9 / 13
1章 異世界転移編
仮面の男 ★
しおりを挟む後ろから男の声が響いた。振り向くと20m先からギザギザ頭でがっしりした長身の男が近づいてきた。年齢は恐らく自分より一回り上。
タンクトップのような服を着ており、胸の辺りにはサクヤと同じバッジを付けていた。
「サ、サイオーグさん..。」
サクヤが呟いた。多分この男の名前だろう、と宗助はサクヤから目線を外し、また、男に向けた。すると男は急にピタリと立ち止まり、ジロジロと全体を見回した。しばらくして、こちらに目を合わせると、
「この有様を見て大体状況は把握したが、一つだけ解せないことがある。サクヤ、その隣の男は誰だ。見たことのねぇ服装の上に体から禍々しいオーラを放っているんだが..。」
「彼はソウスケと言って、私が外で見回りをしているときに禁断の森から出てきたところを見つけ、一緒にここまで同行してきたんです。」
「禁断の森から出てきた.......だと..?」
その言葉を聞いた途端、宗助は全身に寒気が走った。体がどんどん硬直していくのが分かる。その原因は考えるまでもなく理解した。それは今目の前に立っているこの男からあふれ出る殺気だった。
サクヤの方をがちがちに震える体とは裏腹に良く動く目玉を向けると、彼女も同じように怯え切っていた。
「こいつは緊急事態だ。そこのソウスケとかいう男。悪いがお前は拘束させてもらう。」
「えっ......ちょっ..」
ドスッ
宗助が声に反応しきる前に腹に鈍い音が響いた。
「がっ......はっ.......?!」
そのまま宗助は倒れこんだ。一瞬の出来事に何が起きたのか理解できなかった。意識が薄れていく中で唯一理解できたのは20mも先にいたはずのサイオーグが目の前に立ち、見下ろしていたことだけだった。そして宗助の意識は途切れた。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
「うっ......ここ...は..?」
目が覚めると真っ先に目に映ったのは檻だった。
「どこだよ、ここ.....いてっ、、。」
身体を起き上がらせようとすると急に何かに引っ張られ、尻餅をついた。その原因はすぐに分かった。両手に頑丈な鎖を付けられている。それは手首の隙間が全く無いといっていいほどピッタリ装着させられていた。身体は少し腹に鈍痛があるだけで他に目立った形跡は無かった。
「何で俺こんな目にあってんだよ...。」
思い出せることと言えば、サクヤと一緒に七三分け頭の貴族をぶっ飛ばした後、急に現れたサイオーグとかいう奴に気絶させられたことしかーーーー
「...ってサクヤはどうなったんだ?!まさか、あいつに、、!!」
「彼女ならまだ生きているよ。」
完全に独り言で言ったはずの言葉に誰かが返事を返してきた。それに驚いた宗助は辺りを見回した。檻の中にはどうみても自分しかいない。外側にも人の姿はない。
「すまない。少々驚かせてしまった。」
また声が聞こえた。それと同時にコツコツと歩く音が近づいてきた。音のなる先は檻の外側にある暗闇から聞こえてくる。どんどん音が大きくなるにつれて、暗闇からうっすら人影が見えてきた。そしてピタッと音が止むと檻の外側に歪なマスクを付けた男が立っていた。服装は明らかに宗助がもといた世界でよく見るサラリーマンが着るスーツに見える。
「あなたは誰なんですか?」
宗助が恐る恐る尋ねる。
「別に今は知らなくてもいいさ。それより君はこんなところでずっと捕まってていいのかい?君と一緒にいた子はもうすぐ処刑されるようだが。」
「処刑!?サクヤが!!?」
とっさに立ち上がろうとしたが両手の鎖にまた押し戻される。
「そこから出してあげようか?」
仮面男がふと問いかけてきた。
「本当ですか!?でも、何で見ず知らずの俺にそこまで..。」
啓介は警戒する。
「実は少し前の君の様子を見せてもらったよ。どうやら君は面白い力を持っているようだね。私と同じように。」
「私と同じ、、?」
「いや、すまない。こちらの話さ忘れてくれ。それより君はこんなとこにいていいような人間ではないと私は思っている。君が出たいのならすぐにでも出してあげるが、どうかな?」
「出れるなら出してもらいたいけど......。」
「なら出してあげよう。」
そう言うと仮面男は腰の剣を抜いた。すると、
スパパン ガラガラガラガラ
その瞬間檻の柵が大きく切り飛ばされた。
(今、檻を切ったのか!?全く剣筋が見えなかった!)
一瞬で檻を破壊してしまったことに驚く宗助に構わず、仮面の男は平然と檻の中に入ってきた。
「その手錠も外そう」
パキパキパキィン
彼が手錠に触れるとたちまち手錠が粉々に砕け散った。
「あれだけびくともしなかった手錠がこんなあっさり...!!」
「さて、これで君は自由の身になったわけだが、まだやることがあるはずだね。」
「そうだ!!すぐにでもサクヤを助けに..!」
「その前にこれを持っていくといい。」
そう言うと仮面男はどこからか出したのか分からないが、両手でもはみ出るほどの大きく、白金色に輝いた水晶の塊を片手で出してきた。
「え..。これは一体何ですか?」
「これは、神器の元になる鉱物さ。神器とはこの国の4位階級から持てる武器のことで、君が戦ったあの男が持っていた剣、私の所持しているこの剣も神器であり、それら全てはこの鉱物から生まれたのさ。」
「神器...!それで、これを俺はどうすればいいんですか?」
「簡単なことさ。これに君の右手で触れて魔力を流すんだ。そうすると君に適合する武器になる。」
「俺の武器...でも俺魔力なんて...。」
「いいから触ってみるといい。」
宗助は恐る恐るその塊に触れて右手に力を入れる。すると、突然その塊は溶け始めた。
「うわっ..!?」
驚いた宗助は手を引っ込めた。塊はそのままどろどろに溶けていくかと思いきや、少しずつ形が変化し始め、数秒足らずで剣の形に変わった。
「ほぅ、どうやら君には剣が似合うようだね。」
そう言うと仮面男は剣の形をした水晶を宗助に手渡した。
「これが俺の武器ですか..?」
それは剣の形はしているが、まるで氷をただ形だけ加工しただけのような粗末なものに見えた。
さらに宗助がそれ以上に不思議に思ったのはその剣もどきの重さである。かなり重量があると思いきや、重さも精々竹刀程度の重さに感じた。
「それはまだ神器になりかけの状態さ。もう少し君の魔力に馴染ませることで本当の神器に変わってくるんだがどうやらそんなに悠長にしてる場合ではないね。そろそろ処刑の時間だ。」
「いえ、ここから出してもらった上に武器まで用意して貰ってありがとうございます。このお礼はいつか..!」
「気にしないでいいさ。それより彼女の処刑はこの建物の屋上だ。行くにはこの通りを右に曲がった階段から行けるよ。急ぎたまえ。」
「はい!ありがとうございました!!」
宗助はお礼を言うと一目散に走っていった。
「さて、あの少年は私の予想を越えてくれる存在になってくれるかな。」
仮面男はそう呟くと闇の中に消えていった。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
