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第二章 思い出の鈴 其の三
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佐武親子との会談の翌日、近藤と土方は、親子の警護を新選組に任せて欲しいと亀井に改めて申し出た。だが、その任務はすでに見廻組に申し渡された後だった。
亀井によると、それは見廻組組頭佐々木只三郎からの提案だったらしい。
会津藩の剣術指南役である佐武要蔵は藩の重臣であり、滞在中の警護は見廻組が務めるのが筋……と、佐々木が強く進言したらしい。
理由はもっともであるが、またしても佐々木に先手を打たれた形になり、近藤と土方は釈然としなかった。
京都遠征隊が絡むと必ず佐々木が現れ、先回りして全てを囲い込む。まるで、新選組が足を踏み入れるのを拒むかのように……近藤と土方は、佐々木への不信感をますます募らせた。
そんな中、新選組の屯所にひなたが訪ねてきた。
見廻組の護衛がついていたが、ひなたはここでお待ちく下さいと丁寧に頭を下げ、応対に出た沖田に、近藤と土方への面会を申し出た。
「あなたがひなたさんですか。僕は一番隊隊長の沖田総司です。近藤さんと土方さんからお話はうかがっています。さあ、どうぞ」
沖田は気さくな笑顔を向けてひなたを部屋に通し、近藤と土方を呼びにいった。
ひなたは、三人が揃ったところで改めて挨拶し、遠慮がちに口を開いた。
「あの……私たちを助けてくださった方は、その後わかりましたでしょうか?」
わざわざ屯所まで訪ねてくるとは、よほどその人物が気になるらしい。
土方は慎重に答えた。
「その件ですが、調べたところ組の中に該当する者はいませんでした」
「本当に……?」
「はい」
これは土方達が前もって相談した答えだった。
はじめは、助けたのは沖田ということにするつもりだった。だが、現場の状況を知らない自分では彼女と話した時に辻褄が合わなくなるかも知れないと沖田が拒んだ。ならば、何者かわからないということにしておくのが一番よいと意見がまとまったのである。
「その人物は新選組の羽織を着ていたという話ですが、辺りはかなり暗かったはず。あなたも意識が朦朧としていたというし、見間違えたのでは?」
「そうですね……」
ひなたは土方の説明に一応うなずいたが、納得し切れない顔つきで
「ですが……」
と言いかけて口ごもった。
「何です?」
と沖田が尋ねると、ひなたは言いにくそうに口を開いた。
「あ、いえ、すみません。その方が新選組の方なら確かめたいことがあったのですが……いないのであれば、聞いても仕方ありませんものね」
「いいですよ。何でも話してください」
そういって笑う沖田にホッとしたのか、ひなたは続けて言った。
「私、その方が私の名をどうして知っていたのか気になって……」
「!」
三人は思わず目を見合わせた。
「気がついた時、私の名を呼ぶ声が聞こえたんです。それで声のする方を見たら、その方が立っていて……」
土方は、先日の会談で彼女がまだ何か話したいことがありそうだったのを思い出した。それはおそらくこのことだったのだろう。
ひなたに遭遇した壬生狼が思わず名を呼んでしまったのは想像できる。迂闊なことをすると思ったが、彼の気持ちもわからなくはない……土方は壬生狼の動揺を察しつつ、ひなたの疑問にどう答えるべきか頭をめぐらせた。
土方達が黙っていると、ひなたが再び口を開いた。
「でも、それも気のせいかも……。意識が朦朧としていましたから、羽織を見間違えたように、声も聞き違えたのかも知れません」
ひなたは寂しそうにうつむいた。
惹かれ合いながら遠く離れ、再会を誓った透志郎とひなた……二人は確かに再び出会うことができた。だがそれは、異形と化した壬生狼にとって決して喜べるものではなかった。
おぞましく変貌した姿をひなたに晒すことはできない透志郎、そして愛する人を目の前にしながらそうと知ることができないひなた……求める相手を目の前にしながらすれ違う二人の悲劇に、近藤と沖田、そして土方は心を痛めた。
◯
「御無沙汰しております、佐武殿」
そう言って、佐々木只三郎はうやうやしく頭を下げた。
「お主が京都見廻組組頭として容保様に仕えておるのは我がことのように嬉しい。お勤め大義でござる」
佐武要蔵は、旧知の仲である佐々木に労いの声をかけた。
佐々木は、幕府の武芸訓練機関である講武所の剣術指南を務めたことがあるほどの武芸者だが、その佐々木が若き頃に剣術の手ほどきを受けたのが佐武要蔵である。言わば師弟のような間柄だ。
