アナザーワールド

白くま

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国外遠征編

第二十三話 〘金髪の少女〙

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 ブリンゲル北の城壁付近では、背中付近まである金色の髪をなびかせながら少女が一人立っていた。

「ねぇ?ここの人間手応え無さすぎない?」
「しゃーねーだろ?ただの人間が俺達に勝てるわけないじゃん。」

 その後ろでは耳に付けたピアスを光らせ、アウスブルグの兵士に噛みつきながら話す男の吸血鬼も居た。

「でも、ボクが戦った人間は手応えあったよ?」

 2人の後ろにはブリンゲルで楓を襲い、彩夜に重傷を負わせたレオンの姿も。そう、アウスブルグに侵入したのはレオン達だったのだ。

「へぇ?そりゃあ楽しみだ。」
「バカなの?レオンがその子達を見たのはブリンゲル。ここはアウスブルグよ?居るわけないじゃない。」
「チェッ…。せっかく闘えると思ったのによぉ…。」

 金髪の女の呆れた声に、頬を膨らませる男。

「じゃあ、早くここを片付けてブリンゲルに向かえばいいんだよ。」
「お!それもそうだな!じゃあ…行くか!」

 男をなだめるようにレオンが言うと、男は再び笑顔に戻りアウスブルグの街の中へ駆けて行った。

「気持ちにムラがあるのが彼の悪い癖ね。」

 金髪の女も呆れながらヒラヒラと手を振ると、その場から離れた。

「さーてと!ボクも行こうかな。」

 レオンは2人よりも少し遅れて、アウスブルグの街の中へ入っていったのだった。



 皆と解散した健太はアウスブルグ城を北に進み、下級吸血鬼を片っ端から倒していた。

「ありがとうございます!おかげで助かりました。」
「いやいや。これも任務なんで。それよりも、安全な所に移動した方がいい。」

 助けた兵士に城に戻るよう指示し、健太は再び北へと向かった。

「ねぇ?貴方、ここの国の者じゃないわね?」

 ふと聞こえてきた声に健太は足を止める。

「誰だ?」
「私はカルマ・フルール…、吸血鬼よ。貴方は?」

 健太の前に姿を現したのは、北の城壁付近に居た金髪の女だった。ブレザーの様なデザインの白い服と、膝くらいまでの黒いスカートに身を包んだカルマは、腕を組んで健太の方を真っ直ぐ見ていた。

「俺は、ブリンゲル警務隊遠征局第一部隊、石峰健太だ。」

 腰に差した刀に手をかけ、健太が答える。普段であれば個人的に色々と観察をするのだろうが、相手が吸血鬼ならば話は別だ。それに、相手はレオンクラス。本気で戦わないと自分が危険なのだ。

「そんなに身構えないでよ。私、まだ武器持ってないのよ?」
「吸血鬼が全員武器を使って戦うとは限らねぇからな?」

 肩をすくめて言うカルマに、健太は言った。楓からの情報によるとレオンは武器を使っていた。しかし、それは毒を使うからであって、力だけでは武器を使わなくても十分強い。

「なーんだ。油断させようとしたのに…残念。」

 カルマはそう言ってクスッと笑うと、首や肩などの関節をクルクル回し始めた。

「2つ…。」
「は?」
「貴方に2つ選択肢をあげる。」

 カルマは手で2を表すと、健太に向かって真っ直ぐ突きだした。

「1つは、この場から立ち去って見なかったことにする。そうすれば、私は貴方に手出しはしない。そして2つ目は私と戦う。もちろん貴方が負ければ、貴方の血は全部いただくわ。」

 そう言って、唇をペロリと舐めるカルマ。

「生憎だが1も2もごめんだね!答えは3だ。」
「3?」
「俺がお前を倒すんだよ!」

 健太は勢いよく刀を抜き、カルマに斬りかかった。狙いは首筋。ピクリとも反応しないカルマの首筋に向かって刀が振り抜かれ…。

カンっ!

「なっ!?」

 健太の一撃はカルマのノーガードの首に受け止められてしまった。

「…!?」
「まさか、今の全力?」

 刀に首を押し付けながら呆れるカルマに、健太は再び刀を振るう。しかし、彼女は防御も回避もしない。ただ、されるがままに攻撃をノーガードで受けるだけだった。

「な、なんでだよ…。」

 戸惑う健太を見てカルマはクスリと笑い、そっと呟いた。

「いいこと教えてあげる。」
「あぁ…?」
「私の弱点。」

 突然、自分の弱点を教えると言ったカルマに、健太はさらに戸惑った。しかし、そんな健太を無視するようにカルマは健太との距離を詰め、おもむろに口を大きく開いた。

「私、目と口の中は強化出来ないの。強化出来るのは外皮だけ。たがら、空いた口の中から喉を攻撃されれば一溜りもないわけ…。」

 口の中を指さし、挑発するように笑うカルマ。

「へっ!そうかよ…。じゃあ、そのありがたいアドバイスに従わせて貰おうかなっ!」

 健太は素早く1歩前に足を出し、構えた刀をカルマの口の中目がけて突き出した。しかし、挑発に乗せられただけの分かりやすい攻撃はカルマの右手によって弾かれ、左頬を掠めるように空を斬った。

