アナザーワールド

白くま

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国外遠征編

第二十話 〘決着〙

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 力がみなぎる感覚に浸りながら、構えた刀に意識を集中させる。

「どうなっているのかは知りませんが、やる事は変わりません。全力であなたを倒します!」

 和海は弦を持つ手を離し、そのまま頭上へと上げると、一気に振り下ろす。すると、楓の真上で回転する球体から、光の矢が雨のように楓に降り注いだ。

「はあぁぁぁ!!」

 楓はマナで体の動きを強化し、降り注ぐ矢を片っ端から刀で叩き落とした。

 (見える…。間に合う…。…これならいける!)

 自分の体に当たる範囲の矢だけを全て叩き落とす楓に、今度は和海が横から追い討ちをかけた。二方向から同時に襲い来る矢は、いくらなんでも弾ききれない。勝利を確信したのか、和海の頬が少し緩む。しかし…。

「做夜…。私の血を吸って…。」

 楓のその一言で、楓が身にまとっているマナの量がさらに増加した。

「吹きとべぇー!」

 楓は増加したマナを刀に注ぎ込み、大きく縦に刀を振り下ろした。すると、楓の刀から斬撃の形をしたマナが放たれ、頭上の球体を真っ二つに切り裂き、そのままの勢いで和海へと襲いかかった。

「きやぁぁぁ!」

 攻撃姿勢だった和海は斬撃を避けることが出来ず、正面から楓の斬撃を食らってしまい、大きな悲鳴を上げながら激しく後方へと吹き飛び、円の縁から出ている結界に激突した。

「がはっ…!」

 大量の血を吐き出し、崩れ落ちる様に地面に倒れた和海は誰がどう見ても、もう戦える状態ではなかった。

「蒼井さん。降参でいいですか?」

 和海のそばで、そっと尋ねる。すると、朦朧(もうろう)とする意識の中で微かに和海は頷いた。


 試合が終わり解散した後、自室に戻った楓は軽装に着替えてベッドへ倒れ込んだ。

「……疲れた。」

 傷も癒え、マナも回復したはずなのに体が重い。これは、他の武器にはない做夜だけの能力である血を使った能力の増強の代償だ。少し程度なら疲労で済むが、酷使すると自分の体を壊しかねないもろ刃の剣でもある。

 (でも、使わなきゃ今日のは危なかった…。あんなの反則じゃない。)

 全距離で戦えて、設置型の能力もあり、スピード、破壊力共に要注意レベル。和海の強さは遠征局の隊員の中でも上位に入るほどだった。

 (あんな人が何故、今まで本部…ましてや医療班に?)

 考えれば考える程楓の頭の中には疑問しか浮かばなかった。しかし、健太と柚枝を破ったのは事実。楓だって奥の手まで使わされているのだ。和海の能力を信用するにはそれだけで十分だった。それに、元・医療班なのだから、治癒能力もあるのだろう。戦える医療班…まさに最強の助っ人なのかもしれない。
 楓は深く考えるのはやめ、明日のためにいつもよりも一足先に眠りにつくのだった。


 翌日の早朝五時半。楓は目覚めると身支度を整え、自分の部屋を出た。辺りはまだ薄暗く、静かなものだった。廊下を歩く楓の足音だけが、静寂の中コツコツと響き渡る。
 楓が建物から出ようと扉に手を伸ばしたその時。

「…おはよう楓ちゃん!」
「ふぁ…!?」

 突然何者かに後ろから胸を揉まれ、思わず小さく悲鳴をあげる楓。

「いやぁ~。可愛らしいサイズなのにしっかりと弾力があっていいねぇ~。」
「ちょっと真津子さん!やめてください!ビックリするじゃないですか!」

 楓が振りほどこうとしても、真津子はしっかり抱きついて離れない。

「ここかな?それともここかな?」
「ちょ……、やめ…ふぁ!?」

 服の中にまで手を突っ込まれ、楓は思わず素っ頓狂な声を声を上げてしまった。

「なになに?さっきの声。可愛い…。もっと聞かせてよ。」

 真津子の手の動きはエスカレートし、楓の服の中で激しく動き回る。

「このっ…、いい加減に…。」
「うふふっ…チュッ!」
「!?!?」

 不意にされた頬へのキスに、楓の思考が一瞬止まる。すると、真津子は今まで体をまさぐっていた手を引き抜き、楓から少し離れた。

「どう?緊張ほぐれた?」
「…え?」
「ごめんね!こんな方法しか思いつかなくて…。でも、昨日の楓ちゃんを見て、無理してるんじゃないかって思うとどうしても何かしてあげたくて…。」