数年ぶりの再会となる二人がいるのは、小料理屋の一室である。佐武から内密に話があると持ちかけられた佐々木は、馴染みの店で師を迎えた。
はじめは酒を酌み交わしながら互いの近況などを話していたが、要蔵は頃合いを見て、本題に入った。
「ところで……京都遠征隊の消息に関して何かわかったことはないか?」
新たな部下として編入されるはずだった京都遠征隊が忽然と消え、彼とて大きな打撃をこうむり、心を痛めているはず……要蔵は、彼もまた、この件に関して色々調べているに違いないと思い、何か聞き出せるのではと考えていた。
「……いえ、残念ながら」
佐々木は、要蔵の問いに短く答えた。
淡い期待がはずれ、要蔵は落胆したが、気を取り直して話を続けた。
「わしは会津から京まで彼らの足取りを辿ってやって来た。途中、様々な場所で聞き取りをしたが、彼らが最後に目撃された宿場を知ることができた」
「ほう……」
相槌を打つ佐々木の目がギラリと光った。
「宿場を出れば、次は難所の山越えになる。わしはそこで彼らに何かがあったと考えているのだが、お主はどう思う?」
要蔵はそう言いながら、佐々木の顔をのぞきこんだ。
佐々木は、少し間を置いて静かに答えた。
「……事故にあったのかも知れませんな」
要蔵は更に続けた。
「かも知れん。だが、もしそうなら、あれだけの人数だ。何かしら痕跡も残り、街道筋で噂になっているはず。それが何もないとなると……」
そう言いながら神妙な顔になった要蔵を見て、佐々木は尋ねた。
「何が言いたいのです……?」
要蔵は言葉を選びながら慎重に答えた。
「彼らは消えたのではなく消された……そんな気がしてならんのだ」
二人は黙ったまま、しばし目を見合った。
「佐武殿は、この件に裏があると……?」
「ああ。実はな、わしがわざわざ京まで来たのは、それを確かめるためなのだ。京都遠征隊の結成には不審な点がある。わしはそれを調べているのだ」
「それは何です?」
「すまんが、それは言えぬ。これは容保様に直々に話すと心に決めておる」
「……」
佐々木は要蔵の性格を知っているのか、それ以上問わなかった。そして、要蔵の目をジッと見て言った。
「佐武殿の熱意と尽力には感服いたす。ですがこの件、あまり深く関わらない方がいい」
佐々木の意外な忠告に要蔵が訝しげな顔をした。
「それはどういう意味だ……?」
「あなたが襲われた件は亀井殿からうかがいました。もしそれが、あなたが調べていることに関わっているとすれば、これ以上深入りなさらぬ方が身のためかと……」
言葉こそ丁寧であるが、そう言う佐々木の目には有無を言わさぬ強い圧力があった。
「そういうからには、お主もやはりこの件に裏があると思っておるのだな……?」
要蔵は探るように佐々木の目をのぞきこんだ。
佐々木はそれに答えず、酒の入った盃をグッとあおり、姿勢を正した。
「先ほどもお答えしたように、京都遠征隊の消息に関しては何もわかっておりません。
わざわざ会津から出向かれたのに、何の手がかりもないとお答えせねばならないのは心が痛みます」
佐々木は表情を変えず、静かに頭を下げた。
◯
佐々木と別れた要蔵は屋敷に戻った。
ここは亀井によってあてがわれた屋敷で、京都滞在中の佐武親子の寝所である。屋敷のまわりには佐々木配下の見廻組の者が巡回し、親子の護衛にあたっている。
屋敷の門をくぐった要蔵は部屋には入らず、そのまま裏庭に出た。
空を見上げると、月が出ていたが、そのほとんどが黒い雲で隠れている。それは、佐々木に対する要蔵の不信感を表わしているようだった。
佐々木が感情をあまり表に出さぬ男であることはわかっている。だが、それにしても京都遠征隊に関して冷淡すぎはしないか。自分の部下になるはずだった若者が大挙して消えたというのに動じる気配もなく、必死に探している様子もない。しかも事件から自分を遠ざけるような言葉さえ発し、京都遠征隊のことはこれ以上触れるなという雰囲気さえ感じ取れる。
佐々木は何か隠している……要蔵は直観的にそう思った。
彼を調べれば京都遠征隊の手掛かりが何か得られるかも知れない。ならば明日早速京都守護職を訪ね、見廻組のことを洗ってみよう。そう思い立った要蔵は、大きく息をつき、部屋に入ろうと歩き出した。
その時、何かが要蔵の足元に滑り込んだ。
気配を察した要蔵が足元を見たが、滑り込んだものは素早く跳ね上がり、要蔵の体を瞬時に捕らえた……それは、ぬめりながら妖しく光る蛇顔の尻尾だった。
要蔵の体を尻尾でギリギリ締め上げながら、物陰から蛇顔が姿を現した。
腕ごと締め上げられ、刀をとることができない要蔵は、声をあげて助けを呼ぼうとしたが、それより先に蛇顔が尻尾の先をその口にねじ込んだ。
