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混乱もひと段落、この続きは明日にしようと皆が寝静まった夜中。
意外にもシェリアと寝ることは無かったゼノ様が、僕のところに来た。
リムウェルも、眠ることが出来ずにゼノ様に目を向けている。
「⋯⋯なにか御用が?」
圧倒的な威圧感と存在感で城中を騒がしたゼノ様だが、本当に他人に興味が無い。ただその視線はシェリアのみに向けられていた。
それが今は、シェリアと同じ色の瞳だが、シェリアとは違う鋭い目が僕に向けられていた。
「ほう。我に聞きたいことが山ほどあるのであろう? 守護竜としてではなく、一匹の竜としてな」
あぁ、この方には⋯⋯本当に、隠し事などできない。
「失礼を承知でも?」
「構わぬ。どうやらシェリアが世話になったようだからな」
聞きたいこと、か。山ほどあるけれど、まずは確認したいことがある。
「人間と竜の間に子などできないと思っていましたが。シェリアと血は繋がっているのですか?」
「⋯⋯シェリアは我の子だ。間違いない。そもそも我は竜であって、竜ではない。竜という種族ではあるが、竜の枠組みなどとうに外れている」
竜であって、竜ではない。おそらくこの方は、僕らでは理解出来ないような存在なのだろう。理を超越するような存在は、理解しようとするだけ無駄だ。
これ以上追求するのはやめて、次の質問に移る。
「竜帝の座を降りた理由をお聞きしても?」
ふと、ゼノ様の雰囲気が変わった。
「そもそも竜族が我を竜帝とした。我は名乗ったことも、その座についた覚えもない」
それを言われると、何も言い返せないんだけど。
まあ、このお方の性格からして、竜帝なんて座には自らつかないだろうし、名乗ることも無いんだろうな。
なら、最後に一つだけ。
「⋯⋯なぜシェリアを、もっと早く迎えに来なかったのですか?」
同じように妻を亡くし、子のみが生きがいとなった僕らにとって、シェリアという存在は何がなんでも守りたかったはずだ。
この方なら、あの愚国から守れたはず。
いや、彼女の母だって、守れたはず。
⋯⋯僕と同じ想いがあるのなら、また別の話だけれど。
ゼノ様は少し目を閉じて、自分の手のひらに目を落とした。
「⋯⋯シオンの死は、我の責任だ。そしてシェリアがこんな身分になったのも、全てな」
そしてゼノ様は、ゆっくりと語り出した。
「昔、幼いシェリアが竜狩り達に危害を加えられたのだ。あの日、我は竜狩りから家族を守るため、竜狩りの組織を滅ぼすと決めた。だが、離れている隙に、ほんの僅かな時間の間に⋯⋯シオンを失ってしまった。我は生きる気力も何もかも無くした。だが、シェリアが⋯⋯娘が生きていると知り、取り戻さねばと思ったのだ」
涙を堪える声、そして震える肩と手。
あぁ、このお方は⋯⋯悔しかったのだろう。悲しかったのだろう。許せないのだろう。
守ってやれなかった自分と、原因を作った人間全てが。
まるで、昔の僕を見ているようだ。
「我は、恐れた。シェリアは我を恨んでいると思うと、会えなかった。覚悟を決め、我は竜玉の気配を追い、この国に来た。いくら力が強かろうと、守れぬのだ。知恵があろうと、力が強かろうと、どんなに的確な判断を下せる者であろうと。失うことは、避けられぬ」
僕も同じだ。妻を失った時、息子を守れるのかと悩んだ。妻を守れなかった父親に、育てられていいのか。父親と名乗っていいのかと。
でも、結局は家族は捨てられない。それが竜だ。
⋯⋯竜狩りさえ、竜狩りさえなければ、僕もこのお方も、妻や子と、ラクアン達と生きていけたのに。
あぁでも、そうなると⋯⋯シェリアとは巡り会えなかったのか。
「ところで、あの男⋯⋯グラシアンといったな。やつはシェリアのなんだ」
うん、これはまずいね。父親として、多分グラシアンに嫉妬してるな。
ゼノ様がどのくらい竜としての性質が出ているか分からないけれど、古い竜ほど竜の性質が濃く出るからなぁ。
「シェリアをあの国から救い出した男、と言えばご満足ですか?」
「お前では無いのか?」
「まさか。坊ちゃんが彼女を助けたいと願ったから、シェリアは今ここにいる。僕は何もしてませんよ」
興味があるから買った、という思いもあるだろうけれど。
あの時、坊ちゃんの目は、恋をしていた。
当時はお世辞にも綺麗とはいえぬシェリアだが、それでもその目だけは奴隷とは程遠いものだったから。
欲にまみれた貴族と触れ合ううちに、坊ちゃんは人との関わりを浅くし、深くは決して関わろうとしなかった。
そんな中で、シェリアに⋯⋯彼女の目に触れた。
「ゼノ様、シェリアが恋をしていた場合は、どうされますか? ⋯⋯彼女は、夫の子を産むことが出来るのですか?」
「さて、な⋯⋯。複雑だ、頭が混乱する。こんな思いをするのはあの日以来だ」
そのままゼノ様は頭を整理するといい、背を向けてどこかへと歩き去ってしまった。
あぁでも、これでシェリアと坊ちゃんの仲を応援しなければならなくなったかな。元からその気持ちだけれど。
「⋯⋯きっと叶うよ、坊ちゃん」
