アナザーワールド

白くま

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最終決戦編

第四十話 【友との別れ…。】

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 アンロックの実験室に鋭い金属音が響き渡る。お互いに相手の体を傷つけないように気を付けながら刀を振っていた。しかし、手を抜いて戦っていることなどアンロックは既に見抜いている。

「つまらんな。もっと俺を楽しませろ。」

 アンロックが呟く。しかし、二人とも本気で戦うことは出来なかった。

「やれやれ…。仕方ねぇな。」

 アンロックは立ち上がるとクローンの首に刃を押し当てた。

「ユリエル!本気を出してそいつを殺せ。そうしたら、お前の命は助けてやる。それだけじゃない。クローンとオリジナル二人揃って俺の側付きにしてやってもいい。どうだ!悪い話しじゃないだろう?」
「誰がそんなこと…。」
「でないと、こいつの首をはねるぞ?」

 クローンの首筋をアンロックの刀が傷つける。

「わ、私の知った事じゃないわ。だいたい、その子は私の偽物でしょ?その子が死のうがどうしようが、私には関係ないわ。」

 一瞬、動きの止まったユリエルだったが、我に返ると強い口調で言い返した。

「それもそうか…。ならこのボタンを押すと言ったら…。」
「押したいなら押せばいいじゃない。」
「なに!?」

 ユリエルの思いがけない反応にアンロックが驚く。

「分かっているだろう?こいつを押せばこの世界は…。」
「そんなことは分かっているわ!でも、それはあくまで最後の手段であって、あなたも極力使いたくはないはずよ。なにせ、自分ごと滅ぼす捨て身の手段なんだから。」

 ユリエルの言葉にアンロックの動きが止まった。そう、アンロックの目的は自分以外の者を自分の作ったクローンと入れ換え、歯向かう者の居ない世界に作り替えるというもの。アンロックが持つリモコンのボタンは、その計画ごと全てを無にしてしまうものなのだ。

「あなたにとってやりたくない事を私達への脅しに使うのはあまりいい案だとは思わないのだけど?」

 今度は開き直るように、少しずつ挑発するユリエル。すると、大きくため息をついた後、アンロックは刀をクローンの首元から離した。

「これだから頭のいい奴は嫌いなんだよ…。」

 ブツブツと文句を言いながら冷蔵庫の様な機械の扉を開け、中から注射器を取り出すと再びクローンの元へと戻り、その首に針を突き刺した。

「うぐっ…!」

 突然の痛みにクローンが顔をしかめる。しかし、そんな彼女を無視するかの様に、注射器によって中身の赤い液体が彼女の体の中へと注入されていった。

「………。」

 赤い液体が全て注入され、首から針が抜かれた後、しばらくクローンは動かなかった。

「一体…、何をしたの?」
「見ていれば分かる。」

 楓の問いに短く答えるアンロック。すると、ビクンっ!を脈打つように体を震わせ、クローンの体が再び動き出した。

「大丈夫か?ユリエル。」
「えぇ。大丈夫よ。」
「「!?!?」」

 クローンの返答に、楓達は目を見開いた。

「今の返事って…。」
「えぇ。私と全く同じ口調になってる。」

 そう、今までのクローンの言動にはどこか機械感があり、ユリエル本人とは全く違うものだった。しかし、今のクローンにはそれがなく、言葉を発しても偽物と気づく者は居ないと思えるほどだった。

「改めて言う。そいつを殺して俺への忠誠を誓え。でないと、こいつをお前達の仲間の元へと向かわせ、一人ずつ殺させる。」
「くっ……!」

 クローンと対峙した二人なら分かる。このクローンに勝てる者はあの中にはいない。もし、アンロックがクローンを向かわせてしまえば、確実に皆殺しにされるだろう。

「……楓。」

 もう、自分ではどうしていいか分からず、涙目で訴えかけるユリエル。しかし、楓はそんなユリエルに迷いのない真っ直ぐな視線を向け小さく頷くのだった。

「ねぇ。親友との別れなんだから少しだけ時間をくれない?今まですごくお世話になったんだからお礼とか言いたいしさ…。」
「チッ…!じゃあ、少しだけ待っててやる。その代わり、ふざけた真似をすれば、即座にこいつをあそこへ向かわせる。」
「えぇ。分かってる。」

 楓の言葉に返事をすると、アンロックは気を利かせたのかクローンを連れて少し下がり、楓達と距離をとった。

「か、楓…、まさか…。」
「うん。ここはあいつの言う通りにするのが一番いいと思うんだ。だから…。」
「ダメよ!だって…、それって……。」

 思わずユリエルは声を荒げた。それもそうだ。楓はアンロックの言うことに従って、ユリエルに自分を殺せと言っているのだから。

「でも、そうしないともっとたくさんの犠牲が出て…。」
「どのみち結果は同じよ!楓が死んでも、あいつは私以外の全てを入れ換える!」
「……。」

 楓は小さく頷いた。

「私…以外……。」
「そう…。」

 楓はユリエルに抱きつき、アンロックには聞こえないように小さな声でそっと何かを囁いた。

「…。」

 楓の囁く言葉をうつむいたまま、ただ黙って聞くユリエル。

「そんな事…私には出来ない…。」

 ユリエルも小さく呟く。しかし、その後の楓の言葉を聞くと、再び黙り混んでしまった。
 しばらくの間ユリエルは、ただ黙ったまま楓の言葉を聞いていた。その目からはうなずく度に涙がこぼれ、頬を伝って地面に落ちた。