蛇顔は、声が出せずもがき苦しむ要蔵の体を容赦なく締め上げ、一気に力を込めた。
骨が砕ける音がし、要蔵の顔が醜く歪んだ。
「貴様何をしている!」
裏庭を囲む土塀の上に現れたのは、壬生狼だった。
蛇顔は壬生狼を見てニヤリと笑うと、要蔵を絡めとる尻尾を素早く解き、どこへともなく消え去った。
庭に飛び降りた壬生狼は、倒れている要蔵に駆け寄った。
「大丈夫ですか!」
要蔵は目を閉じて倒れたまま、声を振り絞った。
「……佐々木……只三郎……」
そう言い残し、要蔵の命は尽きた。
「要蔵殿!……要蔵殿ッ!」
壬生狼は要蔵の体をゆすったが、要蔵が息を吹き返すことはなかった。
「……くそッ!」
壬生狼は自分の迂闊を嘆き、声をあげた。
佐武親子護衛の任を見廻組に奪われた新選組は、密かに親子を護衛していた。親子を護衛する見廻組を更に見張る形で配置を組み、日中は一般の隊士が、夜は壬生狼がその任につくことになっていたのだ。護衛に当たる者は新選組の羽織を着用せず、可能な者は市井の者に扮するなどして、見廻組に悟られぬよう十二分に配慮するよう指示されていた。
壬生狼も同じく、いつもの羽織は着ず、浪人笠で顔だけ隠し、今夜も屋敷を見張っていた。
だが、そこで気になることが起きた。屋敷を護衛しているはずの見廻組の者がなぜか一人も見当たらない。不審に思って周囲を探ると、屋敷の外に点々と倒れている見廻組の護衛達の姿を発見した。そして、その誰もが体の骨を砕かれ絶命していた。
敵の仕業と判断した壬生狼は、急ぎ屋敷の中に飛び込んだが、時すでに遅し……要蔵は蛇顔の急襲を受けたあとだった。
会津にいた頃は師と仰ぎ、父のように慕った要蔵の死を前にして、壬生狼は立ち尽くした。が、悲しみの中でふと思い出した。
ひなた……ひなたは無事か!
そう思った瞬間、「きゃああああああ!」と突然大きな声が響き渡った。
壬生狼が見ると、裏庭に面した縁側に、恐怖で顔をひきつらせ、体をぶるぶる震わせるひなたが立っていた。
ひなたは寝室で床に入っていたが、父と佐々木の会談の結果が気になって眠つけずにいた。そして、裏庭の方から叫ぶような声が聞こえたので、気になって恐る恐る出てきたのだ。
ひなたの目に、壬生狼の足元に倒れる父の姿が映った。
「あ……あなたが……父を……」
ひなたは、怒りと恐怖に震えながら壬生狼を見た。
「違う!」
壬生狼はそう言って近づこうとしたが、「ひいッ!」と悲鳴をあげながら後ずさりするひなたを見て、我に返った。
今の自分は人の姿ではない……ひなたの目に映っているのは、醜悪な獣の姿と化した異形の化け物なのだと。
身に迫る恐怖に呼吸を乱し、その瞳を涙でいっぱいにしたひなたを見つめ、壬生狼は拳を握りしめた。
今、ここで暁透志郎と名乗りたい……そして、ひなたをこの手に抱きしめたい……。
だが、それは叶わぬこと。真実を話したところで、ひなたを混乱させるだけであり、人に戻れぬ自分がひなたの傍らにいれられようはずがない。
「うがあああああ!」
壬生狼は声にならない雄叫びをあげると、ひなたに背を向け、全てを振り切るように走り出した。そして、大きく飛びあがって塀を越えると、暗闇の中に消えていった……。
◯
翌朝、新選組の近藤と土方に亀井から招集がかかった。
二人が京都守護職に赴くと、亀井の他に、見廻組の佐々木、そしてひなたの姿があった。
要蔵殺害に関するひなたへの聞き取りは、佐々木によって速やかに執り行われたとのこと。それを受け、近藤と土方に確認したいことがあるということらしい。
佐々木の説明によれば、見張りを殺害して屋敷に侵入し、要蔵を死に追いやった賊は、世間を騒がしている《壬生狼》という異形の者であるとのこと。それは、倒れた要蔵のそばに立っていた壬生狼の姿をひなたが目撃しているので間違いないという話であった。
説明を聞いた近藤と土方は、黙って顔を見合わせた。
昨夜の話は、先だって壬生狼から聞いている。壬生狼の話が本当なら、要蔵を殺害したのは、嚥獣とおぼしき蛇顔の男であり、壬生狼が駆けつけた時にはすでに要蔵は殺され、蛇顔が逃げた後、その場に立ち尽くしているところをひなたに見られてしまったということだった。
「壬生狼と呼ばれる異形の者に関し、聞きたいことがある」
佐々木は、冷たい目を近藤と土方に向けて言った。
「その者には様々な噂や証言があるようだが、新選組の羽織をまとっていたという目撃談が多数寄せられている。それに関し、何か心当たりはあるか……?」
言葉はあくまで慇懃を装っているが、佐々木の目はあきらかに新選組に対する疑いと不審の色に満ちている。
