アナザーワールド

白くま

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最終決戦編

第二十八話 〘秘めたる覚悟〙

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 攻撃を中断させられた少女は、不満そうに目の前の人物の顔を見た。

「レ、レオン!?」

 そう、二人の間に割って入ったのはアウスブルグから駆けつけたレオンだったのだ。

「マズイな。また増えやがった。」

 蓮と正隆の顔に焦りがではじめる。しかし。

「お待たせしました。蓮さん。」

 程なくして聞こえてきた聞き覚えのある声に、蓮は慌てて辺りを見渡した。

「秋月…。」
「ただいま帰りました。」

 楓は蓮に駆け寄ると腹部の傷に気づき、白に目配せをした。

「じっとしててください。」

 駆け寄った白が蓮の傷口に手を添えると、みるみるうちに傷口の出血が止まっていく。

「私は傷を治すことは出来ませんが、止血と鎮痛程度なら何とか出来ます。」

 あまりの手際の良さに、その場に居た全員が白の手元に一瞬見とれていた。しかし、いち早く我に返ったのは正隆だった。

「秋月。色々と聞きたいことがあるんだが、まずこの状況から説明してくれないか?」
「はい。実は…」

 楓はアウスブルグであったことを全て話し、ここに居る吸血鬼とは戦わなくていい事を町中に知らせた。
その夜は総隊長と正隆、警務隊の中でもトップの戦力を誇る遠征局と、元・吸血鬼軍のトップ戦力であるレオン達で会議が開かれた。吸血鬼側から得られた情報によると、戦力として今吸血鬼側に居るのは柚枝とレオン達があの方と呼んでいる男の二人だけだという。レオン達曰く、数は二人でもその二人が組めば元・吸血鬼軍が束になってかかっても手も足も出ないとの事だった。

「でも、所詮は2人だろ?」

 健太がレオンに問う。しかし、苦虫を噛み潰したような表情でレオンは首を横に振った。

「すぐに一人になると思う。」
「どういう事だよ!?」

 レオンの一言に、警務隊の面々は驚愕した。しかし、吸血鬼側は誰一人として顔色を変えない。という事は、他の全員はレオンの言った言葉を理解出来ているのだ。

「そのままの意味。あの方は、ユリエルの強大な力を自分の物にして、この世界を滅ぼすつもりなの。」
「なんだと!?」

 思わず楓は頭を抱える。異世界ファンタジーによくある展開だった。だが、その鍵となるのがまさか柚枝だったなんて思ってもみなかったのだ。

「あの方とユリエルが合体したら、恐らくアンタ達人間と協力して戦ったとしても勝てない。」
「でも、やらなきゃどうせ滅ぼされるでしょ?」

 楓の問いに力なく頷くレオン。全員の表情が暗くなる。何かいい方法はないかと必死で考える楓の頭に、1つの可能性が浮かんだ。楓は誰にも気づかれないように腰の刀を少しだけ抜く。

(ねぇ。做夜?)
【なんじゃ?】
(ひとつ聞きたいことがあるんだけど…。)

 目の前で進められる会議に耳を傾けながらも、バレないように自分の中で做夜との話も進める。

(做夜って、レオン達が言ってるあの方って知ってたりする?)
【あぁ。知っておるぞ。彼奴あやつがどうかしたか?】

 ビンゴ!と心の中でガッツポーズをしながら、楓は更に做夜に問いかける。

(この前做夜が偽物を作った柚枝なんだけど…。)
【あの吸血鬼がどうかしたか?】
(柚枝が吸血鬼だって最初から知ってたの?)
【あぁ、わしがまだ吸血鬼だった頃によく力比べをしたからのう。】
(力比べ…。)
【そうじゃ?まぁ、ユリエルが勝った試しは一度も無いがのう。】

 そう言うと、做夜は愉快そうに笑った。柚枝に一度も負けたことが無い…。楓の頭の中でその言葉が何度も響く。

(ねぇ?私と做夜が全力で力を合わせて、柚枝と合体したあの方に勝つ事って出来ると思う?)
【アンロックとユリエルが合体ねぇ。まぁ、一概には言えんが、恐らく今のままでは勝てんじゃろうな。】

