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第一章 光の雪
第5話 ポタ村のミィナが語る──七つの大罪勇者と魔王の戦い
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娘が目を覚ますまで、俺はずっと傍らに座り、見守り続けていた。
地に伏した小さな体。
かすかに上下する胸。
微かながら、確かに、命の鼓動は続いている。
(……にしても)
腕を組み、俺は思案する。
なぜ、こんな森の奥深くに、たった一人でいたのか。
しかも、あの超弩級の"魔物"が、まるで影のように無音で現れるなんて――
振動も気配もなかった。
気づけたのは、娘の悲鳴と、森を揺るがす咆哮だけだった。
(おかしい……何かが引っかかる)
――そんな思考を巡らせていると、脳裏に割り込んでくる。
『貴様ぁ!! 俺様をここから出せぇぇぇぇっ!! あとお前の体をよこせぇぇぇぇっ!!』
頭の奥で、例の魔王が絶賛発狂中だ。
(うるせぇ……。無視。それに限る)
そうしていると、娘の瞼がぴくりと震えた。
微かに眉根を寄せ、ゆっくりと目を開ける。
そして、視界に映る俺を見て――一瞬、怯えるように身をすくめた。
だが、すぐに思い出したようだ。
俺が石を投げ、あの"魔物"を撃破したことを。
「……あなた様が、助けてくれたのですか?」
か細い声で、そう問うてきた。
「ああ、大丈夫か、けがはないか」
俺はやや身を乗り出し、優しく問いかけた。
娘は胸に手を当て、ほっと息をついた。
「……ありがとうございます。おかげさまで大丈夫です。あの、私、ミィナといいます」
微笑む表情は弱々しいが、それでも必死に礼を伝えようとする健気さがあった。
「ミィナ、か」
俺は小さく繰り返した。
「この近くのポタ村から来たんです。この森で食べ物を探していて……でも、突然、あの魔獣に……」
震える声で、ミィナは語る。
(……あれは"魔物"じゃなくて、"魔獣"って言うのか)
言葉の違いに気づき、俺は内心で思い直した。
「……あの、あなた様は異世界人様なのですか?」
ふいに、ミィナが尋ねてきた。
「たぶんな」
俺は肩をすくめる。
「自分でもよくわからないが……そんなとこだろ」
ミィナの顔に一瞬だけ緊張が走ったが、
慎重な眼差しに変わり、じっと俺を見つめる。
「……お名前は?」
少し考え、俺は答えた。
「アマトだ」
ティアマトから授かった、この世界での新たな名前。
それを名乗ると、ミィナはほっとしたように微笑んだ。
「アマト様、ですね」
俺はあたりを見回し、それからミィナに声をかけた。
「立てるか? ……お前の村まで、送っていく」
「ありがとうございます」
ミィナは小さく微笑み、かすかに頭を下げた。
ふらつきながらも、彼女は立ち上がる。
二人で歩き出してしばらくしてから、俺は尋ねた。
「なぁ、ミィナ。……この世界のことを、少し教えてくれないか?」
ミィナはこくりと頷き、ぽつぽつと語り始める。
「十年くらい前に……たくさんの異世界人様たちが、こちらの世界に転生してきました」
詳しくはわからないとしながらも、ミィナによれば――
異世界人たちは、持ち込んだ知識と技術で、この世界の技術を発展させた。
特に、“賢者の石”と名付けられた人工の魔石を生み出す技術は世界を一変させた。
それを基盤に、”禁忌の魔素学”と呼ばれる新たな体系が築かれ、
魔法、魔機、魔素薬、魔療技術などが発達し、
かつては力を持たなかった人間界が、急速に勢力を拡大していった。
「そして、五年前です」
ミィナの声が、少し沈んだ。
「七つの大罪と呼ばれる異世界勇者様たちが現れました。彼らは魔族を敵と見なし……」
戦いは避けられず、大規模な戦争へと発展した。
そして、魔王と七つの大罪による最終決戦が行われた。
「……その戦いで、魔王様は敗れました。
でも……最後の力で、魔族界を覆う結界を張り、今もそれが、魔族界を守っていて……」
『……魔王って、もしかして』
『そうだぁぁぁ!! 俺様のことだぁぁぁぁ!!』
脳内で、暑苦しい絶叫が響く。
(ああ、やっぱりな)
ため息混じりに、俺は心の声を無視した。
そのとき、ミィナがふと思い出したように口を開いた。
「そういえば……気を失っている間、変な夢を見ました」
「夢?」
「はい。魔王様と女神様が争っている夢です。
でも、今は魔王様も、女神様も、ここにいるはずもないですよね?」
はにかむように笑うミィナ。
(魔王に様を付けるのは気になるが、俺にも様を付けているから、丁寧に話す人なのだろう……)
