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<現代:魔猿とキジトラ猫>

十円札・一万円札・考察

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「ただいま♪」
「おかえりなさい。随分遅かったわねー」
「もうー、そうなのよー、聞いてよお母さん……て、あれ?お父さんまだ帰って来て無いの?」
「それが、また飲みに行っちゃったのよ!まったく!自由奔放なんだから!きっと、ともえの性格はあの人に似たんだわっ!」
ダイニングテーブルに御節おせちの詰まった重箱と、白味噌のお雑煮が二人分並んでる。

「まあ、あんな人達は放っといて、二人で御節おせち食べましょ。そう云えばさっき何か言おうとしてた見たいだったけど、何か有ったの?」
取り合えず、何時もの席に座って箸を取る。
「いただきます♪そうー、ひどい目に合ってさー、めっちゃデカい猿に襲われて、すっごく怖い目に合ったんだから」
「デカい猿?」
「うん、暗くて良く判らないけど、多分一メートルぐらいあったんじゃないかな?」
「猿ってニホンザルよね?ニホンザルってそんなに大きく成ったかしら……?まさか、オランウータンを見間違えたとか♪」
「もー、お母さん、ここはボルネオじゃ無いんだから♪まあ、暗かったし怖かったから、実際より大きく見えただけ、かもだけど、ニホンザルだったわよ」

「でも……襲われたって怖いわね。明日、役場に知らせて来るわ。怪我とかし無かったのね?」
「結構危なかったけど、何とか怪我しないで済んだよ。篁神社おじさんとこで貰った破魔矢をぶつけたら、逃げてった。案外、あの神社って霊験有るかもね♪」
「へー、やるわね、篁神社たかむらじんじゃ♪でも小町、破魔矢で退治出来たって……それ本当に猿だったの?」
「えっ、……もう!怖い事言わないでよ!」
ホントにそう云うのは大正あっちの世界で、お腹一杯なんだから!

「で、その時さぁ、佐竹さんとこの男の子も一緒だったから、自転車を押しながら、一緒に歩いて帰る事にしたわけよ。それで、こんな時間に成っちゃったんだ」
「佐竹さんって、斜向はすむかいに引っ越してきた?それで、その子も怪我は無かったのね?」
「うん、だけど、かなり怖い思いしちゃったみたいで、可愛そうだったよー。あ、そうだ、佐竹さんに合ったら、遅くなったのあんまり怒ん無い様に言ってあげてね。お母さんと産まれてくる赤ちゃんの為に、今日安産祈願のお守り買いに来たんだ。無口だけど、めっちゃ良い子だったよ♪」
「わかったわ……でも変ね、佐竹さんに男の子なんていたかしら?奥さん大分お腹が大きかったのは覚えてるけど……」


御節おせちを食べた後お部屋に戻ってきた。
それにしても、今日はエライ目に合ったよー。
何で、現代こっちであんなのとバトルしなきゃいけないのよ!まったく!チョー怖かったんだから!
蘆屋小町わたしだったらあんな猿、びょうで退治してやるんだけど、小野小町わたしは普通の中二の女の子なんだから、勘弁して欲しいよ……。
それもこれも、元はと言えば、正月早々バイトなんかさせられたからよ!お姉ちゃんめーーー!

それに、貧乏も悪いのよ。
お金が有ったら、高額なお年玉とか、スマホの新機種とか、甘い誘いに乗ることも無かったのに……。
ハッ!そうだわ!
十円札が一万円札に見える謎さえ解ければ……六十万円GET♪

机の引き出しに仕舞った十円札を取り出す。
どう見ても、肉眼では十円札なのよね。
でも、鏡に映すと、やっぱり一万円だ。
何でだろ?
お母さんに見せた時も、一万円って言ってたし。
謎だわ。

取り合えず、考察その1.自動的に等価交換されるの?
検索すると、十円札の買取価格は一万円と出てきた。
と云う事は、同じ価値の紙幣に変換されたとか……?
うーん、もしそうだとすると、二十円札を持ってくると、自動的に一万円札六十枚に換金されると云う事に成る。
まあ、それだったら、売りに行く手間も省けてむしろ楽で良いんだけど……。
考えづらいわ。
完全に等価交換されるならまだしも、二十円札の場合、私の肉眼では一枚の紙幣に見えて、鏡に映したり、他人が見れば六十万円の札束に見えるって事に成るけど、それはどうよ?
中途半端過ぎて変な事ならない?
札束から一万円だけ使うのに、二十円札を千切って使うの?
でも、千切ったら価値は無く成るよね……どうなるんだろ?
それに、通常の十円札なら一万円で売れるかもだけど、あの十円札には魔法陣が描かれてる。
私には価値の有る魔法陣だけど、人から見れば只の猫の落書きにしか見えない。
ウルタールには悪いけれど、そんな魔法陣が描かれた十円札に、果たして一万円の価値はあるだろうか……。

考察その2.そもそも、何でこんな現象が起こったのか?
一つ考えられるのは、パラレルリープによって発生したパラドックスを解決する為の現象として、起こった可能性は高いと思うのよ。
でも、そうだとすると、十円札に対して、そんなことする必要がある?
例えば、大正むこうにあって現代こっちに無い物を持ってきた場合は、分かるのよ、例えばセクメトの慧眼けいがんとか。
セクメトの慧眼けいがんの台座に埋まってる深紅のキャッツアイは、現代こっちの世界には存在しない宝石だから、あれをこっちに持ってきた場合、そう云うパラドックスが起こって、不思議現象が発生するのは道理があると思う。
だけど、この十円札は、確かに魔法陣は書かれてるけれど、現代こっちの世界にも普通に存在する物なんだから、そもそもパラドックスは発生してい無いはず……なのにどうして?

考察その3.十円札が一万円札に見える様に成った切っ掛けが有るかも。
あの時を思い出して。
十円札が一万円札に見える事には何か因果関係が有るはずよ。
そもそも、この十円札は初めから一万円札だったの?
それとも、検索した結果一万円の価値だったから、一万円に見える様に成ったって事は考えられない?
もし、そうだとすると、検索してから、鏡に映った十円札=一万円札を見るまでの、私の行動は……。

うーーーん、そうだ!声に出したんだよ!「一万円かー」って!

ウルタールに名前を付けて魂が宿った様に、私が声に出したから、この十円札は現代こっちの世界に置いて、一万円札の実体を得たとか……。
でも、そうだと、検索する前は鏡にどう映ってたんだろう……?

とにかく、この仮定の上で、今度のリープで何か実験してみれば段々判って来るハズよ。
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