「我々もその噂には困っておりまして、噂の出どころを探っております」
そう返す近藤を佐々木は黙って睨んでいる。
土方は、ひなたに尋ねた。
「あなたが見たという狼顔の男は、新選組の羽織を羽織っていたのですか?」
「……いいえ」
ひなたは昨夜のことを思い出して怯えているのか、小さな声で答えた。
「ならば少なくとも、この件に新選組が関与していないこと明白ですね」
土方の言葉に佐々木が反論した。
「新選組がいつも派手な羽織を着ているとは限らん。人知れず動くなら羽織など着ておらんだろう」
佐々木はそう言いながら、土方をジロリと睨んだ。
この男、これは好機とばかりに新選組を糾弾し、あわよくば俺達に罪をなすりつけるつもりか……そう思った土方は反撃に出た。
「佐々木殿は、その狼顔と我々をどうしても結びつけたいようですね」
「少しでも疑いがあれば追及すべし、ただそれだけだ」
「だいたい、その狼顔が本当に佐武殿を殺害したとは言い切れんでしょう。下手人は他にいるやも知れません」
土方は、ひなたに目を移して尋ねた。
「その狼顔が父上に手をかけるところを見たのですか?」
「え?……それは……私が見た時は、すでに父は倒れていて……脇にその、狼の顔をした男が……」
「ならば、狼顔が父上に手をかけたところは見ていないということですね?」
「やけに壬生狼をかばうな。やはり、その者は貴様らの仲間か?」
割って入った佐々木に土方は答えた。
「いえ。ですが、そうやって我らに罪をなすりつけることで得をする方がいるのかも知れません」
「誰だ、それは……?」
「御自分の胸に聞いてみては」
「どういう意味だ……?」
佐々木がピクリと眉を動かした。土方は続けた。
「京都遠征隊に関して、何か裏で動いていらっしゃるようで」
「……」
挑発的な土方の言葉に佐々木は口を閉ざした。
壬生狼の話によれば、要蔵は絶命する寸前に佐々木の名を言い残している。要蔵が死の直前に、佐々木の暗躍を示唆した可能性は極めて高い。
「要蔵殿の殺害には、そのことが深く関係しているのでは……?」
「貴様……」
土方と佐々木が睨み合い、まさに一触即発の様相を呈したその時
「やめんか!」
亀井が声をあげ、二人を一喝した。
「この場は、お前達が知ることを皆で共有するために設けたのだ!今は佐武殿を殺めた者を探し出すため、互いに協力することが先決であろう!」
いつもは温厚な亀井の厳しい言葉に、佐々木も土方も黙って引き下がった。
「ひなた殿、無様なところを見せてしまい誠にもうしわけない。父上のことは本当に気の毒に思っておる。父上を殺めた者は必ず我らで捕らえるゆえ、しばしお待ちくだされ」
亀井は穏やかな顔にもどると、ひなたに向かって深々と頭を下げた。
「おやめください、亀井様。皆様が父の件に関し、尽力して下さっていることは充分承知しております……」
そう言うひなたの目にいつしか涙か溢れていた。
「父を殺したのは、きっとあの狼の顔をした男です……どうか……どうか、あの男を……あの男を!」
ひなたはそれだけやっと言うと、大声をあげて泣き崩れた。
○
その夜、近藤と沖田を伴い、壬生寺を訪れた土方は、落ち合った壬生狼に、京都守護職での経緯を話した。
「そうか、ひなたが……」
自分を恨みながら泣き崩れたひなたの話を聞き、壬生狼はうつむいた。
「誤解なんですから、あなたが落ち込むことはありませんよ」
明るく声をかける沖田に壬生狼は答えた。
「いや、俺のせいだ。俺が要蔵殿を守れさえすればこんなことに……」
責任を感じ、更に表情を曇らせる壬生狼に近藤は言った。
「過ぎたことを悔やんでも仕方ねえ。すまねえと思うなら、一刻も早く敵を捕らえてあの娘に真実を伝えてやる……それが何よりの供養だ」
「わかっている」
そう言って静かに闘志を燃やす壬生狼に、土方はこれからのことを伝えた。
「彼女の護衛は、我ら新選組に任されることになった」
「本当か?」
「見廻組は要蔵殿を護衛し切れなかった。それゆえ、亀井殿は我らの力を改めて借りたいと申された」
「なら好都合だ。俺もひなたを守りやすくなる」
士気をあげる壬生狼に、土方は静かに言った。
「お前にははずれてもらう」
「……え?」
「彼女の護衛は我らでやる。お前は必要ない」
「何故だ!」
食ってかかる壬生狼に土方は冷たく言い放った。
「彼女の事となるとお前は冷静さを失う」
「!」
「彼女のそばにお前を置けば、そうやって動揺するのは目に見えている。そんなお前に彼女を守り切ることはできん」
土方の言葉は当たっていた。だが、壬生狼は負けじと言い返した。
「俺はお前の配下じゃない。好きにやらせてもらう」
「構わん。だが、彼女の近くに現れたら……」