そして俺は、その後、ミィナの緊張をほぐすために他愛のない話もしながら、ポタ村への道をゆっくりと歩み続けた。
地に伏した小さな体。
かすかに上下する胸。
微かながら、確かに、命の鼓動は続いている。
(……にしても)
腕を組み、俺は思案する。
なぜ、こんな森の奥深くに、たった一人でいたのか。
しかも、あの超弩級の"魔物"が、まるで影のように無音で現れるなんて――
振動も気配もなかった。
気づけたのは、娘の悲鳴と、森を揺るがす咆哮だけだった。
(おかしい……何かが引っかかる)
――そんな思考を巡らせていると、脳裏に割り込んでくる。
『貴様ぁ!! 俺様をここから出せぇぇぇぇっ!! あとお前の体をよこせぇぇぇぇっ!!』
頭の奥で、例の魔王が絶賛発狂中だ。
(うるせぇ……。無視。それに限る)
そうしていると、娘の瞼がぴくりと震えた。
微かに眉根を寄せ、ゆっくりと目を開ける。
そして、視界に映る俺を見て――一瞬、怯えるように身をすくめた。
だが、すぐに思い出したようだ。
俺が石を投げ、あの"魔物"を撃破したことを。
「……あなた様が、助けてくれたのですか?」
か細い声で、そう問うてきた。
「ああ、大丈夫か、けがはないか」
俺はやや身を乗り出し、優しく問いかけた。
娘は胸に手を当て、ほっと息をついた。
「……ありがとうございます。おかげさまで大丈夫です。あの、私、ミィナといいます」
微笑む表情は弱々しいが、それでも必死に礼を伝えようとする健気さがあった。
「ミィナ、か」
俺は小さく繰り返した。
「この近くのポタ村から来たんです。この森で食べ物を探していて……でも、突然、あの魔獣に……」
震える声で、ミィナは語る。
(……あれは"魔物"じゃなくて、"魔獣"って言うのか)
言葉の違いに気づき、俺は内心で思い直した。
「……あの、あなた様は異世界人様なのですか?」
ふいに、ミィナが尋ねてきた。
「たぶんな」
俺は肩をすくめる。
「自分でもよくわからないが……そんなとこだろ」
ミィナの顔に一瞬だけ緊張が走ったが、
慎重な眼差しに変わり、じっと俺を見つめる。
「……お名前は?」
少し考え、俺は答えた。
「アマトだ」
ティアマトから授かった、この世界での新たな名前。
それを名乗ると、ミィナはほっとしたように微笑んだ。
「アマト様、ですね」
俺はあたりを見回し、それからミィナに声をかけた。
「立てるか? ……お前の村まで、送っていく」
「ありがとうございます」
ミィナは小さく微笑み、かすかに頭を下げた。
ふらつきながらも、彼女は立ち上がる。
二人で歩き出してしばらくしてから、俺は尋ねた。
「なぁ、ミィナ。……この世界のことを、少し教えてくれないか?」
ミィナはこくりと頷き、ぽつぽつと語り始める。
「十年くらい前に……たくさんの異世界人様たちが、こちらの世界に転生してきました」
詳しくはわからないとしながらも、ミィナによれば――
異世界人たちは、持ち込んだ知識と技術で、この世界の技術を発展させた。
特に、“賢者の石”と名付けられた人工の魔石を生み出す技術は世界を一変させた。
それを基盤に、”禁忌の魔素学”と呼ばれる新たな体系が築かれ、
魔法、魔機、魔素薬、魔療技術などが発達し、
かつては力を持たなかった人間界が、急速に勢力を拡大していった。
「そして、五年前です」
ミィナの声が、少し沈んだ。
「七つの大罪と呼ばれる異世界勇者様たちが現れました。彼らは魔族を敵と見なし……」
戦いは避けられず、大規模な戦争へと発展した。
そして、魔王と七つの大罪による最終決戦が行われた。
「……その戦いで、魔王様は敗れました。
でも……最後の力で、魔族界を覆う結界を張り、今もそれが、魔族界を守っていて……」
『……魔王って、もしかして』
『そうだぁぁぁ!! 俺様のことだぁぁぁぁ!!』
脳内で、暑苦しい絶叫が響く。
(ああ、やっぱりな)
ため息混じりに、俺は心の声を無視した。
そのとき、ミィナがふと思い出したように口を開いた。
「そういえば……気を失っている間、変な夢を見ました」
「夢?」
「はい。魔王様と女神様が争っている夢です。
でも、今は魔王様も、女神様も、ここにいるはずもないですよね?」
はにかむように笑うミィナ。
(魔王に様を付けるのは気になるが、俺にも様を付けているから、丁寧に話す人なのだろう……)
そして俺は、その後、ミィナの緊張をほぐすために他愛のない話もしながら、ポタ村への道をゆっくりと歩み続けた。
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