異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第一章 光の雪

第6話 ポタ村の静寂とオリンポスの均衡崩壊

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村の入口にたどり着いたとき、俺は思わず足を止めた。

木々に囲まれたその集落は、どこか原始的な雰囲気をまとっていた。

地面はむき出しの土。

見渡せば、ほとんどの家が土を掘り下げた竪穴式住居でできており、屋根は枯草や枯葉で覆われている。

唯一、少しだけ立派な木造の建物が中央に構えていた。

茅葺き屋根に、簡素ながら丁寧な細工の施された柱。

ほかの住居と比べて、明らかに格式がある建物だった。

だが、そんな景色よりも気になったのは――

見渡しても、人の姿が見当たらない。

子どもの声も、大人たちの作業音も聞こえてこず、村全体が妙に静まり返っている。

(……やけに静かだな)

その静けさを破るように、すぐ前を歩くミィナが声を弾ませた。

「アマト様、はやく、こっちこっち!」

振り返ったミィナの顔には、森で出会ったときにはなかった明るさが戻っていた。

その笑顔は、村の静寂とあまりに対照的で――

さっきまで緊張していたミィナが、ここに至るまでの道中ではよく喋るようになっていた。

(……だいぶ、心を開いてくれた、のかもな)

「アマト様、こちらです」

ミィナは、中央の木造の建物へと歩みを進めた。

中に通されると、そこは外見以上に簡素だった。

木の床、壁に並ぶいくつかの素朴な道具。囲炉裏の火だけが、室内をぼんやりと照らしている。

奥には、ひとりの老人が座っていた。

背を丸め、どこか疲れきったような雰囲気をまとった男だった。

白髪混じりのひげを撫でながら、やや陰のある目でこちらを見ている。

「……ミィナ。その男は……」

「おじいちゃん。私が森で魔獣に襲われたとき、この方が助けてくれたの」

「……ま、魔獣じゃと……!?」

ゼルミスの顔色がさっと変わった。

目を見開き、体をわずかに震わせながら、俺を凝視する。

「この村の周辺に……魔獣が現れたなど、わしは聞いたこともないぞ……。

本当に、あの森に……?」

その口調には、驚きと混乱、そして不安が混ざっていた。

村の神聖な森に何かが起きている――そんな予感が、ゼルミスを突き動かしているのだろう。

しばらく沈黙が続いたあと、ゼルミスは小さくため息をつき、目を開いた。

そして、ゆっくりと頭を下げた。

「……孫が命を救われた。感謝する。……粗野な態度をとったこと、詫びよう」

「別に気にしてないさ」

俺は短く返した。

ミィナはちらりと俺を見て、やや恥ずかしそうに言った。

「あの……お茶を入れてきます」

そう言うと、ミィナは足音も静かに、奥の戸の向こうへと消えていった。


囲炉裏の火がぱちぱちと音を立て、しばらくの静けさが流れる。

「良い娘じゃろ」

ゼルミスがふと、火を見つめたまま、ぽつりと呟いた。

「五年前の大戦で、両親を亡くしてな。あの子は、わしが育ててきた。

……まだまだ半人前だが、よくここまで育ってくれたと思っておる」

「あぁ、そうだな」

「今日は祭りの日でな。朝から村の連中は森や川へ、食材の準備に出払っておる」

ゼルミスは囲炉裏の火を見つめ、少しだけ目を細めた。

(なるほど、だから人がいなかったのか)