土方はそういうと、更に壬生狼を睨みつけて言った。
「……斬る」
「……」
睨み合う土方と壬生狼のあいだを冷たい風が吹き抜けていった。
…続く
亀井によると、それは見廻組組頭佐々木只三郎からの提案だったらしい。
会津藩の剣術指南役である佐武要蔵は藩の重臣であり、滞在中の警護は見廻組が務めるのが筋……と、佐々木が強く進言したらしい。
理由はもっともであるが、またしても佐々木に先手を打たれた形になり、近藤と土方は釈然としなかった。
京都遠征隊が絡むと必ず佐々木が現れ、先回りして全てを囲い込む。まるで、新選組が足を踏み入れるのを拒むかのように……近藤と土方は、佐々木への不信感をますます募らせた。
そんな中、新選組の屯所にひなたが訪ねてきた。
見廻組の護衛がついていたが、ひなたはここでお待ちく下さいと丁寧に頭を下げ、応対に出た沖田に、近藤と土方への面会を申し出た。
「あなたがひなたさんですか。僕は一番隊隊長の沖田総司です。近藤さんと土方さんからお話はうかがっています。さあ、どうぞ」
沖田は気さくな笑顔を向けてひなたを部屋に通し、近藤と土方を呼びにいった。
ひなたは、三人が揃ったところで改めて挨拶し、遠慮がちに口を開いた。
「あの……私たちを助けてくださった方は、その後わかりましたでしょうか?」
わざわざ屯所まで訪ねてくるとは、よほどその人物が気になるらしい。
土方は慎重に答えた。
「その件ですが、調べたところ組の中に該当する者はいませんでした」
「本当に……?」
「はい」
これは土方達が前もって相談した答えだった。
はじめは、助けたのは沖田ということにするつもりだった。だが、現場の状況を知らない自分では彼女と話した時に辻褄が合わなくなるかも知れないと沖田が拒んだ。ならば、何者かわからないということにしておくのが一番よいと意見がまとまったのである。
「その人物は新選組の羽織を着ていたという話ですが、辺りはかなり暗かったはず。あなたも意識が朦朧としていたというし、見間違えたのでは?」
「そうですね……」
ひなたは土方の説明に一応うなずいたが、納得し切れない顔つきで
「ですが……」
と言いかけて口ごもった。
「何です?」
と沖田が尋ねると、ひなたは言いにくそうに口を開いた。
「あ、いえ、すみません。その方が新選組の方なら確かめたいことがあったのですが……いないのであれば、聞いても仕方ありませんものね」
「いいですよ。何でも話してください」
そういって笑う沖田にホッとしたのか、ひなたは続けて言った。
「私、その方が私の名をどうして知っていたのか気になって……」
「!」
三人は思わず目を見合わせた。
「気がついた時、私の名を呼ぶ声が聞こえたんです。それで声のする方を見たら、その方が立っていて……」
土方は、先日の会談で彼女がまだ何か話したいことがありそうだったのを思い出した。それはおそらくこのことだったのだろう。
ひなたに遭遇した壬生狼が思わず名を呼んでしまったのは想像できる。迂闊なことをすると思ったが、彼の気持ちもわからなくはない……土方は壬生狼の動揺を察しつつ、ひなたの疑問にどう答えるべきか頭をめぐらせた。
土方達が黙っていると、ひなたが再び口を開いた。
「でも、それも気のせいかも……。意識が朦朧としていましたから、羽織を見間違えたように、声も聞き違えたのかも知れません」
ひなたは寂しそうにうつむいた。
惹かれ合いながら遠く離れ、再会を誓った透志郎とひなた……二人は確かに再び出会うことができた。だがそれは、異形と化した壬生狼にとって決して喜べるものではなかった。
おぞましく変貌した姿をひなたに晒すことはできない透志郎、そして愛する人を目の前にしながらそうと知ることができないひなた……求める相手を目の前にしながらすれ違う二人の悲劇に、近藤と沖田、そして土方は心を痛めた。
◯
「御無沙汰しております、佐武殿」
そう言って、佐々木只三郎はうやうやしく頭を下げた。
「お主が京都見廻組組頭として容保様に仕えておるのは我がことのように嬉しい。お勤め大義でござる」
佐武要蔵は、旧知の仲である佐々木に労いの声をかけた。
佐々木は、幕府の武芸訓練機関である講武所の剣術指南を務めたことがあるほどの武芸者だが、その佐々木が若き頃に剣術の手ほどきを受けたのが佐武要蔵である。言わば師弟のような間柄だ。
数年ぶりの再会となる二人がいるのは、小料理屋の一室である。佐武から内密に話があると持ちかけられた佐々木は、馴染みの店で師を迎えた。
はじめは酒を酌み交わしながら互いの近況などを話していたが、要蔵は頃合いを見て、本題に入った。
「ところで……京都遠征隊の消息に関して何かわかったことはないか?」
