁ~。不意打ちって恐ろしいもんだね。あんな攻撃でも吹き飛ばされちゃった。」

 体のホコリを払いながら、レオンはトコトコとこっちに歩いて来る。

「あれで無傷って…。相変わらず化け物ね。」
「まぁ、この前よりかは強くなってたけどね。」

 彩夜とレオンの視線がぶつかる。この二人は、前にも一度戦った事があるのだ。

「前は手も足も出なかったけど、今回は前みたいにはいかないから。」
「ふぅ~ん。楽しみだなぁ。」

 真剣な顔でレオンを睨みつける彩夜に対して、レオンは楓と戦った時以上にヘラヘラとしている。次第に彩夜はレオンのその態度に苛立ちを覚え、鎌を持つ手に力が入る。

「さぁ、おいで。どれだけ強くなったか教えてよ。」
「…このっ!」

 散々馬鹿にされ、彩夜の怒りは最高潮に達した。しかし楓には、彩夜の怒りは力を空回りさせ、冷静さを害すだけに思えてならなかった。

「彩夜さん。落ち着いて…。」
「分かってる!大丈夫だから…、楓ちゃんは少しでも体が動くようになったら安全な所まで下がってて。」

 楓の声をかき消すように彩夜は言う。もう、その言動からは冷静さなんてものは一欠片も感じられない。

「はあぁぁぁぁ!」

 彩夜は全身からマナを放出し、レオンに飛びかかる。大きな鎌による一撃は風を切る豪快な音と共にレオンの首元へ襲いかかった。しかし、レオンはその攻撃を素早くしゃがんでかわし、そのまま地に手をついて、彩夜の腹部を蹴り上げにかかった。

「ぐっ…!」

 彩夜はその蹴りを鎌の柄で防ぐ。しかし、あまりの威力にそのまま真上へ跳ね上げられてしまった。

「…はっ!」

 跳ね上がった彩夜を追いかけるように素早く跳躍したレオンは、彩夜の背中に向かって強烈な蹴りを放ち、彩夜の体を地面へと叩きつけた。

「あがっ…!」

 地面に亀裂が入る程の威力で叩きつけられた彩夜は、あまりの衝撃にすぐに立ち上がることが出来ずいいた。そこへ、わざとらしくレオンが彩夜の背中を踏みつけるように着地する。

「うぐっ!ゲホッゲホッ!」
「あら?ごめんね!そんな所に寝転んでるなんて思わなかったから踏んずけちゃった。わざとじゃないんだよ?」

 半笑いで彩夜を見下ろすレオンを見た楓は、かつて自分の分身の時と同じ類の怒りを覚えていた。

「この体さえ動けば…。動いて…、動いてよ!」

 自分の足に何度も言い聞かせ力を込めてみるが、何度やっても足が動くことはなかった。

「ねぇ?まだ寝てるの?それとも、もう終わり?」

 彩夜の背中をガシガシと踏みつけるレオン。しかし、彩夜はうめき声一つ上げなかった。

「ちょっと?起きてますか~?寝るにはまだ日が沈んでないんですけど?」

 レオンは執拗に彩夜の背中を踏みつける。次第にその威力は上がっていき、彩夜の背中にじんわりと血が滲み出した。

「やめて…。もうやめて!」
「この子が起きたらやめてあげる!ボクと戦ってる最中だよ?なに寝てくれてるの?」

 ドスッ!ドスッ!と、背中を踏みつける音が楓の耳に響いてくる。

「やめてぇー!」
 
 バキッ! 
 楓が叫んだ瞬間、彩夜の背中から何か折れるような鈍い音がした。

「あ~あ。折れちゃった…。人間って脆い(もろい)よねぇ。」

 レオンは彩夜の服の襟を掴み、無理やり起き上がらせる。
 彩夜は力なくうなだれ、口からは一筋に血が流れていた。

「あ、彩夜さん…。」

 彩夜が一瞬で敗れる程の相手だ。自分がやっても勝てる見込みはない。

「せめて街の一歩外なら…。」

 このブリンゲルには様々な掟があり、その中に街中で戦闘を行う時適切な処置無しでの能力の解放を禁止するものがある。
 この掟があるため、楓も彩夜も自分の能力や武器に宿っている能力を使うことが出来ないのだ。
 何かいい方法がないかと楓が考えていると、そんな楓を見たレオンが、わざとらしく彩夜の体を投げ捨てて言った。