彼を⋯⋯あの方を味方に付ければ、ね。
意外にもシェリアと寝ることは無かったゼノ様が、僕のところに来た。
リムウェルも、眠ることが出来ずにゼノ様に目を向けている。
「⋯⋯なにか御用が?」
圧倒的な威圧感と存在感で城中を騒がしたゼノ様だが、本当に他人に興味が無い。ただその視線はシェリアのみに向けられていた。
それが今は、シェリアと同じ色の瞳だが、シェリアとは違う鋭い目が僕に向けられていた。
「ほう。我に聞きたいことが山ほどあるのであろう? 守護竜としてではなく、一匹の竜としてな」
あぁ、この方には⋯⋯本当に、隠し事などできない。
「失礼を承知でも?」
「構わぬ。どうやらシェリアが世話になったようだからな」
聞きたいこと、か。山ほどあるけれど、まずは確認したいことがある。
「人間と竜の間に子などできないと思っていましたが。シェリアと血は繋がっているのですか?」
「⋯⋯シェリアは我の子だ。間違いない。そもそも我は竜であって、竜ではない。竜という種族ではあるが、竜の枠組みなどとうに外れている」
竜であって、竜ではない。おそらくこの方は、僕らでは理解出来ないような存在なのだろう。理を超越するような存在は、理解しようとするだけ無駄だ。
これ以上追求するのはやめて、次の質問に移る。
「竜帝の座を降りた理由をお聞きしても?」
ふと、ゼノ様の雰囲気が変わった。
「そもそも竜族が我を竜帝とした。我は名乗ったことも、その座についた覚えもない」
それを言われると、何も言い返せないんだけど。
まあ、このお方の性格からして、竜帝なんて座には自らつかないだろうし、名乗ることも無いんだろうな。
なら、最後に一つだけ。
「⋯⋯なぜシェリアを、もっと早く迎えに来なかったのですか?」
同じように妻を亡くし、子のみが生きがいとなった僕らにとって、シェリアという存在は何がなんでも守りたかったはずだ。
この方なら、あの愚国から守れたはず。
いや、彼女の母だって、守れたはず。
⋯⋯僕と同じ想いがあるのなら、また別の話だけれど。
ゼノ様は少し目を閉じて、自分の手のひらに目を落とした。
「⋯⋯シオンの死は、我の責任だ。そしてシェリアがこんな身分になったのも、全てな」
そしてゼノ様は、ゆっくりと語り出した。
「昔、幼いシェリアが竜狩り達に危害を加えられたのだ。あの日、我は竜狩りから家族を守るため、竜狩りの組織を滅ぼすと決めた。だが、離れている隙に、ほんの僅かな時間の間に⋯⋯シオンを失ってしまった。我は生きる気力も何もかも無くした。だが、シェリアが⋯⋯娘が生きていると知り、取り戻さねばと思ったのだ」
涙を堪える声、そして震える肩と手。
あぁ、このお方は⋯⋯悔しかったのだろう。悲しかったのだろう。許せないのだろう。
守ってやれなかった自分と、原因を作った人間全てが。
まるで、昔の僕を見ているようだ。
「我は、恐れた。シェリアは我を恨んでいると思うと、会えなかった。覚悟を決め、我は竜玉の気配を追い、この国に来た。いくら力が強かろうと、守れぬのだ。知恵があろうと、力が強かろうと、どんなに的確な判断を下せる者であろうと。失うことは、避けられぬ」
僕も同じだ。妻を失った時、息子を守れるのかと悩んだ。妻を守れなかった父親に、育てられていいのか。父親と名乗っていいのかと。
でも、結局は家族は捨てられない。それが竜だ。
⋯⋯竜狩りさえ、竜狩りさえなければ、僕もこのお方も、妻や子と、ラクアン達と生きていけたのに。
あぁでも、そうなると⋯⋯シェリアとは巡り会えなかったのか。
「ところで、あの男⋯⋯グラシアンといったな。やつはシェリアのなんだ」
うん、これはまずいね。父親として、多分グラシアンに嫉妬してるな。
ゼノ様がどのくらい竜としての性質が出ているか分からないけれど、古い竜ほど竜の性質が濃く出るからなぁ。
「シェリアをあの国から救い出した男、と言えばご満足ですか?」
「お前では無いのか?」
「まさか。坊ちゃんが彼女を助けたいと願ったから、シェリアは今ここにいる。僕は何もしてませんよ」
興味があるから買った、という思いもあるだろうけれど。
あの時、坊ちゃんの目は、恋をしていた。
当時はお世辞にも綺麗とはいえぬシェリアだが、それでもその目だけは奴隷とは程遠いものだったから。
欲にまみれた貴族と触れ合ううちに、坊ちゃんは人との関わりを浅くし、深くは決して関わろうとしなかった。
そんな中で、シェリアに⋯⋯彼女の目に触れた。
「ゼノ様、シェリアが恋をしていた場合は、どうされますか? ⋯⋯彼女は、夫の子を産むことが出来るのですか?」
「さて、な⋯⋯。複雑だ、頭が混乱する。こんな思いをするのはあの日以来だ」
そのままゼノ様は頭を整理するといい、背を向けてどこかへと歩き去ってしまった。
あぁでも、これでシェリアと坊ちゃんの仲を応援しなければならなくなったかな。元からその気持ちだけれど。
「⋯⋯きっと叶うよ、坊ちゃん」
彼を⋯⋯あの方を味方に付ければ、ね。
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