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第4章 「聴いてない」と言われて
第2話「妻の本音」
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翌朝、恭介は昨夜の決意を胸に目を覚ました。今日は陽菜の参観日だ。絶対に行く。そして、娘の様子をしっかりと見る。
朝食の席で、恭介は意識的に家族の話に耳を傾けた。
「陽菜、今日は参観日だね。楽しみ?」
恭介が話しかけると、陽菜は少し驚いた表情を見せた。いつもならスマホを見ながら適当に返事をする父親が、今日はちゃんと目を見て話しかけてきたからだ。
「うん...ちょっと緊張してる」
「そうか。パパも見に行くから、頑張ってるところ見せてね」
「本当に来るの?」
陽菜の声には、期待と不安が混じっていた。これまで何度も約束を破られてきたからだろう。
「約束する。必ず行く」
恭介は娘の目を見て、はっきりと言った。
「やった!」
陽菜の顔が、パッと明るくなった。その笑顔を見て、恭介は胸が締め付けられる思いがした。こんなに簡単に娘を喜ばせることができるのに、今まで何をしていたのだろう。
梓も、少し驚いたような、そして嬉しそうな表情を見せた。
「じゃあ、私も一緒に行くわね」
「うん。家族で行こう」
美月も嬉しそうに手を叩いている。
朝、会社に着くと、恭介は上司にメールを送った。
「本日午前、娘の参観日のため休暇をいただきます」
送信ボタンを押す瞬間、少しためらいがあった。今日は重要な会議がある。しかし、恭介は決断した。家族を優先する。それが、今の自分に必要なことだ。
ワークライフバランス。近年、多くの企業で推奨されている概念だ。
しかし現実には、日本の労働環境では仕事を優先せざるを得ない状況が続いている。特に管理職になると、家族との時間を犠牲にすることが当たり前になりがちだ。
厚生労働省の調査では、子育て世代の父親の約6割が「もっと家族との時間がほしい」と回答している。しかし、実際に有休を取得して子どもの行事に参加する父親は、まだ少数派だ。
恭介も、これまでそうだった。しかし、今日から変わる。
午前九時半、恭介は会社を出て、陽菜の幼稚園に向かった。梓と美月も既に到着していて、教室の後ろで待っていた。
「パパ、来た!」
陽菜が小さく手を振った。担任の先生も、父親の参加に驚いた様子だった。
「陽菜ちゃんのお父様、いつもお仕事でお忙しいと伺っていましたが」
「今日は、娘のために時間を作りました」
恭介の言葉に、先生は優しく微笑んだ。
参観が始まった。子どもたちが、自分の描いた絵を発表していく。
陽菜の番が来た。
「これは、私の家族です」
陽菜が掲げた絵には、四人の人物が描かれていた。しかし、恭介の姿だけが、他の三人から少し離れた場所に描かれている。
「パパは、いつもお仕事で忙しいから、一人だけ遠くにいます」
陽菜の説明を聞いて、恭介の胸が締め付けられた。娘の目には、自分がそう映っていたのだ。家族から離れた、遠い存在として。
恭介は、自分の目頭が熱くなるのを感じた。
参観が終わり、恭介は陽菜に声をかけた。
「陽菜、さっきの絵、パパも見せてもらっていい?」
「うん」
陽菜は少し不安そうに、絵を恭介に手渡した。
恭介は、その絵をじっくりと見つめた。ママと陽菜と美月は、手を繋いで笑っている。しかし、パパだけが、遠くで一人。
「陽菜、パパに話したいこと、ある?」
恭介は、娘の目を見て尋ねた。今度は、本当に聴くために。
陽菜は少し躊躇したが、やがて小さな声で言った。
「パパ、もっと一緒にいてほしい」
その言葉に、恭介の涙が溢れそうになった。
「そうだよね。ごめんね。パパ、これからはもっと一緒にいるから」
「本当?」
「本当だよ。約束する」
恭介は陽菜を抱きしめた。小さな体が、恭介の腕の中で温かい。
梓も、その様子を見て目を潤ませていた。
帰り道、恭介は梓と並んで歩きながら話した。
「昨日、梓が言ってくれて良かった」
「え?」
「『聴いてない』って。本当にその通りだった」
