異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第四章 森の精霊

第48話 解き放たれしドーピング魔器――その名はアルティマナ

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――ラグナメア軍の闘技場

闘技場は、高く堅ろうな城壁とも呼べるほどの防壁で囲まれている。

防壁の北側には、闘技場を一望できる塔がそびえたっており、

その一番高い位置には展望室が設けられている。

そして、その中に二人の人影が写る。

憤怒のオルギーと嫉妬のフトノスである。

オルギーがややあきれ返った口調で言う。

「よくもまぁ、次から次と新しいものを作るな。お前は」

「なに、今回のはほんのお遊びだ。例のものほどではない」

フトノスは、感情を見せることなく淡々と話した。

「それでもかなり実用的ではあるがな」

といって闘技場のある一角に目を向ける。

「今日は、これまでのマナインジェクターの課題を克服したことを証明する日だ」

目を向けたその先には、巨大な生物が鎖に繋がれ、伏せていた。

全身を覆う漆黒の鱗がわずかに蠢き、鼻孔からは荒く、熱を帯びた吐息が漏れる。

まさしく、それは“魔獣”そのものであった。

その魔獣の目の前には、腰に一本の剣を差した男が立っていた。

名はバナム。ラグナメア軍大佐にして、異世界人である。

「こいつが……俺が無敵を証明する実験に付き合ってもらう魔獣ってわけか」

その目には愉悦と侮蔑が同居し、対象を値踏みするような光を宿していた。

「よし、解き放て」

バナムの号令と同時に、魔獣を拘束していた鎖が炸裂音とともに断ち切られる。

手足の自由を得た魔獣は、耳を劈くような咆哮を上げ、ゆっくりと体を立ち上げた。

一方、バナムは、迫り来る咆哮にも一切動じなかった。

ゆっくりと左手を腰へ添え、口元に不敵な笑みを刻んだまま、右手を肩口へと上げる。

その手には、鋭く光る注射器のような魔器が握られていた。

魔器には、青白く光る人工魔石――”賢者の石”が設置され、そのシリンダーには同色の薬液らしきものが装填されていた。

「――さて、ショウタイムだ」

低く呟くと同時に、バナムは躊躇なく魔器の針を自らの心臓に突き立てた。

ブスッ、と胸を突く音が闘技場の静寂に溶ける。

そして薬液が一滴残らず体内に注がれると――

彼の全身を包むように、淡い青のオーラがゆらりと立ちのぼった。

風もないのに、バナムの軍服の裾が揺れ、周囲の空気が震えるように波打つ。

その異様な気配に、魔獣の瞳が赤く光る。

瞬時に四肢を沈め、爪が地を抉る。背はしなり、尾がわずかに揺れた。

牙をむき出しに、低く唸りながらバナムを睨み据える。

空気が張り詰め、沈黙が辺りを支配する。

――そして、裂くように。

先に動いたのは、魔獣だった。

魔獣が咆哮と共に地を蹴る。

「ガアアアァァァッ!!」

獣の巨体が音速さながらにバナムへと突っ込んだ。

だが――

「……遅い」

バナムはわずかに身をひねり、右脇へと滑るようにかわす。

ズシャッ!!

魔獣の爪が地面を削り裂く。

すかさず振り返った魔獣が、右腕を大きく振るった。

ブォン!!

その一撃は回避後のバナムを正確に捉え――

ゴガァンッ!!

バナムの体が闘技場の防壁へと激突、石壁が砕けて粉塵が舞い上がる。

「大佐ぁっ!!」

近くの兵士たちが悲鳴のような声を上げる。

しかし――

ズン……

砕けた壁の中から、青いオーラを纏ったままのバナムが、まるで何事もなかったかのように悠々と歩み出てきた。

「まったく……躾がなってないな」

その口元には余裕の笑み。

魔獣が再び吼える。

「ギャオォォン!!」

そして――ひと跳びでバナムの目の前に降り立つ。

ドォンッ!!

闘技場が揺れるほどの着地。だがバナムはその場から動こうともしない。

魔獣が右腕を大きく掲げ、ふたたびバナムを叩き潰さんと振りかざした――

ゴッ!!

「……今度はこちらの番だ」

バナムは左手を構え、迫り来る腕を受け止める。

衝突音が空気を震わせるも、彼の足は一歩も動かない。

ギギギッ……!

巨大な腕が止まったまま、魔獣が低く唸る。

「なっ……!」

兵士たちが目を見開く中、バナムはその右腕をぐいと引き寄せる。

「遊びは終わりだ」

そして――

ブンッ!!

魔獣の巨体が軽々と宙を舞い、一直線に防壁へと叩きつけられた。

ドガァァァン!!

壁が崩れ、砂塵が一気に広がる。

「うわっ、下がれッ!」
「退避しろ!!」

兵士たちが慌てて避難する。

ゴホォ……ゴゴゴ……

砂煙の中から、魔獣のシルエットが立ち上がる。

その巨体は傷一つ負っていないように見え、堂々と高らかに咆哮する。

「グォォォオォォン!!」

それを見上げながら、バナムは口の端をつり上げた。

そして次の瞬間――

「オオオオォォォッ!!」

バナムが雄叫びと共に走り出す。

地を蹴って跳躍。空中で体をひねりながら魔獣の頭上を飛び越える。

「おらァ!!」

両手を高く組み上げ、力を込めて振り下ろす――!

