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リリーは賢かった。普通、ペットとして売られている獣人は読み書きが出来ない・・・・・・というか、必要とされないが、店にある僅かな文字や会話を聞いて言葉を学んでいた。

年齢は18歳、ペットを売ってる店ではいわゆる不良品と称される年齢だ。私はそう思わないが。それに賢さは大人顔負けだ。

「リリーという名前はこう書く。分かったか?」

それでも限界があるため、少しは教えねばならないが。それでも覚えは早い。

「こう?」

「あぁ上手だ、いい子だな」

こんなにも愛らしく賢い子が、売れ残りか。余程店長の商売が下手くそだったんだろうな。

しかし、あと一歩遅ければ、売れないと判断されて闇市かオークションか、悪ければ殺処分になってただろうに。

「リリー、おやつにしよう」

「はーい」

今まで甘いものを口にしたことがないリリーだが、最近のお気に入りは焼き菓子。特にクッキーを好んでいる。

「シデルミ、耳はいじらないで」

耳は敏感らしく、触られるのを嫌う。私は特別に許可してもらっているのだが、それでも触られすぎると嫌がられる。

しかし、耳をいじった時の可愛らしい声がまた良い。

「やっ」

「もう少しだけ、な?」

「んっ、だめ・・・・・・!」

さすがに少し快楽を覚え始めると、とっとと私の腕を抜けてベッドに潜り込んでしまった。

「悪かったよリリー、機嫌直してくれ」

「耳はもうダメ・・・・・・」

「尻尾は?」

「反省してない」

あの店にいた頃は毛並はお世辞にも触り心地がいいと言えなかったが、ここに来てからは高級羽毛布団の手触りのような触り心地になっていた。

だからなるべく手元に置いて愛でていたいんだが、リリーはなかなか許してくれない。

耳ひとつ、尻尾ひとつで快楽を覚えてしまうリリーは、人の手で触れられるのが恥ずかしいんだろう。普通の獣人よりも、少し感度がいいからな。

「お触り禁止だから」

「それは困るな。ならおやつも禁止か」

「むっ」

それは逆に困る、と言わんばかりにガバッと布団から頭を出した。

表情からして、おやつをなしにされるのは困るがお触りも困る、と言ったところか。困った表情も可愛い。

だが、あんまりいじめるのも可哀想だ。

「なんてな。冗談だ」

「耳は1日5分!」

「もう少し伸ばして欲しいんだが、駄目か?」

「う~・・・・・・」

まだまだ、恥ずかしがり屋のリリーに快楽を慣れるには時間がかかりそだ。

「1時間に5分、それならどうだ?」

「それはダメっ、そんな触られてたら耳がおかしくなる!」

それはそれで見てみたいが、仕方ないな。

「分かった分かった。だから怒るな」

機嫌直しに焼き菓子を与えれば、さっきの不機嫌はどこへやら、一気にご機嫌になった。

耳がダメなら、尻尾ならどうかと思い撫でてみれば、こちらも敏感なのかピクっと反応して睨まれてしまった。

さすがに敏感すぎる気がするな。

「リリー、店にいた頃、何か薬とか飲んでたか?」

「うーん、注射はされたよ?」

やはり、そういう類の薬を入れられて、敏感になってるのか。売れ残りをいち早く売り捌くために、躍起になったんだろう。

そう思うと触りにくくなるが、それでもお前は愛しい私のリリーだ。
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