恭介の言葉に、梓は少し驚いた表情を見せた。
「陽菜の絵を見て、自分がどれだけ家族から離れていたか分かった」
「恭介...」
「これから、ちゃんと聴く。梓の話も、子どもたちの話も」
梓は静かに頷いた。
「実は、私も言いたいことがあったの」
「何?」
恭介は立ち止まって、梓の方を向いた。
「最近、すごく孤独だった」
梓の声が震えた。
「恭介は家にいても、心はいつも仕事。私が話しかけても、上の空。子どもたちの相手も私一人」
「ごめん」
「謝ってほしいんじゃないの。ただ、もっと頼りたかった」
梓の言葉に、恭介は自分の認識の甘さを痛感した。
「家事も育児も、全部一人でやってきた。それが当たり前だと思ってた。でも、本当は違う」
「梓...」
「たまには、私の話も聴いてほしい。愚痴でも、不安でも。ちゃんと受け止めてほしい」
梓の目から、涙が溢れた。
恭介は、妻をしっかりと抱きしめた。
「ごめん。全然気づいてなかった」
「これからは、ちゃんと話そう。二人で」
梓は恭介の胸に顔を埋めて、静かに泣いた。
その時、恭介の心に大きな転換が起こった。
「家族のために働いている」という思い込みから、「家族と共に生きる」という本質への気づき。
仕事で成功することが家族の幸せだと思っていた。しかし、家族が本当に求めていたのは、そばにいて、話を聴いてくれることだった。
夕方、家に戻ると、恭介は陽菜に声をかけた。
「陽菜、昨日見せたかった絵、今見せてくれる?」
「本当に?」
陽菜の目が輝いた。
「うん。ちゃんと見たい」
陽菜は嬉しそうに、自分の部屋から絵を持ってきた。
恭介は、その絵を丁寧に見た。色使い、描かれているもの、一つひとつに意味がある。
「これ、すごく上手だね。パパの顔、よく描けてる」
「本当?」
「うん。パパの特徴、ちゃんと捉えてる」
恭介の言葉に、陽菜は満面の笑みを浮かべた。
「ねえ、パパ。今度は一緒に絵を描こうよ」
「いいね。何を描こうか?」
「家族の絵!今度は、パパも一緒にいるの」
陽菜の提案に、恭介は胸が熱くなった。
「それ、いいね。みんなで一緒に描こう」
その夜、恭介は家族四人で食卓を囲んだ。いつもならテレビを見ながら、あるいはスマホを見ながらの食事だったが、今日は違った。
「今日はね、幼稚園で楽しかったの」
陽菜が話し始めた。恭介は、箸を置いて、娘の話に集中した。
「先生がね、私の絵を褒めてくれたの」
「そうなんだ。どんな絵?」
「家族の絵。でも、次はもっといい絵を描くの。パパも一緒の」
「楽しみだな」
恭介は心から言った。
梓も、その様子を見て微笑んでいた。
食事が終わった後、恭介は梓にも声をかけた。
「梓、今日一日どうだった?」
「え?」
梓は驚いた様子だった。恭介がそんな質問をすることは、ほとんどなかったからだ。
「何か大変だったこととか、嬉しかったこととか」
「そうね...美月が今日、初めて『ママ』ってはっきり言ったの」
「本当?それはすごい!」
恭介の反応に、梓は嬉しそうに頷いた。
「もう少し早く帰ってきてくれたら、聞けたかもしれないけど」
「ごめん。でも、これから早く帰るようにする」
「無理しないでね。でも、たまには早く帰ってきてくれると嬉しい」
梓の言葉に、恭介は頷いた。
その夜、寝る前に、恭介は梓ともう一度話した。
「今日、気づいたんだ」
「何に?」
「『聴く』って、本当に大切なことなんだって」
恭介の言葉に、梓は静かに耳を傾けた。
「仕事で、利用者の方々の話を聴く大切さを学んだ。でも、それを家族に実践してなかった」
「うん」
「これから、ちゃんと聴く。梓の話も、子どもたちの話も」
「ありがとう」
梓は恭介の手を握った。
「でも、聴くだけじゃなくて、恭介の話も聞かせて」
「え?」
「恭介も、仕事で大変なことあるでしょ。それも、私に話して」
梓の言葉に、恭介は驚いた。
「いいの?」
「当たり前でしょ。夫婦なんだから」
その言葉に、恭介は目頭が熱くなった。
「ありがとう」
二人は、久しぶりに心から向き合って話をした。
仕事のこと、家族のこと、将来のこと。