新たな部下として編入されるはずだった京都遠征隊が忽然と消え、彼とて大きな打撃をこうむり、心を痛めているはず……要蔵は、彼もまた、この件に関して色々調べているに違いないと思い、何か聞き出せるのではと考えていた。
「……いえ、残念ながら」
佐々木は、要蔵の問いに短く答えた。
淡い期待がはずれ、要蔵は落胆したが、気を取り直して話を続けた。
「わしは会津から京まで彼らの足取りを辿ってやって来た。途中、様々な場所で聞き取りをしたが、彼らが最後に目撃された宿場を知ることができた」
「ほう……」
相槌を打つ佐々木の目がギラリと光った。
「宿場を出れば、次は難所の山越えになる。わしはそこで彼らに何かがあったと考えているのだが、お主はどう思う?」
要蔵はそう言いながら、佐々木の顔をのぞきこんだ。
佐々木は、少し間を置いて静かに答えた。
「……事故にあったのかも知れませんな」
要蔵は更に続けた。
「かも知れん。だが、もしそうなら、あれだけの人数だ。何かしら痕跡も残り、街道筋で噂になっているはず。それが何もないとなると……」
そう言いながら神妙な顔になった要蔵を見て、佐々木は尋ねた。
「何が言いたいのです……?」
要蔵は言葉を選びながら慎重に答えた。
「彼らは消えたのではなく消された……そんな気がしてならんのだ」
二人は黙ったまま、しばし目を見合った。
「佐武殿は、この件に裏があると……?」
「ああ。実はな、わしがわざわざ京まで来たのは、それを確かめるためなのだ。京都遠征隊の結成には不審な点がある。わしはそれを調べているのだ」
「それは何です?」
「すまんが、それは言えぬ。これは容保様に直々に話すと心に決めておる」
「……」
佐々木は要蔵の性格を知っているのか、それ以上問わなかった。そして、要蔵の目をジッと見て言った。
「佐武殿の熱意と尽力には感服いたす。ですがこの件、あまり深く関わらない方がいい」
佐々木の意外な忠告に要蔵が訝しげな顔をした。
「それはどういう意味だ……?」
「あなたが襲われた件は亀井殿からうかがいました。もしそれが、あなたが調べていることに関わっているとすれば、これ以上深入りなさらぬ方が身のためかと……」
言葉こそ丁寧であるが、そう言う佐々木の目には有無を言わさぬ強い圧力があった。
「そういうからには、お主もやはりこの件に裏があると思っておるのだな……?」
要蔵は探るように佐々木の目をのぞきこんだ。
佐々木はそれに答えず、酒の入った盃をグッとあおり、姿勢を正した。
「先ほどもお答えしたように、京都遠征隊の消息に関しては何もわかっておりません。
わざわざ会津から出向かれたのに、何の手がかりもないとお答えせねばならないのは心が痛みます」
佐々木は表情を変えず、静かに頭を下げた。
◯
佐々木と別れた要蔵は屋敷に戻った。
ここは亀井によってあてがわれた屋敷で、京都滞在中の佐武親子の寝所である。屋敷のまわりには佐々木配下の見廻組の者が巡回し、親子の護衛にあたっている。
屋敷の門をくぐった要蔵は部屋には入らず、そのまま裏庭に出た。
空を見上げると、月が出ていたが、そのほとんどが黒い雲で隠れている。それは、佐々木に対する要蔵の不信感を表わしているようだった。
佐々木が感情をあまり表に出さぬ男であることはわかっている。だが、それにしても京都遠征隊に関して冷淡すぎはしないか。自分の部下になるはずだった若者が大挙して消えたというのに動じる気配もなく、必死に探している様子もない。しかも事件から自分を遠ざけるような言葉さえ発し、京都遠征隊のことはこれ以上触れるなという雰囲気さえ感じ取れる。
佐々木は何か隠している……要蔵は直観的にそう思った。
彼を調べれば京都遠征隊の手掛かりが何か得られるかも知れない。ならば明日早速京都守護職を訪ね、見廻組のことを洗ってみよう。そう思い立った要蔵は、大きく息をつき、部屋に入ろうと歩き出した。
その時、何かが要蔵の足元に滑り込んだ。
気配を察した要蔵が足元を見たが、滑り込んだものは素早く跳ね上がり、要蔵の体を瞬時に捕らえた……それは、ぬめりながら妖しく光る蛇顔の尻尾だった。
要蔵の体を尻尾でギリギリ締め上げながら、物陰から蛇顔が姿を現した。
腕ごと締め上げられ、刀をとることができない要蔵は、声をあげて助けを呼ぼうとしたが、それより先に蛇顔が尻尾の先をその口にねじ込んだ。
蛇顔は、声が出せずもがき苦しむ要蔵の体を容赦なく締め上げ、一気に力を込めた。
骨が砕ける音がし、要蔵の顔が醜く歪んだ。
「貴様何をしている!」
裏庭を囲む土塀の上に現れたのは、壬生狼だった。