 歯切れの悪い言い方だが無理だと言う做夜。しかし、楓が気になったのは。

(待って。今、アンロックって言った?)
【あぁ。お主があの方と呼んでおる者の名前じゃよ?】
 
 ふと会議の方へ意識を向けると、做夜の説明と同時に会議中のレオンの口からもアンロックという名前が出てきていた。これで、この話に関しては何も考えずにみんなと話ができると判断した楓は次に、アンロックという男を倒すためにはどうすればいいかを做夜に聞いた。すると、做夜はしばらく黙り込んだ後、静かに口を開いた。

【方法がない訳では無い。】
(なんでもいいの。その方法って?)
【ここでは話せん。晩にでも自室で一人になった時にゆっくり話そう。】

 それ以降、做夜は黙り込んでしまった。
 楓は仕方なく刀を鞘にしまい、会議の方へ意識を集中させた。
 その後、吸血鬼の精鋭メンバーの紹介で蓮や正隆と戦っていた少女の名前がシャーロット・クローリーだという事、そして、シャーロットの能力は手にまとったマナを刃のようにとがらせ、触れたものを切り裂く能力であるということが会議に参加した全員に知らされた。そして、警務隊からの公開情報として、遠征局の二つの部隊のメンバーの顔と名前が吸血鬼の精鋭メンバーに伝えられた。
 第一部隊のメンバーは、蓮、楓、健太、彩夜、和海の五人。第二部隊のメンバーは、三神悠祈みかみゆうき逆巻希さかまきのぞみ新井千紅沙あらいちぐさ獅噛瑞姫しかみみずき、そして入隊初日に訓練所で蓮と戦っていた橘健弥の五人だ。健弥以外のメンバーとはほとんど面識がない楓だったが、各部隊の隊長が指揮をとり、部隊としての区分けはそのままにする方針だということで、皆も問題ないと判断した。
 ある程度顔合わせも済み自室に帰った楓は部屋の鍵を閉め、刀を抜いて做夜に声をかけた。

(さっきの続きなんだけど。)
【あまり気は乗らんのだが、本当に話してもいいんだな?】
(そんなに難しい話なの?)

 楓の問いに做夜からの返事は無かった。

(いいわ…、話して。)
【分かった…。では、初めに……お主、人間をやめる覚悟はあるか?】
(…え?)

 做夜の言葉に一瞬耳を疑う楓。しかし、冷静になって考えてみる。異世界ファンタジーによくあるような話で、この流れから察すると…。

(まさか…、私が吸血鬼になる…とかじゃないよね?)
【そのまさかじゃ。】

 楓の予感はどうやら的中したようだ。

【完全な吸血鬼になる訳では無いが、わしと特別な契約を結んでお主に吸血鬼としての力を譲渡するという方法がある。】

 做夜の言葉を整理すると、做夜との契約を結べば楓は半吸血鬼になり、人間と吸血鬼の力を合わせた強力な力を得ることが出来るという事だ。しかし、恐らくこの方法にはいくつかのデメリットがある。

(そんな事、ノーリスクで出来るはずないと思うんだけど?)
【ご名答。この方法には、いくつかのリスクがある。】
(まず、それを聞かせて?)

 いくらメリットが大きくても、デメリットが致命的であれば元も子もない。楓は生唾を飲み、做夜の言葉に耳を傾けた。

【まず一つ目は、一度この契約を結べば二度と元に戻すことは出来んという事。】

 1つ目のデメリットが告げられた。しかし、これは最も小さいデメリットと言えるだろう。この手の契約が破棄できないというのは、どの話でも出てくるような定番のリスクだ。

【二つ目は、人間としての生活を捨てるという事じゃ。】

 做夜は淡々とリスクを告げる。しかし、二つ目のリスクも今のブリンゲルの状況を考えればそんなに大きなリスクでもない。楓の心には少しばかり余裕が出てきていた。

【三つ目は、吸血鬼と同じく血を飲まないといけないということじゃ。】

 ここで初めてリスクと呼べるものが出てきた。恐らく、吸血鬼同士で飲み合っても意味が無いだろうから、こればっかりは人間の協力者が必要だ。しかし裏を返せば、人間の協力者を用意出来れば、この点もクリア出来るということになる。

【そしてこれが最後じゃが、死んだ時に体が残らないということじゃ。】

 做夜の言葉に一瞬、楓の頭の中に?が浮かぶ。しかし、それに似た現象を楓は過去に目にしているのだ。

(内の世界で柚枝が死んだ時に光になって消えたような…、あんな感じになるって事?)
【そうじゃ。吸血鬼は皆死んだ時に体から血液が蒸発し、それによって形を保てなくなった肉体は塵となって消滅するんじゃ。人間には有り得ない悲しい最後を迎えることになる。】

 楓はしばらく黙り込み、情報を整理する。しかし、楓はすぐにあることに気づいた。

(これ…。三つ目以外そんなに大きなリスクじゃないよね?)

