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「この店は違法に獣人を増やし、売り捌いている。即刻関係者を拘束せよ!」

我が声と共に、軍人が店長と店員をあっという間に拘束していく。

指示しているのは、この国の第3王子である私、シデルミ。第3王子ゆえに、それほど跡継ぎには期待されていない。

だからこそ、私は父にも母にもあまり目を向けてくれなかった。国民も、家臣も然り。

だからこそ、彼女の目線に気付いた。

「狐の獣人か」

ふわふわしていそうな黄金色の尻尾を左右にゆらゆらと揺らし、澄んだ目で私を見ていた。

「名前は・・・・・・無いか。よし、この少女は私のペットとして保護する」

簡単に抱き上がってしまうほど軽い体、しかしそれを気にさせない眩しい笑顔。年齢は18歳と書かれており、売れ残った少女か。

いや、体が小さくて少女に見えるが、一応女性だな。

「リリー、それがお前の名前だ。よろしく」

「り、リリー?」

「そう、そして私はシデルミだ。名前で呼べ」

「シデルミ?」

しかし、こんなに可愛いのに売れ残っていたとは、ここの店の客は見る目がないな。それとも、狐の獣人というありふれたものに飽きていたのか?

だが、運が良かった。こんなに愛らしい子を迎え入れることが出来るとは。

「シデルミ様、全ての関係者を拘束致しました」

「ご苦労。撤退する」

「かしこまりました」

これが私が、リリーと初めて会った日の事だった。

私は隣で寝ているの髪を梳きながら、懐かしい思い出に口角が僅かに上がった。
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