私とバーテンダー

HAYA

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「恋始」

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「申し訳ありませんでした。」
深々とお辞儀をして謝る私と上司。何故こうなっているのかというと今日届くはずだった物が運送中の車が事故を起こしてしまったからである。幸い運転手は軽傷、運ばれるはずだったものも無傷だったので良かったものの遅れてしまうことには変わりはない、なのでそこの担当になっている私と上司で謝りに行ったのだ。相手側は、幸い商品の受注が止まっておりまだ余裕だから大丈夫だとのことで話しがついた。
しかし、上司にはこっぴどく叱られた。お前は本当に駄目だの運がわるいだのしつこく言われた挙げ句、今日は残れと言われ残業までしていけと言われた。本当に今日は運が悪いのだと。

ようやく仕事が終わり、時計を見ると午後11時。近くのスーパーはもう閉まっているため日用品を買おうと思っていたが、駄目になってしまった。
「はぁ‥‥。」
そうため息をつくと、私は身支度をして肩を落としながら帰路に向かうのであった。
(本当に駄目だな私‥‥)
そうため息を歩いていると私はある店に今日も目が入る。そういえばいつも帰るときに気になっていたお店があった。そこは昼間はカフェになっていて夜はBarになるでいつも行ってみようかなと思うが勇気がなくいつもスルーしてしまうのだ。ただ今日は違った。
何故か今日はそのお店に足が進んでしまったのだ。お店に入ってみるとそこは、昼間のカフェとは違いとても大人雰囲気が漂う店内であった。薄暗い中バーカウンターの場所だけ照明が当たっている。バーテンダーの後ろには見たことないお酒の数々がそれ専用の木箱に入っている。クラシカルな店内BGMがなっているなか、昼間と違う景色に私は立ち止まっていた。
(私場違いかな‥‥)
そう思ったので、店を出ようとすると奥から
「いらっしゃいませ」
そう耳に残る低音の声に私は驚きながら固まっていると
「どうぞこちらの席にどうぞ」
私はビクビクしながら席に座った。
(どうしよう。言われるまま座ったがヤバい‼私こんなところ来たことないからどうやって注文したらいいのか分からないし、ああっもうどうしたらいいのっ‼よし!帰ろう!私には早かったのだ。では失礼して)
そう思っていたら、私の前にグラスが置かれた。透き通った蒼色にグラスの端に檸檬がありまるで常夏のビーチを表しているようなものだった。
私は戸惑いながらも聞こえるか聞こえないかの声で、
「あ、あの‥‥私、これ頼んでないのですけど‥」 
そしたらマスターが、
「あちらのお客様からです。」
と言われたので、見てみると髪は茶髪で服装はスーツのイケメンがそこにはいた。そこで彼はウイスキーが入ったグラスを片手に座っていた、そして彼が意味深な顔でこちらを見ていた。
私は映画やドラマの世界でしかないであろうと思っていたことが現実で起きていることに目を丸くした。
しかし、私はそんな彼を見て小さくお辞儀をしてからマスターに目を向けた。私は彼ではなくマスターが、気になって仕方なかったのだ。
薄暗い店内でグラスを拭いている姿、そして耳に残るあの低音の声、その光景に私は惹かれていた。
(素敵だなぁ‥‥でも、私なんかじゃあの人とは不釣り合いだよね‥‥)
そう思って私は目の前にあるグラスをとって一気に空にしていた。深いため息をつきながら下を向いていると、
「何か悩みごとですか?」
とマスターに言われた。
私は咄嗟に言われたのでビックリして、
「だ、大丈夫です。え、えっと私帰りますね。お、お代はこれでっ。失礼します。」
私は大急ぎで出口に向かおうとすると、
「待ってください。」
と、マスターに言われたのでビクビクしながら振り返ると、
「お金足りてないですよ。」
見るとそこには一万円だと思い置いたお札は千円札だった。
私は、顔を真っ赤にしてすぐに一万円札を置こうとしたら、マスターがそれを止め、私に千円札を渡してきた。
「えっ‥‥な、なんで‥‥」
すると、マスターが、
「これは初回サービスです。お時間があれば、また来て下さい。それと」
そういうとマスターは私の手をとり、
「Ti auguro la felicità。」
と言ってマスターは笑顔で私の顔を見た。
私はどういう意味か分からなかったが、マスターの笑顔に心を奪われていた。
私ははっと我に帰り顔を真っ赤にし、店を出ていった。
私は胸のドキドキを押さえながら、走って帰路に向かった。

    これが私の恋の始まりだった‥‥。
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