アナザーワールド

白くま

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国外遠征編

第二十一話 〘アウスブルグ〙

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 ブリンゲル西の沿岸。第一部隊は船が着くまでの間、和海用に変更された作戦の内容を確認していた。

「先頭の馬車に俺、二番目に石峰、最後尾を秋月が護衛する。一条は少し離れて全体のサポート。蒼井には昨日も言ったが辺りの警戒と敵の牽制をしてもらう。一般的な魔物や賊なら問題ないだろうが、近づけずに処理できるならそれが一番だ。」
「「「「了解。」」」」

 前日にある程度話していたため、かなり短い作戦会議になった。昇る朝日を見ようとふり返った楓は、そこで岸壁に近づく一隻の船を見つけた。

「蓮さん。船が来ました。」
「時間通りだな。」

 到着した船からは、船員達が次々と降りてきて荷卸しの準備をしだした。船は人が千人近く乗れそうなほど大きく、楓の体の数倍はあるであろう大きさの荷物がかなり小さく感じた。

「あなた達が、護衛をしてくれる警務隊ですかな?」
「はい。警務隊遠征局第一部隊。隊長の斎藤蓮です。」

 船から降りてきた貴族のような華やかな服の男が蓮と挨拶をかわす。続いて蓮の後ろにいた楓達も順に挨拶をした。

「私はこの船のオーナーであり、君たちの護衛を依頼したあずまです。よろしく。」

 東はそう言うと頭を軽く下げた。

「一つお聞きしたいことがあるのですが…。」

 頭を下げている東に蓮が問う。

「なんですか?」
「ここ最近、ブリンゲルの遠征局には物資の運搬を護衛する任務は来ていませんでした。それは、ここらへんで受ける危害は他国の防衛部隊でも対処ができる範囲のものばかりだから…。なのになぜ、今回あなたは多額の費用を払ってまで我々に依頼したのですか?」

 蓮の問いかけた疑問は、楓達も気になっていた事だった。警務隊遠征局の隊員は他国よりも戦闘力の優れた隊員が沢山いる。しかし、その分依頼料が高いためあまり多くの依頼が来ず、来る依頼は手強い敵が居るかもしれない危険な依頼ばかりだった。なのに、今回はただの護衛に第一部隊全員が参加している。

「今回の荷物はアウスブルグ王に依頼された特別な武具で、他国の手に渡しては行けないということで厳重な警備をする事になったのだよ。」
「ブリンゲルも他国なのでは?」
「ブリンゲルとアウスブルグは昔からの長い付き合いだと聞いておる。仕事を投げて物を盗む輩など居らんだろうと王は言っておった。」

  荷物の確認をしながら東は言った。どうやら、アウスブルグ王は警務隊を心底信用しているようだ。

「これで何かあったら大変なことになるな。」

 荷積みが終わり出発しようとする馬車に歩み寄りながら、苦笑いで蓮は呟いた。
 馬車は10キロの道のりをゆっくりと進み始めた。これに付き添うように楓達は陣形を保ったままそれぞれ周囲を警戒する。どれほど歩いただろうか。楓が振り返ると、出発した岸壁ははるか遠くなっていた。

「皆さん!止まってください!2時の方角から何か来ます!」

 道のりも折り返しに近づいた頃、突然和海の声が響く。足を止めた楓達は全員臨戦態勢をとった。

「あれは…、魔人。」
「魔人!?」

 楓達に近づくのは魔人だった。魔人とは、手に持った大きな斧が特徴でその力は魔物の中でも上位クラス。吸血鬼に次ぐ要注意種族だ。

「蒼井!魔人は何体居る?」
「7体です!」
「そうか…。蒼井は引き続き馬車全体を警護、石峰は蒼井の補佐だ。一条と秋月は俺に続け!」

 覇気のある声で蓮の指示が飛ぶ。楓は做夜を引き抜き、蓮のあとに続いて魔人へと走った。

「魔人7体に3人でなんて…。」
「大丈夫さ。あの3人なら。」
「え?」

 馬車に乗る男に健太が告げる。そう、確かに魔人は上位クラスの魔物。1対1でも危険な相手だ。しかし…、

「それは、戦うのがあいつらじゃなければの話だ。」

 魔人に立ち向かった3人はそれぞれの敵に奇襲をかける。7体居る魔人のうち3体が後方へ吹き飛び、残る4体がそれぞれ楓達を襲う。振り下ろされた斧をそれぞれが避けると、爆音の様な音を響かせながら、魔人の攻撃は地面に大きな亀裂を作った。

