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私たち四人は、屋敷のある丘の上までやって来ました。
改めて近くで洋館を見ると、かなり不気味でした。手入れのされていない庭には雑草が蔓延り、杉の木が鬱蒼としています。奥の屋敷の窓は朽ち果て、ガラスも残っていません。
「鈴ちゃん!こっち、こっち!」
恵が塀の穴を指差しました。
「よし、俺一番!」
潤一は迷わず穴に飛び込みます。
「じゃあ私も!」
恵も続きました。
残された私と夏彦は顔を見合わせます。
「私たちはここで待とうか」
夏彦は頷きました。
「おーい、二人もおいでよ!」
塀の中から恵の声が響きます。
「声が大きいってば…」私は穴に向かって言いました。
「ねえ、鈴ちゃんだけでも来てよ」
恵が甘えた声を出します。
「…仕方ないな」
私はしぶしぶ穴をくぐりました。
「俺はここにいるから、何かあったら呼べよ」
夏彦の声に、私は「ありがとう」と返しました。
間近で屋敷を見ると、一層不気味でした。
「すげえ、本物のお化け屋敷じゃん!入ってみようぜ!」
潤一は玄関に向かって走り出し、その勢いのまま木製の重厚なドアを押しました。
「うわ、開いた…!」
驚いたことに、ドアは施錠されていませんでした。
「お邪魔しまーす!」
恵と潤一は、やけに呑気な声で言いながら、中に入っていきました。ここまで来てしまったら引き返すのも癪だと思い、私も続きます。
屋敷の中は、昼間であるにもかかわらず、濃密な闇が支配していました。
「暗くて何も見えねえなあ」
「うう、かび臭い」
私たちは恐る恐る、奥へと進みました。段々目が暗さに慣れてくると、何となく室内の様子がわかりました。壁に飾られた絵や本棚などがあり、かつてここに誰かが住んでいた気配を感じました。
さらに進むと、右手に螺旋階段が姿を現しました。
「上に行ってみようぜ」
潤一が上って行きます。ギシギシと、古い木製の階段の軋む音がしました。
「じゃあ、私も」
恵も続きます。
私は躊躇いましたが、独りで階下に残されるのも怖かったので、恵について行きました。
その時、「ギャーーー!」と、潤一の大きな叫び声が聞こえました。彼は大急ぎで階段を駆け下ります。
「で…出た…!!」
潤一は恵に抱きつきながら、階段の上を指差しています。
「上に、何かいるぞ!…オ、オルゴールの音が聞こえるんだ…!」
私たちは、耳を澄ませました。すると、確かにうっすらとオルゴールらしき音が聞こえます。そのメロディは甘く切なげで、どこかで聞き覚えのある旋律を奏でていました。
「うっわー!」
潤一と恵は恐怖のあまり錯乱状態になったのか、一目散で屋敷を飛び出してしまいました。
私も「逃げなきゃ」と頭ではわかっていましたが、震える足が言うことを聞きません。オルゴールの音が、段々大きくなっていくように感じられました。
そして一瞬、暗闇の中でかすかな光に包まれた人影が目に飛び込んできました。その影は、女性の形をしているように見えました。あっと思った瞬間には、もう消えてしまいました。
オルゴールの音は、いつの間にか止んでいました。
「おい、鈴、大丈夫か?」
聞き馴染みのある夏彦の声で、私の緊張の糸がぷつんと切れてしまいました。
「こ、怖かった…」
「行くぞ」
夏彦は、足がすくんで動けない私を背負い、塀の外まで連れて行ってくれました。
そこには、青ざめた顔の潤一と恵がいました。
「鈴ちゃん、置き去りにしてごめんね…!私、怖くて怖くて…」
恵は必死に謝ってきました。
「ううん、仕方ないよ。夏彦が助けてくれたし」
さっきまで威勢の良かった潤一は、借りて来た猫のように大人しくなっていました。
恐ろしい出来事でしたが、一つだけ良いことがありました。それは、夏彦の思いがけない頼もしさと優しさに触れられたことです。このことをきっかけに、私と夏彦は交際することになりました。
こうして、私たちの若気の至りが招いた冒険は幕を閉じたのです。
