異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第四章 森の精霊

第90話 囮

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ジルクがセイラスタンの前に立っていた。

その様子にルクピーが目を丸くする。

そして――

セイラスタンは、ゆっくりと振り向いた。

驚きはない。

「……ほう」

短く、低い声。

「なぜ、お前がここにいる?」

セイラスタンの冷たく鋭い視線が、ジルクを射抜く。

しかし、ジルクも怖気づくことはなかった。

「様子がおかしかったから、あなたをつけてきた。そして、独り言を全部聞いた」

その言葉に、セイラスタンが笑い出す。

「ハッハッハッ。私も相当浮かれていたようだ。だが……」

セイラスタンは笑みを浮かべたまま、椅子から立ち上がる。

「お前は、どうなる?」

そう言って、腰に差した剣に手をかける。

その仕草を見たジルクは、生唾を呑み一歩下がった。

それでも逃げず、力を込めて言った。

「……自首してください!」

予想外の言葉に、セイラスタンの表情がすっと冷めた。

「なぜ恐れない?恐れない者を壊しても、気持ちよくないではないか?」

そう言いながら、セイラスタンは剣をゆっくりと抜く。

「ミオルネさんの時も……そうだったんですか?」

ジルクは拳に力を込め、後ろへとじりじり下がる。

その言葉を聞いた瞬間、セイラスタンの口元が再びつり上がった。

「あぁ、そうだな。心臓に一突きした時の感触が、今でも心を揺さぶる」

静かに、しかし確実に、セイラスタンが前へ歩み出す。

ジルクも距離を保つように後退する。

気づけば二人は、部屋の外へと出ていた。

「お前を刺す瞬間が、どんな気分になるか楽しみだ」

そう言って剣先をジルクに向けるセイラスタン。

ジルクも負けずに笑みを浮かべる。

「……それは残念ですね。あなたは、もう人じゃない」

「……」

なおも恐れを見せないジルクの態度に、セイラスタンの苛立ちが滲む。

「不愉快だ。もうよい。一思いに殺す」

そう言って剣を構えた、その瞬間だった――

ガチャァァンッ!

何かが激しく壊れる音が響いた。

二人とも音の方を見る。

すると、

「ルクククゥーーーッ!」

鋭い鳴き声とともに、ルクピーが扉から飛び出してきたのだった。

目配せするかのようにルクピーが一度ジルクの顔を見ると、セイラスタンの後ろを掠めるように飛び、入ってきた方向とは逆へ逃げていった。

それは、まるで自分が囮になるつもりのように――。

「ちっ、逃すかっ!」

セイラスタンがすかさずルクピーの後を追う。

ジルクは一瞬呆気に取られるも、頷いて振り返ると出口に向かって走り出した。

「くそっ!小僧め。まぁ、良い。精霊を先に捕まえてからでも間に合うだろう」

セイラスタンは、ジルクが逃げたことは分かっていたが、今はルクピーが最優先だった。

ルクピーは必死に逃げていた。

体内には、あふれるほどの魔素がある。

それはルクピー自身にも分かっていた。

ただ、それをどう使えばいいのか――その術を、ルクピーは知らない。

その力を引き出せるのは、精霊の守り人だけ。

それ以外に許された道は、ひとつしかなかった。

だが、それを使えば、あまりにも酷い結末を相手に与えてしまう。

だから、それだけは、選びたくなかった。

しばらく洞窟の一本道を飛んでいくと、ルクピーが見覚えのある場所に到達した。

そう。そこは、エアデランが幽閉され、ミオルネの亡骸があった場所であった。

ルクピーが一瞬戸惑い、立ち止まったその時だった。

「ルクッ?!」

ルクピーが驚くと、セイラスタンの右手で掴まれていたのだった。

いつのまにかセイラスタンが背後に来ていた。

「まったく、世話をやかせる。この洞窟の至る所に”幻航”を設けていてよかった」

セイラスタンは、スキルを使って先回りし、隠れてルクピーを待っていたのである。

「しかし、驚いた。エアデランがいないとはな……」

先回りした段階でセイラスタンはそのことに気が付いていた。

「だが……まずは小僧だ」

そう言って、マークが記してある壁の位置までくると、右手を突き出し、

「”幻航”」

と唱えた。

すると、目の前に扉が現れる。

すかさず、扉を開けて中へ入るセイラスタン。

扉の向こう側は洞窟の入り口付近へ繋がっていた。

その扉を抜け、セイラスタンが入り口の方を見ると、ジルクが走り去っていく姿が霞んで見えた。

「まだ、消えきっていなかったか……」

先ほど、セイラスタン自身が出した扉がぼんやりとそこに存在していた。

「まぁ、良い。獲物は、追われている時が一番美しい」

そう言ってセイラスタンが剣を構え、遠くのジルクに狙いを定めるとニヤリと笑う。

次の瞬間――セイラスタンの姿が消えた。いや、目に留まらぬ速さで駆け出していた。

恐怖におののき逃げ惑う獲物を追い詰めてから自らの手でとどめを刺す。

非道な一面があらわになったセイラスタンが、ほくそ笑みながら、みるみるのうちにジルクとの間を狭めていく。

そして、

「これで終わりだ」

あと一歩――その距離で、セイラスタンが呟いた。

だがその時だった。

ビュッ!

「ぬっ!?」

セイラスタンの足元から放たれた光の弓が、彼の脚を貫いたのだった。
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