ドガァッ!!

その一撃が、魔獣の頭部を直撃。

魔獣の首が深く沈み、そのまま勢いよく地面へ叩きつけられた。

ズガァァン!!

大地がめり込み、震え、砂と衝撃波が闘技場を包んだ。

「おいおい、さすがにまだおわりではないだろう。こっちはまだ全然本気を出していないぞ」

とバナムがあざ笑う。

すると、魔獣は頭を持ち上げ、雄たけびを上げると、口の中から赤い光が現れ始める。

「ほう、口から何かを放つつもりだな。では、私は、それをこの剣でたたききって見せよう」

バナムは、そういうと腰に差してあった剣を抜き出し、

「”青剣”」とつぶやく。

すると、剣を持つバナムの手から青いオーラが剣に絡まるように纏いつく。

次の瞬間、魔獣の口から赤い火炎が放たれる。

それをバナムは、青きオーラを纏う剣でたたききった。

赤い火炎は、二分されそれぞれの火炎が壁にぶつかる。

バナムは軽く鼻を鳴らし、剣を両手で構え、突撃の体勢に入った。

「ふん、この程度のものか。」

次に、鋭い目を光らせながら言う。

「お前の攻撃はこれで終わりか。ならば、私が終わらせてやる」

バナムの全身を、さらなるオーラが包み込み、その力が一層膨れ上がる。

次の瞬間――

ガッ!

バナムは力強く地面を蹴り、光の矢のように一直線に魔獣の頭部へと突進した。

ズドーンッ!

爆音と共に、魔獣は一瞬にして音も立てずに倒れ、動かなくなった。

「ほう、バナムごときにあの魔獣を倒せるとはな。」

オルギーが少し驚いた表情で呟く。

「この新しいドーピング剤、アルティマナは、従来のマナインジェクターの三倍の効果がある」

フトノスが冷静に続けた。

「しかも、今回のアルティマナは副作用がかなり軽減され、少なくとも使用後すぐに副作用が現れることはなくなった。以前のマナインジェクターは使用後の副作用が酷く、最悪、命を落とす者もいたが、それが軽減されたことになる」

オルギーは口元を緩めながら言う。

「なるほどな。そう言いたいのは、兵士一人ひとりに使わせても、”すぐに死ぬ”ことはない、ということだろ?」

フトノスは表情を変えずに言った。

「嫌味な奴だ。確かに使い続ければ、最終的にはその者の身体を蝕むことになるが、そこまでのことは私の知ったことではない」

オルギーが楽しげに笑いながら言う。

「まったく、マッドサイエンティストというやつは無責任で仕方がない」

その時、オルギーの腰元から、突如として――プルル、プルル……と軽やかな音が鳴り響いた。

彼は手慣れた様子で腰に装着していた魔話機を取り出すと、画面に浮かぶ光る印を親指で押し、すっと左耳に当てた。

「私だ。連絡があったみたいだが……」

間もなく、魔話機の向こうから男の声が返ってきた。

「おお、お前か。ちょっと話があってな」

オルギーは、やや芝居がかった口調で応じた。

「私は忙しい。要件を手短に言え」

すると、魔話機の向こうの男が、少し不満げな声で返す。

「まぁそう言うな。実はな……」

オルギーは口元をゆがめ、ニヤリと笑った。

「ガルドリアに魔獣召喚兵器を渡してやったのだ。どうやら、魔物界のどこかで魔獣を召喚しているらしい」

「――なにっ!?」

男の声がわずかに大きくなり、驚きが伝わってくる。

「安心しろ。召喚機は転送先を正確に指定できん。だから、必ずしもお前のところに現れるとは限らん。それに……」

オルギーは細めた目でほくそ笑みながら、言葉を続けた。

「お前には、いろいろな魔機を渡してある。特に、“マナインジェクション”……あれは、お前たちを最強にする力だ。

万が一、魔獣が現れても、それを使えば事足りる」

男は、少し落ち着いた声で応じる。

「“マナインジェクション”は、いざという時のために温存している。

魔獣ごときに使う気はない。通常の戦力で対応する」

「ふむ、そうだったな。それなら問題ない」

一拍置いて、オルギーは少し調子を変えて尋ねた。

「それと――“森の妖精”の件だが、進展はあったか?」

「長らく姿を見せていない。そう簡単に見つかるものではない。何度もせかすな」

明らかに苛立ちを含んだ声だった。

「そうか……なかなか厄介だな。こちらとしても、“森の妖精”を見つけることを条件に魔機を渡している。そろそろ結果がほしいところだ」

オルギーは、やや声のトーンを落として言った。

「今、“森の妖精”の反応を探知する魔機を開発中だ。それさえ完成すれば、居場所は突き止められる。その時はすぐ連絡してやる。待っていろ」

「了解した。楽しみにしている。……では、これで終わりだ」

そう言って、オルギーは魔話機の接続を切った。

そして、横に控えていたフトノスへと視線を向け、にやりと意味深に笑ってみせたのだった。
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