「この子はもうダメ。これ以上やっても楽しくないもん。今度は、君がボクの遊び相手になってよ。」

 楓に歩み寄るレオンの後ろに、彩夜の体がドサッと落ちる。
 真っ直ぐに楓を見るレオンの目には、狂気じみた雰囲気は無く、ただただ純粋な好奇心だけが溢れていた。

「その目が逆に怖いのよ…。悪気なく悪い事をする…その子供みたいな目が…。」
「大丈夫、恐怖なんて一瞬だよ?すぐに何も分からなくなるんだから。」

 そう言って、再び楓にタガーナイフを向けるレオン。今度こそ終わりかと思ったその時。

「な、何これ!?」

 ナイフを持つレオンの右手が、次第に凍りついていったのだ。

「私達の…、大事な仲間を…よくも!」

 回復した首を動かし声の主を見る。そこには、鬼の様な形相でレオンを睨みつける柚枝の姿があった。

「あらら、ちょっとのんびりし過ぎちゃった。まさか、こんな魔法使える人が出てくるなんてね。」

 レオンは片腕を凍らされても焦りひとつ見せず、凍らされた腕にマナを送った。

「さすがにダメか…。参ったなぁ。まだ、やる事あったんだけど…。」
「こっちも忘れるなよ!」

 凍りついた手を気にするレオンに、今度は健太が切りかかる。レオンは健太の刀をかわし、数歩距離をとった。

「どこに行くつもりだ。」
「!?」

 後退りをするレオンの背後で蓮の声がする。

「そうかそうか、俺に殺されるのがいいのか。だがな、出来れば生け捕りにしたいんだがな。」

 そう言って、蓮はレオンが反応するよりも早く首筋に刀を突きつけた。

「殺したくねぇから動くなよ?」
「あははっ!殺したくない人が刃物を突きつける場所じゃないよ?ここは。」

 レオンは自ら刀に首を押し付けた。彼女の白い首筋に一筋の赤い血が流れ、服の襟に赤い染みをつける。

「あーあ。汚れちゃった。お気に入りだったのになぁ~。」
「貴様…。ふざけているのか!」
「ふざけてるのはどっちよ?女の子相手に寄って集って五人も…。まぁ、若干二人は戦力外みたいだけどね。」

 レオンは再びクスクスと笑いだした。

「蓮君。その子の首…ねて…。」

 柚枝はさっきのこもった目でレオンを睨みつけた。

「ダメだ。郷里からの命令だ。コイツは生け捕りにする。」
「だって!残念だったね。でも、生け捕りにするのも無理かな~。」
「なんだと?」
「その子が言ってた。街の外に出ないとってね。それって、その子達が能力を使わなかったのと関係あるんでしょ?街中で能力使えないとかさ。」

 ヘラヘラとした表情で話すレオンの首筋に、蓮はさらに強く刀を押し付けた。

「何が言いたい…?」
「そんな状態でボクを生け捕りにするなんて無理って言ってるんだよ。」

 そう言ってニッコリと笑ったまま、ヒラリと刀をかわし蓮の方へと振り返ったレオンは、そのまま流れるような動きで蓮の右目にタガーナイフを突きつけた。

「…!?」
「反応出来なかったでしょ?これが、力の差だよ。今の君達じゃ、話にならない。」

 言い終わる頃にはレオンは蓮から数メートルも離れたところに立っていた。

「言っとくけど、ボクは吸血鬼の中じゃそんなに強くないからね?その僕に勝てないんじゃ…人間と吸血鬼の力関係なんて知れてるね。」

 高笑いをしながらそう言い残し、レオンは街の外へと消えていった。

「た、助かった…。」

 楓の口から思わず安堵の声が漏れる。

「何が目的だったんだ。あの吸血鬼は。」
「分からない。けど、今は楓と彩夜ちゃんの手当が先よ。」

 そうして楓達は、蓮と健太によって医務室へと運ばれた。
 楓は解毒剤とポーションで傷を治すことが出来たが、彩夜は背中の骨が完全に折れているため、医務員の治癒魔法を使って治療することになった。

「この分じゃ、明日の任務には間に合わねぇな。」

 顎に手を当てて健太が呟く。

「その件に関しては今、蓮君と郷里君が話しているわ。」

 隣で座っていた柚枝がぼんやりと彩夜を眺めながら言った。
 
「ちょっといいか?」

 突然、部屋の扉が少し開き、正隆と話していたはずの蓮が部屋に入ってくる。
 蓮は手短に事情を告げ、三人を正隆の元へと連れていくのだった。
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