ゼルミスが続けた。

「かつては、収穫を祝う祭りじゃったが……」

わずかに口をつぐみ、肩をすくめて、

「まぁ、よい」

そんなところに、湯気の立つ木の器を手に、ミィナが戻ってきた。

「お待たせしました」

彼女は、ていねいに俺とゼルミスの前へ湯を置いていく。

少し照れくさそうな仕草だが、どこかうれしそうでもあった。

俺が湯に手を伸ばそうとしたとき、ミィナがふと何かを思い出したように顔を上げた。

「あっ、そうだ……おじいちゃん。アマト様を、今夜のお祭りに招待してもいい?」

「ミィナ……」

ゼルミスは少し戸惑うように目を細めた。

「村の皆に、助けてくれたことを知ってほしいの。それに、アマト様を……もっと知ってもらいたい」

しばし沈黙ののち、ゼルミスは目を閉じ、静かにうなずいた。

「……アマト殿。もしよければ、今夜の祭りに客人として参加してもらえないだろうか」

特に断る理由もなかった。

「わかった。参加させてもらうよ」

「……ありがとうございます」

ミィナはうれしそうにほほ笑んだ。

ゼルミスはそれを見て、再び火を見つめ直しながら言った。

「ミィナ。準備があるのだろう。先に行ってきなさい」

「はい。アマト様、少し休んでいてくださいね」

そう言って、ミィナは軽く頭を下げてから、家を出ていった。


残された室内には、再び静けさが戻る。

囲炉裏の火がぱちぱちと音を立てているだけだった。

しばらくの沈黙のあと、俺は言った。

「なあ、ゼルミス……少し、この世界のことを教えてくれないか?」

囲炉裏の火を見つめていたゼルミスが、俺の顔をちらと見やった。

「……なぜ、そんなことを?」

「さっき、この世界に来たばかりなんだ。オリンポスって世界のことを、俺は、何も知らない」

ゼルミスはじっと俺を見つめたまま、短く息を吐いた。

「なるほど……やはり異世界人だったか。

あの子が、連れてくるには、よほどの理由があると思っていたがな。

……ミィナには、何を聞いた?」

「大量の異世界人が転生してきたこと。

魔素学が発展したって話と、“七つの大罪”が現れて、魔王が倒されたってところまでだ」

ゼルミスは軽くうなずいた。

「では、わしからはオリンポスの国々について話そう」

ゼルミスは、火の揺らめきを見つめながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「この世界――オリンポスは、大きく三つの界に分かれておる。

神々が住まう"神界"。人々が生活する"人間界"。そして、魔族たちが暮らす"魔族界"。

もともと、それぞれの界は干渉せず、均衡を保っていた。だが……」

ゼルミスの口調が少しだけ重くなる。

「大量の異世界人たちがこの地に転生してきてから、その均衡が崩れ始めたのじゃ」

そして彼は続けた。

「人間界には、三つの国家がある。封建王政国家ガルドリア、魔素主義国家エルメゼリア、共魔国家ラグナメア。

それぞれが異なる体制をとっておる。

ガルドリアは、表向きは王族が統治する国だが、実際には裏で異世界人が実権を握っておる。

貴族制度と軍事力で統治される封建国家じゃ。

エルメゼリアでは、魔石が通貨のように流通しており、それを持つ者が富と力を得る。

異世界人が技術と知識で魔素学を発展させ、魔素至上主義の社会を築いた。

ラグナメアは、魔石や魔素を国家の財産として管理し、“民に平等に分け与える”という理念を掲げておる。

だが、実態は異世界人の官僚たちが国を動かしており、民は国のために働かされているのが現実じゃ。

人間界のどこの国でも、結局虐げられているのは、もともとこのオリンポスで生まれ育った者たちじゃ。

異世界人の知識と力が、すべてを塗り替えてしまった」

長く語ったあと、ゼルミスは湯を一口すすると、ようやく息をついた。

俺はその話を、黙って聞いていた。

「……“七つの大罪”と呼ばれる異世界勇者たちは、もとは一つの目的を持ち、連携して行動していたと聞いておる。

しかし、ある時を境に袂を分かち、それぞれの国に分かれて拠点を築いたらしい」

ゼルミスはふっと息をついた。

「……だが、均衡など、いつ崩れてもおかしくはない。いずれ、この世界は再び揺らぐであろう」

立ち上がったゼルミスは、静かに言った。

「……すまんが、わしもこれから祭りの準備に出ねばならん。

アマト殿は、ここでしばし体を休めていてくれ。

なに、あの子が迎えに来るじゃろう」

そう言って戸を開け、夜の村へと出ていった。

囲炉裏の火だけが、ゆらゆらと揺れながら、俺の視界に残っていた。
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