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序章 混沌の胎動
第1話 世界の終焉、そして俺はカオスを漂流していた……
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まさかこんな世界の終焉の日が来るとは……
確かに、世の中は不安定だった。
経済は停滞し、各国が自国ファーストを唱え、戦争の火種が各地に燻っていた。
核の脅威も、遠い話ではなくなっていたのかもしれない。
それでも、無意識に信じていた。
「明日」は、当たり前に来るものだと……
俺の名前は、暁神天翔《あかつきがみ あまと》。
22歳で普通の大学生といえばその通りだ。
ただ俺には、病弱で入退院を繰り返している妹、赫夜《かぐや》がいた。
俺たち兄妹は、親がなく、幼い頃から施設に預けられた。
そんな俺たちに世間の目は冷たかった。
だから俺は、赫夜さえ幸せになってくれれば、それでいいと願って赫夜を守ってひたすら生きてきた。
そしてその日も俺は、体調を崩して短期入院をしている赫夜のところへ、18歳の誕生日プレゼントを持っていったんだ。
「赫夜、体調はどうだ?」
と病室に入るなり、赫夜に声をかけた。
「天翔!何度言えばわかるの。ここは女子の病室なんだから、入るときはノックくらいしなさい!」
ムッとした顔で俺を睨んできたのは、幼馴染の夕璃《ゆうり》だった。
世間から見放された俺たち兄妹にとって、数少ない理解者で、口うるさくも優しく、芯のあるやつだ。
「まぁ、天翔だからな。いまさら何を言っても無駄だと思うぞ」
そう言って笑っていたのは、3歳年上で従兄の雷牙《らいが》だ。
誰よりも頼もしく、苦しい時には必ず助けてくれる存在だった。
「……なんだよ。二人とも、もう来ていたのか」
「もぅ、お兄ちゃんったら……二人とも私のためにわざわざやってきてくれたのよ」
赫夜は小さく息を吐きながら、申し訳なさそうに言った。
「いいのよ。赫夜ちゃん。いつものことだからね」
「そう。そういうことだ」
夕璃と雷牙が微笑みながら赫夜に返した。
俺にとって、こうした他愛もない会話がいつもいとおしかった。
「……これを届けに来たんだ」
と言って、ポッケからゴソゴソとプレゼントを取り出し、赫夜に渡した。
そのプレゼントを見て夕璃の顔が明らかに引きつった。
「ちょっとぉ。箱がつぶれてるじゃない!」
「いや、中身はつぶれないもんだから大丈夫だろ」
「それは、さすがに、ちょっとアレだぞ」
雷牙もあきれた様子だった。
「ふふっ。お兄ちゃんらしいよ」
赫夜が、その壊れた箱を優しく抱きしめるようにして笑った。
「開けてもいい?」
「あぁ」
そう俺が答えると、赫夜が丁寧に箱の包装をはがして中身を開けた。
「わぁ。ステキ」
箱の中は、ピンクサファイアが優しく輝くネックレスだ。
それは、赫夜が中学生のころ、唯一欲しがったものだった。
「お兄ちゃん……覚えててくれたんだ。……ありがとう」
そう言って、ネックレスを大事に胸に当てた赫夜の目には、涙があふれていた。
少し照れくさい気持ちになった俺は、
「じ、じゃあバイト行ってくる。二人とも、あとは任せた!」
と言って、病室を飛び出した。
その扉の向こうから夕璃のわめき声と、雷牙がそれをなだめているような声、そしてかすかに赫夜の笑い声が聞こえた……
それが、俺にとって三人との最後の時間だった。
俺は、病院を出て、ちょうどやって来た駅行のバスに飛び乗った。
そして、ここのところアルバイトを入れすぎたせいか、強烈な眠気が襲ってきて、立ちながらうとうとし始めたその時だった……
「ミサイル発射。ミサイル発射。ミサイルが発射されたものとみられます。建物の中、又は地下に避難してください」
バスの中でいくつもの携帯電話からJ-ALERTがこだまする。
俺は目を開け、あたりを見回すと、警報に対して不安な顔をする人、うるさそうな顔をする人、まったくそれに気づかず寝ている人など様々な様子であった。
(またか……?)