「貴方、バカなの?見え見えの挑発にここまで…。」

 呆れ顔で言うカルマは、途中で言葉を失った。自分の左側に弾いた刀が、今度は右の首筋に向かって振り抜かれていたのだ。

「はあぁぁぁ!」

 振り抜かれる刀は健太の雄叫びと同時に形を変え、対 和海戦で見せた両手剣へと変化した。

「え!?ちょっ……!」

 突然巨大化した健太の刀を見て焦るカルマ。しかし健太の攻撃は、刀の大きさが変わっても速度は衰えず、カルマの首へと襲いかかった。

「……っ!」

 慌てて体を反らし攻撃をかわしたカルマだが、剣に触れていないはずの首に一筋の傷が入っていた。

「なんで…。」

 太い血管を傷つけたのか、カルマの首から大量の血が流れ始める。

「完全に避けたのになんで切れたかって?…これを見てみろ。」
「これは…!?」

 種明かしをするかのように、剣を突き出してカルマに見せる。すると、剣を包むように吹き出していたマナが剣の先端で切っ先と同じような形に変化した。

「俺はこの剣でお前を切ったんじゃない。俺のマナで切ったんだよ。」
「じゃあ、最初に私を切れなかったのは…。」
「ただ単に、刀にマナを注いでなかっただけだ。」

 妖精を宿した武器は、他の武器と比べ物にならない程の力がある。それは、武器の斬れ味や耐久性、武器の重さに対する持ち主への負担の軽減など、色々な能力が備わっている。健太の刀は柚枝の刀の様な属性能力も無ければ、楓の刀の様に斬撃のような形をしたマナを飛ばすことも出来ない。しかし、武器自体の基礎能力が高く、巨大化した刀から繰り出される一撃は数百キロ程にも思える重さがある。だが、その重さでも片手で振り回せるくらい健太への負担は軽減されているのだ。

「巨大化させる前と後では力の差は2倍。そこに、俺のマナを流し込むとさらに倍は変わってくる。おまけに、長さを足した刀の先端にマナを集中させれば、先端だけはさらに威力が倍になる。」
「は…8倍…。」

 悔しそうに目を細め、健太を睨みつけるカルマ。首から流れる血は白い服を真っ赤に染め、細い足をつたい地面に血溜まりを作っていた。ヨロヨロとその場に座り込むカルマの頭上で剣を構え、マナを込め始める健太。

「……。」

 カルマは無言で刀を見上げ、覚悟を決めたように目をつむる。その息は荒く、放っておいてもそのまま力尽きそうなくらい弱っていた。

「…くっ!」

 健太は剣からマナを抜き、元の刀へと戻した。

「な、なんで…。」
「俺ぁ、泣いてる女に弱いんだよ。」

 刀を鞘に戻し、頭を掻きながらボヤくように健太は言う。

「それに、最初から本気でやってればお前の方が明らかに強かった。…違うか?」
「でも、私は貴方をナメてた…。だから、私は…。」

 俯いたまま涙ぐむカルマに、背を向けた健太は辺りを見渡し柚枝や楓が戦っている気配がないかを探した。

「お前が死のうが生きようが、これ以上俺達に危害を加えないのなら俺の知ったことじゃねぇ。それより、仲間が心配なんでねぇ。他の奴の居場所は?」

 顔だけカルマを振り返り健太は問う。しかし、カルマは俯いたまま首を横に振った。

「そうか…。じゃあ、もうお前に用はねぇ。死ぬなり生きるなり好きにしろ。…まぁ、そこから動けたらの話だがな。」

 そう言って歩き出した健太を見て、カルマは自分のポケットから小さな袋を出した。

「……待って。」
「あぁ?まだ何か…。」

 カルマを睨みつけるように振り返った健太の動きが止まる。フラつく足で立ち上がり、カルマは健太の近くまで歩いて来ていたのだ。

「これ…。」
「なんだよ?」
「…回復薬。もしものために持ってたの。貴方に…。」

 袋を差し出すカルマの震える手を、健太はグイッと押し返す。その反動で、カルマの体は後方へと倒れ込んでしまった。

「敵から貰った物を口の中になんか入れるわけねぇだろ?毒かもしれねぇのによ!死ぬんだったらそれ飲んで勝手に死んでろ!」

 仰向けに倒れ込んだカルマに吐き捨てるように告げる健太。しかし、強い口調で言う彼の顔には、どことなく優しい笑みが含まれているように見えた。健太の後ろ姿を見つめるカルマの視界が歪む。

「ありがとう…。本当に…ありがとう…。」

 点を見上げて目をつむったカルマの頬を、一筋の暖かい涙が流れるのだった。
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