 今のこの状況と楓の価値観で考えると、提示された四つのリスクには殆ど楓を苦しませる要素が含まれていなかったのだ。

【お主、正気か!?人間としての生活を捨てる上に、死ぬ時は消滅するのじゃぞ?】
(それがそんなに辛い事?もちろん、明日にでもこの話をしてみんなの協力が得られる事を確認した上じゃないと出来ない事だけど、逆に協力して貰えるならなんともない条件ばかりじゃない。人間としての生活を捨てたとしても仲間は仲間だし、死ぬ時だって、燃やされれば結局体なんて残らない。印象の違いだけで、基本的には何も変わらないと思う。)

 楓ははっきりと力強い口調でそう言った。

(これが、契約をした途端自我をなくして暴れ回るとか、味方を敵視するようになるとかだったら絶対ダメだと思うけど、そんな事ないんでしょ?)
【そんな事は起こらないが…。】
(なら全然大丈夫じゃない。)
【……。】

 予想していた反応と違ったからか、黙り込む做夜。しかし、楓はそんな事は気にせず、続けて做夜に言った。

(私ね…。実はあなたにまだ言ってないことがあるの。)
【な、なんじゃ…?急に…。】

 突然の言葉に戸惑う做夜。

(私、本当はこの世界の人間じゃないの。私は元々別の世界で生きてた。それがある日突然、家に帰ったら知らない手紙が置いてあってね。その紙の内容を読んだ瞬間、急にこの世界に飛ばされたわけ…。)

 急に始まったとても信じられないような内容の身の上話だが、做夜は黙って聞いていた。

(初めは戸惑ったよ。右も左も分からないし、この世界の文化も分からない。車もなければ携帯もないのに、船はあるし魔法なんてものまである。全く知らない世界で初めて足を踏み入れたのがこの街だった。それで、初めて出来た友達が彩夜さんと柚枝だったの。)
【そうじゃったか…。】

 相槌を打つ做夜の声には一切疑っているような様子はなく、楓の言葉を心から信じているようだった。

(疑わないの?多分、做夜にとって理解出来ないような事を言ってると思うんだけど。)

 楓はスクリと笑いながら静かに聞いた。

【自分の主の言葉を疑ってどうする?それに、これまでのお主の会話は、どこかわしに距離を置いたような話し方をしておったが、今の言葉にはそれが無かった。やっと心を開いてくれたというか、飾りっけのない素直な言葉を聞けた感じがしたのじゃよ。】

 做夜の言葉を聞いて、楓は前に柚枝にも同じような事を言われたのを思い出し、自然に笑いと同時に涙が溢れてきた。

(做夜…。お願い。どうしても柚枝を助けたいの…。柚枝が自分から向こうに行ったなんて私には信じられない。きっと何かあったんだと思う。)
【じゃろうな。わしもその点はお主と同意見じゃ。】
(だから、もしこの状況をどうにかする力を持っているなら…、その力を私に貸して欲しい。その為だったらなんでもする。)

 楓の涙ぐみながらも力強い言葉に、做夜は短くため息をついた。

【分かった。お主の望みは、わしの力の及ぶ範囲であればなんでも聞こう。】
(ありがとう…!)
【ただし!明日、みんなの同意を得ることが条件じゃ。お主一人の考えで皆を危険に晒すわけにはいかん。】
(分かった。)

 その夜はしばらく眠りにつけなかった。目を瞑ればすぐに柚枝の顔が頭に思い浮かぶのだ。本当に寝ている暇はあるのか、今のうちに何か手は打てないのか。様々な事を考える間に、気づけば時間は夜中の二時を過ぎていた。自分一人で焦っても仕方がない。しばらくして少し気持ちが落ち着いた楓は、翌日に備えて無理矢理にでも眠りにつくのだった。
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