そして、互いに聴き合った。
その夜、恭介は深い安心感の中で眠りについた。
家族との絆が、少しずつ取り戻されている。
「聴く」ことから始まる、新しい家族の形が生まれようとしていた。
朝食の席で、恭介は意識的に家族の話に耳を傾けた。
「陽菜、今日は参観日だね。楽しみ?」
恭介が話しかけると、陽菜は少し驚いた表情を見せた。いつもならスマホを見ながら適当に返事をする父親が、今日はちゃんと目を見て話しかけてきたからだ。
「うん...ちょっと緊張してる」
「そうか。パパも見に行くから、頑張ってるところ見せてね」
「本当に来るの?」
陽菜の声には、期待と不安が混じっていた。これまで何度も約束を破られてきたからだろう。
「約束する。必ず行く」
恭介は娘の目を見て、はっきりと言った。
「やった!」
陽菜の顔が、パッと明るくなった。その笑顔を見て、恭介は胸が締め付けられる思いがした。こんなに簡単に娘を喜ばせることができるのに、今まで何をしていたのだろう。
梓も、少し驚いたような、そして嬉しそうな表情を見せた。
「じゃあ、私も一緒に行くわね」
「うん。家族で行こう」
美月も嬉しそうに手を叩いている。
朝、会社に着くと、恭介は上司にメールを送った。
「本日午前、娘の参観日のため休暇をいただきます」
送信ボタンを押す瞬間、少しためらいがあった。今日は重要な会議がある。しかし、恭介は決断した。家族を優先する。それが、今の自分に必要なことだ。
ワークライフバランス。近年、多くの企業で推奨されている概念だ。
しかし現実には、日本の労働環境では仕事を優先せざるを得ない状況が続いている。特に管理職になると、家族との時間を犠牲にすることが当たり前になりがちだ。
厚生労働省の調査では、子育て世代の父親の約6割が「もっと家族との時間がほしい」と回答している。しかし、実際に有休を取得して子どもの行事に参加する父親は、まだ少数派だ。
恭介も、これまでそうだった。しかし、今日から変わる。
午前九時半、恭介は会社を出て、陽菜の幼稚園に向かった。梓と美月も既に到着していて、教室の後ろで待っていた。
「パパ、来た!」
陽菜が小さく手を振った。担任の先生も、父親の参加に驚いた様子だった。
「陽菜ちゃんのお父様、いつもお仕事でお忙しいと伺っていましたが」
「今日は、娘のために時間を作りました」
恭介の言葉に、先生は優しく微笑んだ。
参観が始まった。子どもたちが、自分の描いた絵を発表していく。
陽菜の番が来た。
「これは、私の家族です」
陽菜が掲げた絵には、四人の人物が描かれていた。しかし、恭介の姿だけが、他の三人から少し離れた場所に描かれている。
「パパは、いつもお仕事で忙しいから、一人だけ遠くにいます」
陽菜の説明を聞いて、恭介の胸が締め付けられた。娘の目には、自分がそう映っていたのだ。家族から離れた、遠い存在として。
恭介は、自分の目頭が熱くなるのを感じた。
参観が終わり、恭介は陽菜に声をかけた。
「陽菜、さっきの絵、パパも見せてもらっていい?」
「うん」
陽菜は少し不安そうに、絵を恭介に手渡した。
恭介は、その絵をじっくりと見つめた。ママと陽菜と美月は、手を繋いで笑っている。しかし、パパだけが、遠くで一人。
「陽菜、パパに話したいこと、ある?」
恭介は、娘の目を見て尋ねた。今度は、本当に聴くために。
陽菜は少し躊躇したが、やがて小さな声で言った。
「パパ、もっと一緒にいてほしい」
その言葉に、恭介の涙が溢れそうになった。
「そうだよね。ごめんね。パパ、これからはもっと一緒にいるから」
「本当?」
「本当だよ。約束する」
恭介は陽菜を抱きしめた。小さな体が、恭介の腕の中で温かい。
梓も、その様子を見て目を潤ませていた。
帰り道、恭介は梓と並んで歩きながら話した。
「昨日、梓が言ってくれて良かった」
「え?」
「『聴いてない』って。本当にその通りだった」
恭介の言葉に、梓は少し驚いた表情を見せた。
「陽菜の絵を見て、自分がどれだけ家族から離れていたか分かった」
「恭介...」
「これから、ちゃんと聴く。梓の話も、子どもたちの話も」
梓は静かに頷いた。