 そう言って照れくさそうに目を背ける真津子を見て、楓はたまらず笑いだしてしまった。

「え!?ちょっと、急にどうしたの!?」
「あははっ…!ごめんなさい!一気に緊張がほぐれたら、なんかおかしくなっちゃって。」

 お腹を押さえて笑う楓につられて、真津子もクスクスと笑いだした。

「でも、ありがとうございます。見抜かれてたんですね…。」
「じゃあ、やっぱり?」
「はい…。怖かったんです。ここに来てから色んな訓練を受けて、実践も経験して、実力は上がってるはずなのに、どうしてか蓮さんや柚枝に追いつけない。少しでも差が縮まっていれば気持ちは楽になるかもしれないのに、縮まるどころか戦う度に他の人の新しい長所が見つかって…。自分の成長は遅いんじゃないか、足を引っ張っているんじゃないかって…。」

 楓は遠くを見つめるような目でそう話す。

「でも、昨日の蒼井さんとの試合で分かったんです。私はまだ能力を全て使いきれてなかったんだって。」
「その力が使えたから、和海ちゃんに勝てたんだ…。」
「はい。後は能力を使い込んで、完全に自分のものに出来れば、今まで以上に他の人たちとの差を縮められるんじゃないかって思うんです。」

 楓の力強い言葉に安心したのか、真津子はそっと微笑みポケットからイヤリングを取り出して楓に渡した。

「イヤリングですか?」
「そうよ。片耳用だけどね。」

 そう言うと、真津子はクスクスと笑った。

「昔、ある人から貰った物でね。これをつけた人が命の危険にさらされた時に、このイヤリングが護ってくれるって言ってた。でも、倉庫番の私には使い時がなくてね…。だから、楓ちゃんにあげるわ。」
「でも…。そんな貴重な物…。」
「いいのいいの!だから、絶対に生きて帰ってくる事!いい?」

 イヤリングを返そうとした楓の手を押し返し、真津子は言い聞かせる様に楓に言った。

「わ、分かりました。」
「よろしい!じゃあ、約束ね!」

 微笑みながら真津子が立てた小指に、自分の小指を絡める楓。

「嘘ついてもし楓ちゃんが死んだら、私が針千本飲んで楓ちゃんの後追いかけるからね?」
「え!?!?」
「あははっ!だから、私を殺さないでね?」

 焦る楓の頭を撫でながら真津子は笑った。その手は暖かく、再び楓の心を落ち着かせてくれる。

「ありがとうございます。おかげで随分気が楽になりました。」
「そう。良かった!」

 真津子が手を下ろすと、そっと微笑んだ楓は集合場所に向かうために建物の扉に再び手を伸ばした。

「帰ってきたら私のところに顔出しに来てね。」
「当然です!うざいくらいの笑顔で会いに行くので覚悟しててください!」
「まぁ!それは楽しみ!じゃあ、その流れで楓ちゃんといっぱいスキンシップとらないとね!」
「あ…いや。スキンシップはとらなくても別に…。」

 少しの静寂の後、お互いを見つめてまた笑いだす二人。壁にかかっている時計の針は既に六時少し手前だった。

「まずいっ!早く行かないと遅れちゃう!」

 慌てて扉を開けて外に出ようとする楓の手を、真津子が掴んで引き止めた。

「楓ちゃん!…気をつけて。」
「はいっ!行ってきます!」

 少し不安げに呟いた真津子に、楓は自分の出来る最大の笑顔で答えるとそのまま宿舎を後にした。
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