アナザーワールド

白くま

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最終決戦編

第三十九話 【アンロックの企み】

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 楓の視界が血しぶきで真っ赤に染まる。

「……え?」

 痛みを感じない事に一瞬戸惑い、一呼吸おいて我に返った。そう、ユリエルの刀によって切り裂かれたのは、アンロックの体の方だったのだ。

「何の真似だ…、ユリエル…!」
「私もナメられたものね。同じ術に二度も引っ掛かる訳ないでしょ!」

 よろめきながら二人から離れるアンロックに刀を向けるユリエル。

「騙していたのか…。」
「だから言ったじゃない。私にはちゃんとした名前があるって。もしかして楓に言ったと思ってるの?」

 よろめきながら二人から離れるアンロックに刀を向けるユリエル。

「私は警務隊遠征局第一部隊所属、一条柚枝。あなたの敵よ!」
「…クソっ!」

 きびすを返してその場から逃げ出すアンロックを二人で追いかける。迷路のような廊下を右へ左へ逃げ回るアンロックだが、傷口からの出血が後から追う楓たちの道しるべとなっていた。

「この先は…。」

 アンロックの後を追いながら、ユリエルは険しい表情を浮かべていた。

「どうしたの?」
「この先にあるのはアンロックの実験室なの。もしかすると何か隠しているのかもしれない。」

 話をしながら目の前の角を曲がると、アンロックが突き当たりにある部屋の扉を開け、中に入っていくのが見えた。

「あそこよ。」

 二人も後を追って中に入る。

「な、何これ…?」

 二人が入った部屋の中には、縦長の水槽のようなものがいくつも並んでいた。そして、その奥…アンロックの背後には、真っ黒で巨大な球体が不気味な光を放っている。

「あーあ。本当は使いたくなかったんだけどなぁ…。お前たち二人を相手に俺一人じゃあ、どう頑張っても勝てねぇだろうからなぁ…。最後の手段を使うことにした。」
「最後の手段?」
「俺の部下も全員やられた。残るは俺だけだ…。しかも、そんな俺もこんな状態じゃあお前達にやられるのも時間の問題だ。だから…。」

 アンロックは、独り言のように呟くと、机の上の端末を操作し始めた。

「動くな!」

 アンロックの行動を阻止しようと構えをとった二人にアンロックは叫んだ。

「ここで動いてもお前達にメリットはないぜ?」

 そう言ってもう一つの端末をチラつかせてニヤつくアンロック。

「こっちのリモコンは後ろの球体のものだ。俺がこのボタンを押せばこいつは徐々に自壊を始め、最終的には大爆発を起こす。」
「「!?!?」」

 アンロックの言葉に、二人の背筋が凍りついた。

「ちなみに教えておいてやろう。こいつが爆発すればこの世界はおろか、人間界も跡形もなく消えるだろう。」
「そ、そんな…。」

 二人はその言葉で今までのアンロックの言動にどこかしら余裕が感じられた理由に察しがついた。アンロックには、この世界を無に返す程の力がある。自分の身に危険が及ぶと、それを盾にすることが出来るのだ。実際、その効果は絶大で、楓達は刀から手を離すしかなかった。