改めて近くで洋館を見ると、かなり不気味でした。手入れのされていない庭には雑草が蔓延り、杉の木が鬱蒼としています。奥の屋敷の窓は朽ち果て、ガラスも残っていません。
「鈴ちゃん!こっち、こっち!」
恵が塀の穴を指差しました。
「よし、俺一番!」
潤一は迷わず穴に飛び込みます。
「じゃあ私も!」
恵も続きました。
残された私と夏彦は顔を見合わせます。
「私たちはここで待とうか」
夏彦は頷きました。
「おーい、二人もおいでよ!」
塀の中から恵の声が響きます。
「声が大きいってば…」私は穴に向かって言いました。
「ねえ、鈴ちゃんだけでも来てよ」
恵が甘えた声を出します。
「…仕方ないな」
私はしぶしぶ穴をくぐりました。
「俺はここにいるから、何かあったら呼べよ」
夏彦の声に、私は「ありがとう」と返しました。
間近で屋敷を見ると、一層不気味でした。
「すげえ、本物のお化け屋敷じゃん!入ってみようぜ!」
潤一は玄関に向かって走り出し、その勢いのまま木製の重厚なドアを押しました。
「うわ、開いた…!」
驚いたことに、ドアは施錠されていませんでした。
「お邪魔しまーす!」
恵と潤一は、やけに呑気な声で言いながら、中に入っていきました。ここまで来てしまったら引き返すのも癪だと思い、私も続きます。
屋敷の中は、昼間であるにもかかわらず、濃密な闇が支配していました。
「暗くて何も見えねえなあ」
「うう、かび臭い」
私たちは恐る恐る、奥へと進みました。段々目が暗さに慣れてくると、何となく室内の様子がわかりました。壁に飾られた絵や本棚などがあり、かつてここに誰かが住んでいた気配を感じました。
さらに進むと、右手に螺旋階段が姿を現しました。
「上に行ってみようぜ」
潤一が上って行きます。ギシギシと、古い木製の階段の軋む音がしました。
「じゃあ、私も」
恵も続きます。
私は躊躇いましたが、独りで階下に残されるのも怖かったので、恵について行きました。
その時、「ギャーーー!」と、潤一の大きな叫び声が聞こえました。彼は大急ぎで階段を駆け下ります。
「で…出た…!!」
潤一は恵に抱きつきながら、階段の上を指差しています。
「上に、何かいるぞ!…オ、オルゴールの音が聞こえるんだ…!」
私たちは、耳を澄ませました。すると、確かにうっすらとオルゴールらしき音が聞こえます。そのメロディは甘く切なげで、どこかで聞き覚えのある旋律を奏でていました。
「うっわー!」
潤一と恵は恐怖のあまり錯乱状態になったのか、一目散で屋敷を飛び出してしまいました。
私も「逃げなきゃ」と頭ではわかっていましたが、震える足が言うことを聞きません。オルゴールの音が、段々大きくなっていくように感じられました。
そして一瞬、暗闇の中でかすかな光に包まれた人影が目に飛び込んできました。その影は、女性の形をしているように見えました。あっと思った瞬間には、もう消えてしまいました。
オルゴールの音は、いつの間にか止んでいました。
「おい、鈴、大丈夫か?」
聞き馴染みのある夏彦の声で、私の緊張の糸がぷつんと切れてしまいました。
「こ、怖かった…」
「行くぞ」
夏彦は、足がすくんで動けない私を背負い、塀の外まで連れて行ってくれました。
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「鈴ちゃん、置き去りにしてごめんね…!私、怖くて怖くて…」
恵は必死に謝ってきました。
「ううん、仕方ないよ。夏彦が助けてくれたし」
さっきまで威勢の良かった潤一は、借りて来た猫のように大人しくなっていました。
恐ろしい出来事でしたが、一つだけ良いことがありました。それは、夏彦の思いがけない頼もしさと優しさに触れられたことです。このことをきっかけに、私と夏彦は交際することになりました。
こうして、私たちの若気の至りが招いた冒険は幕を閉じたのです。
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