蛇顔は壬生狼を見てニヤリと笑うと、要蔵を絡めとる尻尾を素早く解き、どこへともなく消え去った。
庭に飛び降りた壬生狼は、倒れている要蔵に駆け寄った。
「大丈夫ですか!」
要蔵は目を閉じて倒れたまま、声を振り絞った。
「……佐々木……只三郎……」
そう言い残し、要蔵の命は尽きた。
「要蔵殿!……要蔵殿ッ!」
壬生狼は要蔵の体をゆすったが、要蔵が息を吹き返すことはなかった。
「……くそッ!」
壬生狼は自分の迂闊を嘆き、声をあげた。
佐武親子護衛の任を見廻組に奪われた新選組は、密かに親子を護衛していた。親子を護衛する見廻組を更に見張る形で配置を組み、日中は一般の隊士が、夜は壬生狼がその任につくことになっていたのだ。護衛に当たる者は新選組の羽織を着用せず、可能な者は市井の者に扮するなどして、見廻組に悟られぬよう十二分に配慮するよう指示されていた。
壬生狼も同じく、いつもの羽織は着ず、浪人笠で顔だけ隠し、今夜も屋敷を見張っていた。
だが、そこで気になることが起きた。屋敷を護衛しているはずの見廻組の者がなぜか一人も見当たらない。不審に思って周囲を探ると、屋敷の外に点々と倒れている見廻組の護衛達の姿を発見した。そして、その誰もが体の骨を砕かれ絶命していた。
敵の仕業と判断した壬生狼は、急ぎ屋敷の中に飛び込んだが、時すでに遅し……要蔵は蛇顔の急襲を受けたあとだった。
会津にいた頃は師と仰ぎ、父のように慕った要蔵の死を前にして、壬生狼は立ち尽くした。が、悲しみの中でふと思い出した。
ひなた……ひなたは無事か!
そう思った瞬間、「きゃああああああ!」と突然大きな声が響き渡った。
壬生狼が見ると、裏庭に面した縁側に、恐怖で顔をひきつらせ、体をぶるぶる震わせるひなたが立っていた。
ひなたは寝室で床に入っていたが、父と佐々木の会談の結果が気になって眠つけずにいた。そして、裏庭の方から叫ぶような声が聞こえたので、気になって恐る恐る出てきたのだ。
ひなたの目に、壬生狼の足元に倒れる父の姿が映った。
「あ……あなたが……父を……」
ひなたは、怒りと恐怖に震えながら壬生狼を見た。
「違う!」
壬生狼はそう言って近づこうとしたが、「ひいッ!」と悲鳴をあげながら後ずさりするひなたを見て、我に返った。
今の自分は人の姿ではない……ひなたの目に映っているのは、醜悪な獣の姿と化した異形の化け物なのだと。
身に迫る恐怖に呼吸を乱し、その瞳を涙でいっぱいにしたひなたを見つめ、壬生狼は拳を握りしめた。
今、ここで暁透志郎と名乗りたい……そして、ひなたをこの手に抱きしめたい……。
だが、それは叶わぬこと。真実を話したところで、ひなたを混乱させるだけであり、人に戻れぬ自分がひなたの傍らにいれられようはずがない。
「うがあああああ!」
壬生狼は声にならない雄叫びをあげると、ひなたに背を向け、全てを振り切るように走り出した。そして、大きく飛びあがって塀を越えると、暗闇の中に消えていった……。
◯
翌朝、新選組の近藤と土方に亀井から招集がかかった。
二人が京都守護職に赴くと、亀井の他に、見廻組の佐々木、そしてひなたの姿があった。
要蔵殺害に関するひなたへの聞き取りは、佐々木によって速やかに執り行われたとのこと。それを受け、近藤と土方に確認したいことがあるということらしい。
佐々木の説明によれば、見張りを殺害して屋敷に侵入し、要蔵を死に追いやった賊は、世間を騒がしている《壬生狼》という異形の者であるとのこと。それは、倒れた要蔵のそばに立っていた壬生狼の姿をひなたが目撃しているので間違いないという話であった。
説明を聞いた近藤と土方は、黙って顔を見合わせた。
昨夜の話は、先だって壬生狼から聞いている。壬生狼の話が本当なら、要蔵を殺害したのは、嚥獣とおぼしき蛇顔の男であり、壬生狼が駆けつけた時にはすでに要蔵は殺され、蛇顔が逃げた後、その場に立ち尽くしているところをひなたに見られてしまったということだった。
「壬生狼と呼ばれる異形の者に関し、聞きたいことがある」
佐々木は、冷たい目を近藤と土方に向けて言った。
「その者には様々な噂や証言があるようだが、新選組の羽織をまとっていたという目撃談が多数寄せられている。それに関し、何か心当たりはあるか……?」
言葉はあくまで慇懃を装っているが、佐々木の目はあきらかに新選組に対する疑いと不審の色に満ちている。
「我々もその噂には困っておりまして、噂の出どころを探っております」
そう返す近藤を佐々木は黙って睨んでいる。
土方は、ひなたに尋ねた。
「あなたが見たという狼顔の男は、新選組の羽織を羽織っていたのですか?」
「……いいえ」
ひなたは昨夜のことを思い出して怯えているのか、小さな声で答えた。
