異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第四章 森の精霊

第49話 ウロボロスの痣に抗う四人の覚悟の火

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――ポタ村・広場


朝靄が晴れ、陽が差し込む中、広場の中央で土煙が巻き上がる。

その中心にいるのは、全身に灰色の体毛をまとい、獣のような脚で踏み込む狼種の男――ルダル。

対するは、粘性を帯びた青い肌に変じ、

人型を保ちながらもその形状を自在に変化させるスライム姿のルノアと、

筋肉質な緑の引き締まった体躯に変身したホブゴブリン姿のエメルダだ。

「いいか二人とも! 私を潰す気で来い!」

ルダルが吠えるように叫んだ瞬間、エメルダが地を蹴り、拳を突き出して突撃する。

同時にルノアが流体のように腕を伸ばし、側面から回り込んだ。だが、ルダルは一歩も引かない。

鋭い爪の一撃でエメルダの拳を受け止め、片脚で地を薙ぐように回し蹴りを繰り出す。

「ぐっ……! 速ッ!」

エメルダがつぶやいた。

「こっちもいるよ!」

後方から迫るルノアが、液状化した下半身で滑るように懐に飛び込む。

しかし、ルダルの反応はそれすら上回った。背後に肘を振り抜き、空気を裂く音が響く。

――だが、そこからが違った。

ルノアは即座に肘の攻撃を回避し、背中にしがみついたかと思えば、体を細長くして腕を絡ませる。

エメルダもその隙を逃さず、拳に重心を乗せた重たい一撃をルダルの腹に叩き込んだ。

「ふっ……!」

ルダルは小さく息を漏らすが、すぐに体をひねってルノアを振り払い、二人の間に距離を取る。

(……たいしたもんだ。短期間でここまでやれるようになるとは)

戦いの中でしか磨かれない、間合いの読み、連携の鋭さ。それが確実に二人の中に芽生えていた。

ルダルはその成長に、内心で舌を巻く。

ルノアが肩で息をしながら、ぬるりと流体の体を人型へと戻す。

続けてエメルダも、荒い呼吸を整えながらホブゴブリンの姿から人間の姿へと戻った。

ふたりは自然に顔を見合わせ、わずかに笑みを交わすと、訓練の開始位置へと歩き出す。

その時だった――

ルノアが、何気なく振り返りざまに首を横に振り、汗を払うようにポニーテールを揺らした。

その髪の隙間から、ふと覗いたうなじ。

そこにあったのは――ウロボロスの痣。

「……!」

狼の目が見開かれ、喉の奥で言葉がせき止められる。

数秒の沈黙後ーー

ルダルは低く、だがはっきりと口を開いた。

「……今日の特訓は、ここまでだ」

「え? まだまだいけるよ?」

「俺たち、やっとルダルに一撃入れられるようになったばかりだ」

ルノアとエメルダが不満げに声を上げるが、ルダルは首を横に振る。

「続けたければ、二人でやれ。……私は、少し用事を思い出した」

そのまま振り返ると、ルダルは真っ直ぐに広場を後にした。

目指す先は、アマトのもと――かすかに表情を曇らせながら、足取りを早めていく。


――ミィナの家の居間


そこには湯気の立つ茶の香りが漂っていた。

アマトは卓上の湯呑を手に、静かにそれを口に運んでいた。

部屋の中は静かだったが、内側では常に複数の意識がせめぎ合っている。

その時、外から扉を叩く音と共に、低く張った声が響いた。

「アマト様。ルノアのことでお話があります」

アマトが応じる前に、精神の奥底から声が届く。

『気づいたな……』

ゼルヴァスの声が、冷静かつ鋭く響いた。

『痣のこと?』

今度はティアマトの、どこか柔らかくも緊張を孕んだ声。

アマトは一拍、静かに目を閉じる。

(……そうか)

「入れ」

扉が静かに開き、ルダルが姿を現す。

アマトの前まで歩み寄ると、目の前で膝をついた。

「失礼します」

アマトが先に問うた。

「……痣のことか?」

「はい。先ほど、特訓中にルノアの首元に、ウロボロスの痣を見ました。

偶然でしたが、見逃せるものではありませんでした」

アマトは、わずかに眉を動かすと、目線を落としながら答えた。

「そうか……。いずれ話すつもりだった」

「アマト様がこの村にとどまるとおっしゃられたのは、この件があったからでしょうか?」

「あぁ、そうだ」

アマトは湯呑を置き、ゆっくりと語り出した。

「まだ、“記憶封じの楔”を知らなかった頃だ。

……俺は、あいつに前世の話をしてしまった。

あの痣は、その後に現れた」

「そうでしたか」

一瞬の沈黙。

ルダルが視線を上げ、静かに問う。

「この件を、他に知るものは?」

「ミィナには話した。あいつは……ルノアを助けたいと言ってくれた」

「ミィナであれば、間違いなくそのように言うでしょう」

アマトはわずかに目を細め、頷いた。

「エメルダには……言わないのですか?」

アマトの目が、湯呑の縁を見つめたまま、ふと曇る。

「……悩んでいる。あいつはルノアをパートナーとして、完全に信頼している。

そんなやつに、痣の意味を教えたら……相当、動揺するだろう」

「そうでしょうか」

ルダルは静かに言葉を返す。

「付き合いは短いですが、私には、あの者がそんなに脆いとは思えません」

「……」

アマトが答えに詰まったその瞬間、また内なる声が響いた。

『ルダルの言うことも一理ある』

ゼルヴァスが短く告げる。

『エメルダちゃん、強い子だもの。きっと大丈夫よ』

ティアマトの声が、まるで背中を押すように優しく届く。

アマトはゆっくりと目を閉じ、そして静かに開いた。

「……わかった。エメルダにも話そう」

ルダルは深く一礼する。

「今は、ルノアと訓練を続けているはずです。私が後で、エメルダを連れてまいります」

「あぁ、頼む。ミィナにも、その旨を伝えておく」

「承知しました」

そう言って、ルダルはすっと立ち上がると、一礼して静かに部屋を後にした。

残されたアマトの目には、わずかな不安と覚悟が同居していた。


――その夜、ミィナの家の居間


蝋燭の火が静かに揺れ、薄明かりの中に重たい沈黙が漂っていた。

エメルダは椅子に座らず、机に両手をついたまま立ち尽くしている。

その声には、抑えきれない悲しみと、にじむような怒りが入り混じっていた。

「ルノアが……呪いに……」

低く、押し殺したような声。

アマト、ミィナ、ルダルの三人は、それぞれの位置から無言のままエメルダの様子を見守っていた。

そして、

「エメルダさん……」

ミィナが、そっと声をかける。

だが、エメルダはそれを遮るように口を開いた。

「大丈夫だ、ミィナ。これでもゴブリンの女頭だ。気持ちのセーブくらい、できるさ」

胸の内を悟らせまいとするその言葉とは裏腹に、机に置かれた両手はかすかに震えていた。

三人はそのことに気づいていた――そして、ただ黙って、その揺れを受け止めていた。

「……あいつは俺にとって、もうかけがえのないパートナーだ。

神のルールだかなんだかは知らねえが……黙って従う気はねえ」

絞り出すように紡がれた言葉のひとつひとつが、静かな決意の灯となって部屋を満たしていく。

ルダルは静かに目を閉じ、アマトは小さく頷いた。

ミィナもまた、そっとエメルダの背に手を添える。

話は始まったばかりであったが、心はすでにひとつだった。

――ルノアを救う。そのために、どんな運命にも抗ってみせる。

小さな家の片隅で、静かにひとつ、揺るぎない覚悟の火がともった。
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