「いい子達だ。そのまま大人しくしていれば、お前達の世界が無くなることはない。」

 そう言うと、アンロックは再び端末を操作し始めた。

「こんなことをして、何が目的なの?」
「目的?あぁ、お前には話していなかったな。」

 ユリエルの問いにクスリと笑って答えると、アンロックは楓達の後ろを指差した。

「お前達がここに入ってきた時に、水槽のような物があっただろう?」
「えぇ。」

 アンロックの動きに警戒しながら答える。

「中身は何だと思う?」
「あれだけ黒かったら中身なんて見えないし、検討もつかないわ。」
「それもそうか…。」

 アンロックは端末を持ったまま歩きだし水槽の近くまで行くと、端末のボタンを押した。

「こ、これってまさか…!?」

 次第に黒い水が透明になり始め、水槽の中身が姿を現す。しかし、楓達が目にしたのは、自分達の想像を遥かに超えるものだった。

「わ、私が…。」

 そう、水槽の中で水に沈んでいるのは、どこからどう見てもユリエルの体だったのだ。

「まさか…クローン?」
「大正解!これは、俺がユリエルの体から抜き取った遺伝子で作ったクローンだ。」

 水の抜かれた水槽から、一糸纏わぬ姿で出てきたユリエルのクローン。

「おはようございます。マスター。」
「おはよう。気分はどうかな?」
「問題ありません。」

 まるで感情を無くしているかの様に淡々と答えるクローン。ユリエルとは似ても似つかない言動だが、体から溢れるマナは紛れもなくユリエルのものと同じだった。

「マスター、この方達は?」
「あぁ、そいつらは俺達の敵だよ。」
「敵…。」

 クローンとユリエルの目が合う。

「あなた…、私に似ている…。」
「そりゃそうよ。あなたは私から作られたんだもの。」
「私が…あなたから?」

 不思議そうに首をかしげるクローンに、アンロックが怒鳴りつける。

「何をしている!早くそいつらと戦え!」
「はい…マスター。」

 戸惑っているように見えたクローンだったが、アンロックの命令を聞いた途端その顔からは戸惑いの色が消え、再び無表情に戻った。

「試作クローン001号機。マスターの命により視認した敵二名との戦闘を開始します。」

 小さく呟いた途端、クローンの纏うマナが数倍に膨れ上がる。そのマナはユリエルのマナを遥かに凌ぐ量だった

「何なの!?」
「こいつはお前のクローンだが、お前とは違う性格を持っている。それは、俺がこいつを作るときにそう仕組んだからだ。つまり、こいつの中身は俺が自由に作れるってことだ。なら、戦闘用に作ったこいつのマナをオリジナルよりも強化して作るのは当たり前だろう?」

 自慢げに離すアンロックを他所に、クローンが二人に襲いかかる。

「つ、強い…。」

 遥かに強くなっている二人の戦闘力でも、クローン一人の相手をするのに精一杯で、アンロックにまで気がまわらない。 

「よそ見出来るほど余裕なんですか?」
「きゃっ!」

 アンロックに視線を移した一瞬の隙を突かれ、クローンの蹴りによって楓の体が吹き飛ばされる。

「楓!」
「あなたも…隙だらけです。」
「ぐふっ!」

 吹き飛ばされた楓に一瞬気をとられ、ユリエルも強烈な攻撃を食らってしまった。

「……!?。……ねえ?嫌なものが見えたから、ひとつ聞いてもいい?」
「なんだ?」
「まさか…既にこの水槽全てにクローンが入っている訳じゃないよね?」

 楓は、自分が激突した水槽を指差して聞いた。

「誰か入っていないと言ったか?」

 当然の事のようにアンロックが答える。

「だが、安心しろ。今の段階で動かせるクローンはこのユリエルのクローンだけだ。」

 そう言うと、アンロックは水槽用の端末を机の上に置いた。

「何度か実験に失敗してな。お前達との戦いに間に合ったのはこいつだけだ。だが安心したぜ。こいつ一人でお前達二人を相手にしても遅れをとっていないなんてな。」

 アンロックは喜びを噛み締めながら、一糸纏わぬ姿のクローンを見下ろした。

「ねぇ?いい加減その子に何か着せてくれる?いくらクローンって言っても、自分と全く同じ姿の人間が全裸で目の前に居たら、こっちまで恥ずかしいのだけど。」
「いいじゃねぇか、減るもんでもあるまいし。それに、こっちの方が見ごたえがある。」
「…最低。」

 クローンの体を舐め回す様に見つめるアンロックに、ユリエルは思わず身震いをした。

「最低だと?はぁ…。これだからオリジナルは…。」

 アンロックはためため息をつくと静かにクローンに歩み寄り、細くくびれた腰、豊満な胸、更には秘部へと順に手を伸ばした。

「ほら、俺が触れても抵抗せずに受け入れる。こんな事お前に出来るか?ユリエル。」
「冗談じゃない!好きでもない奴に触られて抵抗しない人なんて居る訳ないでしょ!」
「そう!それがオリジナルのダメなところなんだよ。弱者は強者の言うことを何でも聞くべきなんだ。それが自分にとってどれだけ苦しいことであっても、強者の命令は絶対なんだ!」