「柚枝。お願い…。私の最後のわがままだから…。」
「…分かった。」

 楓の言葉にユリエルは力なく頷くと、アンロックに聞こえるよう大声で突然笑いだした。

「それもそうね!どっちの味方につけば得するかなんて、少し考えれば簡単に分かることじゃない!」
「ゆ、柚枝?」

 驚く楓を無視して、ユリエルは刀にマナを込めた。

「アンロックの事は気に入らないし、あなたを殺すのだって嫌。でも…死ぬのが一番嫌なの。だから、自分勝手だけど…あなたを殺してアンロックの元へ帰るわ。」
「そんな…。私達、仲間じゃ…。」
「私だってこんな事したくないの!でも…こうしないと私まで…。」

 震えた手で刀を構えながら、怯えたような目で楓を見るユリエル。そんなユリエルの両肩を掴んだ楓は、必死に訴えかけた。

「柚枝!しっかりして!アンロックの言葉になんか惑わされないで!私達二人が力を合わせればどうにか…。」
「無理よ…。無理に決まってるじゃない!あっちはボタン一つで全てを消し去れるのよ!私達二人で攻撃なんかしたら、一瞬でボタンを押されて全てが無くなるわ!」

 楓の手を振りほどき、二、三歩離れたユリエルは、アンロックの方へと少し振り返ると確認するように聞いた。

「ねぇ?楓を殺せば私は助けてくれるのよね?」
「あぁ、お前が俺に忠誠を誓うのならな。」
「えぇ、誓うわ。そんなことで命が助かるのなら安いものよ。」
「柚枝!」

 あまりの急変に、思わず楓が叫ぶ。しかし、足を一歩踏み出そうとしたその時、ユリエルの刀の切っ先が楓の喉元に突きつけられた。

「これが私の本性よ。どう?幻滅した?楓は私の事いい人だって思ってくれてるみたいだけど、本当のところは、自分が一番大事なの。」
「そんな…。」

 一歩、また一歩と後ずさる楓を、刀を突きつけて追い込んでいくユリエル。やがて壁まで追い詰められた楓は、完全に逃げ場を失ってしまった。

「イヤ…。やめてよ!こんなこと…。」
「楓…、ごめん。私にはもうこの道しか残ってないの。」

 刀の切っ先が楓の喉から胸へと移動する。そして一呼吸おいた後、ユリエルの刀は楓の体を一気に貫いた。

「うぐぅ…!!!!」

 楓の呻きにも似た悲鳴が部屋中に響き渡る。力なくもたれ掛かる楓の体を抱き起こし体から刀を引き抜くと、傷口からは大量の血が吹き出し見る見るうちに二人の足元は血の海と化した。

「楓…。」

 血まみれの刀を持ったまま、楓を見下ろすユリエル。

「柚…枝……。ありがと。それと…ごめんね……。」
「ううん…。私こそごめん…。こんな…。」

 ユリエルの目には涙が浮かび始める。

「泣かないで…。アンロックにバレちゃう……。」
「…うん。」 

 ユリエルは拭くことなく、なんとか涙を堪える。

「けほっ!けほっ……!」
「…楓!」
「ダメ…。今の私達は…敵同士なんだから、心配するのは……おかしいでしょ…?」

 胸を貫かれた楓は、途切れ途切れに話した。しかし、その口から発せられる言葉は、声と言うにはあまりにも弱々しく、ほんの数十センチしか離れていないユリエルですら、聞き取るのがやっとだった。

「ダメだ……。目の前が…掠れてきちゃった…。も、もう…、柚枝の綺麗な顔も…全然見えないや……。」
「楓……。」

 楓を抱くユリエルの力が強まる。

「…今までありがとう。後は…、まかせるね……。」
「おい!いつまでチマチマやっている!早くトドメを刺せ。」

 焦れたアンロックが後方から怒鳴る。しかし、ユリエルは振り向くことなく、アンロックには見えないように楓の頭をそっと撫でた。

「おい!聞いているのか!?」
「聞いてるわ。大丈夫。今、終わったところよ。」

 楓の体をそっと地面に下ろし、振り返るユリエル。

「まさか貴様、何か企んでいるわけじゃないだろうな?」
「まさか。親友に止めを刺すのに、少し躊躇しちゃっただけよ。まぁ、放っておいたら勝手に死んじゃったけどね。」

 刀を振って血糊を落とすと、腰の鞘に刀をしまいアンロックの元へと歩き出すユリエル。

「まだ信用ならんな。」

 眉間にシワを寄せ、ユリエルとすれ違うように楓の元へ歩み寄ったアンロックは、ピクリとも動かない楓の首筋に手をあて、脈が完全に止まっていることを確認するのだった。
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