俺が、そんなことを思った刹那……
突如、強烈な閃光がすべてを呑み込んだ。
音も、熱も、衝撃もない。
ただ、無慈悲で無機質な「終わり」の光が、俺の視界を満たした。
(本当にミサイルだったのか!? これが、死か……このまま無に還るのか)
――
だが、次に意識を取り戻したとき、そこは「無」ではなかった。
無数の光が漂う、音もなく、暖かさも感じない空間。
まるで夜空に瞬く星々のようで、深海の底に揺れる微光のようでもあった。
強く脈打つもの、儚く消えそうなもの……どれひとつとして、同じ光はない。
(ここは……どこだ?)
思考する中で、気づいた。
俺には、まだ「意識」がある。
死んだはずの俺が、なぜ……
(死後の世界?魂の海?それとも夢の続きか?)
そして、漂う光の一つひとつが、“命の残滓《ざんし》”だと、なぜか思えて仕方なかった。
まるで何かを伝えようとしているように、ただそこに在った。
そのとき、不意に浮かんだ名前があった。
赫夜……
そして、夕璃と雷牙。
みんな、あの閃光に呑まれたのか?
この光の海のどこかに、あいつらもいるのか?
そして、胸の奥に、じわりと怒りが滲む。
(いつだって、戦争を始めるのは……戦場へも行かず、自分ファーストで無責任なお偉い連中だ……)
――
どれほどの時間が経ったのか、わからない。
光たちは少しずつ、確実に減っていった。
けれど、消えることを拒むように、なおも抗う光がいくつか残っていた。
強く、切実に瞬く命の輝き……
その中に、自分もいる。なぜか、そう確信できた。
そして……
耳元に、かすかな気配が揺れた。
(……アナタ…ワタ…ノコエガ…キコ…マスカ……)
遠く掠れた、夢の中の囁きのような声。
(……誰だ……?)
問いかけようとしても、声にならない。
ただ意識の奥底が震え、何かに引き寄せられていく。
誰の声かも、何を伝えたいのかも、まだわからない。
しかし、その声は、確かに俺を呼んでいた。
俺の“終わり”に手を伸ばしているかのように……
確かに、世の中は不安定だった。
経済は停滞し、各国が自国ファーストを唱え、戦争の火種が各地に燻っていた。
核の脅威も、遠い話ではなくなっていたのかもしれない。
それでも、無意識に信じていた。
「明日」は、当たり前に来るものだと……
俺の名前は、暁神天翔《あかつきがみ あまと》。
22歳で普通の大学生といえばその通りだ。
ただ俺には、病弱で入退院を繰り返している妹、赫夜《かぐや》がいた。
俺たち兄妹は、親がなく、幼い頃から施設に預けられた。
そんな俺たちに世間の目は冷たかった。
だから俺は、赫夜さえ幸せになってくれれば、それでいいと願って赫夜を守ってひたすら生きてきた。
そしてその日も俺は、体調を崩して短期入院をしている赫夜のところへ、18歳の誕生日プレゼントを持っていったんだ。
「赫夜、体調はどうだ?」
と病室に入るなり、赫夜に声をかけた。
「天翔!何度言えばわかるの。ここは女子の病室なんだから、入るときはノックくらいしなさい!」
ムッとした顔で俺を睨んできたのは、幼馴染の夕璃《ゆうり》だった。
世間から見放された俺たち兄妹にとって、数少ない理解者で、口うるさくも優しく、芯のあるやつだ。
「まぁ、天翔だからな。いまさら何を言っても無駄だと思うぞ」
そう言って笑っていたのは、3歳年上で従兄の雷牙《らいが》だ。
誰よりも頼もしく、苦しい時には必ず助けてくれる存在だった。
「……なんだよ。二人とも、もう来ていたのか」
「もぅ、お兄ちゃんったら……二人とも私のためにわざわざやってきてくれたのよ」
赫夜は小さく息を吐きながら、申し訳なさそうに言った。
「いいのよ。赫夜ちゃん。いつものことだからね」
「そう。そういうことだ」
夕璃と雷牙が微笑みながら赫夜に返した。
俺にとって、こうした他愛もない会話がいつもいとおしかった。
「……これを届けに来たんだ」
