異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第一章 光の雪

第8話 結界消失――世界が揺れ動くとき、傲慢と憤怒は静観する……

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吹雪渦巻く山脈の最奥。

氷の牙のように聳える黒岩の峰、その頂に築かれた堅牢な要塞。

そこは、魔族界を統べるドラゴン族の牙城であった。

その中央、開かれた窓の前に一人の男が立っていた。

ドラゴン族の長、ルガード。

「……結界が……消えた、か」

低くつぶやいたその一言に、背後で控えていた竜人たちがざわめき立つ。

「どういういことだ…!」

「人間どもが動き出したのか…!?」

騒然とする室内に、冷気のような緊張が満ちる。

その瞬間――

「静まれ」

低く鋭い一喝とともに、ルガードの背から双翼がバサッと展開された。

黒鉄のごとき翼が広がり、空気を震わせる威圧が、室内を一瞬で支配する。

それだけで、下々たちは言葉を飲み、沈黙した。

「……あの結界は、ゼルヴァスがかつて自ら張ったもの。やすやすと崩れるはずがない。

何が、おこったのだ……」

その声は、冷えた刃のように重く。

そして、彼の傍らには、一人の少女が立っていた。

少女は、何も言わず、ただ拳を握って窓の外を見上げ、その表情には、何かを思いつめたような沈黙が宿る。

「真相はどうあれ…この事態を放置すれば、いずれ火はこちらにも飛び火する。

…悪魔族か。気は進まんが、奴らとも話をせねばならんか」

吹き込む風が、広がった翼をかすかに揺らした。



―――



雲よりも高く、風も届かぬ空域に浮かぶ、巨大な神殿――オリンポス神殿。

神々の統治と監視の場であり、地上三国との会談もここで行われる。

その中枢に位置する広間。

そこには、荘厳な長方形の卓が据えられていた。

そしてその卓の中央奥、三国代表とは距離を置いた場所に、神界の最高神、ザイヴァスの座があった。

ザイヴァスは、若々しく整った顔立ちを持つ男だった。

色白の肌に、細く静かな瞳。

物静かで穏やかに見える佇まいではあるが、その目に宿る深い光だけが、この神がただ者ではないことを物語っていた。

その右隣に座るのは、魔素主義国家エルメゼリアの代表、ユペリス。

七つの大罪“傲慢”の名を冠し、金髪をなびかせる長身の男。

堂々とした佇まいと、目に宿る力強い熱――その姿からは、地上の魔素文明を牽引する覇気がにじんでいた。

左隣には、共魔国家ラグナメアの将軍、七つの大罪“憤怒”のオルギーが無言で座していた。

分厚い鎧に覆われたその体は、まさに軍国の象徴。

巨躯を静かに構え、まるでその場にいること自体が意思表示であるかのようだった。

そして、神から最も遠い位置に座すのが、封建王政国家ガルドリアの王、アークリオス三世。

小太りの体に華美な装飾をまとい、過剰な宝飾がきらびやかに揺れている。

大ぶりな王冠は、彼の体格に対してやや不釣り合いで、椅子の背もたれに何度ももたれ直していた。

本来であれば、この会議は魔素流通に関する定例の場であった。

しかし今日に限っては、空気に重たい緊張が漂っていた。

前日、魔族界を覆っていたゼルヴァスの結界が突如として消失した――

その事実が、急遽この場で話題としてあげられたのである。


ユペリスが、卓に肘をつきながら静かに語る。

「……魔族界が弱っているのは間違いない。

確かに、結界が消えた今、こちらから攻め入るには好機とも言える」

言葉を区切り、わずかに視線を持ち上げる。

「だが……今はそこに戦力を割くよりは、魔素の収集を優先したい。

結界が消えた影響で、魔素の流れも不安定になりつつある。

我が国としては、今のところ静観の姿勢をとるつもりだ」

続いてオルギーが重く口を開く。

「我がラグナメアも同様だ。

魔族界が衰えているのは承知している。だが、我らの目的はそこではない。

……動く価値は、今はないと判断している」

二人の落ち着いた判断に対し、一人だけ、そわそわと落ち着かない様子を見せていたのが、アークリオス三世だった。

「し、しかし……それで済むのか? 貴国らは余裕の態度で構えておるようだが、我がガルドリアは違う!

魔族界と国境を接しておるのだ! 奴らが、暴発でもすれば、我が国が最初に被害を受ける!」

オルギーがちらりと視線を向ける。

「ならば、貴国では体制を整えておくのが良いだろう」

「そ、そう簡単にいくか! 準備には数か月はかかるものだ。

軍の再編、貴族たちの説得、戦用の魔素はどうする?!

……それに、貴国らがその隙に後ろから侵攻してこないという保証は……!」

「アークリオス陛下」

ユペリスが、冷ややかに制した。

「ここは神の御前だ。言葉を慎まれたし」

はっとして、アークリオス三世は青ざめ、神へ向かって深く頭を垂れる。

「し、失礼いたしました……ザイヴァス様……取り乱しました……!」

だが、ザイヴァスは気にも留めた様子を見せず、ただ柔らかく微笑んだ。

「気にすることはありません。皆さん、それぞれの立場がおありになる」

その穏やかな声音に、空気が一瞬だけ和らぐ。

そしてその直後、オルギーが言った。

「では、当面の防備として。我が国の“魔獣召喚兵器”を、貴国へ一時貸与しよう」

アークリオスが、目を見開く。

「っ! あの兵器を……!? ま、まことか……?」

オルギーは静かにうなずき、続ける。

「この兵器は、射程距離が数百キロ程度しかないため、我が国から魔族界への魔獣召喚はできん。

だが、貴国の位置ならば、十分に対応可能なはずだ」

一瞬、驚愕の表情を浮かべたアークリオスだったが、

次第に口元がにやりと緩み、手をもみながら頭を下げる。

「そ、それは助かる。まことにありがたい…!

で、では、我が国もすぐに動かねば。そうと決まれば……ザイヴァス様、お先に失礼させていただきます!」

重そうな体を揺らしながら席を立とうとするアークリオス三世の姿を、

他の三人は誰も見ようとはしなかった。

ザイヴァスはただ、ゆっくりと目を閉じたまま、静寂の中に在り続けていた。




ーーー




深い霧が立ちこめる山間のどこか、ある廃寺のような古びた建物の中――

そこに、二人の影があった。

一人は、長く白い髭をたくわえた老爺で椅子に座っている。

もう一人は、黒衣に身を包んだ大柄の男。

年齢は定かでないが、静かに立つその背には、異様な気配が漂っていた。

老爺がぽつりと呟いた。

「…ゼルヴァス結界が、消えおった」

その言葉に、黒衣の男がゆっくりと視線を向ける。

老爺が続ける。

「ゼルヴァスがくたばったとは思えぬが。だとすると、何者かによって結界を解除されたとも考えられる」

黒衣の男が、外を仰ぐ。

霧の向こうには、ほんのわずかに夜が白んできていた。

「……また、戦が始まるのか?」

「戦だけでは終わるまい。この世界そのものの、根が、揺れておる」

「では、我らの役目も、そろそろということか」

老爺は、ゆっくりと立ち上がる。

「その時が来れば、自然と道は示される。…焦るな。時の波に乗れ」

その言葉が落ちた室内には、霧よりも深い沈黙に満ちていた。
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