「ならば少なくとも、この件に新選組が関与していないこと明白ですね」
土方の言葉に佐々木が反論した。
「新選組がいつも派手な羽織を着ているとは限らん。人知れず動くなら羽織など着ておらんだろう」
佐々木はそう言いながら、土方をジロリと睨んだ。
この男、これは好機とばかりに新選組を糾弾し、あわよくば俺達に罪をなすりつけるつもりか……そう思った土方は反撃に出た。
「佐々木殿は、その狼顔と我々をどうしても結びつけたいようですね」
「少しでも疑いがあれば追及すべし、ただそれだけだ」
「だいたい、その狼顔が本当に佐武殿を殺害したとは言い切れんでしょう。下手人は他にいるやも知れません」
土方は、ひなたに目を移して尋ねた。
「その狼顔が父上に手をかけるところを見たのですか?」
「え?……それは……私が見た時は、すでに父は倒れていて……脇にその、狼の顔をした男が……」
「ならば、狼顔が父上に手をかけたところは見ていないということですね?」
「やけに壬生狼をかばうな。やはり、その者は貴様らの仲間か?」
割って入った佐々木に土方は答えた。
「いえ。ですが、そうやって我らに罪をなすりつけることで得をする方がいるのかも知れません」
「誰だ、それは……?」
「御自分の胸に聞いてみては」
「どういう意味だ……?」
佐々木がピクリと眉を動かした。土方は続けた。
「京都遠征隊に関して、何か裏で動いていらっしゃるようで」
「……」
挑発的な土方の言葉に佐々木は口を閉ざした。
壬生狼の話によれば、要蔵は絶命する寸前に佐々木の名を言い残している。要蔵が死の直前に、佐々木の暗躍を示唆した可能性は極めて高い。
「要蔵殿の殺害には、そのことが深く関係しているのでは……?」
「貴様……」
土方と佐々木が睨み合い、まさに一触即発の様相を呈したその時
「やめんか!」
亀井が声をあげ、二人を一喝した。
「この場は、お前達が知ることを皆で共有するために設けたのだ!今は佐武殿を殺めた者を探し出すため、互いに協力することが先決であろう!」
いつもは温厚な亀井の厳しい言葉に、佐々木も土方も黙って引き下がった。
「ひなた殿、無様なところを見せてしまい誠にもうしわけない。父上のことは本当に気の毒に思っておる。父上を殺めた者は必ず我らで捕らえるゆえ、しばしお待ちくだされ」
亀井は穏やかな顔にもどると、ひなたに向かって深々と頭を下げた。
「おやめください、亀井様。皆様が父の件に関し、尽力して下さっていることは充分承知しております……」
そう言うひなたの目にいつしか涙か溢れていた。
「父を殺したのは、きっとあの狼の顔をした男です……どうか……どうか、あの男を……あの男を!」
ひなたはそれだけやっと言うと、大声をあげて泣き崩れた。
○
その夜、近藤と沖田を伴い、壬生寺を訪れた土方は、落ち合った壬生狼に、京都守護職での経緯を話した。
「そうか、ひなたが……」
自分を恨みながら泣き崩れたひなたの話を聞き、壬生狼はうつむいた。
「誤解なんですから、あなたが落ち込むことはありませんよ」
明るく声をかける沖田に壬生狼は答えた。
「いや、俺のせいだ。俺が要蔵殿を守れさえすればこんなことに……」
責任を感じ、更に表情を曇らせる壬生狼に近藤は言った。
「過ぎたことを悔やんでも仕方ねえ。すまねえと思うなら、一刻も早く敵を捕らえてあの娘に真実を伝えてやる……それが何よりの供養だ」
「わかっている」
そう言って静かに闘志を燃やす壬生狼に、土方はこれからのことを伝えた。
「彼女の護衛は、我ら新選組に任されることになった」
「本当か?」
「見廻組は要蔵殿を護衛し切れなかった。それゆえ、亀井殿は我らの力を改めて借りたいと申された」
「なら好都合だ。俺もひなたを守りやすくなる」
士気をあげる壬生狼に、土方は静かに言った。
「お前にははずれてもらう」
「……え?」
「彼女の護衛は我らでやる。お前は必要ない」
「何故だ!」
食ってかかる壬生狼に土方は冷たく言い放った。
「彼女の事となるとお前は冷静さを失う」
「!」
「彼女のそばにお前を置けば、そうやって動揺するのは目に見えている。そんなお前に彼女を守り切ることはできん」
土方の言葉は当たっていた。だが、壬生狼は負けじと言い返した。
「俺はお前の配下じゃない。好きにやらせてもらう」
「構わん。だが、彼女の近くに現れたら……」
土方はそういうと、更に壬生狼を睨みつけて言った。
「……斬る」
「……」
睨み合う土方と壬生狼のあいだを冷たい風が吹き抜けていった。
…続く
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