「あんなのまともに食らったら、跡形も無くなっちまう…。」
「大丈夫ですって。あの人達なら。」

 怯える男の横で和海が弓を構えて呟く。その矢は最初に吹き飛んだ魔人3体に向けられ、引き絞られた弓から放たれた矢は魔人の近くまで飛ぶと急上昇し、魔人の頭上で回転し始めた。

「あれは…。」

 その技は和海が試合で見せた技だった。高速回転する球体から次々と放たれる矢は、魔人を取り囲むように次々と攻め立てる。

「はあぁぁ!」

 和海は身動きの取れない魔人に、真っ赤な矢を放ち弾幕の中で爆発させた。激しい爆音と爆風が辺りを襲い、楓達の視界を一瞬奪う。しかし、楓達はそれぞれ相手がどこに居るのかを把握していた。砂煙の中、各自相手に向かって刀を振るう。

「グオォォォ!」
「ギヤァァァ!」

 砂煙の中で次々と叫び声をあげる魔人。視界が晴れると蓮の近くの魔人は腰から真っ二つに切り裂かれ、柚枝の近くの魔人は首が飛ばされ、楓の近くの魔人は胸を貫かれていた。

「残るは一体…。」

 振り返りながら做夜にマナを込め、魔人に向かって斬撃を飛ばす。その斬撃は魔人に当たると、体を引き裂きながら後方の岩に叩きつけた。

「グアァァァ……!」

 岩に叩きつけられた魔人は力なく項垂れると、そのままピクリとも動かなくなった。

「ふぅ…。終わったな。」
「そうですね。」
「まぁ、いい所は新人さんに持っていかれたけどね。」

 馬車に戻ると、少し嫌味ったらしく柚枝は言った。

「すみません。ここから援護するには、皆さんの方に矢を放つのは危険なので…。吹き飛ばしてもらった3体を相手させてもらいました。」

 和海は苦笑いでフォローをいれる。楓達のいた場所は和海から割りと離れていた。しかも、それぞれがかなりのスピードで動いている。そんな状態で矢を放つと、誤って味方を攻撃しかねないのだ。

「にしても、あれはやりすぎじゃない?私達何も見えなかったんだけど?」
「す、すみません。」

 柚枝がイタズラな笑みを浮かべて追い詰めると、和海は肩を落として謝った。

「一条。それくらいにしてやれよ?それに、何も見えない状態でしっかりと一体ずつ倒してたじゃねぇか。」

 柚枝の悪戯を見かねたのか、健太が助けに入る。

「冗談よ。気にしなくていいわ。最善とは言えないけど、あなたの行動は間違ってはないから。」

 柚枝は落ち込む和海の顔を覗き込んでそう言うと、ニッコリと笑ってみせた。

「それよりお前ら。見えてきたぞ。」

 蓮の言葉に全員が前を見ると、そこには四方を高い壁で囲んだ1つの大きな街があった。

「あれが、アウスブルグ…。」

 大きな街だと思っていたブリンゲルよりも、更に大きな敷地の奥には城のような建物も見える。外から見た感じでは、完全にRPGゲームの王国だ。

「ブリンゲルを除けば、あのアウスブルグが一番兵力が高い。最も揉め事を起こしたくない相手だ。」

 しばらく歩きアウスブルグの門まで来た楓達が、門番に要件を伝えると重く閉ざされていた門が軋むような音を立てて開いた。街に足を踏み入れると、そこはブリンゲルとは全く雰囲気の違う、けれどブリンゲルと同等以上に栄え、賑わうアウスブルグの街が広がっていた。
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