 アンロックが声を荒げる。

「俺がユリエルのクローンを最初に作った理由を教えてやろうか?」

 今度はクローンの首を両手で掴みながら、次第に力を込めていく。

「それは、お前が俺を裏切ったからだ!お前だけは信じていた。いつも俺の命令を忠実にこなし、歯向かうどころか意見すらしない。そんなお前の忠誠心を俺は信じていた!」

 叫びながら首を絞める力をどんどん強めていくアンロック。

「やめて!でないとその子が死んじゃう!」
「五月蝿いっ!お前は…お前だけは信じていたのに…。」

 ユリエル言葉など聞かず、更に首を締め上げる。ついに、アンロックの力でクローンの体が浮き上がり始めた。

「ア、アンロック…様……。わ…たしは、何か……、間違えたことを、したのでしょうか?」

 首を締め上げられてもなお抵抗することなく、クローンは途切れ途切れに質問をした。

「ほら見ろ!主に殺されそうになっても抵抗しない!これこそが真の部下ってやつなんだよ!」

 クローンを投げ捨てるかのように放ると、ユリエルの目を見てそう告げる。

「げほっ!…ごほごほっ……!」

 喉を押さえて咳き込むクローンを見下ろしにやけるアンロック。その姿を楓とユリエルは嫌悪感に満ちた目で睨み付けていた。

「俺の計画はこの世界のリセットだ。」
「リセット?」
「あぁ、この世界に居る人間も吸血鬼もみんな出来損ないの失敗作ばかりだ。気に入らないことには歯向かい、命令すらも無視をする。挙げ句の果てには裏切りだと!?ふざけるな!俺を誰だと思っている!俺がこの世界の頂点なんだっ!俺こそが絶対なんだっ!だから、この世界の者を全て俺の作ったクローンと入れ替える。そうすれば、もう俺に歯向かう様なふざけた奴は居なくなる!」

 全身からマナを放出し叫び散らすアンロック。ユリエルも、ユリエルのクローンもアンロックが放出するマナの重圧に押さえつけられ、言葉を発する事も出来ない状態だった。しかし、そんな中楓だけはそのマナを押し返し、アンロックに叫び返した。

「ふざけてるのはあなたの方よ!アンロック!何が強者の命令は絶対よ!命令を無視した?裏切られた?そんなのあなたの器がそれまでだったって話じゃない!本当に慕われるべき上官ならそんなことは起こらなかったはずよ!」
「なにぃ…?」

 楓の言葉に、さらにいらだち始めるアンロック。しかし、楓の言葉はまだ終わらない。

「少なくとも私は、自分の下心で部下の体に手を出したり、部下の首を絞めたりする上官の下でなんか働きたくもないし、一緒の空気を吸うだけでも嫌よ!」

 楓の体をいつのまにかマナが取り囲み始める。攻撃を仕掛けようとした訳ではないが、高ぶった感情が無意識にマナを溢れさせたのだ。

「散々好き勝手言っているが忘れたか?俺のこのリモコンひとつでお前達もこの世界も無くなるってことを。」

 アンロックがリモコンをチラつかせる。その行動で楓は我に帰り、自分のマナを抑え込んだ。

「クククッ…、そうだ。それでいいんだよ!お前達はどう頑張っても俺には勝てない!俺こそが絶対的な強者なんだよ!」

 アンロックはそう言うと楓達に歩み寄り、顔に息のかかる程の至近距離で呟いた。

「死にたくねぇんだろ?この世界を守れるのは自分達だけだって思ってんだろ?だったらそのチャンスが来るまで俺だけには歯向かわない方がいいだろ。」

 至近距離で視線を合わせたまま、リモコンから伸びる細いアンテナを楓の胸に押し当て挑発するアンロック。

「お前…、小さいとは思っていたが、本当に胸小さいな…。」
「ほ、放っておいてくれる?」

 歯向かえば何をされるか分からない恐怖と、ボタンを押させてはいけないという使命感で拒む事すら出来ない楓に、アンロックは更に呟く。

「そうだ…。いいことを考えた。」

 アンロックはクスリと笑うと楓達から離れ、机の側にある椅子に腰かけると、とんでもないことを言い出した。

「お前ら二人、俺の前で殺し合いをしろ。」
「「!?!?」」

 楓達はお互いの目を見て固まる。

「ただ俺の手で殺すだけだとつまらんからな。どうせなら、お前達で殺し合ってもらえると俺としては手間も省けて楽しめる。一石二鳥ってやつだ。」

 楓達は心の奥で最低だと思いながらも、アンロックの命令に従うしかなかった。
 しばらく沈黙した後、何かを悟った様にユリエルの方へ向き直った楓は、腰の刀を引き抜き再びユリエルと対峙するのだった。
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