「実は、私も言いたいことがあったの」
「何?」
恭介は立ち止まって、梓の方を向いた。
「最近、すごく孤独だった」
梓の声が震えた。
「恭介は家にいても、心はいつも仕事。私が話しかけても、上の空。子どもたちの相手も私一人」
「ごめん」
「謝ってほしいんじゃないの。ただ、もっと頼りたかった」
梓の言葉に、恭介は自分の認識の甘さを痛感した。
「家事も育児も、全部一人でやってきた。それが当たり前だと思ってた。でも、本当は違う」
「梓...」
「たまには、私の話も聴いてほしい。愚痴でも、不安でも。ちゃんと受け止めてほしい」
梓の目から、涙が溢れた。
恭介は、妻をしっかりと抱きしめた。
「ごめん。全然気づいてなかった」
「これからは、ちゃんと話そう。二人で」
梓は恭介の胸に顔を埋めて、静かに泣いた。
その時、恭介の心に大きな転換が起こった。
「家族のために働いている」という思い込みから、「家族と共に生きる」という本質への気づき。
仕事で成功することが家族の幸せだと思っていた。しかし、家族が本当に求めていたのは、そばにいて、話を聴いてくれることだった。
夕方、家に戻ると、恭介は陽菜に声をかけた。
「陽菜、昨日見せたかった絵、今見せてくれる?」
「本当に?」
陽菜の目が輝いた。
「うん。ちゃんと見たい」
陽菜は嬉しそうに、自分の部屋から絵を持ってきた。
恭介は、その絵を丁寧に見た。色使い、描かれているもの、一つひとつに意味がある。
「これ、すごく上手だね。パパの顔、よく描けてる」
「本当?」
「うん。パパの特徴、ちゃんと捉えてる」
恭介の言葉に、陽菜は満面の笑みを浮かべた。
「ねえ、パパ。今度は一緒に絵を描こうよ」
「いいね。何を描こうか?」
「家族の絵!今度は、パパも一緒にいるの」
陽菜の提案に、恭介は胸が熱くなった。
「それ、いいね。みんなで一緒に描こう」
その夜、恭介は家族四人で食卓を囲んだ。いつもならテレビを見ながら、あるいはスマホを見ながらの食事だったが、今日は違った。
「今日はね、幼稚園で楽しかったの」
陽菜が話し始めた。恭介は、箸を置いて、娘の話に集中した。
「先生がね、私の絵を褒めてくれたの」
「そうなんだ。どんな絵?」
「家族の絵。でも、次はもっといい絵を描くの。パパも一緒の」
「楽しみだな」
恭介は心から言った。
梓も、その様子を見て微笑んでいた。
食事が終わった後、恭介は梓にも声をかけた。
「梓、今日一日どうだった?」
「え?」
梓は驚いた様子だった。恭介がそんな質問をすることは、ほとんどなかったからだ。
「何か大変だったこととか、嬉しかったこととか」
「そうね...美月が今日、初めて『ママ』ってはっきり言ったの」
「本当?それはすごい!」
恭介の反応に、梓は嬉しそうに頷いた。
「もう少し早く帰ってきてくれたら、聞けたかもしれないけど」
「ごめん。でも、これから早く帰るようにする」
「無理しないでね。でも、たまには早く帰ってきてくれると嬉しい」
梓の言葉に、恭介は頷いた。
その夜、寝る前に、恭介は梓ともう一度話した。
「今日、気づいたんだ」
「何に?」
「『聴く』って、本当に大切なことなんだって」
恭介の言葉に、梓は静かに耳を傾けた。
「仕事で、利用者の方々の話を聴く大切さを学んだ。でも、それを家族に実践してなかった」
「うん」
「これから、ちゃんと聴く。梓の話も、子どもたちの話も」
「ありがとう」
梓は恭介の手を握った。
「でも、聴くだけじゃなくて、恭介の話も聞かせて」
「え?」
「恭介も、仕事で大変なことあるでしょ。それも、私に話して」
梓の言葉に、恭介は驚いた。
「いいの?」
「当たり前でしょ。夫婦なんだから」
その言葉に、恭介は目頭が熱くなった。
「ありがとう」
二人は、久しぶりに心から向き合って話をした。
仕事のこと、家族のこと、将来のこと。
そして、互いに聴き合った。
その夜、恭介は深い安心感の中で眠りについた。
家族との絆が、少しずつ取り戻されている。
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