と言って、ポッケからゴソゴソとプレゼントを取り出し、赫夜に渡した。
そのプレゼントを見て夕璃の顔が明らかに引きつった。
「ちょっとぉ。箱がつぶれてるじゃない!」
「いや、中身はつぶれないもんだから大丈夫だろ」
「それは、さすがに、ちょっとアレだぞ」
雷牙もあきれた様子だった。
「ふふっ。お兄ちゃんらしいよ」
赫夜が、その壊れた箱を優しく抱きしめるようにして笑った。
「開けてもいい?」
「あぁ」
そう俺が答えると、赫夜が丁寧に箱の包装をはがして中身を開けた。
「わぁ。ステキ」
箱の中は、ピンクサファイアが優しく輝くネックレスだ。
それは、赫夜が中学生のころ、唯一欲しがったものだった。
「お兄ちゃん……覚えててくれたんだ。……ありがとう」
そう言って、ネックレスを大事に胸に当てた赫夜の目には、涙があふれていた。
少し照れくさい気持ちになった俺は、
「じ、じゃあバイト行ってくる。二人とも、あとは任せた!」
と言って、病室を飛び出した。
その扉の向こうから夕璃のわめき声と、雷牙がそれをなだめているような声、そしてかすかに赫夜の笑い声が聞こえた……
それが、俺にとって三人との最後の時間だった。
俺は、病院を出て、ちょうどやって来た駅行のバスに飛び乗った。
そして、ここのところアルバイトを入れすぎたせいか、強烈な眠気が襲ってきて、立ちながらうとうとし始めたその時だった……
「ミサイル発射。ミサイル発射。ミサイルが発射されたものとみられます。建物の中、又は地下に避難してください」
バスの中でいくつもの携帯電話からJ-ALERTがこだまする。
俺は目を開け、あたりを見回すと、警報に対して不安な顔をする人、うるさそうな顔をする人、まったくそれに気づかず寝ている人など様々な様子であった。
(またか……?)
俺が、そんなことを思った刹那……
突如、強烈な閃光がすべてを呑み込んだ。
音も、熱も、衝撃もない。
ただ、無慈悲で無機質な「終わり」の光が、俺の視界を満たした。
(本当にミサイルだったのか!? これが、死か……このまま無に還るのか)
――
だが、次に意識を取り戻したとき、そこは「無」ではなかった。
無数の光が漂う、音もなく、暖かさも感じない空間。
まるで夜空に瞬く星々のようで、深海の底に揺れる微光のようでもあった。
強く脈打つもの、儚く消えそうなもの……どれひとつとして、同じ光はない。
(ここは……どこだ?)
思考する中で、気づいた。
俺には、まだ「意識」がある。
死んだはずの俺が、なぜ……
(死後の世界?魂の海?それとも夢の続きか?)
そして、漂う光の一つひとつが、“命の残滓《ざんし》”だと、なぜか思えて仕方なかった。
まるで何かを伝えようとしているように、ただそこに在った。
そのとき、不意に浮かんだ名前があった。
赫夜……
そして、夕璃と雷牙。
みんな、あの閃光に呑まれたのか?
この光の海のどこかに、あいつらもいるのか?
そして、胸の奥に、じわりと怒りが滲む。
(いつだって、戦争を始めるのは……戦場へも行かず、自分ファーストで無責任なお偉い連中だ……)
――
どれほどの時間が経ったのか、わからない。
光たちは少しずつ、確実に減っていった。
けれど、消えることを拒むように、なおも抗う光がいくつか残っていた。
強く、切実に瞬く命の輝き……
その中に、自分もいる。なぜか、そう確信できた。
そして……
耳元に、かすかな気配が揺れた。
(……アナタ…ワタ…ノコエガ…キコ…マスカ……)
遠く掠れた、夢の中の囁きのような声。
(……誰だ……?)
問いかけようとしても、声にならない。
ただ意識の奥底が震え、何かに引き寄せられていく。
誰の声かも、何を伝えたいのかも、まだわからない。
しかし、その声は、確かに俺を呼んでいた。
俺の“終わり”に手を伸ばしているかのように……
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