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「シデルミ様、どうかあなたが、あなた様が国王に!」

「私が?」

「我々は王族を大切にしてきましたが、あんな横暴な王の下で暮らすのはもう耐えられません。ですが、あなただけは我々を常にきにかけてくれていた。身勝手は承知の上です。ですが我々にはあなたが必要なのです!」

私はリリーと慎ましく暮らしていたい。短い時間ではあったが、この時間がどれほど幸せだったか。誰にも邪魔などさせない、邪魔をする権利など何人たりとも持ち合わせていない。

だが、王族として民の願いに応えないのは、民への裏切りではないか? 今まで築き上げてきたものが、一気に崩壊してしまう。

それはすなわち、リリーへ危害が加えられる可能性があるということだ。それだけは防がねばならない。

「双方、落ち着け。同じ国に住む同士が争ってどうする。村長よ、ほかの村人たちを頼む。私はこの者たちと話す」

村長と村人たちを下がらせ、主都から来たであろう人間達と向かい合う。

「現国王と王太子、その他の王族は?」

「地下牢に・・・・・・。沙汰は、どうかシデルミ様が。何卒、この国をお救い下さい」

ならば、彼らの生死は私に任されているのか。

だが、大人しくはい、と従う訳にはいかない。いくら大切にしてきた民とは言えど、騙してリリーごと投獄される可能性もある。もう少し見極める必要がある。

私が次の質問に移ろうとした瞬間、リリーが両手を広げて私の目の前に立った。

「待って。あなた達はシデルミを騙して、王族をみんな殺してしまおうなんて思ってないですよね?」

リリー、いつの間にそんな立派になってたんだ。一昔前までは、私のあとをついて可愛かったあのリリーが、今やその小さな背中で私を庇ってくれるほど成長していたとは。

「そんなはずはありません!」

「は、半獣が何を言うか!」

「リリー、おいで。・・・・・・見ての通り、リリーは私の妻でね。半獣と罵る輩は、前に出ろ」

リリーを抱き上げ、柔らかい唇に口付けを落とし、半獣と罵った相手を睨みつける。そして牽制するように、周りに視線を配る。

私の可愛いリリーを馬鹿にし、貶める者は、たとえ民であろうが許さない。それがたとえ、リリー自身であっても。

「申し訳ありませんっ」

「今後はリリーに対して口を慎むように。それで、この国を救えと言っておいて私の妻を貶めるとはな」
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